地獄さへ許さず 赤い幕が厳かに舞台へ下り、ビロードの布地が照明をはね返してぼんやりと白く光っている。
「二十分ほど休憩です。第二幕は……」
スピーカー越し、聞き取りやすい女性の落ちついた声が言った。目の前でくりひろげられていた摩訶不思議な演劇の世界からゆっくりと現実に降り立ち、二階の最前席に座った博士はとなりの玉森を振り返る。白いシャツに蝶ネクタイを結んでよそゆきにめかしこんだ玉森はやはりハッとした顔で、まわりの人々がばらばらと厠に立つ足音に続かんと立ち上がった。
博士は一階につながる横の階段を下り、ロビーへおやつを買いに行く。さすがに銀座の大劇場でハイカラな品ばかりならんでいた。全国から集められた弁当や菓子をながめ、宝石みたいにツヤツヤしたあんこ玉がおさまった紙の箱をひとつ買っていそいそと席にもどる。玉森もちょうど席についたところで、博士は長い身を何度もすまなそうに折り曲げては真ん中の席へともどった。
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