初めての転生したら女になっていた。
おれじゃなくて。───冨岡の野郎が。
「よし、不死川やぶれ」
どすっとベッドへ座り、タイトスカートからすらりと伸びた脚を組む。
ストッキング越しに透けた爪には、ペディキュアがきれいに塗られてあって、どこからどう見ても女の脚だ。
おれを見やるこの表情は、間違いなく水柱様必殺「高みから見下し」なのだが、本人には全くそんなつもりはない。そのことは前世、余生になってから知った。
……にしてもまァ、女だとこれまたえれぇ美人というか女王様っぽいというか、冨岡は生まれ変わっても冨岡なんだなァ……。
「寝たほうがいいのか、それとも膝立ちのほうがいいか」
黙したまま動かないおれを、冨岡はどう思ったのか、いきなりベッドの上に膝立ちになり、タイトスカートをたくし上げた。
「待て待て待てェ!てめっ、何してやがんだァ!」
冨岡はスカートを半分上げたまま「なんだ?」という顔をした。いや、なんだはこっちの台詞だァ!
「パンストを破りたいのだろう?心ゆくまで破っていいぞ」
……………、
……………、
……………いや、なんでそうなるよォォォォ。
「今日!初めて会ったよなァ、おれたちはァ!入社式で!初めて!なのになんでパンスト破りたいのだろうになるんだてめぇはァァァ!!」
「男の夢だと書いてあった」
「はァ!?」
「アンアン」
「あんあん!?」
「あえぐな不死川。あえぐのは私だろう」
「……………っ」
ドッと脱力した。両肩に重しが乗っているみたいなストレスを感じて胃がしくしく疼きだす。おれはそっと右手で胃を押さえ、はァァァァと息を吐き出した。
そうだった、冨岡とはこういう奴だった。口下手のうえ思考回路が斜め上。やることなすことなんでも突飛。短い余生で恋仲になったが、おれは最期までこいつに振り回されていた。
埒が明かんと思ったのか、冨岡はベッドの脇にあった本をつかみ、おれへ表紙を見せた。
……あ、雑誌ねェ。
「あのなァ冨岡」
「ハッ、もしや今世はもう決まった恋人がいるのか!?そうなのか不死川!?」
「泣きそうな顔すんなァ、早合点しやがって、てめぇはどこまで行ってもてめぇだよなァ」
冨岡はのそのそとベッドから降りた。猫みたいにカーペットを這い、おれの胡坐へ乗りあがってくる。甘えるみたいに首へ両手を回され、ぎゅっと抱きつかれた。
ふにゅふにゅと柔らかい身体。ふんわり甘い匂いは女特有のものだ。でも冨岡のにおいがする。これはちょっと……やべぇぞ。
「こらァ、てめ……」
「不死川ぁ……やっと会えた」
「あァ」
「長かった……今生ではもう会えないのかと思った」
「……あァ」
スーツにくるまれた身体を抱く。男のときより一回り小さくなったか?どこもかしこも柔らかくて、でも冨岡だ。今日、入社式でお前を見つけたとき、おれがどれだけ歓喜したか、きっとお前は知らねぇだろな。
「おめぇ、マジで女になったんだなァ」
「いやか?」
「いやなもんかァ、どっちだっておめぇだろォ」
ホントはあまりに別嬪過ぎて見惚れたんだが。絶対言わねぇ。そーいや、ポーッとした顔でこいつをガン見してた男が何人かいたな、手ぇ出してきそうなつは早めに排除しねぇとなァ。
冨岡はうんと頷いて、満足そうにムフフと笑った。
「不死川は相も変わらず男前だ、惚れ直したぞ?」
「……そーかよ」
「今世はお前と楽しいことたくさんしたい」
おれは冨岡の背に手を回して、ゆるりと撫でた。
在りし日、やっと恋仲になっても、おれたちの時間は限られていた。余生の半分は病床で、デートらしいデートもしてやれなかった。
今世はこいつとの時間を大事にしよう。たくさん甘やかして、色んなとこへ連れて行って、色んな体験を共有して、笑いあって喧嘩して、また笑いあって共に年を取っていこう。おれたちはまた出会ったんだから。
「あァ、そうだなァ。楽しいことたくさんしようなァ」
「ムフフ。さあ破け」
だがやはり冨岡は冨岡だった。どうやらおれの思う「楽しいこと」とヤツが思う「楽しいコト」は合致していないようだった。
「ぉわっ、だからなんでそうなるんだァ!この脳筋がァ!」
冨岡はおれに乗りあがったまま、スカートを際どいとこまでめくり上げた。パンストに包まれたむっちりした太ももがチラッと見え、おれは赤面してヤツを抑えた。
「パンスト破りは男の」
「恥じらいィィ!!」
アー思い出したぞ、こいつ初めての夜のとき、寝間着をがばぁっともろ肌脱ぎして「さあ抱け!」って言いやがったんだった。やっぱり冨岡は生まれ変わろうが女になろうがどこまでも冨岡だァ。
「む。そういえば不死川は案外ロマンチストだったな。顔と違って」
「顔カンケイねぇだろがァ!締めっぞゴルァ!!」
「そうなのか不死川!パンストではなく縄だったか、失敗した!」
「緊縛じゃァねんだよ!!」
もぉぉぉぉ何この会話。おれたち今世初めて会ったのにィ!
「だが大丈夫だ不死川!女に生まれてからというもの、私はお前を喜ばせるためにこの身体を開発してきた。お前がどんな性癖していてもオーケーだ!」
───はァァァ?
「待てェ、なんじゃそりゃどういう意味だでめぇ、まさかほかの男に触らせたんじゃねーだろなァ!?詳しく説明しろォ!」
冨岡を問い詰めようと大腿部をつかんだその時、おれの爪がストッキングに引っかかってビーッと伝染していった。
「あ……」
「……あ」
焦って見下ろすと、おれの指がパンストに食い込んで穴が開いており、前後に向かって伝染していた。白くムチムチとした太ももが目にまぶしい。
冨岡はムフフ♡と笑った。
「やっぱり不死川も男だな。さぁそのまま破け!あ、パンティは清楚な白だぞ」
「違ぇ!!違ぇんだってぇぇもぉぉぉぉ!」
「あん♡不死川は今世も巨根だな」
今世、出会って初めての夜は、パンスト破りプレイで朝まで盛り上がったのだった。