ss いらっしゃ~い!ご無沙汰ですね!と頭から抜けるような声で云われても別に嬉しくもないのが今日も来てしまう。プライベートも仕事も知らないさぐってこない、ヨレヨレの姿をみせても、ぼんやりしていても後腐れのない、だが邪険にされることのない、だらだらとしたただの会話は疲れたおっさんには必要なもんなんだ。
「今日連れいるんだわ」と俺よりは若いキラウシを指し示すまでもなく、きゃっきゃっと嬢がヤツに色々訊いている。
キラウシも普通に嬢と世間話をしているがきょろきょろと店内を見まわしているのを見るとやっぱり留守番させておいたほうがよかったのかと、なんだか可哀想に感じる。
こんな安い、ギラギラした古くさい店にこいつは場違いと感じるがそれは俺の願望の押しつけなのかもしれない。
「あいつはいつも何しゃべっているんだ?」
焼酎緑茶割りをがぶりと一口飲んで俺の方を指し示しながら嬢に訊ねている。
そんな気になるか? 俺はお前と一緒のほうが楽しいのに。もっと楽しいって嬉しいってわかりやすくみせてやらないとダメってことなのか。そうだよな。俺ほんとおっさんで年寄りだわ。
一緒に来たいの? いいけど。俺別に店いっても女の子とただ飲んでるだけよ。
なんでそんなにあんたは通っているんだ、飲むだけならオレと一緒に飲めばいいだろう、と無表情だが目は雄弁だった。
お前ねぇ。この年齢でもそんなまだ全部さらけ出せないのよ? くたびれてるところばかり見せられないだろ。
俺お前に愛想つかされたら。どうなるんだろうな。前の生活に戻るんだろうけど、もう想像つかねぇな…。
フルーツ頼むわ、と嬢に頼むと軽いノリで喜んでいる。一杯ならいいよと続けて門倉は安いニッカの水割りを口に含んだ。
「え、今日はまだまともなのか? こいつ一体普段どんななんだ」
いつももっとぐったり疲れてますよ~、新聞読めっていわれたり。あぁ、話があわないっていつもいわれてます~。そうだぞ、俺がここにきてるときはボロボロで、ぼんやり飲んで若い女の声を聴いてるだけの状態よ。
キラウシと嬢の会話を黙ってききながら、パサついたグレープフルーツのカットを咀嚼した。
別にやましいことはしていないつもりなので一緒に店にくるのはかまわないが、キラウシには安心してもらいたいので今度無言でもぐったりしていても飲みたい時はこいつと一緒に飲んですべてさらけ出すかとテーブル向かえのキラウシを眺めながら門倉は思った。
終