想いは言葉に五条先生と喧嘩した。きっかけは何だったのか覚えてない。
多分すごく些細な事だったけど、お互いヒートアップして心にも無い事を言った。
その時の先生の表情は今まで見た事無いくらい無表情で
「・・しばらく距離置こうか」
とだけ言われて俺自身取り返しのつかない言葉を言ってしまったと後悔したけど、後の祭り。
謝罪する時間すら与えてもらえず先生はそのまま自室に戻ってしまった。
俺もなんとなく気まずいからその背中を追いかける事は出来なくて自分の部屋に戻りベッドに横になった瞬間寂しさに襲われた。
本来なら、先生と一緒に過ごすはずだった時間を自分が台無しにしてしまった。
先生は大人だからいつも笑って受け入れてくれてて、そんな先生と一緒に過ごすのが当たり前になっていたから余計に。
「・・明日ちゃんと先生に謝ろう・・」
枕に顔を埋め泣きそうになるのをぐっと我慢し、目を閉じる。
久しぶりに一人で寝る布団はとても冷たくてやけに広く感じた。
朝になって気合を入れて教室に行くとそこにはクラスメイトと伊地知さんの姿があった。
「おはよーっす。伊地知さんが俺らの教室に居んの珍しいね。なんか任務?」
「おはようございます、虎杖君。いえ、今日から五条さんが急な任務に行く事になったので君たちにお知らせしに来たんですよ。」
「え!?五条先生いねーの?」
俺が思っている以上に驚いた事に伊地知さんたちも驚いていた。
「え、あんたいつも一緒に居るのに聞いてなかったの?」
「俺もお前だけは知ってると思ってた」
伏黒と釘崎にそう言われ俺は思い切り落ち込んだ。
俺の様子がおかしい事に気付いた二人は溜息を付き
「よし、虎杖。街行くぞ街」
釘崎が先頭きって教室の扉の方に向かう。
「え、いや、でも授業は?」
「どうせ、五条さんが居ないなら自習だろ。ほら待たせると釘崎に怒られるぞ」
そう言って伏黒も後に続くから驚いたが、二人の優しさだと思うと嬉しくなった。
続けて教室を出ようとした時に五条先生の顔が浮かび俺は伊地知さんのほうに駆け寄った。
「伊地知さん。五条先生いつ帰るか教えて。」
「そうですね、一応一週間の予定ですのが五条さんの事です。三日くらいで帰ってくるかもしれませんね」
「そっか。あんがと伊地知さん!伊地知さんも無理しないようにな」
そういうと伊地知さんが嬉しそうにしていたので俺も心が温かくなって伊地知さんに手を振り今度こそ先に行った二人を追いかけた。
二人に合流してから、ファミレスに入って席に着いた瞬間
「で?何があった?」
釘崎が口を開いた。伏黒も何も言わないけど視線で訴えているのが分かって
俺はぼそぼそと話し出す。
「・・五条先生と喧嘩した」
「そんな事だろうと思ったわ。」
「どうせ、五条先生がなんかしたんだろ?」
二人とも特に驚く様子も無く、水を飲んだりスマホを弄っていた。
そこで二人とも先生が悪いと思っているのが流石だなと思いながら俺は言葉を続けた。
「先生は悪くねぇよ。俺が心にも無い事言っちまってさ。その時先生真顔でさ、めちゃくちゃ怖くて謝ろうとしたんだけど『少し距離置こう』ってそのままになって・・」
言っていて自分で落ち込んできた。このまま仲直り出来んかったらどうしよう・・。
俺の話を聞き終えた二人からため息が漏れた。
「はぁ・・、どっちもどっちね」
「・・五条先生に何言ったかは知らんが、悪いと思ってるならお前がしなきゃいけない事は決まってるだろ」
「そうね、あんたそこまで頭が回る方じゃないんだから。さっさと謝んなさいよ。協力してあげるから」
「そうだよな、俺が頭使ってもいい案が浮かぶわけじゃねーし。うっし、先生が帰ってきたら謝るわ。伏黒、釘崎本当にありがとな。」
二人に笑いかけると二人も仕方ないなって顔して笑い返してくれた。本当にいい友達持ったな。
それから皆で飯食って高専に戻った。先生が帰ってくる日まであと少し、俺は早く先生に会いたいなと思いながら眠りについた。
二日後伊地知さんから、五条先生が任務終わって今日の昼くらいには帰ってくると連絡が入って俺は居ても立っても居られなくて出迎えるために教室を出た。
少し進むと先生の後ろ姿が見えて
「ごじょーせんせ・・」
声を掛けようとした時先生の前に家入先生が居るのが見えて物陰に隠れてしまった。
(なんで俺隠れたんだろ・・)
あの二人が一緒に居るところなどこれまでも何回も見てきたし、なんなら家入先生には全裸姿を見られているというのに。
自分の行動に首を傾げつつ二人の様子を覗き見たら、先生の頭が下がっていき家入先生の顔と重なった。それこそ映画で見たキスシーンの再現の様で俺はパニックになりその場から逃げ出し教室に駆け込んだ。
「早かったな虎杖。五条先生には会えたのか?」
「ちゃんと仲直りしてきたんでしょうね」
駆け込んだ俺に二人が声をかけてきて俺は泣きそうになりながら
「・・せんせ。家入さんとちゅーしてた・・」
それだけ言うと二人は顔を歪ませ
「「はぁぁぁ?」」
息ぴったりの反応を返すのと同時に先生が教室に入ってくる。
「ちょっと、恵も野薔薇も何騒いでんの?廊下まで声聞こえてきてたよ」
先ほど見た光景が脳内に浮かんでは消えていく。五条先生はそのまま俺たちの方に近付いているのが分かり俺は反射的に逃げ出した。
「・・・あからさますぎない?」
五条先生がそんな事を呟いていたなんて知る由もなく、俺は無我夢中で高専内を駆け抜けていて曲がり角から人が来ているなんて気づけなくてそのままダイブしてしまい目を開けるとモフモフが目に入りぶつかったのがパンダ先輩だと発覚した。
「悠仁、お前自分がダンプ並みの力ある事自覚しろ?」
「うわわ、パンダ先輩ごめん!!」
急いで飛び退きパンダ先輩を引き起こす。
「今のパンダじゃなきゃ軽く入院レベルだな」
「しゃけ」
横から禪院先輩と狗巻先輩が声をかけてくる。
「あ。狗巻先輩と禪院先輩も一緒だったんすね」
「まぁな。そんな事より何でお前そんな急いでんだ?」
禪院先輩が不思議そうに首を傾げる。俺は今までの経緯を先輩たちに話した。
「硝子さんと悟がキスしてただぁ?」
「つなまよ?」
「悠仁、それ見間違いじゃないのか?」
三人とも俺の話を聞いて目を見開いていた。三者三様の反応を示され俺も言い淀む。
「俺だって、見間違いって思いたい。けど、先生と喧嘩した後だし、やっぱり俺より長年の付き合いがある家入先生の方がいいのかなって」
段々と語尾が小さくなる俺を見て三人は軽くため息つき
「・・事情は分かった。けどそればっかは私らじゃ解決出来ねぇ。」
「おかか」
「俺たちが悟の気を引いといてやるから悠仁は少し気持ちを整理した方がいいな。今のまま悟と会ってもお前逃げるだろうからな」
先輩達の思わぬ援助に今度は俺が驚いた。
「何驚いた顔してんだよ。私らだって鬼じゃないんだ。ほら、突っ立って無いで早く行け。」
禪院先輩が手を振り背中を押してくれる。
「うっす、ありがとうございます!先輩方!」
頭を下げてまた駆け出す。
「あの虎杖溺愛男が他の奴とキスすると思うか?」
「おかかぁ」
「悠仁そういう方面鈍そうだもんなぁ。とりあえず悟をからかうネタが出来たな」
俺が走り去った後先輩達がにやにやしてたというのは後から聞かされ、俺も盛大にからかわれたのはまた別の話だ。
俺は自室に戻ってベッドに横になった。色々と整理するためにとりあえず今日の出来事を振り返る。
あの時本当に先生は家入先生とキスしてたのかな、俺の居た位置が悪かっただけじゃないのか色んな可能性を考えるもやっぱり先生から言われた距離を置こうという言葉が引っかかってしまう。
(先生、本当に俺と別れたいんかな・・・。あの暖かい手が他の誰かの物になるとか考えたくねぇな・・・)
鬱々とした気持ちになりつつも体は疲れたのか睡魔が襲ってくる。
一回寝たら気持ちも変わるかもしれない。そう思って俺は睡魔に抗うことはせず眠りについた。
「・・ぞう。ぉぞう。きろ」
誰かが起こす声が聞こえてきて俺はゆっくりと目を開ける。そこには沢山の骸骨と水が有り宿儺の生得領域だと分かって飛び起きた。
「はぁ、やっと起きたか小僧」
「っ宿儺。なんで俺お前の領域に居んだよ」
宿儺を見上げながら首を傾げていると最初より盛大な溜息が聞こえた。
「はぁぁ。これだから無自覚というのは面倒だ」
「無自覚?さっきから何言ってんの」
「理解力が無い小僧にも分かりやすく説明してやろう。お前あの術師の事で悩んでいたな、その気持ちは俺の領域にも影響を及ぼしていた。余りにもぐずぐずしておるのでな面倒だと思って呼んだ。それだけの事よ」
宿儺の説明聞いて俺は深く反省した。まさかこんなところで俺の気持ちがこいつに影響を及ぼすとは。恥ずかしいやら、情けないやら。
「それで?何をそんなに悩んでおる?」
「え?宿儺聞いてくれんの?どういう風の吹きまわs・・・」
俺が全部を言い切る前に宿儺の術式で切られた。
「喧しい。さっさと質問に応えぬか」
直ぐに反転術式で蘇生され、面倒だと言わんばかりに話を進めさせられる。俺は諦めてぽつぽつと話し出した。
「・・・五条先生と喧嘩しちまって、その時に距離置こうって言われて。すぐに追いかけたら良かったんだけど、俺も気まずくてそのまま別れたん。でも後悔して次の日謝ろうって決心したものの先生出張で暫く会えんくて、かえって来た時一番にお帰りとごめんを言おうとした。そしたら先生違う人とキスしてるみたいでさ・・。俺その場から逃げたんよ。
そしたら余計どうやって顔合わせたら良いかもわからなくなっちまった。」
一通り話す間宿儺は何も言わなかった。俺はそれに甘えたくなって胸の中にあるもやもやした気持ちも吐き出すことにした。
「先生に限って、そんな事するわけねぇってずっと言い聞かせた。でもやっぱりどこかで距離置こうって言われたのがずっと引っかかって、やっぱり女の人がいいのかとか、俺に飽きちゃったのかなとかマイナスな考えしか浮かばんくて、だから・・「小僧。」
言葉の途中で声を掛けられ俺は顔を上げ宿儺を見た。
「事情は分かった。お前本当にどうしようなく鈍いな。」
「はぁ?」
俺が落ち込んでいるというのに宿儺は楽しそうにしていて、いらっとしてしまい声を荒げた。
「けひっ、怒ったところで怖くはない。そもそもお前は怒れる立場じゃ無い」
宿儺に図星を刺され口を噤む。
「善い善い。素直な方が可愛げがあるというもの。それで小僧はあの術師が自分では満足してなさそうだから不安。そういう事だろ?」
俺は素直に頷く。
「まず、あのプライドの高い術師が小僧みたいな子供相手に現を抜かしている時点でどれだけ本気なのかわかるであろう。小僧も小僧でちゃんとあいつと向き合って気持ちを伝えたのか?共に居るだけで相手にも気持ちが伝わるなんて人間の思い込みだぞ。そうやって目を背けたい出来事を避けるのも人間の弱さ故。つまらんことで悩むくらいなら今の小僧に出来ることをやれ。」
宿儺の言葉にハッとする。俺は五条先生に真実を確かめることも無く逃げ続けただけだ。
死に際で後悔したくないと自分で誓った癖に。
今の俺は死ぬほどだせぇ。
俺の表情が変わったのを気付いた宿儺は
「次は無いぞ。さっさとあの術師の所行ってこい」
それだけ言い手を翳す。領域から抜ける瞬間俺は
「ありがとな宿儺!!」
思い切り叫んだ。何も返事はかえって来なかったがきっと聞こえたはずだ。
次に目を開けると自分のベッドの上だった。
「おはよう」
聞こえるはずの無い声に俺は直ぐに声のした方を見た。そこには壁を背に立っている五条先生が居た。
たった数日話さなかっただけなのに長い時間離れていたような気持になる。
「せんせ・・」
「悠仁さ、なんであの時逃げたの?」
先程の教室での出来事の事を言っているのだと直ぐにわかる。いつもと違う雰囲気の先生に恐怖心も感じるがさっき宿儺に逃げるなと言われたばかりだったから俺はぎゅっと手を握りしめ
「・・・せんせいが・・その・・家入先生と・・キスしてたから」
一番言いたくない言葉が小さくなってしまい先生もきょとんとしていた。
「硝子?なんでそこに硝子の名前が出てくるの?」
心底分からないという顔されたので俺はむかっとして
「先生が、家入先生とキスしてたからじゃん!!」
ついつい大きな声を出した後先生の顔見れず俯くと
「え、ちょ、ちょっと待って。誰が誰とキスしてたって?」
先生の慌てたような声が聞こえてきて
「だから先生と家入せんs「うん、聞き間違えじゃなかったか」
俺の言葉を遮って先生の言葉が聞こえた後、先生がため息を付き俺を抱き締めた。
「え、せんせ?」
「あのねぇ、仮にもそんな物騒な事言わないで。僕が硝子に殺されちゃう」
ぎゅうぎゅうと抱き締められると先生の香りで心が満たされていき俺も抱き締め返した。
「・・でも、先生が任務から帰ってきた日家入先生に顔近づけてた・・・」
先生の腕の中で俺が見た光景を話す。先生は少し考えた後思い出したように話し出す。
「あーあれ見たの。あれは、硝子に頼んでおいた呪霊の解剖結果見てただけだよ。どうしても身長差あるからかがまないと詳細とか分かんないし」
話された内容に俺は顔中に熱がたまっていくのが分かり見られたくなくて先生の胸元に顔を埋める。
「まさか逃げられた理由がそんな可愛い嫉妬だなんてね」
くすっと笑った先生の大きな手が俺の後頭部を撫でるその手つきの優しさに俺はずっと謝れなかった事謝りたいという気持ちになった。
「せんせ・・ごめんな。あの喧嘩した時も、俺心に無い事言って先生を傷つけた・・。
ずっと謝りたかったのに、今度も勝手な思い込みで逃げちまったし。」
「良いよ。僕も言い過ぎたし、大人げなかった。距離置こうって自分から言ったのに、しばらく悠仁と話さないだけで僕の方が寂しくなった。」
先生も同じ気持ちだったということが嬉しくなり先生に擦り寄る。すると頭を撫でていた手がゆっくりと顔持ち上げる手つきになりキスされると思い俺は目を閉じた。
「好きだよ、こんな事したいと思うのは世界中でお前一人だ」
そう囁かれた後唇が重なる。
宿儺に言われた通り、言葉にしないと伝わらない事が多いと実感させられる。
重なった唇は直ぐに離れてしまい、俺は物足りなくてその気持ちを言葉にする事にした。
「せんせ・・もっと」
先生の首に腕を回し強請ると
「どこでそんな強請り方覚えてくるのさ・・」
熱を孕んだ言葉と共に唇が重ねられさっきより深いキスをされそのままベッドに押し倒された。
二人で布団に包まり、俺の頭を優しく撫で続ける先生に俺も素直に甘える。
「ふふ、今日の悠仁は甘えん坊さんだね」
「甘えん坊な俺はいや?」
こてんと首を傾げて先生を見上げれば
「っっ、嫌なわけないでしょ」
と言われぎゅっと抱き締められた。俺はくすくすと笑い抱き締め返す。
「先生大好きだよ」
「僕も悠仁が大好き。」
二人で微笑みあいどちらからともなく唇を重ねる。不安な時はこうやって言葉にしていけばきっと二人でなら乗り越えられる。だから、ずっと一緒に居ようね五条先生!
~~~~~おまけ~~~~~
「てか、俺らってなんで喧嘩したんだっけ?」
「えー僕も覚えてない」
「・・小僧と術師どちらが互いをどれだけ好きか張り合ってただけだ」
一瞬だけ顕現してそれだけ言い残すとまた眠りに付く宿儺に俺と先生は
顔を見合わせて大きな声で笑いあった。