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    アスカ

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    アスカ

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    7/24俺達最強にて発行予定の五夏新刊です。
    夏から甘くていい匂いがするようになった五の話。
    呪専、無自覚両片思い、ハッピーエンド

    #五夏
    GoGe

    あまいにおい(7/24新刊) 甘いものが好きだ。
     口に入れた瞬間目が覚めるような冷たさのものから、湯気が出るような熱さのものまで、甘味は本当にバリエーション豊かだ。つるりと滑らかな口当たりだったり、さくさくと口のなかで砕ける歯ごたえのあるものだったり、もっちりとした独特の食感のものだったり、しっとりと口のなかで解れるもの、もしくはふわふわの綿菓子のような食感もあったりする。
     口のなかに放り込めば、口内いっぱいに広がるのはふうわりとした甘くてやさしい味。生クリーム、チーズ、フルーツにチョコ、バター、餡子や抹茶、栗に薩摩芋。焙じ茶、ピスタチオ味なんかも最近は増えた。
    悟に甘味の好き嫌いはないので、和洋やフレーバー問わずなんだって美味しくいただく。風味豊かな甘味を噛み締めるように、じっくり口のなかで味わってから胃のなかに落とし込めば、体が歓喜の悲鳴を上げる。どうやら他人よりも甘味を欲する体のようで、比喩ではなく甘味を食べると体中にエネルギーが満ち、活力ややる気が腹の奥から湧き上がってくる感覚があった。
    逆に言えば、不足すると力が入らなくなり、動きも鈍くなるし頭の回転も遅くなる。文字通り、悟にとっては甘味がガソリンだ。
     自分の口に入れてその甘みや旨味を味わう瞬間が至高とはいえ、その前から甘味の良さは始まっている。
     匂いはまるで前菜のように、これから口にいれる甘味への期待を高めてくれる最高のエッセンスだと悟は思っている。バニラやバター、蜂蜜のもったりとした甘い匂いがすれば、それだけで胃の奥がきゅうと縮み上がって早く早くと全身が騒ぎ出し、がつがつと貪るように食らってしまいたい気持ちと、それでは勿体ないので一口ずつゆっくりと味わいたい気持ちと、両方が一気に湧き上がる。
     その後に口に入れる甘味の美味さといったらない。美味さでぴりぴりと手足が痺れる感覚がするし、脳内に快楽物質が分泌されているのではないかとすら思う。
    悟にとって幸福は甘味の形と味をしているし、甘い匂いはこれから間違いのない幸せが待っているという合図でもあった。

     そういう、どうしようもなく欲しくなる甘い匂いが、最近傑からしている。





    「…………悟、なにか用事が?」
    「べっっつに~~?」
    「……なにもないなら、それやめてくれないか。居心地が悪い」
    「それって、どれのそれ?」
    「その、無言で睨み付けるやつだよ。もしかして自覚がないのか?」
    「べつに、睨んでるんじゃねぇよ、ちょっと見てるだけだろ」
    「……どっちでもいいけど、やめてくれ」
     任務に向かう移動車のなかで、隣に座る傑が不機嫌そうに眉を顰め、口をむっすり引き結んだ。その仕草を、悟は横からじっと見つめる。どうして、甘い匂いが傑からするのだろう。見つめたところで答えなど出ないけれど。
     最初は悟の勘違いかと思った。もしくは、傑が直前に菓子を食べたり持っていたりするのではないかと思った。けれど、胃のなかを直接刺激しているのではないかと思うような甘い匂いは、決して勘違いではない。それに、傑は菓子だって持っていなかった。
     では、甘い匂いがする香水やコロンなどをつけているのかと思ったが、傑はそういったものは使用していないという。確かに、人工的につけられた香料というよりは、もっと柔らかで自然な、それでいて濃厚な匂いだ。
     では、この甘くて美味しそうな匂いの正体はいったいなんだろう。
     おそらく、変な病気にでもかかったのだろう。病院に行ったわけではないし、硝子に相談したわけでもないので、確証があるわけではないが、そうとしか思えなかった。だっておかしいだろう。同級生の友人から、こんなにも美味しそうな甘い匂いがする、だなんて。そんな病気聞いたことがないが、おかしなことが起こるこの世界では、有り得ない話ではない。
     それでも、実害がないのはありがたかった。いや、決してないとは言い切れないが、傑からいい匂いがするというだけで、他の影響はなかった。なんとかやり過ごしているうちに原因を突き止めたり、病気が治ったりしたらいい。
    あまりにも希望的観測であることはわかっているし、だったらせめて硝子に相談したほうがいいことは理解しているが、忙しさにかまけて悟は現実から目を背けていた。
     なによりも、傑から甘い匂いがして美味しそうで堪らないんです、なんて誰にも言えるわけがない。
     悟は特に、傑本人に知られたくなかった。言ったら馬鹿にされそうだし、されなくても好奇の目で見られるだろう。それに、なんとなく言いにくい。基本的に性格はオープンで、ひとりで抱え込んで思い悩むなんてことを悟はしないが、それでも、このことを誰かに話すことは憚られた。結果、悟の出した結論は、誰にも言わないということだった。
     こうして傑が目の前にいると、余計に腹が減る。狭い移動車のなかは余計に匂いが籠もりやすくて、噎せ返りそうなほどだった。美味しそうな、甘い匂い。思わず口のなかに唾液が浮かんで、悟は誤魔化すように唾液を飲み込んだ。ごくりと喉が大きく鳴って、ひやりとする。
    「なんだ、腹が減っているのか?」
    「……うん、まぁ、そんなとこ……?」
    「いまはあいにく何も持ってないが……任務が終わったらコンビニでも寄るか?」
    「あー、うん、……そうする……」
     歯切れが悪い返事に傑が不思議そうにしている気がしたが、悟は腰を深く座り直し、そのまま前に向き直った。
     高専に入学して約一年。なにをするにもいけ好かない、変な前髪野郎だった同級生は、いつのまにか、なにをするにも楽しい唯一無二の友人になっていた。任務に誰かと同行して足を引っ張られるのは勘弁だとずっと思っていたのに、こうやってたまに傑と同行する任務がいまは楽しみのひとつで。誰かと共闘することが楽しいなんて、悟にとって初めての感情だ。
     それなのに、傑との間が楽しいだけではなくなってしまったことに腹が立って、にわかに苛立ちが湧き上がる。
     運が悪いことに、悟は今日あまり甘味を食べていなかった。甘味を食べた直後などは満たされているせいか、あまり匂いが気にならないことが多い。そんなこと、これまでの経験でわかっていたはずなのに。
    これからはチョコなり飴なり、なんでもいいから手軽に甘味を摂取できるものを携帯したほうがいいかもしれない。悟が口をぐっと引き結び、甘い匂いに耐え忍んでいると、しばらくして流れる景色が止まった。どうやら任務場所に到着したらしい。
     悟は車を降り、体のなかの酸素を入れ替えるように深く呼吸をした。もう、あまり匂いはしなかった。外に出たことで匂いは薄れるし、なにより任務となれば自然と意識が切り替わる。そういう性分で本当に良かったと思う。
     引率した補助監督が帳を下ろせば、まるで待っていたかのように呪霊が次々と顔を出した。ふたりでの任務だからそれなりに強かったり厄介な呪霊だったりするのかと思っていたが、単に数が多いだけで雑魚ばかり。悟も傑も対多数に向いている術式を有しているし、苛立ちをぶつけるようにいつも以上に悟が暴れれば、あっという間にすべての呪霊を祓い終わった。むしろ物足りないくらいだ。
    「……悟」
     ふう、と一息ついていると、後ろから声を掛けられる。悟が振り向けば、傑が呆れ顔をして立っていた。その瞬間、「やべ」と思ったがもう遅い。さっさと祓ってしまいたい悟と、呪霊を取り込みたい傑とではやり方が異なる。一緒の任務になるたびに注意され、面倒くさいと文句を言いつつ最近ようやく祓わずに傑に任せることができるようになってきたというのに、今日は久しぶりにやってしまった。またぐちぐちと口うるさいことを言われそうで、悟は思わず口を曲げた。
    「傑、これは、その」
    「……まぁ、言われることはわかっているみたいだし、もういいよ。それより、なにかあったのか?」
    「なにかって?」
    「いや、様子が変だから」
    「……そう?」
     口ではそう言いながらも、そりゃそうだろうなと思う。悟はもともと隠し事が得意なタイプではないし、逆に傑はそういうのに敏感だ。四六時中共に過ごしているので、変化にも気付きやすいだろう。
     それでも、どうしても傑には言いたくない。オマエから美味しそうな匂いがするだなんて、言えるわけがない。さて、どうやって誤魔化そうかと思っていると、ふわりと甘い匂いが漂ってきた。傑が近づいてきたせいか、それとも任務が終わって集中が途切れたせいか。どちらにせよ、あのいつもの匂いが鼻孔をくすぐり、思わずグッと息が詰まった。
     それに反応したように胃がぐるりと動き、ぐうという音が鳴った。ふたりの間に響く間抜けな音に驚いたように一瞬固まってから、その音の正体を理解した傑がけらけらと笑い出す。
    「ちょっと傑、笑いすぎ!」
    「いや、ごめ、まさか悟がそんなにも腹が減っていたとは思わなくて、ははっ」
    「そういうんじゃないから!」
    「わかったわかった、早くコンビニでも寄って帰ろう。ほら、帳も上がったし」
    「だから、違うってば! ちょっと! 傑話聞いてる⁉」
    「聞いてる聞いてる」
     必死に否定するが、傑は言い訳している程度にしか思っていないようで、にやにやと憎たらしい笑顔を浮かべ、手をひらひら振っていた。本当に違うのに、とは思うが、だからと言って本当のことを言えるわけでもなく、悟はぐっと黙るしかない。
     停車した場所で待っていた補助監督が「さすが早いですね」などと世辞を言うのを適当にあしらって車に乗り込む。どかりと雑に体重を預けたせいで、車がわずかに揺れた。
     傑がコンビニに寄って欲しいと申し出ている間、悟は瞼を伏せていた。決して任務に疲れたわけではない。むしろ暴れ足りないくらいではあったが、肉体ではなく精神が疲弊していた。
     別に嫌いなわけではない。むしろ好意のほうが随分と大きい相手だというのに、最近はうまい距離感がわからない。ふたりは気の置けない友人で、同士で、相棒だったはずなのに、ボタンをかけ間違えたままのような小さな、けれど確実な違和感が悟のなかにはあった。
     いつからこんなことになったんだっけと思い返せば、一ヶ月程前からだということは覚えているのに、きっかけはなんだったんだと思い返しても、これといった理由はわからなかった。つまりきっかけなんてなくて、突然だったからだ。甘くていい匂いがするなと思ったら、それが傑から発せられていたというだけ。
     傑が車に乗り込んでドアを閉めると、匂いが車の中に籠もり、空腹を訴えていた腹が余計に刺激された。
     なんでもいいから、甘いもので腹を満たしたい。いまの悟の欲求はただそれだけだった。
     ただひたすら耐えて車に揺られ、しばらくして大きめのコンビニに車が停まった。早速悟はコンビニに入って適当に菓子を買い漁る。シュークリーム、プリン、ロールケーキにアイスクリーム。チョコやマシュマロ、飴など、甘ければなんでもいいと言わんばかりに次々と手に取れば、小さなカゴは溢れていっぱいになった。傑は呆れたような顔で見ていたが、気にもならないし、気にする余裕もなかった。傑はペットボトルの緑茶だけ買っていた。
     コンビニを出てバニラのアイスを飲み込むように食べ、生クリームたっぷりのシュークリーム、ロールケーキを続けてばくばくと口に入れたところで車に戻り、さらに口の中にミルクチョコを放り込んだ。甘味欲がある程度満たされれば苛立ちも収まり、隣に座っても傑の甘い匂いはあまり感じられなかった。
     ひとまずは大丈夫だろうと悟がこっそり安堵の息が漏らすと、傑が空気だけを震わせて笑っていた。
    「……なに」
    「いや、そんなに腹が減っていたのかと思って」
    「だから違うってば」
    「なにを言い訳しているんだ。べつに悟が甘いものが好きなんていまさらだろう」
    「そうだけど、そうじゃなくて! 元はと言えば傑が!」
    「私が? なに?」
    「…………なんでもない」
     腑に落ちない顔をしながらも傑が黙ったので、悟は飴を口の中に放り込んだ。濃厚な甘さのキャラメル味がするキャンディ。ころりと口の中で転がしながら、悟は最近こういうことが増えたなと思っていた。
     傑から匂いがするようになってから、感じ方や強さの違いはあれど、一度たりとも匂いがなくなったことはない。明確にどんな匂いか言い表せるものではなくて、「甘くて」「美味しそうな」「とにかくすごくいい匂い」としか表現できないが、そういう匂いが傑からいつだってしているせいで、会話がチグハグで噛み合っていない。違和感は増すばかりだ。
    「……そうだ悟、今日はもう悟も予定ないだろう? 一緒にゲームする? ほら、この前やりたいって言ってたやつ」
    「……する」
    「どっちの部屋?」
    「……俺のほう」
    「わかった。夕飯後に行くよ」
     頷いて了承すれば、傑は笑っていた。
     任務だとかは仕方が無いが、こういった遊びは断って距離を置いたほうがいいことはわかっていた。けれど、どういうわけかそれもしたくない。自分の部屋を指定したのは、傑の匂いで充満している部屋よりはマシだろうという、せめてもの抵抗だ。
     大丈夫、自分の部屋には山ほどの菓子があるし、夕食後であれば空腹感はないはずだ。ぐるぐると渦巻く不安を掻き消すように自分に言い聞かせ、悟はころりと飴玉を転がす。ミルクの味が、一層濃くなった気がした。



    「おー、お疲れ~」
     高専に到着すれば、喫煙所から出てきた家入硝子とばったり出くわした。もうひとりの同級生は前線にこそ出ないが、反転術式をアウトプットできる希有な術師だ。「あの五条家の跡取り」として悟に接しないし、傑とは別の意味で気の置けない友人だった。
     かったるそうに首をコキっと慣らした硝子は、さっと悟と傑に視線をやった。
    「ああ、大丈夫、怪我してないよ。悟があっという間に祓ってしまったからね」
    「別にそういうんじゃないから」
    「硝子は優しいな。今日はもう終わり?」
    「だから違うって。あー、報告書上げたら終わり」
    「あ、じゃあ一緒にゲームやる?」
     傑と硝子の会話に割り込むように悟が提案する。ふたりの視線が、一気に悟に向かった。
    「なに、ゲームやるつもりだったんだ」
    「そー、この前傑が言ってたやつ。メシのあとにやるつもりだったけど、硝子も来る?」
    「ふうん、じゃあ行こうかな」
    「よし決まり」
     一応異性間での部屋の行き来は禁止されているはずだが、気にしたことなど一度もなかった。本人である硝子自身が了承しているのだから問題もないだろう。おそらく夜峨も知っているはずだが、黙認されている。
    「五条の部屋? 灰皿あるっけ」
    「ないし、俺の部屋は禁煙だから! 吸うなら外行ってよ」
    「めんどくさ……」
     正直に言えば、硝子が来ることになって悟は安心していた。傑とふたりきり、しかも密室だとどうしても例の匂いが強くなってしまうが、硝子がいれば気が紛れるのか普段よりも格段に匂いが弱く感じるからだ。もしふたりきりだったら、チョコレート片手にゲームをする羽目になっていたかもしれない。
     ひとまずは良かったと悟は内心胸を撫で下ろし、またあとでと言い合って硝子とは別れた。
     硝子と話しているときはあまり感じなかったのに、傑とふたりになった途端香る、甘ったるい匂い。自室に向かうまでの短い間だというのに、口内に唾液が溜まっていくのを感じた。この変な病気は治るどころか、徐々に悪化しているような気がする。
     どうしよう。どうしようもないけど。
    「……悟」
    「え、なに?」
    「随分ぼんやりしてどうしたんだ? 疲れてるなら今日はやめにしても」
    「いや別に大丈夫」
    「そうか……? じゃあ、またあとで」
     不審そうな目を向けた傑を振り切って、自室に入る。狭苦しくて古ぼけた部屋だ。けれど、自分のものだけで区切られた空間は、いまはどこよりも安心する場所だった。ようやく一息がつけると大きく空気を吸い込めば、ずっと鼻にこびりついていたような甘い匂いはしなかった。
     ふと思い立って、悟は先ほど買ったばかりのマシュマロを口に入れてみれば、柔らかく何度か弾んでから口のなかで溶けてなくなった。甘くて好きな味のはずなのに、いまはやけに砂糖のざらついた甘さが舌にこびりついて、美味しいと思えなかった。



     夜も更け、それぞれ寝支度を終わらせた傑と硝子を自室に迎え入れる。案の定、硝子がいると甘い匂いはほとんどせず、ゲームに集中することができた。
     協力プレイも対戦プレイもできるアクションゲームで、傑が持ち込んだ飲み物と、悟の部屋に常備している菓子をいくつか開けて、ぎゃあぎゃあと三人騒ぎながらゲームをしていれば、時間が過ぎるのはあっという間だった。防音設備なんてない古くさい寮では騒音となって周囲に響いているだろうが、人がほとんどいないので苦情などを気にしなくていいところは、唯一のこの寮の美点かもしれない。
     悟と硝子が対戦プレイをしている間に、傑がトイレに席を外す。そのタイミングだった。
    「五条さー、夏油となんかあった?」
    「……別になにもないけど?」
    「嘘が下手」
     画面から目を離さずに淡々と硝子が指摘する。もとよりあまり隠し事が得意ではない自覚はあったし、恐らく傑には違和感を持たれているだろうとは思っていたが、まさか硝子にまでとは思わなかった。
     はて、どうしたらいいだろう。正直に話すことはしたくないが、咄嗟の言い訳も出てこない。悟が言葉に詰まっていると、画面のなかのゲームアバターが、硝子に急所を攻撃されていた。ゲームオーバー。
    「別に責めたいわけじゃないし、私には関係ないんだけど。ただの興味」
    「……そんなに変だった?」
    「まぁ、普段通りではなかったかな」
    「そっか……」
     やはり硝子には話すべきだろうか。彼女は友人でもあるし、医者でもある。そういう意味では相談相手としては彼女以上の適任などいないだろう。でもなんて言えばいい。傑から美味しそうな甘い匂いを感じる、変な病気になりましたと言えばいいのか?
     悟があれこれ考えを巡らせていると、がちゃりとドアが開いた。もちろん、トイレから戻ってきた傑だ。
    「え、なに、この空気……なにかあった?」
    「五条が弱すぎて瞬殺してやっただけ。ほら、交代。次、夏油」
    「はいはい」
     戦力外通告を受けた悟は傑と場所を代わり、ふたりがゲームしているのを、クッションを抱えたまま悟はぼうっと見ていた。ゲームのなかのふたりは、なかなか良い勝負をしていた。
     いまは甘い匂いはしていない。けれど、異様に喉が渇いて仕方がない。 
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    REHABILI以前にぷらいべったーに投下した五夏たとえるならウユニ塩湖。鏡面のように凪いだ海に白いテーブルクロスの掛かったテーブルセットが浮いていて、夏油はそこに腰掛けているのだった。どういう原理なのかはわからないが、そこではそれが自然なことだと理解している。
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    「お前いつもそればっかだよな」
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