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    goyu_jujuthu

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    goyu_jujuthu

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    最強呪詛師五(33)×最強呪術師悠(20)
    前編
    注意
    パロディ
    全体的に悠君弱り気味
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    #五悠
    fiveYo

    Underworld都内某所、廃墟となった病院に薄暗い帳が下りていた。
    病院内を調査しているのは今年20になってフリーになったばかりの虎杖悠仁だ。
    何でも病院内で肝試しをしていた高校生が数名家に帰ってこないと連絡があり、警察なども捜査した物のいい結果が得られず虎杖に依頼が舞い込んだ。
    「いくつになっても、夜の学校てのはあんまりいい気分じゃないな。早く見つけ出してやらねぇと」
    虎杖は気合を入れ直し、病院の奥へと歩みを進める。誰もいない廊下を歩きながら呪術師になるきっかけとなった祖父倭助の最後の姿が思い浮かぶ。
    倭助は、人一倍厳しく口調もきつい性格だったが誰よりも虎杖の事を気に掛けていた。
    病気が見つかり、入院した時も決して弱音は吐かず普段通り振る舞い虎杖を不安にさせることなど無かったが、自分の死期が近いと分かっていたのかある日
    「お前は強いから人を助けろ。俺の様にはなるな。沢山の人に囲まれて死ね」
    とらしくない事を口にしそのまま息を引き取った。
    倭助から託されたその言葉は虎杖の胸に深く刻まれた。そんな虎杖が呪術師になったのは本当に偶然である。
    虎杖が通っていた杉沢第三高校のオカルト研究部の先輩が特級呪物両面宿儺の指の封印を興味半分で解いてしまったからだ。
    特急呪物両面宿儺の指。実在した人間が強大な呪いへと変化し死してなお強大な力を保っている代物で、転校してきていた伏黒が回収を任されていた。
    回収する前に封印が解かれ、伏黒一人では対応できないくらいの呪いが発生し先輩達が呪いに取り込まれそうになっているのを見た虎杖が宿儺の指を食べ両面宿儺を体内に宿すことになってしまうも自我が残っているという事を考慮され高専で監視という名目の基呪術師になったのだ。
    高専の関係者の大半が虎杖を恐怖の対象としてしか見なかったが、虎杖自身の持ち前の明るさに加え伏黒やもう一人の同級生釘崎、二年の先輩達、七海という名前の担任の教師の協力などもあって虎杖が高専に受け入れられるのには時間はかからなかった。
    色んな人の力をかりながら虎杖は無事に高専を卒業することが出来、宿儺の指も順調に集まっていた。最初は虎杖に非協力的な宿儺だったが高専に入学してからの五年で虎杖に呪力の提供をするようになるなど相棒とも呼べる存在になっており呪術界にとって虎杖悠仁はなくてはならない存在になっていて、最強の呪術師と称されるようになった。
    それを一番に喜んだのは、同級生と担任の七海だった。特に伏黒は自分が虎杖をこの世界に引き込んだことを気にしていたから虎杖が皆に認められたことに誰よりも祝福した。
    虎杖自身も最初の内は皆から祝われ嬉しく思っていたが、時間が経ち自分の名前が知れ渡っていく内に虎杖を見る視線が変化している事に気付く。
    まるで神を崇める様な視線を送られることが増えたのだ。
    伏黒や釘崎と同じ任務に就いた時にも
    「おい、虎杖。さっきのあいつらのあの視線はなんなの?」
    「・・まさかずっとこうだったのか?」
    助けた人達から送られる視線が普通じゃない事に気付き俺虎杖を庇う様にして施設を出た後ファミレスに連れていかれ開口一番に尋ねる二人に虎杖は苦笑いしながら
    「あーやっぱ二人からしても可笑しいって思うん?」
    二人に視線を向ける。二人は頷き
    「当ったり前でしょ。確かに私らで呪霊を祓って大したケガ人も出なかったわよ。だからと言ってあんな気持ち悪い視線貰わないわ」
    「釘崎の言うとおりだ。さっきの奴らの視線は心酔している相手に向けるものだ。いつからこうだった?」
    鋭い視線に虎杖は肩身が狭くなりつつ
    「・・最強の呪術師って言われ始めた時くらいかな。最初は普通に感謝されるだけだったん。だけどいつからかあんな風にみられるようになっちまって。俺の考えすぎかなとかおもってたんだけど」
    「馬鹿だ馬鹿だと思ってたけどここまでとはね。」
    「今回は釘崎に同意するな」
    二人の同級生からの呆れた視線を送られてしまえば虎杖は笑って誤魔化すしか手が無い。
    「あんた一人で解決しようとしてんじゃないわよ。何の為の私らだ」
    釘崎から言われた言葉にハッとする虎杖。
    「そうだぞ、俺らは仲間だ。何かあったら相談しろ。良いな虎杖」
    力強い言葉と視線に頷く虎杖。
    自分は心強い仲間に恵まれたなと思いながら、現実に意識を戻せば病院の一番奥の部屋に辿り着く。そこは手術室と古びたネームプレートが残されていた。
    「ここが最後の部屋か。無事でいろよ」
    ゆっくりと扉を開ければ、今日一番の呪力を感じすぐに呪霊が居る場所に向かう。
    間に合ってくれと願いながら虎杖は手術室の一番奥に辿り着くと、そこには数名の少年達を飲み込んでいる呪霊の姿があった。
    (早くしねぇと、あいつらの命が危ねえ・・。)
    「宿儺、すこし力借りる」
    『ケヒ、好きにしろ小僧』
    虎杖が手を前に翳し「解」と唱えると共に目の前の呪霊が一瞬で切り刻まれた。
    宿儺の技を用いての勝負はあっという間にケリが付き虎杖は急いで中に取り込まれていた少年達に駆け寄る。
    「良かった・・。まだ息はあるみたいだな」
    高校生たちの呼吸を確認した虎杖はすぐさま窓と呼ばれる人に連絡し少年達を病院に連れていくように頼む。
    一段落した事で虎杖は一度深呼吸し肩の力を抜き帰路につこうとした時
    「・・へぇ、君強いんだね」
    背後から声を掛けられる。虎杖は瞬時に距離を取り相手と向き合う。
    (なんだ・・・全く気配が無かった)
    「はは、それに反射神経も良いね。そういう子嫌いじゃないよ」
    暗い廊下の奥から姿を現したのは全身黒づくめの男でどこか楽しそうにしている。
    虎杖は今まで感じたことの無い緊張感を感じ額から汗冷や汗を流す。
    (・・こいつめちゃくちゃ強い)
    虎杖は拳をぎゅっと握り締め相手の出方を待つ。
    「そんなに警戒しないでよ。今日僕は別の用で此処に来ただけなんだし」
    警戒している虎杖に肩を竦めながら話を続ける男。
    「じゃあ、何しにここに来たん?」
    「僕の親友が放った呪霊の回収ってところかな。まぁ回収する前に君に祓われちゃったみたいだけど」
    「なっ・・。ならこの事件はあんたらが起こしたの?」
    虎杖は淡々と話す男を信じられないという目で見詰める。
    「結果的にはそうなるけど、そもそも立ち入り禁止の場所に入っちゃうのが悪いよね」
    さも当然と言わんばかりの男の態度に虎杖は苛立ちが募る。
    「そうかもしれんけど、訳も無く関係ない人巻き込むのは間違ってる」
    「はぁ、それって正論?僕正論って大嫌いなんだよね。」
    一瞬だけだが男の纏う空気が変わり虎杖は一歩後退り、宿儺の術式を展開しようとするも
    男は何かを感じ取ったのか鋭かった空気を和らげ
    「ふふ、本当に君面白いね。何か混じってるし。今日の所は引き上げてあげる。」
    そう告げて虎杖に背を向け歩き出す。
    「っ、このままいかせるかよ」
    「止めときなよ。今の君は万全の状態じゃない。そんな状態で僕に挑むなんて自殺行為だよ」
    目隠しに隠されている筈の瞳から鋭い殺気を感じ虎杖はその場から動けなくなる。
    「素直な子は好きだよ。君名前は?」
    「・・虎杖悠仁」
    「なるほど、君が噂の悠仁君ね。僕は五条悟。じゃあまたね悠仁」
    男の名前を聞き息を飲む虎杖に対し、五条は口元を三日月型に歪め手を背中越しに振り五条と名乗った男は姿を消す。張り詰めた空気が和らぎ虎杖は忘れていた呼吸を再開するように新鮮な空気を取り込み、五条が消えた廊下を見詰めた。
    「あれが・・・五条悟。最強の呪詛師」
    呪術界では知らない者はいないと言われる呪詛師の中でも特級と呼ばれ同じ特級呪詛師夏油傑と共に呪いを集めたりしており何人者呪術師が彼らによって返り討ちに合っている。
    彼らに会えば生きて帰れないとまで言われていて虎杖達の間でもちょくちょく名前が挙がっていて「五条と夏油に会ったら何もせず逃げろ」と言い聞かされていた。
    そんなウソみたいな存在が今まで虎杖と対峙していた現実に虎杖自身今更ながら恐怖した。
    暫くその場に留まり、速くなった鼓動を落ち着かせる。
    (あの、五条って人俺の事知ってるみたいだった。しかもまたねってどういう事なん。俺としてはあんまり関わりたくは無いんだけど)
    鼓動を落ち着かせている間に虎杖は自分に起こった出来事を整理するものの事が大きすぎて一人では解決出来なさそうだと結論付ければ伏黒や七海たちに簡単なメッセージを送っておく。そうしている間に呼吸も落ち着き帳を解き外に行けば高校生たちの親が待っていて
    「ありがとうございます。あなたのおかげで息子は無事に戻ってきました」
    深々と頭を下げられる。
    「そんな頭下げなくて良いっすよ。息子さんたち無事で良かったっす。」
    虎杖は笑い頭を上げさせるも頭を上げた女性の視線がいつもの視線で内心溜息を付く。
    「ほんと貴方みたいな若い人が息子を助けてくれるなんて。なんとお礼をしたらいいのか」
    「これが俺の仕事なんで。じゃあ俺はもう行くね、息子さんと仲良くな」
    そう言って足早にその場を去る。虎杖は心の中に何か燻ぶった物が生まれていることに気付かないふりをした。その後はどうやって家まで帰ったのか覚えて居らず気付けば朝になっていた。
    昨晩の出来事が頭にこびり付いて離れなくなっていて朝からため息を零してしまう。
    『朝から辛気臭いぞ小僧』
    そう声をかけてきたのは虎杖の中に居る宿儺だった。
    「仕方ねえだろ、急に色んな事起こり過ぎてあんま寝れなかったんだよ」
    噂だとしか思っていなかった特級呪詛師五条との出会い自分を神の様に見詰める視線全てが虎杖の心をかき乱す。
    『ふん、一々あやつらの視線なんて気にする必要も無いだろう。人間はいつの時代も強い物に酔狂する生き物だからな』
    「お前が言うと説得力あり過ぎて、逆にウケんね」
    『喧しい。それより今日は伏黒恵達に会うのだろう?さっさと準備せんで良いのか?』
    宿儺に慰められる事など昔では考えられなかったなと密かに笑みを零しつつも待ち合わせ時間までもうすぐだという事に気付き急いで準備する虎杖。
    そんな虎杖の様子を胎内で眺めつつ昨夜の男の事を思い出していた。
    『あの男、只者ではないな。小僧の事を気に入ったみたいだったからまた近いうちに会うことになりそうだ。その時は相手してやろう』
    稀に見る強者に宿儺の口角は上がっていく。そしてその宿儺の言う通り虎杖と五条が再開するのは意外と早いが本人たちは知る由も無いのだ。
    虎杖は準備をし終えると懐かしさの残る呪術高専に来ていた。呪詛師が相手となると、担任であった七海は欠かせない存在だからさ。
    入口まで行けば釘崎、伏黒が既に来ていて虎杖もそこへ急ぎ足で合流する。
    「伏黒、釘崎!待たせてごめん」
    「良いわよ私たちも今来たところ。」
    「全員揃ったし、七海さんの所行くぞ」
    三人で近況報告をしながら七海の所へ向かう。指定されていた空き教室に行けば七海が待っていた。
    「ななみん!久しぶり」
    「虎杖君たちもお元気そうで何よりです。積もる話もあるでしょうけど先に本題に入りましょう」
    七海が真剣な面持ちで三人を教室に入る様に促し話し出す。
    「昨夜、虎杖君から連絡があったことはお二人にも共有出来ていますね?」
    釘崎、伏黒に確認を取れば二人とも頷く。
    「結構。それで虎杖君、確認ですが。五条悟には何もされていないのですね?」
    「されてないよ。なんか親友の忘れ物回収しに来ただけって言ってたし」
    「忘れ物ですか。」
    「ん、でも回収する前に祓われたって言ってたから呪霊の事なんかも」
    虎杖の言葉に少し考えた後七海は再び口を開く。
    「虎杖君の見解で間違いないでしょう。五条悟と共に行動している夏油傑は呪霊操術を扱うと聞いています」
    「呪霊操術?」
    虎杖は聞きなれない言葉に首を傾げる。
    「呪霊操術。その名の通り、自然発生した呪いや致命傷を与えた呪霊を体内に取り込み操る術です。」
    「そんなすごい術式あんだね。だから、呪霊の事を忘れ物って言ったのか」
    納得したように頷く虎杖に対し
    「あんた、緊張感無さすぎ」
    「少しは厄介な奴らに目を付けられたって事自覚しろ馬鹿」
    伏黒と釘崎の冷たい視線が投げられる。七海も同じ様な事を思ったのか溜息を付いていた。
    「とにかく、特級呪詛師二人が動いた以上こちらも気を引き締めて任務にあたるようお願いします。何かあったらすぐに私に連絡ください。」
    「「「はい」」」
    表立った動きが無いので今のところは様子見をするという結論付けその場は解散となる。
    各々教室を後にしていく時に虎杖に七海が話しかける。
    「虎杖君。他に五条悟は君に何か言ってましたか?」
    虎杖は一瞬だけ考える素振りをし
    「なんも言われてねぇよ。心配してくれてありがとうななみん。」
    「君たちはまだ社会に出たばかりなんですから、頼って当たり前なんですよ。くれぐれも気をつけてくださいね」
    「おう」
    七海がいつも言う「頼っていい」という言葉に虎杖はむず痒くなりつつも嬉しそうにする。
    そんな虎杖を七海も微笑ましく見守っていた。
    七海と別れ、伏黒達とご飯を食べたりして虎杖は家に戻り一人考えた、なぜかあの時七海に他に何か言われたのかと聞かれたときに素直に「またね」と言われたのを報告出来なかったのか虎杖自身も分からなかったからだ。
    「あー、俺らしくねぇ。一先ず風呂入ってさっぱりしよ」
    頭をがしがしと掻きながら浴室に向かう虎杖。あの五条との会合は少しずつ虎杖自身の心をかき乱し侵食していった。
    一方、五条の方も虎杖との出会いを忘れられずに居た。
    あの夜隠れ蓑にしている家に戻り夏油に
    「わりぃ、傑。呪霊の回収出来なかったわ」
    「悟。開口一番に失敗報告なのかい。それに全然悪いと思っていないだろ君」
    「あ、バレた?実際あの呪霊絶対必要だって訳じゃないし」
    「必要かどうかは私が決める事なんだけどね。」
    夏油の少し呆れたような素振りを見ても五条は舌を出し相手にしなかった。
    長い付き合いである夏油はここで意地を張って言い返しても意味が無いと分かっているので、息を一つ零し
    「はぁ・・それで?失敗した割には何か楽しそうだね悟」
    夏油の問いかけに五条は口を歪ませ
    「虎杖悠仁に会った」
    夏油は目を見開き
    「虎杖悠仁ってあの?」
    「そう、最強と言われてる呪術師だよ」
    「ふふ、それは興味深いね。噂の呪術師はどんな子だった?」
    夏油も楽しそうに口元を歪ませ五条の言葉を待つ。
    「すっげー面白い子だったよ。中に何か混じってるのもそうだけど、何か路頭に迷っている子犬みたいな目してた。」
    「・・それはこちらにとっては好都合かもしれないね」
    「はは、流石傑。多分僕と同じ事考えてんだろ」
    二人はにやりと笑えば
    「「虎杖悠仁を堕とす」」
    声を揃えて頷きあう。
    「私は情報集めをするよ。悟はどうする?」
    「もう一回会いに行ってくるよ。ただ、今回は悠仁の前には姿を見せずに悠仁の迷いの大元を探る。傑呪霊一体貸してくんねぇ?」
    「そう言うと思った。今回もどっかに放っておくかい?」
    「そうだな。出来るだけ人が多い場所がいい」
    「それなら、新宿にしようか。サルどもが沢山居るし」
    「場所の選定は傑に任せる。じゃあ僕は帰る。傑もあっちの家に帰るんだろ」
    「ああ、家族たちが待っているからね」
    「相変わらずだな。あいつらにもよろしく言っといてよ。特にミゲル」
    「君ね、ミゲルが君の事苦手としてるの分かってて言ってるだろ」
    「まぁね。とりあえず明日から作戦開始だ。絶対堕とすぞ」
    「ふふ、分かっているさ」
    二人は不敵な笑みを浮かべれば建物を出る。夏油と五条が集まっていた部屋はあくまでもセーフハウスの一つであり、各々自分たちの部屋も持っているので作戦を立てた後はお互い家に戻るのが暗黙のルールだ。夏油と別れ自宅へと帰り着いた五条は手早く食事やシャワーを済ませ、ベッドに横になれば今虎杖の事を思い浮かべる。
    自分の事より他人の事を思いやる優しい青年。一瞬だが物凄い呪力を感じあの場は誤魔化して引き上げたものの五条はあの強大な呪力を放つ呪物に心当たりがあった。
    「あれが、両面宿儺の呪力ね。くくっ、怖い怖い」
    怖いといいながらも口元を歪める五条は恐怖よりも好奇心の方が勝っていた。
    「それに、あの子完全に宿儺と同化しているのに自我を保ってた。最強と呼ばれる理由はそこだろうな。けど、なーんか悩んでるんだろうな。少し呪力乱れてたみたいだし。早く理由突き止めてもっとあの子の事知りたいな」
    冷静な頭で虎杖という存在を分析する五条。
    サングラスの奥に隠された瞳は新しい玩具を見つけたという喜びでより一層綺麗に輝くのだった。
    ぞくりと背中に悪寒を感じた虎杖は早々にシャワーを切り上げ部屋着に着替えリビングのソファーに座り込む。
    季節は暖かくなって来ていて寒さを感じるには少しばかり遅く、風邪でも引いたのかと思うも今の年齢に至るまでに風邪など引いたことが無い虎杖はそれも可能性が低いなと自己解決しそのままソファーに倒れこめば
    「はぁ、やっぱ疲れてんのかな。色々あったしなぁ。」
    目を閉じれば短期間の間に起こった出来事が走馬燈のように駆け巡り虎杖はそのまま睡魔に襲われる。
    『小僧、寝るなら閨(ねや)に行け』
    「・・・ん」
    どこからか宿儺が何かを言っていると思いながらも虎杖は眠りに付く。
    ぼんやりと意識が浮上するとそこには今まで助けた人たちの姿が見えて虎杖は夢の中だと気付く。
    「息子を助けてくれてありがとうございます。」
    「流石は現代最強の呪術師様だ・・・」
    「貴方が居れば自分達は怖いものなど無い」
    次々と称賛する声と畏敬の念を込めた視線が目の前の人達から向けられる度虎杖は居た堪れない気持ちになる。
    (俺は・・神様とかそんなんじゃないし、特別扱いせんで。俺だって・・)
    そこで虎杖は現実に戻され、自分の部屋着が汗で濡れていることに気付きため息を零す。
    最近になって今の様な夢をよく見るようになりこうやって魘されて飛び起きるという回数が増えている事を自覚しているだけあってそんな自分自身に嫌気がさす。
    宿儺からも気にするなと何度も言われているが、虎杖の性格上気にしないというのは難しいのだ。そうして疲れが残る体を何とか起こし朝食の準備をする。最近ではこれが日常になりつつあるから人間慣れっていうのは怖いなと思う。
    伏黒や釘崎が居たら間違いなく『そういう問題じゃない』とツッコまれている所だが生憎その役目を果す者は此処に居らず宿儺だけが呆れた様に『馬鹿な奴め』と呟くのだった。
    欠伸を噛み締め朝食を作り終えた虎杖は朝食を食べ終えれば自分の携帯をチェックし一つ任務があるのに気付きそのまま仕事の内容を読み進め、確認した事を報告し現地へ向かう。
    虎杖の所に入った任務の内容は、未確認の呪霊がある村にいきなり現れ数人の呪術師が対応に当たったが戦闘中に特級へと変貌し対応に当たった呪術師が致命傷を負わされ、村人数人にも被害が及んでいるので至急向かってくれという案件だったので虎杖は急いで新幹線に飛び乗り補助監督が待待機していた車に乗り込んだ。
    「すみません虎杖さん。忙しいところ遠方まで来てもらって」
    「大丈夫っすよ。それで今どんな状況なん?」
    「・・最悪な状況ですね。何人かの呪術師の方々はお亡くなりになり、村人も数十人犠牲になっています」
    「・・そっか。早くこれんでごめん。」
    「虎杖さんのせいじゃないですから、今はこの任務を遂行するのに集中してください。もう現場に付きます」
    「あんたの言うとおりだね、ありがと気合入れてくれて。じゃあここからは俺に任せてあんたは安全な場所で待機してて」
    「わかりました。虎杖さんご武運を」
    補助監督と別れ、虎杖は村の中に入り帳を下ろした。
    辺りが薄暗くなったと同時に強い呪力の残穢を感じ駆け足でそこへ向かう。
    村人たちは恐ろしいのか家の中に引きこもっているのを横目で確認しながら、特級呪霊の所へ到着すれば口元を赤く染めたそいつの足元には沢山の屍が転がっていて、虎杖は体中に怒りが駆け巡り躊躇なくその呪霊に殴りかかった。
    完全に隙を付かれた呪霊は遠くに吹き飛び村から離れたそれを虎杖は追い掛け追撃を仕掛けるも呪霊も体制を整え虎杖の攻撃を弾き返す。
    「くっそ、体制整えるの早えな」
    相手の思わぬ反撃に軽く舌打ちしつつ距離を取る。呪霊は強敵が現れたことに楽しそうに口を歪ませるのを見て
    (こいつ、戦うの楽しんでる)
    自分の力を試したいためだけに何人もの人が犠牲になった事が虎杖の怒りを更に強める。
    驚異の瞬発力で呪霊に向かっていけば呪力を乗せた拳をぶつけるも避けられてしまい続けざまに攻撃を仕掛けても全て読まれている事に焦りを感じたとき虎杖はある言葉を思い出す。
    「怒りは術師にとって重要な起爆剤だ。怒りで呪力を乱し実力を発揮出来ずに負けることもある」
    京都姉妹校との交流戦の時に東堂から言われたそれが頭に浮かべば相手と距離を取り一呼吸置き冷静になり、宿儺の術式の構えを取る。
    「捌」
    一瞬で敵を切り裂き片を付け、帳を上げ虎杖は村に急いで戻り現状を把握しに行く。
    呪霊に殺された仲間や村人は無残な姿になっており虎杖は唇を噛み締めるも、家から出ていた村人達の視線は虎杖にしか向いていなく、その異様な光景に息を飲む。
    「なぁ、なんであいつ等の事弔ってあげねぇの?俺じゃなくてあの人達気にしろよ」
    虎杖は必死に村人達に話し掛ける。それでも村人達は
    「貴方が来てくれなかったら、この村は滅んでいました。」
    「貴方が居ればこの世界は安心だ・・」
    そんな畏敬の言葉を投げ続ける。虎杖は段々とその視線に耐え切れなくなり一歩ずつ後退っていく。
    「なぁ、ちょっと待てって。俺はそんな敬うような存在じゃねぇし、皆正気に戻れよ。」
    今にも虎杖を神のように崇め様としている村人達には何を言っても通じない。虎杖の頬に冷や汗が流れた時、一人の男の手が伸びてきて虎杖に触れそうになった瞬間我慢できず虎杖は駆け出し村の外に逃げ出す。
    待機していた補助監督が焦った様に声を掛ける
    「虎杖さん!なんかあったんですか?」
    「っ、はぁ、ぁ、何でもないっす。後の事任せてもいいっすか?」
    「それは構いませんけど、虎杖さん顔色悪いので先に送ります。今日はもう休んでください。明日も任務は入っていないので」
    「ん、ごめんな。ありがと」
    補助監督の言葉に少しだけ安心したように微笑めば車に乗り込みそのまま駅に送ってもらい、家に戻り玄関を中に入り鍵を閉めればそのままずるずると座り込む。
    『小僧、大丈夫か?』
    「宿儺か・・。流石に今日のは堪えたかもしんねぇ。」
    『・・いつの時代も人というのはか弱いな。お前ももう休め』
    意味深な宿儺の言葉が気になったものの虎杖は先程の纏わりつく様な視線が忘れられず、大人しく宿儺の言葉に甘える事にし、さっさとシャワー浴びベッドに横になる。
    虎杖自身あんなに人を怖いと思ったのは初めての事で虎杖自身戸惑ったが、ぎゅっと目を閉じ無理やり考える思考を中断させる。今日の出来事が夢であって欲しいと思いつつ無理矢理眠りに付いた。
    虎杖が居なくなった村の近くで様子を伺っていた五条は、先程の虎杖と村人達のやり取りを思い出し、口元を歪めていた。
    「なるほどね、悠仁の悩みの元凶はあれか。それなら意外と堕とすのは簡単そうだな」
    そう呟き五条はそのまま村から姿を消し、自宅へ戻る。
    虎杖の悩みの元凶が分かったことを夏油にメールし、近い内に虎杖に挨拶に行く予定だと付け加えると夏油も一緒に来ると返事が来たので珍しいこともあるもんだなと思いつつ五条は携帯を机に置き、寝室に向かいさ目隠しを外し横になる。虎杖を手中に収められる手筈が整い出したことに口角が上がっていく。
    「くくっ。あの子はどんな反応を示してくれるかな。」
    愉悦に満ちた表情で眠りに付く五条。虎杖と五条が再び会うのは時間の問題になっていた。
    村での任務の後虎杖は人と関わるのが少なからず怖くなっていた。ありがたいことに今日一日オフだと言われていたので午前中は部屋の掃除をしたりして気を紛らわせていたが、流石にする事が無くなったので少し気分転換するために外に行く事にした。
    普通に過ごすには、虎杖自身も苦では無いので買い物したりして楽しんでいて外に出て善かったと思い必要な食材などを買い込み家に帰る途中に強力な呪力を感じ身構える。
    呪力を感じた方向を見れば、あの日廃病院で見た五条悟が居て五条は虎杖に気付いて無いのかそのまま路地裏に消えていく。虎杖は七海に言われた「気を付けてください」という言葉に一瞬思いとどまるも、あの五条が消えた先に否術者が居たら、こんな街中で特級呪霊を放たれたらという最悪の事態を想定し自然と足は五条の消えた方向に向く。心の中で七海に謝り虎杖は駆け出す。大通りから離れた街角まで入り込むとそこは行き止まりで虎杖は嵌められたと知る。
    「駄目だよ、呪術師がなんも警戒もしないで呪詛師の後なんか追い掛けちゃ」
    後ろを振り向けば今まで居なかった五条が姿を現す。
    虎杖は簡単に背後を取られたことに油断したと受け身の体制を取るも五条は攻撃をしてくることはなく、虎杖は警戒しながら口を開く。
    「・・なんで攻撃してこないの?」
    「だって僕君を攻撃するつもりないし。」
    「意味わかんねぇ。俺に何でそこまで構うん?」
    殺意の見えない相手に戸惑う虎杖にもう一つの声がかかる。
    「悟。ちゃんと状況説明してあげなきゃ可哀想だろ」
    「状況も何も僕はまだ何もしてねぇっつの」
    五条の後ろから長髪の男が姿を現し本能的にその人が五条の相方と言われている夏油だと悟る。
    「・・あんたが、夏油傑?」
    「ふふ、初めまして虎杖君。察しの通り私が夏油傑だよ。悟が何の説明もしないでごめんね」
    最強の呪詛師と呼ばれる二人が揃い虎杖は警戒を強め目の前の二人を睨みつける。
    「へぇ・・。なるほどこれは悟が気に入るわけだ」
    「面白いだろ。この状況でも勝機を諦めてないんだぜ」
    虎杖の真っ直ぐな視線に夏油も五条も楽しそうに笑う。虎杖は舐められていると感じ拳に呪力を込め先制攻撃を仕掛けたが五条に拳を掴まれ夏油の持っている呪霊に動きを封じられる。すぐさま宿儺の術式で身体を縛っている呪霊を祓い後方に飛び一定の間隔を取り次の攻撃に移ろうとすると五条が口を開く。
    「とりあえず落ち着きなよ悠仁。僕らは君と戦いに来たわけじゃないってさっき言ったでしょ。」
    「・・じゃあ何で俺の前に現れた?」
    「単刀直入に言うよ。悠仁、僕らと一緒においでよ」
    口元に弧を描きながら微笑む五条に
    「何言ってんの。なんで俺があんたらと一緒に行かなきゃいけねぇの。」
    「だって君迷子みたいな目してるよ」
    「っ・・」
    「虎杖、君は今の世界になんの疑問も不満も無いのかい?」
    二人から投げかけられた言葉に虎杖の瞳が揺らぐ。その隙を見逃す程二人は甘くない。
    「私はね、この世界は不公平だと思うんだよ。強者が弱者に埋もれ虐げられることも数多くある。」
    「・・・何が言いたいんすか?」
    「術者だけの世界になれば、呪いも生まれなくなる。」
    夏油の言葉に息を飲む虎杖。
    「私が目指す世界はそんな世界なんだよ虎杖。」
    「だからって関係ない人の命を奪うのは間違った死だ!」
    拳を握り締め、夏油を睨みつける虎杖に夏油は不敵な笑みを絶やす事無く二人の間に緊張感が走るもそれは第三者の声によって打ち消される。
    「傑、怖がらせてどうすんだよ。ごめんね、悠仁。いきなり物騒な話して」
    「え、あ、いや・・」
    場の空気にそぐわない優しい口調で話しかけられ虎杖は困惑する。
    「傑の言った事は気にしないで良いよ。ちょっと極端な思想持ってるだけだから。」
    「悟に言われたくないんだけどね」
    五条が介入したことにより夏油も纏っていた刺すような空気を緩め五条の隣に戻れば五条が語り出す。
    「ごめんね、怖がらせて、こいつも色々あったから。」
    「別に気にしてねぇ、あんたら呪詛師の言う事一々気にするわけにはいかない」
    「くっく、ご立派だね悠仁。でも、悠仁さぁ、人を助ける事が怖くなってきてるでしょ
    ?」
    「っ」
    誰にも言えなかった事を的中させられ虎杖の動悸が速くなる。
    「ふふ、悠仁は分かりやすいね。思っていることが全部顔に出ちゃうんだもんね」
    「・・ち・がう。」
    五条の優しい口調が虎杖の弱った部分をゆっくり侵食していく。
    「本当に違うの?」
    「俺は・・、強いから沢山の人を助けないといけないんだ。だから助ける」
    五条の誘導に負けない様に拳を強く握り正気を保つ。
    「なるほど、その縛りがあるから最強と言われるまでになったんだ。悠仁は強いね。
    だけどさ、一人で戦い続けるのしんどくないの?」
    「一人じゃない・・から」
    五条の言葉は虎杖が奥底に眠らせていた弱さをや不安を引きずり出そうとする。
    「最強で有り続けて、人々から神扱いされて弱音を吐けないのに一人じゃないって言えるのかな?」
    「なんで、、それを」
    今指摘されたのは虎杖が最強と言われるようになってからずっと心の奥に封印していた弱さだった。
    虎杖の揺らぐ瞳を見て五条は口角を上げる。
    「僕ならその孤独をわかってあげられる。ねぇ、悠仁。一緒に行こう」
    飛び切り甘い声で追い打ちをかける五条に虎杖の手が伸び掛けた時虎杖の携帯が鳴る。
    虎杖はびくんと身体を震わせ正気に戻ると五条達はあっさりと距離をあける。
    「残念。今日はここまでみたいだね。でも僕が言った事忘れないで悠仁。それじゃあまたね」
    「っ待て。」
    二人を逃がさない様に腕を伸ばすも既にその姿は無く虎杖は茫然と立ち尽くす。
    五条から言われた言葉が脳内から離れず虎杖はぽつりと呟く。
    「俺は・・一人なんかな・・」
    その小さな呟きは風に乗って誰からも拾われることなく飛んでいくのだった。
    虎杖を誘き出した場所からそう離れていないビルの屋上で
    「君があんなに演技出来るとは思ってなかったよ悟。」
    「演技とかじゃねぇよ。事実を言っただけ」
    「かなり動揺していたね彼。最強と言われて孤独を感じるのは分からなくもないね」
    「まぁな。てか傑は脅しすぎ。警戒されて引き込めなかったらどうするつもりだったんだよ」「すまないね、ちょっとどういう子か試したくて」
    「なんにせよ、種は蒔いた。後は発芽するのを待つだけ」
    「こちらからは手を出さないのかい?」
    「呪霊なんてすぐ湧いてくるからな。まぁ遠くから様子見るくらい」
    「了解。それじゃあ今日はお暇させてもらうよ」
    「おう、お疲れ。」
    夏油が呪霊に乗り移動したのを見送った後五条は虎杖が居る場所を見詰め
    「待ってるからね、悠仁。」
    そう言い残しその場から消えた。
    虎杖と五条が二回目の会合を終えてから、虎杖はなかなか任務に集中出来ずにいた。
    あの時五条から言われた言葉が離れず、呪いを祓って祓って祓い続け後に残るのは何なんだろうと思うようになっていた。
    今日の任務も一級相当の呪霊を祓い、誰かに見つかる前に家に戻ろうとした所声を掛けられる。
    「あの・・虎杖さんですよね」
    虎杖は体を硬直させるも一呼吸置き
    「そうっすけど、なにか用っすか?」
    「あの、先ほど助けていただいたものです。自分窓になったばっかで、最強の呪術師である虎杖さんに助けられるなんてすごく嬉しかったです。」
    相も変わらず、特別視される事に虎杖の心はずきずきと痛む。
    「別に、ただ仕事しただけで、俺だけが特別って訳じゃないっす」
    笑顔を貼り付け特別なことはしてないと言い聞かせる。
    「何言ってるんですか!今や最強と言われている虎杖さんが特別なんですよ!確かに他の方達も強いですけど、虎杖さんはずば抜けてるんです。虎杖さんに会いたくて、心霊スポットの担当をしたがる奴多いんですから!!」
    「なっ、そんな軽い気持ちで呪いが集まる場所なんて行くのはやめろよ」
    自分の存在がそこまで影響していると思っていなかった虎杖は目を見開き、口調を荒げ注意する。それでも窓の子は何故注意されているのか分からないという顔をする。
    「なんで、そんな怒ってるんですか?虎杖さんだって推しが居たらその人に多少無理してでも会いたいと思うでしょ。それと同じですよ」
    全く危機感を感じていない相手に虎杖は戸惑う。
    「そうかもしれんけど、自分の命が掛かってたら別だろ!」
    「だって・・その時は虎杖さんが助けてくれるでしょ?」
    相手の恍惚とした表情に血の気が引いていく。
    「え、虎杖さん顔真っ青にしてますよ。どうしたんですか?」
    相手の手が虎杖に触れようとした瞬間その手を払い除けた自分自身に驚きつつ虎杖はごめんと言う言葉を残し駆け出した。
    (なんで、あんな表情が出来んの・・・。俺にだって出来ない事あんのに)
    他人から寄せられる過度の期待は虎杖の心を重圧で押しつぶそうとしていた。一人人気が無い所まで行けば貯め込んでいた弱さを口にする。
    「はぁ・・はぁ、俺は・・神様じゃない。普通の呪術師虎杖悠仁だ」
    唇を噛み締め空を仰ぐ。空の色は虎杖の心を表しているかのように暗く淀んでいて虎杖は顔を歪ませている後ろからここ数日で聞きなれた声が掛けられる。
    「ねぇ、こんな所で一人になると危ないよ」
    振り向くとやはりそこには五条が居て、その表情はどこか楽し気だった。
    「五条悟・・」
    「随分と疲れた顔してるね。どうかした?」
    全て分かってるような顔する五条に虎杖は苛立ちを覚える。
    「・・あんたと出会ってから、ずっと調子くるってんの。俺は人を助けなきゃって。目の前で助けられる命があったら絶対見過ごさない様にしてきたし、友達や先生に助けられながらも祓ってきた。なのにあんたが『一人じゃないって言えるのか』なんて言うから・・」
    虎杖自身五条と会っている事、特別視する行為がエスカレートしている事をずっと言い出せずに時を過ごしていて、七海達に罪悪感が募っていた。
    「あんたの、目的はなんなんだよ。なんで俺にそこまで構うん?」
    色んな感情が混ざり合い揺れる瞳で五条を見る虎杖に五条はゆっくりと口を開く。
    「そんなの、決まってるじゃん。虎杖悠仁が欲しいから」
    艶やかな口元を三日月型にし綺麗に笑う五条に虎杖は見惚れてしまう。
    「僕は最強の呪術師虎杖悠仁じゃなくて、今目の前に居る虎杖悠仁という一人の青年が欲しいだけだよ」
    殺気も纏わない、優しい声が耳が残ったのと同時に虎杖の身体は五条の腕の中に包まれていた。
    「やっと、捕まえた。」
    耳元で聞こえた声に反射的に逃げようとするも五条の指が額に当てられると意識が遠のいていく。薄れていく意識の中で虎杖はこうなる予感がしていたような気がしていた。
    五条は力が抜けた身体を抱き上げ静かに微笑む。
    「純粋な子を自分の色に染めていけるって考えると楽しくなるね。早く俺の所まで堕ちて来いよ虎杖悠仁」
    そっと虎杖の髪に口付けた五条はそのまま自分の家に跳んだ。
    その翌日一人の窓が死体で見つかったと報告が上がり高専に戦慄が走った事は二人には知る由も無かった。


    虎杖が目を覚ましたのは見知らぬベッドの上で、ぼんやりとした頭でここがどこだか考える。
    『小僧、寝ぼけている場合か?』
    宿儺の声に一気に現実に戻され、虎杖は部屋の中を見渡す。
    「ここ、五条悟の家?」
    「正確に言うと僕が持っているセーフハウスの一つだよ」
    宿儺に問いかけているつもりだったが、扉の向こうから現れた五条自身に説明を受ける。
    「・・俺を此処に連れてきた目的ってなんだよ?」
    五条を軽く睨み付けいつでも仕掛けられるように体制を整える。
    「言ったじゃん、虎杖悠仁が欲しいって。」
    警戒する虎杖をくすくすと笑いながら虎杖の居るベッドに近付く五条。
    「あんたは最強の呪詛師だろ。なんで俺なんかに興味を持つ?」
    「呪いの王両面宿儺を内に宿しながら、正気を保っているなんて興味持たない訳ないだろ?」
    にっと口元を歪め虎杖の目の前に立つ五条に対し虎杖はすかさず拳を叩き付けた筈だった。
    「なっ、拳が進まねぇ・・」
    「くくっ、予想通りの反応有難う。君が今殴ったのは僕との間に合った無限だよ。」
    虎杖の当たらなかった拳を握り楽しそうにする五条。
    「っ・・離せ」
    自分より強い力で握られた手に顔を歪ませる虎杖の手はあっさりと離され
    「さてと、元気そうだし朝ご飯にしようか」
    「は?」
    「戦意喪失している相手を甚振ったって楽しくないでしょ。それに僕は君と仲良しになりたいからね」
    部屋の出口に向かって歩き出す五条に
    「俺は・・あんたとは仲良くならんよ」
    「良いね、そういう反抗的なのは嫌いじゃない。でも戦り合うにしてもまずは腹ごしらえなんじゃないの?君だってお腹空いてるでしょ?」
    「腹なんか減ってねぇ・・・『ぐぅぅぅ』
    五条の誘いを断るつもりが身体は正直に答える。その音に五条も一瞬きょとんとするも次の瞬間には笑い出す。
    「あははは、すっごい音。そんな音初めて聞いたよ。身体は正直だね。別に毒なんて入れてないし食べようよ」
    今まで見てきた作ったような笑顔じゃない五条の本当の顔が見れたような気がした虎杖は(この人・・こんな顔で笑うん。)
    五条の事がもう少しだけ知りたいと思いそのまま五条の後についていった。
    五条が作ったと言う朝食はとても美味しかった。
    何の警戒も無く食べた虎杖に「本当に素直だね」と五条はまた朗らかに笑い和やかな空気の中朝食を終えることが出来た。
    「さて、腹ごしらえも終わったことだけどどうする?さっきの続きでもする?」
    先程までの和やかな空気とは裏腹に鋭い殺気を放つ五条に対し息を飲む虎杖だが、目の下の傷から声が上がる。
    『小僧、俺と変われ。あいつと手合わせしたい』
    「へぇ、そうやって顕現する事も出来るんだ。僕はどっちでもいいよ。」
    互いに強敵を目の前にして嬉しそうな声色で話す。
    「・・10秒だけだからな」
    二人の愉悦溢れる口調に溜息を吐き虎杖は目を閉じ、変わりに呪いの王が顕現する。
    「凄まじいね、これが呪いの王と言われる所以か」
    部屋の中に充満する邪悪なオーラに五条は臆する事無く笑う。
    「ケヒ、やはりお前は俺を楽しませてくれそうだな」
    宿儺も笑みを返せばそのまま五条に向かい蹴り掛かる、五条も動きを読んでいたのか腕で足を受け止めはじき返し、相手家の外へと追い出す。
    「流石に狭い場所じゃやりくいだろ」
    余裕そうな笑みを浮かべ宿儺を見遣る五条に対し
    「ヒヒッ、生意気な」
    吹き飛ばされているにも拘らず口元を歪めた宿儺は体制を整え直すと正面から五条の蹴りを受け止める。互いに譲ることなく相手の突きや蹴りを交わしていく、その顔はとても楽しそうだった。
    10秒が経ち、宿儺は満足そうに笑い『ケヒ、ヒヒ、やはりお前は強い。』そう言い残し虎杖と入れ替わる。ゆっくりと目を開けた虎杖は
    「あんた、宿儺と互角なんてすごいんだな。」
    「まぁ、僕最強だから。でも流石に宿儺と戦り合うのは骨が折れるね」
    「でもあんたも宿儺も本気じゃないんだろ?」
    「へぇ、そこは分かるんだ。流石だね。」
    宿儺と戦り合って息一つ上がって無い姿を見れば誰でもわかる事だろと内心思いながら目の前の男が本気で敵に回ったら厄介だと痛感した。
    「とりあえず、宿儺との挨拶も終わったし行こうか」
    「どこに・・?」
    次に続く言葉が予想から外れているのを願いつつ虎杖は五条を見詰める。
    「もちろん、仕事だよ。悠仁にもついてきてもらうから。」
    有無を言わさぬ口調に虎杖は逃げようとしたが五条に捕まり、動きを封じられる。
    「今から行く所は悠仁もちゃんと知っといたほうが良い」
    五条は虎杖の腕と足に縄を巻き付け縛り付けた。本来であれば縄など簡単に引きちぎる事が出来ると思っていたがどんなに力を入れてもちぎれない縄に戸惑っていると五条が笑い
    「この縄特殊な呪いが掛かっているから簡単には解けない。あとこれもつけるから少しの間は我慢してね」
    そう言って五条は虎杖に目隠しを被せ動きを封じらたまま担ぎ上げれ別の場所へと連れて行かれ、到着するのと同時に目隠しだけは外された。
    虎杖は何回か瞬きして視界を馴染ませ辺りを見れば一つの扉の前に居た。
    「急に連れてきてごめんね。でも、もう一人合流しないといけない奴いるからね」
    その言葉でこの扉の前に誰が居るかなんて安易に想像がつく。
    前を歩く五条扉に手を掛け開ければ、虎杖が予想していた通りの声が聞こえた。
    「遅かったじゃないか悟。」
    「悪い、ちょっと野暮用があったから」
    「野暮用ね、それは後ろに居る子が関係してるのかい?」
    夏油から急に声を掛けられ虎杖は身体を跳ねさせる。
    「随分と警戒されたものだね。」
    虎杖の反応を見た夏油は苦笑いする。
    「自業自得だろ。」
    「まぁそうなんだけどね。それじゃあ改めて自己紹介するよ虎杖悠仁君。悟と同じで特級呪詛師の夏油傑だ。こないだはすまなかったね」
    前に会った時とは違い柔らかい笑みを浮かべ虎杖のほうを見る夏油を軽く睨みつつ
    「俺は、まだあんたらとは組むなんて言ってない。」
    強気な虎杖の視線を受け一瞬驚くもすぐに口元を歪ませ
    「悟が気に入る訳だ。」それだけ呟き虎杖のほうに向かい歩き出す夏油に警戒するもそのまま横を通り過ぎられ困惑する。
    「傑も悠仁をどうこうするつもりは無いよ。とりあえず今は黙って付いてきてよ」
    そう言ってまた別の場所に連れて行かれる。虎杖が連れてこられたのは、地図にも載っていない小さな村だった。
    住民の数は、100人足らず。こんな村に一体何があるのかと虎杖は疑問に思いながら辺りを見渡す。二人は迷う事無く村の奥に進んでいき、小屋の様な建物に入っていく。
    中に入ると、鉄格子があり中で何かが蹲っていた。
    「相変わらず・・猿がする事は理解出来ないね。」
    夏油は静かな怒りを感じていた。拘束を解かれ床に下ろされた虎杖が鉄格子の中を覗くとそこには無数の痣や火傷の痕らしきものが身体中に付いている少年が居た。
    「なっ。何だよこれ」
    「これが君達が一生懸命守ってきた者の裏側だよ」
    「裏側・・?」
    「そう。この子はね生まれながらにして呪力を持っていた。物心付かない内に使えていたから周りからは忌み嫌われこの奥座敷に閉じ込められている」
    「・・嘘だろ。高専は知らんの?」
    「高専の腐った上層部や呪術界の御三家達は自分達の保身しか考えていない。こんな小さな村の事なんて調べるなんてしないよ」
    五条は忌々しそうに吐き捨てる。
    「私はね、そういう身勝手な非術者達が許せないんだよ」
    夏油は鉄格子を呪霊に壊させ少年を抱き上げたのと同時に騒音を聞きつけた村人達が入ってくる。
    「お前らそこで、何してる?」
    「そのガラクタ人形を返せ」
    人を人と思わない発言をしている村人達に虎杖は悲痛な顔をした後
    「止めろよ。その子だって人間だ。人形なんて言うな」
    村人達に厳しい視線を向ける。
    「こんな呪われた力を持った同じ人間だと?」
    「生かされているだけ有難いんだ、感謝はされど、責められる覚えが無い」
    次から次へと浴びせれれる罵倒に夏油の腕の中に居る子供はごめんなさい・・ごめんなさい・・と震えながら繰返し呟いていた。
    その様を見た虎杖は無意識のうちに「解」と呟き目の前の村人達を惨殺していた。
    それを見た五条と夏油は後ろで口元を歪ませ満足そうに笑うのだった。
    自分の犯した事を正気に戻った虎杖は全身を震わせ自分の手を見詰めその場に崩れ落ちる。
    「俺は人殺しだ・・。」
    血の気の無い真っ青な表情で項垂れる虎杖に夏油の腕から降りた子供が駆け寄り
    「お兄ちゃん・・自由にしてくれてありがとう」
    その一言を聞いた虎杖はポロポロと涙を流し少年を抱き締め、少年も小さな腕で背中に腕を回し二人で涙していた。その後二人は泣き疲れたのかそのまま眠りについてしまった。
    「流石に、刺激が強すぎたかな?」
    「でもこうでもしないと悠仁の心折るの無理そうだったからね。それに実際術師達が見捨ててるのは本当の事だろ。それにしてもよくこんな場所で寝れるな」
    呆れた口調とは裏腹に優し気な表情で二人を見る五条に夏油は少なからず驚く。
    (悟のこんな表情初めて見たな)
    横で驚いている夏油に
    「どうした傑。俺の顔になんかついてた?」
    「嫌、何も。とりあえず後の事は任せて悟は虎杖を連れて帰りな。子供の方は私が預かるよ」
    「りょーかい。後は頼んだ」
    寝ている二人を起こさない様にして放し、虎杖を抱き上げ術式を使い移動する五条。
    「虎杖なら、悟の孤独を分かってくれるかもしれないな」
    二人が居なくなった空間に夏油は祈る様に呟いた後、持っている呪霊を出して後処理をしていく。一晩の内に村が一つ消えそこで何が起こったのか誰も知らないのだった。

    虎杖が意識を取り戻したのは柔らかな布団の上で、さっきまでの出来事は全部夢だったのかと思うも自分の服に付いた血を見て現実だったと思い知り、静かに涙を溢す。
    「っ。ふ、ぐすっ」
    あの子供を助ける為とは言え沢山の民間人を殺してしまった。その後悔と、今まで信じていた物が崩れ落ちた消失感に苛まれたからだ。
    とめどなく溢れる涙を必死に拭っていると部屋の扉が開き、五条が入ってくる。
    泣いているのに気付けば虎杖の傍にやってきて優しく抱き締める。
    「悠仁、泣いてるの?」
    「っ、ふ、俺、にかまわんでよ」
    泣きながらも腕の中で藻掻く虎杖を五条は更に強く抱き締め
    「辛いなら、忘れさせてあげるよ」
    涙を指で拭いながら顔を上げさせられると五条の唇が重なる。
    「んんっ、ふっ、やぁ」
    何が起こったか分からない虎杖はパニックになり更に腕の中から逃げ出そうと身体を捩るも五条の腕の力が強まりまた強引に口付けられる。
    「んんっ、ふぅ、ん」
    何度も口付けられている内に虎杖の身体の力が抜けていく。
    その隙を見逃さない五条はすかさず舌を差し入れ虎杖の咥内を好きな勝手蹂躙していく。
    「んっく、ふぁ、ぁふ」
    「ん、ゆじ、もっと絡めて」
    お互いの唾液を交換する様にして室内にはくちゅくちゅという水音が響く。
    五条の巧みな舌遣いに翻弄され、初めて感じる感覚に戸惑い必死に五条にしがみつく。
    虎杖の拙い様子に微笑みながらゆっくりと唇が離れていく。
    「はぁ、ぁう、急になにすんだよ。」
    「ふふ、真っ赤になっちゃってかあいいね。けど気持ちよかったでしょ?」
    顔を真っ赤にして息を整え五条を睨む虎杖に対し、唇に残った唾液を指で拭いながら問いかける五条。
    虎杖はその色気のある表情に更に顔を赤く染め上げ視線を逸らす。そんな虎杖の様子を満足そうに見て
    「ほら、今日はこのまま寝ちゃいな。特別に一緒に寝てあげるから」
    いそいそと虎杖の隣に潜り込む相手に
    「ちょっ・・もう。俺良いって言ってないし。ほんとあんたって「ねぇ、その呼び方。やめにしない?」
    虎杖の言葉に被せるようにして言い放つ五条。
    「僕の名前あんたじゃないしさ。普通に呼んでよ」
    何故五条がそんな事を言い出したのか分からないものの相手の言う事も一理あると思った虎杖は
    「五条さん。これでいい?」
    「うん、とりあえずはそれでいいよ。ほら、悠仁寝ようよ」
    呼び方を変えただけで嬉しそうに微笑む五条に虎杖はどうしていいのか分からないままベッドに引き込まれ抱き込まれ、背中を優しくたたかれる。
    人肌の温かさと五条の心音に包まれると心地良さから虎杖の瞼は閉じられていく。
    「ゆっくり休みなよ。」
    その言葉を最後に虎杖はそのまま眠りにつき、五条はその寝顔を見ながら
    「やっぱり仕事を見学させたのは正解だった。もう少しで完全に君はこちら側になる」
    歪な笑みを浮かべ虎杖の頬を撫でた。


    虎杖が五条達の許に連れていかれてから釘崎、伏黒、七海達は必死に虎杖の足取りを調べていた。
    「駄目だな、なんの手掛かりも残って無い」
    「こっちも目ぼしい手掛かりなしよ」
    「やはり、連れ去られたと考えるのが一番ですね」
    虎杖と連絡が取れなくなった次の日にある一人の窓の死体が見つかったと高専に報告が入った。七海は直ぐにその窓の様子を見に行くと見るに堪えない姿になっていて、直ぐに呪詛師の仕業だと気付き伏黒、釘崎に連絡しておいたのだ。
    何故なら七海達にはこの犯人に心当たりがあり、虎杖が関わっている事が容易に想像がついたからだ。
    七海からの連絡を貰い、二人は任務の間などに色々と情報を集めていたが一向に足取りは掴めずに焦っていた。
    「あの馬鹿、あれほど警戒しろって言っといたのに」
    「虎杖の事だ、人質とか取られたらそこでアウトだろ」
    伏黒の指摘に釘崎は溜息を零す。
    「そうね、あいつの事だから『俺が身代わりになるから、その人を離せ』とか言ってそう」
    虎杖の純粋な優しさは釘崎達もよく分かっていた。
    「虎杖君の話を聞いた限りでは、五条悟は彼をいたく気に入ってたみたいですから。傷付けられているとは思いたくないですが、相手は呪詛師。早めに解決するに越したことはないでしょう。」
    七海の言葉に二人は頷き、作戦を考える。
    「とりあえず、この窓が居た場所に行ってみるのが得策かもな」
    「そうね、ここに居ても始まらないしね」
    「私も行きます。幸い今の所急な任務など入らないなら多少の無理は聞くでしょう」
    三人は準備を終えれば車に乗り込み事件現場に向かった。
    「報告書にあった場所はこの辺りだな」
    「何も無いじゃない。こんな所に呪霊が居たの?」
    「居たというか仕向けられたのかもしれません。虎杖君を誘き寄せる為に」
    三人が居た場所は何の変哲もない公園でまだ新しいつくりでとても呪いが発生するとは思えない場所だった。そこで不自然なまでに殺された窓と消えた虎杖の状況を照らし合わせれば七海が出した結論に至る事は明白だった。
    「七海さんの言う通りだとしても、ここからどうやって虎杖を探す手がかりを見つけます?」
    「証拠なんて残すようなヘマしないでしょうしね」
    「とりあえず、何でもいいので手掛かりを探しましょう」
    三人で手分けして何かしらの残穢が無いか探すも、まったく見付からず日も暮れ一旦解散しようとした時背後に恐ろしい量の呪力を感じ一斉に振り返る。
    そこには、袈裟を来た挑発の男が居て、不敵な笑みを浮かべていた。
    「こんな所で術師に会うとは。たまには散歩に出てみるもんだね」
    穏やかな口調とは裏腹に隙を見せない相手に三人は身構える。
    「・・あんた何者?」
    「強気なお嬢さんだね。初めまして、呪術師の皆さん。私の名前は夏油傑。」
    五条の相方でもある夏油の登場に驚く三人は直ぐに自分達の武器を構え体制を整える。
    「ふふ、呪力が高まっているね。好戦的なのは嫌いじゃないよ」
    余裕な表情を崩さない夏油に
    を感じながら伏黒が口を開く。
    「虎杖をどこにやった?」
    「虎杖?さぁ知らないね」
    「しらばっくれてんじゃないわよ。」
    今にも攻撃を仕掛けてきそうな二人に夏油は肩をすくめ
    「虎杖は、今こちら側に居るよ。悪いけどこちらも彼を手放す訳にはいかないんでね。
    挨拶も済んだし私はこれでお暇させてもらうよ。」
    三人に背を向け歩き出した夏油に釘崎がすかさず釘を飛ばす。
    「やめときなよ。君たちはもう私の間合いに居るんだから」
    釘崎の攻撃を弾き、横目で一瞥すれば数体の呪霊を呼び出し、自分は待機させていた虹龍の背に乗り空へと舞い上がる。
    「それじゃあ皆さん生きてたらまた会いましょう」
    そう言い残し軽く手を振ればそのまま遠くに消えていく夏油の背中に軽く舌打ちつつも自分達を取り囲んでいる呪霊を祓う。全て祓い終えるも三人の中には
    夏油が言った虎杖が呪詛師側に居ると言う重い現実がのしかかるのだった。
    三人と会合を果した夏油はそのままの足で五条の元へと向かう。
    部屋に入れば、虎杖の姿は無く五条だけがリビングに居て夏油は首を傾げる。
    「悟。君一人か?虎杖は?」
    「今は寝てるよ。それより、何かあった?」
    夏油が訪ねてくるという事は、予定外の事があったか面白い事があったかのどちらかだったので五条は直ぐに本題に入る。
    「ああ、虎杖の大切にしていた仲間達に会ったよ」
    「へぇ、それでどんな奴らだった?」
    「凄く虎杖を大切にしてるのが分かったよ。今必死に探してるみたい」
    「そっか、どうするかな。今悠仁をそいつらに会わせてもあっち側に戻る可能性が高いんだよな」
    五条は頬を手で押さえながら考えを巡らせる。
    「後何回か、私達の仕事先に連れていくかい?」
    「嫌、それだと時間掛かり過ぎる」
    完全に虎杖をこちら側に引き込むには虎杖自身が自らの意思で仲間に別れを告げなければ意味が無いと考える五条は
    「術師の奴らに動いてもらうか」
    何かを閃いたのか不敵な笑みを浮かべ自室に向かった。
    次の日呪術師達に緊急通達が入りその内容に伏黒達は衝撃を受けた。
    【○○村の全住人の死亡が確認され、その村の残穢から虎杖悠仁の術式と断定。
    虎杖悠仁はその後。行方不明。見つけ次第呪術規定9条に基づき呪詛師として処刑せよ】
    虎杖に限ってそんな事をする訳ないと思った三人は直ぐに上層部に掛け合ったが、聞く耳は持たず既に何人かの術師を派遣していた。
    「まずいですね、派遣された術師達より早く虎杖探さないと取り返しのつかないことになります」
    「そもそも、何で急にこんな情報が出回ったのよ」
    「匿名でこちらに報告があったらしいです。」
    三人は状況整理しながら虎杖を見つけるために車に乗り込み事件現場に向かい、誰よりも早く虎杖と合流出来ることを願った。


    眠りから覚めた虎杖は、ベッドから起き上がり五条達の姿を探すもどこかへ出かけているのか家には誰の気配も無かった。
    「今なら・・逃げ出せるんじゃね?」
    そう考えた虎杖は善は急げと身なりを整え家から脱出する。辺りは見渡す限り木ばかりでどこかの森の中だと分かるもこのまま此処に留まるわけには行かないと思い前に進んでいく。
    「とりあえず、どっか道に出るはずだし。下ってみるか」
    虎杖はそう言うと獣道を下へと降りていく。暫くして木々の間から通りが見えると降りる速度を速め、森を抜ける。
    「っし、とりあえず通りには出たし後は誰か居ればいいんだけど」
    辺りを見渡し人の気配を探っていると近くで呪霊の気配を感じ、本能的にそっちに意識が向いてしまいほっとけない虎杖は呪霊の気配を追う。
    少し離れた廃墟にその気配の原因は居り一瞬で呪いを祓う虎杖の元に任務を受けた呪術師を乗せてるであろう一台の車がやってきたので虎杖はこれで帰れると思い笑みを浮かべ、術師が降りてくるのを待った。
    扉が開き術師が降りてきたタイミングで声を掛ける。
    「おーい、あんた派遣された術師だろ?ごめんけどそいつ俺が祓ちゃった。無駄足踏ませて悪いけど俺も一緒に「っ、虎杖悠仁」
    降りてきた男の焦った顔に困惑する虎杖だが
    「おい、急いで他の術師に連絡しろ。ここに呪詛師虎杖悠仁が居るって」
    慌ただしく窓に報告された言葉を聞き全てを理解する。
    (そうか・・。俺はもう呪術師じゃないんだ)
    報告を受けて数分もしない内に数名の術師が虎杖の元に集まる。
    「呪詛師虎杖悠仁。規定に基づきお前を処刑する」
    虎杖が一人なのをを良い事に周りを取り囲む術師達。虎杖は俯いたまま動かない。
    「あんた、最強だって言われて後輩からも慕われていたのに裏では人を殺してたんだな。
    ほんと人間って表面だけでは分かんないもんだな」
    術師をやっている時はあんなに神みたいに崇めていた視線は今や見下すような視線に変わっている。まるで虎杖を化け物だと言わんばかりに。その手のひら返しに虎杖の心は黒く淀んでいく。
    「正義のヒーローごっこは楽しかったか?この裏切り者」
    その言葉を聞いた虎杖の心は完全に壊される。
    今まで沢山の人を助けてきて、勝手に最強と称され神のように崇められ特別視されながらも術師を続けてきたのに事情も何も調べないで裏切り者呼ばわりする目の前の奴らの方がよっぽど化け物だと思った虎杖は「開」を放ち一瞬で目の前の術師達を消し炭にする。
    「・・事情も何も知らねぇ癖に。お前らの方が化け物だろ」
    表情をなくし冷たく言い放つ虎杖に
    「ゆーじ。お散歩は楽しかった?」
    陽気な声が掛かる。振り向けば目を細めて笑う五条と夏油が居た。
    「・・五条さん。これ五条さんが仕向けたの?」
    冷たい視線で五条を見ながら虎杖が訪ねる。
    「さぁ、どうだろうね。それで君はこれからどうする?」
    口元に笑みを浮かべたまま虎杖を真っ直ぐ見詰める五条に虎杖も視線を逸らすことなく答える。
    「分かってるくせに聞くなよ。良いよ、あんたらと一緒に行く。」
    虎杖の答えに満足そうに笑い
    「歓迎するよ悠仁。一緒に世界を変えていこう」
    差し伸べられた手を虎杖は今度こそ迷うことなく取るのだった。


    移動する車の中で虎杖を発見したという報告を受けた伏黒達は車を方向転換し急いで現場に向かった。
    しかし、そこは何かが焦げた様な後と馴染みのある呪力の残穢が残されていただけだった。
    「噓でしょ・・。これあいつがやったっていうの」
    「釘崎、まだ決めつけるには早い。」
    「伏黒君の言う通りです。少しこの辺りを調べましょう」
    「その必要は無いよ」
    三人で辺りを捜索しようとした時、聞き覚えのある声が聞こえる。
    「「夏油傑」」
    釘崎と伏黒は声を揃えその声の主の名前を口にし臨戦態勢を取る。
    「覚えてくれてて嬉しいよ。」
    胡散臭い笑顔を張り付けながら話をする夏油に
    「あんた、この辺りを調べる必要無いってどういう事よ」
    「ふふ、そのままの意味だよ」
    「虎杖はどこだ」
    伏黒、釘崎の後ろで七海も夏油に鋭い視線を送りながら言葉を待つ。
    「心配しなくても虎杖はここにいる。」
    夏油が後ろを振り向けば、フードを被った虎杖と横に目隠しをした男が立っていた。
    「「「虎杖(君)」」」
    虎杖の姿を確認できた三人は安心したような笑みを浮かべるもいつもと様子の違う虎杖に気付く。
    「伏黒、釘崎、ななみん。ここまで追ってきてくれてあんがとな。
    でも、俺はもう皆の所には戻らない」
    「なっ・・。」
    「あんた何言ってんのよ。」
    「俺は、人を殺した。」
    「それは、何か理由あっての事でしょう。虎杖君に限って訳もなく人を殺めるなんて」
    「俺に限ってか・・。ありがとななみん。そこまで信じてくれて。でも俺疲れたんだわ。
    最強と言われ神みたいに扱われることも、事情も何も調べないくせに物事を決めつける術師と一緒に居るの」
    何もかもを諦めた様な表情をしている虎杖を三人は見た事無く、どう言葉を掛けていいのか考える間にも虎杖の言葉は続く。
    「俺は五条さんたちと一緒に行く。俺は俺のやり方で生きていく」
    虎杖の揺るぎない言葉に三人は何も言い返せない。
    「今まであんがとな。」
    最後に見慣れた笑顔を見せる虎杖に三人は駆け寄ろうとするも
    「それ以上は先に行かないことをお勧めするよ。」
    今まで黙っていた五条が口元に笑みを浮かべて忠告する。
    「本当なら、この別れの挨拶もさせる気無かったんだけど悠仁がどうしてもって言うから。
    けど、挨拶はすんだんだ。ここから先は僕らも手加減しない」
    五条の殺意に三人は動けず、虎杖を先頭に五条達は歩き出す。
    「っ、虎杖!絶対連れ戻すからな」
    伏黒が去っていく背中に伏黒が叫ぶ。虎杖が一瞥するも何も言わず夏油が所持している虹龍に乗り去っていく。
    残された三人は突き付けられた現実に落胆するしかなかった。
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    Replies from the creator

    goyu_jujuthu

    DONE原作軸五悠
    ひょんなことから喧嘩した五とゆじ
    仲直りするまで同級生や先輩、宿儺を巻き込んでいくお話です。
    シリアスなのかギャグなのか分からなくなりました😢
    お友達のネタをもとに作りました。
    注意
    同級生と先輩たちはそこまで巻き込まれてない。
    すー様の喋り方は捏造
    すー様は🐯君の保護者立場
    読んだ後の苦情は受けません

    それでも良い方だけお読みください。
    想いは言葉に五条先生と喧嘩した。きっかけは何だったのか覚えてない。
    多分すごく些細な事だったけど、お互いヒートアップして心にも無い事を言った。
    その時の先生の表情は今まで見た事無いくらい無表情で
    「・・しばらく距離置こうか」
    とだけ言われて俺自身取り返しのつかない言葉を言ってしまったと後悔したけど、後の祭り。
    謝罪する時間すら与えてもらえず先生はそのまま自室に戻ってしまった。
    俺もなんとなく気まずいからその背中を追いかける事は出来なくて自分の部屋に戻りベッドに横になった瞬間寂しさに襲われた。
    本来なら、先生と一緒に過ごすはずだった時間を自分が台無しにしてしまった。
    先生は大人だからいつも笑って受け入れてくれてて、そんな先生と一緒に過ごすのが当たり前になっていたから余計に。
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