モーテル 橙の常夜灯が、飲んだ空き缶を照らし出すモーテルの一室。
荒れた寝具を横目に、焼き鬼斬りはHOPEに火を点けた。
自分に合う煙草を探して5年、フィルタの無い煙草が好きなことに気がついては、HOPEを好んで吸うようになった。鞄にはストックが2、3箱ある。
勢いよく1本を吸い終わり、2本目に手を伸ばした時、声が聞こえた。
「似合わないね」
息の上がりが収まっていない掠れた声。冷凍焼き鬼斬りの声だった。
冷凍は荒れた寝具の隙間から顔を出すと、備え付けの寝巻を素肌に羽織って焼き鬼斬りの隣りに座った。冷たすぎる肌を滑る汗が、滴らずに凍る。
冷凍は、ガラステーブルに置かれたままのぬるい酒缶を思い切り傾け、ごくりと喉を鳴らした。
悪酒が口角から流れて凍る。
「似合わらい似合わない、れも、わかる」
悪酒を流し込んで再び酔い戻った冷凍の瞳は、橙黄の常夜灯を吸い込んで鈍く輝く。
急な酔っぱらいの絡まりが癪に障った焼き鬼斬りは、隣の酔っぱらいに煙を吐きつけた。
うわあ、と無茶苦茶に腕を振り回して煙を避ける酔っぱらいに、焼き鬼斬りはふん、と鼻を鳴らす。
「おい、酔っ払い。お話が出来てないぞ。水飲みな……」
「煙草でわかる。それ。フィルタがない煙草で」
「何が言いたいんだ。服着るならちゃんと着な。あと水飲みなさいな。あんだけ動いたんだから」
「兄さんはおれの大事だいじなのよぉ」
「飲み過ぎたな。水持ってくる。袋も作っとくわ……」
「れも、兄さんはさぁ、煙草のさ、フィルタにすら、守られらくないんでひょ?」
冷蔵庫を開ける、焼き鬼斬りの腕が止まった。
水の入ったペットボトルが、手の中で重く、冷たく光った。