目の前に、見覚えのある服を着た見覚えのない子供がいる。
いや、つむじの見える赤毛にこちらを見上げる緑の目。おめでたいクリスマスカラーは見覚えがあるのだが、どう見ても小学生にしか見えない小柄な少年は、俺の知るあいつではない。あいつ確か180もあるし。50cmくらい足りない。
「えーと、名前を聞いてもいいか?」
しゃがみ込み、ダボついたシャツの右裾を捲ってやりながら声を掛ける。
見覚えある服は見覚えのあるサイズのまま子供の肩に辛うじて引っかかっていた。下は引っかかって邪魔だったのか、少し離れた床にぐしゃぐしゃに落ちている。
ぱちぱちとどんぐりのような瞳を瞬かせたあと、俺の手の半分くらいの手をぐっと前に押し出した。
「ひいろかずま、7さい、です!」
「………そーかぁ……」
元気に指を2本突き出した子供は、俺の知る男の名前を名乗った。もう片方の手はダボついた袖の中で隠れて見えないが、元気に開かれているんだろう。
知らずため息が漏れ、細い首がこてんと傾く。
「あの、せんせー」
「センセーって呼ぶのかよ。お前の記憶どうなってるんだ……?」
「……?センセーはおれのせんせーでしょ?」
「……9+34は?」
「えと………よんときゅうがじゅうよんで……さんが……あれ?」
「やっぱ一真かなぁこいつ」
何がどうしたらもう成人してる男がここまて縮むことができるんだろうか。何か変なものを拾って食べたのか。それとも誰かから変なものを貰ったのかもしれない。それとめ知らない人から貰ったものは口にしないようにと口酸っぱく言っているのになかなか聞かない。人を信じる根の素直さは良いところではあるが、探偵やるにはなかなか難しい性質だ。
「せんせー、きょうもおしごとですよね!おれ、いっぱいおてつだいします!」
よろしくお願いします!と何時ものようにピシッとした礼をする子供に、また一つ特大のため息が口から溢れた。