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    potepote

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    出会って間もない頃のセシマティ小説
    (偶然二人で事件に巻き込まれて、セシウスがマルティーナちゃんの過去の記憶を見てしまった。その日から数日後のお話)

    ##セシマティ

    「マルティーナ」
    「あら、丁度いいわ。
    オブリビエイトしたい相手が、わざわざ向こうからやって来てくれるなんて」
    探す手間が省けたわね、と笑うマルティーナ。
    口元は笑っているが、その瞳は冷ややかなままだ。

    「俺の記憶を消しても構わない。
    けどその前に、少しだけ時間をくれ。
    お前に伝えたいことがある」

    「…生憎、私は貴方と話す事なんて一つも無いわ」
    彼女の翡翠色の瞳は変わらず、冷めた表情で俺を見つめている。

    「まずは謝らせてくれ。故意では無いとはいえ、お前の過去の記憶を見てしまった事を詫びたい。
    すまなかった」

    この通りだと、頭を下げる。
    勿論こんな謝罪で許されるものではない。
    誰だって隠したい過去はある。そして彼女はその過去を自分の内に閉じ込めていたのだろう。
    そんな過去を、家族でも友人でも恋人でもない、他者が覗き見たのだ。

    拳のひとつでも覚悟はしていたが、返答が無い。
    思わず見上げると、彼女は苦虫を潰したような顔をしてこちらを睨んでいた。

    「何でそこで謝るのよ。理解出来ないわ。
    聞けば貴方は、どんな人でも困っていたら手を差し伸べるそうね。そして伸ばされた手を決して離さない。私の寮でも、貴方のことを素敵だという女の子が居たわ」
    でもね、と彼女は続ける。
    「私は貴方みたいな人間が、大嫌いよ。善人面して何もかも理解した様なフリをして他人の心に介入する貴方が。
    きっと周りから持て囃されるのが楽しいだけなんでしょう?それとも聖人か何かかしら?」

    「俺は別に、持て囃されたいわけでもねぇし、聖人なんかでもねぇよ。ただ単にこういう性分なだけだ」
    信じてくれないかもしれねぇがと話すと、彼女は腕を組んで溜息をついた。

    「どうだっていいわ、そんな事。
    それで何。もしかして、私の気持ちが理解出来るって言いたいの?
    …同情はやめてくれないかしら。そんなことされたって私は、私の家族は、母は戻って来ないわ!!
    貴方なんかに私の何が分かるっていうの!!
    最悪よ!!何もかも!!
    ねぇ、早く記憶を消させてよ!!」
    俺の腕を掴み叫ぶマルティーナ。
    力強く握られた腕から怒りと憎悪を感じる。

    「……マルティーナ、
    お前は"生き残ってしまった"と考えながら生きてる、違うか?」
    は、と息を吐くマルティーナ。
    腕を掴んでいた力が弱くなり、どうしてそれをというような表情で俺を呆然と見上げる。

    「過去の記憶の最後に、蹲って泣いている小さい頃のお前が居た。誰も居ない場所でごめんなさいと何度も謝ってた。
    マルティーナ、お前の気持ちがすべて分かるなんて言わない。俺もお前のこの過去の記憶を見なければただの純血主義の女の子としか思って無かったと思う。
    だが、一つだけ言わせてくれ」
    すっと息を吐き、翡翠の瞳と目を合わせる。

    「お前は、自分の人生を好きな様に歩んでいい。
    大切なものもたくさん作っていい。
    思い出を作って笑い合ってもいい。

    ……"幸せになっちゃいけないことなんてないんだ"、マルティーナ」
    途端、翡翠の瞳が大きく揺れた。その後掴んでいた腕を解いて自分のローブの裾をギュッと握りながら、何で貴方なんかにと呟いていた。

    「…………もう、いいわ。
    さっさと私の前から消えて頂戴」

    「忘却魔法(オブリビエイト)は、いいのか?
    最初から他言するつもりはねぇけど」

    「いいわ。
    貴方なんて、私の魔法を使う様な価値ある人間でもないと思ったから。
    ただし、他言したらオブリビエイトだけじゃすまさないわ」

    「分かってる。…じゃあな、マルティーナ」
    その場を立ち去ると、遠くから彼女の啜り泣く声が聴こえた。振り返らず俺は歩みを進めた。

    忘却魔法、オブリビエイト。
    相手を痛みつける魔法が多くある中、彼女はその魔法の名を口にした。
    過去のトラウマを他人に知られたとなれば、他に手段はあるはずだ。
    しかし、彼女は俺を苦しめようとはしなかった。
    本当の彼女は、あの記憶にいた幼く心優しい少女なのだろう。

    それにしても、実の父親の復讐心に駆られている様な俺が、よくもあんな台詞を吐けたなと思う。
    どの口が言うんだろうな、本当に。
    面倒見のいい兄の様な面をして、妹の優秀さ才能を時に妬ましく思ったり、他者を気に掛けるような顔で時に冷酷に見定めてしまう、そんな奴が。

    少し間違えれば、俺も彼女と同じ道を歩んでいただろう。そういう意味では、確かに同情だ。
    それでも俺は、彼女を、あの少女へ手を伸ばさずには居られなかった。

    「まあ一層嫌われただろうけどな」
    先程掴まれた腕を見ながらぽそりと呟く。

    マルティーナ・ベレンギ。
    彼女の存在が、頭から離れない。
    自分のことを嫌っている相手にも手を伸ばそうとするなんて、俺のお節介焼きもとうとう度が過ぎるとこまで行ったか、と自笑する。

    幸せになってはいけない。
    きっと呪いの様に自分に言い聞かせてきたに違いない。
    彼女は、何一つ悪くないのに。 

    記憶を残す事を許された以上は、俺は俺としての責任を果たしたい。
    これから先、たった一人であんな重たい過去を背負うなんてそんなの辛過ぎるだろ。

    「明日、また会いに行くか」

    願うなら、俺はいつか彼女の心からの笑顔が見たい。
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