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    _uchida13

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    原作軸。門倉が食われてます。門キラになる前かな?

    #門キラ

    願望 某所での手配と探ってきてくれと頼まれた使いの帰り道。街と街を結ぶ「道」として整えられた、ただ踏み固めただけの道を足をはやめて門倉は歩いていた。
     見渡す限り人の姿はなく、ちょっと外れれば大自然しかない道。周囲は何もないに等しい。あるがない。
     民家らしき影と小さな明かりが遠目に数戸。集落から外れているということは村八分扱いか、自ら離れて暮らしている物好きか。物好きだとしたら何か特別な地位か、普段は群れなくても村の行事には参加できる、共同体へ溶け込むのが上手な一族か、流れ者か。

    いいとこ取りできるかその逆か
    そんな正反対の立ち位置の人間がご近所さんで住むわけねぇか


     そんなことを門倉がぼんやり考えている間に黄昏時になっていた。早くしないと足元が暗くなる。
     門倉が脚の動きをよりはやめると辻に差し掛かる。拠点のある街へと曲がると数十メートル先に人影が確認できた。
    「遅くまで畑仕事かねぇ」
     一番物が見えにくい時間帯。人影だろうというだけで男か女か、服装も表情も何もわからない。ただ人間に近い背丈の影が確認できるというだけだった。
     人影は門倉のほうへ向かってきていた。距離が縮まるにつれ、相手の様子が少しわかるようになる。
     体つきと動きかたで男のようだと門倉にはわかってきた。あの外れにあった小屋のどれかの住人だろうかと門倉のなかで少し興味が頭をもたげた。
     明かりが灯っている家の人間だったら誰かと共に住んでいるのだろう。暗闇の小屋の住人だったら一人静かに隠居みたいな生活なのだろうか。煩わししさと賑やかさか、気ままな静寂か。どちらの生活をしている男だろう。
     そんなことに思いを巡らせている門倉だったが、男の顔が判別できそうな距離に近づいていた。それでも陽が落ちかかっているこの時間帯では顔は判然としない。
     気まぐれな興味で男にへんな印象をもたれても面倒だと、用心して門倉が正面を向いたままの猫背気味のまま近づいてくる男への視線だけを外してすれ違おうという瞬間。
    「こんばんは。いい夜ですね」
     突然の男の挨拶に門倉は己の体がギクリと震えた、その震えた事実に驚いた。咄嗟に挨拶を返す。
    「っ、こんばんは」
     低い男の声は耳に心地よいものだった。
     ただの挨拶になにを驚いてんだ俺は、と門倉は脚は止めることなく、そのまま相手を見ることなく通り過ぎようとするがかぶせるようにさらに門倉の背へ言葉がかけられる。
    「いい夜ですね。私の小屋で飯でもどうです」
     門倉には男の声はひどく心地いものに感じられた。落ち着いた口調であり青年のような若々しさ。
    「いや、結構。急ぎ戻りたいんで」
     門倉は脚は止めなかった。

     おかしい。男だと認識したとき体の動きで中年だと思ったというのに声はかけ離れている。

    「街に戻るには灯りがないと不便でしょう。一人の飯はわびしい。代わりに灯りをお貸ししますよ」
     耳元で囁かれていると錯覚しそうな、静かな声量であるが明澄な言葉が門倉のうちに入ってくる声。
    「いらねぇよ」
     門倉は脚の速度を緩めず振り向きもせず、振り払うように前に進み続けた。しかし声の通り、足元の数メートル先が見えないほどの暗闇になっているのに気がつく。

     妙だ。今日はこんな暗さになる月じゃねぇ。

    「こんな暗いとはやく帰れない。灯りがあるほうがいい」
     断言している心地よい声だった。男の声がまだ門倉の耳元で聞こえていた。そしてある意味恐ろしいことに、卑猥な言葉でもなくも女のような軽やかな声色でもないのになぜか門倉の躰はじわりと熱を帯びてきた。顔も氏素性もわからない、声しかはっきりしない男に対して自身の躰の微妙な変化に気がついた門倉は動揺する。
    「なあ。ただの飯を向き合って食べるだけだ。灯りがほしいだろ」
     気がつくと門倉の脚は止まっていた。男の声はすぐ後ろから、門倉の耳元に向かって変わらず語りかけてくる。恐る恐る振り返ると、一間ほど離れたところになぜか男が佇んでいた。

     どういうことだ

     門倉は動くことができず現状が理解ができないまま立ち竦んでしまった。しかし、灯りがあるほうがいいだろうと自分自身に言い訳をしながら男の方へとゆっくりと脚を向けていた。



     門倉は灯りを手にして男の小屋をゆらりと出た。灯りは足下を照らし、脚の運びは先ほどより速くなる。街にはやく帰りつくことができるだろう。
     下腹部にじわりと感じていた熱は、結果として男へむかって吐き出すこととなった。
     男の小屋についていくと灯りがともされた薄暗い小屋で門倉は出された茶漬けを一瞬でかき込んだ。一緒に飯を、と誘ったというのに男の前には茶漬けも何もなかった。
     食わないのか、と確認した門倉に男はあの耳に心地よい声でただ云ったのだ。
    『食うさ』
     男は門倉に近寄ると下半身に手を伸ばしてきた。感じていた小さな熱は男の無骨な手でたやすく大きくなった。
     その己の状態へか、男の行動へなのか。門倉はただ、あぁ、そうなのか…、と静かに感じると自身の躰にこもった熱は発散しようとすべての理屈を手放した。
     小屋を出た今でも何にたいして『そうなのか』と思ったのか、その結果の行動もよくわからないのだが門倉はただ頭を空っぽにして行為に及んだのだった。
    『いいなぁ。思った通りだ』
     門倉の耳には男の声がまだ残っていた。心地よく感じた声は最中の嬌声も理性的に感じられたが門倉の躰は熱が冷めることはなかった。女とも男ともいえないが、ただ心地よい魅了される声だった。 
     だが、声の印象は強烈に残ったというのに門倉には男の顔は終始かわらなかった。今もはっきりしない。
     部分部分はわかった。皺が少し刻まれた目元。彫りの深い眼窩。ぎょろりとした大きな白目がちの眼。すっきりとしているが男らしい鼻梁。終始笑いがちなやや厚めの唇からは白い歯が垣間見えた。
     だというのに各パーツが配置される顔はわからなかった。ぼやけているというのでもなく、斜がかかっていたわけでもない。薄暗い小屋内でも茶碗がはっきり見えていたのに、男の顔は門倉のなかで像を結ぶことはなかった。
     暗闇の道で、門倉が手にした古くさい提灯が足下で輪を作ってゆらゆらしているのを眺める。
    『そこの提灯をもっていけ。返さなくていい』
     行為が終わった男が胡座をかいたまま指さした提灯を門倉は黙って掴んで今に至る。しばらく経っても手にした提灯は存在している。
     小屋を出た今なら終始おかしな状況であったのを理解できる。ただどこからおかしいと感じなくなっていたのかを思い出せない門倉だ。
    「……いい声だったんだよな…」
     門倉が小さく呟いたが脚は街への歩みを止めることはなかった。
     土方達のところに戻っても提灯は手のなかにあった。めざとくその提灯をみつけたキラウシが『灯が必要な暗さだったか?』という言葉で、あの男に声をかけられたのはやはり化かされたようなものなのかもしれないとじわじわと不気味さを感じる門倉だった。
     化かされたにしてもあれは一体なんだったのだと門倉は困惑顔のまま、キラウシが提灯の手入れをしているのを見つめているとぼんやりとわかった気がした。
     何に化かされたかはわからないが、恐らく自分はキラウシと行為をしたいという所を突かれたのだろうと。

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