Delphinium/サラエコ(現パロ) なぜかエーコは俺の家まで昼寝しに来る。
学校帰りの昼下がり。
ランドセルを背負ったまま。
慣れたように縁側から靴を脱いで上がってくる。
畳の部屋の、敷布団にタオルケットを敷いただけの簡素なつくり──ランドセルをおろし、その上に大の字になって寝転がるのだ。
「お前なぁ、自分ん家で寝てこいよ」
毎回のように嗜めても。
「エーコ、こっちがいいの。サラん家のお布団がいい」
コイツはそういうや否や。寝返り打ち、うつ伏せになり──タオルケットに顔を埋めて息を吸いこむ。
「なんだかいい香りするんだもん」
「畳の…井草の香りだろ」
これといって特別な香りは使っていない。タオルケットやシーツに使う洗剤は無香料のものだ。
香りがするとしたら、部屋そのものの匂いか──
「サラの匂い、なんだか落ち着くの」
くすくすと笑い、さらに寝返り打っていっては、そばで胡座を掻く俺の膝を枕にでもするように、エーコが頭を乗せてくる。
「……」
気まぐれに懐く野良猫さながらに図々しくも可愛げのある仕草。
──甘えている。
数少ない、養父母以外の大人に向けて。
養父母──シドとヒルダは多忙の身。
小学校から大学までのエスカレーター式の学園を運営しており、エーコもそこに通っている。
家族で顔を合わせるのは朝食と夕食、その二度くらいなもの。
たまに旅行に行くこともあるようだが、普段はなかなか団欒の時を過ごせない現状にある。
ちなみに俺は、エーコの遠縁にあたる。養父母にも、他界した肉親達にも『エーコの成長を見守っていてほしい』と異口同音に頼まれていた。
コイツが望むのなら、コイツの昼寝の番をするのも、やむを得ないとも思っている──だから毎日洗い立てのシーツやタオルケットを敷いて、コイツがダイブするのを待つのが、いつしか日課になっていた。
「……エーコ、せめて布団で寝ろ」
俺はエーコの頭を軽く撫で、言った。エーコが眠そうに重い瞼を震わせ起き上がる。俺はエーコの両脇に手を差し込み抱き上げ、再び敷布団の上にコイツを横たえた。
「ねぇ…いっしょに、寝よ?」
すっかり寝息に変わりつつある吐息混じりでエーコが誘う。
「仕方ねえな…」
俺はもう一枚タオルケットを掴み、広げ、コイツに覆い被せながら、一人分の小狭い布団の中を、俺も片肘を付き潜り込む。
エーコが手探りで抱きついてくる──器用にも角を避けながら──。安心しきった顔をして深い眠りに入っていく様は。胸の内に、ある種の感情が込み上げてくる。
──庭先で、デルフィニウムの花々が咲き誇っている。
コイツのように。慈悲深く。気ままで。幸せを振りまくような。
「……」
いじらしい寝息につられるように、また俺も目を伏せた。
〆