Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    ミカド

    支部に投稿していないものなど。

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉
    POIPOI 16

    ミカド

    ☆quiet follow

    東雲家に帰ってきた同棲彰冬と絵名の話。二人の髪型はUCと4周年です。 ※東雲母捏造

    #彰冬
    akitoya
    ##彰冬

    彰冬/『家族』「ただいまー」

     玄関扉を開けると、玄関には派手なスニーカーと革靴が端に寄せられていて、彰人と冬弥くんが来てることがすぐに分かった。
     キッチンから香ってくるカレーのいい匂いに、少しお腹が空いてきた。まだ午後の五時だから、夕飯の準備にしては普段よりかなり早い。もしかしたら、カレー以外にもいろんなおかずを作るのかな。画材の入った荷物を持ったまま私はキッチンへ向かった。
     五人分の小皿にサラダの盛り付けをしてるお母さんは、鼻歌を歌っててなんだか機嫌がいい。私が帰ってきたことに気づいてなさそう。

    「お母さん、ただいま」
    「あら、おかえり。早かったわね」
    「今日は画材を買いに行っただけだから。玄関に靴があったけど、冬弥くん来てるの?」
    「ええ。夕食まで彰人と部屋にいるって言ってたわよ」
    「また部屋の片付け? てか、今ニューヨークにいるって言ってなかった?」
    「それが、今朝帰ってきたみたいよ。冬弥くんのお家に顔を出したから、うちにも来てくれたんですって。…あ、冬弥くんがチーズケーキを持って来てくれたから、後でちゃんとお礼言いなさいよ?」
    「え! チーズケーキ」

     お母さんの言葉に駆け足で冷蔵庫を開けると、真ん中の広い段に私の大好きなお店のケーキ箱が入ってた。彰人のチョイスなんだろうけど、思いつきは絶対に冬弥くんだ。

    「すごい…わざわざ予約してくれたのかな…。って、四人分!」
    「ふふ。きっと彰人も食べたかったのよ」

     冷蔵庫を閉めてお母さんの隣に立つと、手が空いてるなら食卓までサラダを運んでって頼まれた。

    「——あ、椅子…」

     トレイに載せたサラダを並べようとした時。四人家族のうちの食卓に、椅子が五脚並んでることに気づいた。
     誕生日席に用意された、このちょっと新しい椅子は、彰人と冬弥くんが一緒に暮らすようになってから買い足したもの。二人がここでご飯を食べるのは今日みたいに気まぐれだったり、年末やお正月だけだけど、新しく加わったその椅子はまるで家族に仲間入りしたようにも見えてなんだかじんとくる。しかも、椅子を用意しようって言い出したのは、私でもお母さんでもなく〝あいつ〟。五人で初めてご飯を食べた時の、冬弥くんの嬉しそうな顔が今でも忘れられない。
     キッチンカウンターの花瓶には、今月の母の日に冬弥くんが送ってくれた赤とピンクのカーネーションが飾ってあった。毎年、誕生日とは別に、母の日と父の日にプレゼントを用意してくれるんだよね。
     配膳が終わってキッチンに戻ると、炊飯器が湯気を立てて炊き上がりの音を鳴らした。カレーを煮るコンロの隣でコンソメスープを作ってるみたいで、野菜の入った鍋がぐつぐつしてる。恐る恐る覗いて見ると「細かくしたから、ちゃんとニンジンも食べなさいよ」ってぴしゃりと言い当てられた。

    「ねえお母さん。彰人がうちに冬弥くんと一緒に来るのって結構久しぶりじゃない? お正月ぶりだっけ?」
    「そう? 彰人、ここへ帰って来る時はいつも冬弥くんと一緒よ。元気な顔を見せたいんじゃないかしら」
    「え! 私には全然会わせてくれないのに…! あいつ、わざと避けてるでしょ!」
    「絵名が冬弥くんの前で彰人にちょっかい出すからじゃないの? …ふふ。きっと、恰好悪いところを見せたくないのよ」

     嬉しそうに笑うお母さんに、私は「うげ…」ってリアクションしか出来なかった。あの弟にカッコつけの一面があるなんて、想像しただけでゾッとする。

    「絵名、上に行くなら彰人達を呼んできてちょうだい」
    「もう食べるの?」
    「ええ。彰人がお腹ぺこぺこなんですって」
    「はあい。じゃああいつが手伝いなっての…」

     二階に上がると、いつも締め切りの彰人の部屋の扉が開いてて明かりが漏れてる。中を覗くと、彰人はソファに、冬弥くんはクッションの上に座って、真ん中の机に置いたスマホで音楽を流してた。

    (あ…)

     その光景が、私の記憶の中の中学生の二人と重なる。
     片膝を立てて猫背で座る彰人は、高校に入って図体ばっかり大きくなった。あの頃よりも伸びた手足を邪魔そうにテーブルや床のラグに投げ出してる。逆に冬弥くんは、彰人とは対照的に髪を伸ばして、前よりもずっと大人びた雰囲気になった。胡座をかいているのに背筋を伸ばして座ってるところは変わらない。
     棚や壁に飾ってた服やCDは、冬弥くんとの新居にほとんど持って行ったみたいで、家具だけが置いてある状態の殺風景な部屋。カーテンやベッドはそのままだから、泊まる時はこの部屋を使ってもらってる。
     扉に佇む私に全く気がついてないみたいで、二人ともすごく真剣な顔つき。スマホから流れてる曲は、まだ歌詞の入ってないラフの状態みたい。彰人も冬弥くんも作曲ができるみたいだし、二人で作った曲だったりするのかな。

    「——冬弥くん、いらっしゃい。久しぶりだね」

     廊下に荷物を置いて、開きっぱなしの扉をノックした。部屋に入りながら声を掛けると、二人は同時に顔を上げる。

    「絵名さん! こんばんは、お久しぶりですね」

     冬弥くんは私を見て、わざわざ立ち上がって会釈までしてくれた。恋人の姉っていってもそれなりに交流があるのに、相変わらずすごく律儀な子。

    「…げっ。お前もう帰ってきたのかよ…」

     露骨に嫌そうな顔をする弟は無視。

    「ご飯食べるんだってね。今日は泊まりに来てくれたの?」
    「あ…、はい…。そうさせていただこうと思っています」
    「うん? …あ、もしかしてまたお母さんが無理に引き止めちゃった?」
    「下で長時間掴まってたんだよ。昼前に来たのにもう夕方だし、もうこのまま泊まっていけってな」
    「もうお母さんってば…。ごめんね、冬弥くん。お正月に来てくれた時も、ずっと質問責めに遭ってたもんね」
    「いえ、そんな…。俺もいろんなお話が聞けて楽しかったですよ」
    「お母さん、冬弥くんのことすごく可愛がってるもんね。聞き上手だから、話すのも楽しいんだろうな」
    「ふふ、もしそうだったら嬉しいです。小さい頃の彰人の話を、彰人は教えてくれないので」
    「お前、いつもそれ系ばっか聞くよな…。オレのガキの頃の話なんて聞いて楽しいかぁ?」
    「ああ。俺の知らない彰人を知れるのは嬉しい。ご家族で公園に行った時に、お父さんにリフティングを褒められて喜んでいた話は、とても愛らしかった」
    「愛らしいってなぁ…。お前が楽しいなら別にいいけど、それ、いつの話だよ。昔すぎて話ちょっと盛ってねえか? オレの昔話なんかより、オレらのステージの話をしようぜ」
    「『昔のオレじゃなくて、今のオレを見ろよ!』だって。冬弥くん」
    「…え?」
    「あぁ? おい絵名、適当なこと言ってんじゃねえぞ」
    「なに? もしかして図星だった〜?」
    「え、えっと…」

     座ったまま私を睨みつける生意気な弟は、今にも何か言い返したそうにテーブルの上で握り拳をつくってる。冬弥くんの前だから必死に堪えてて面白い。お母さんの言うとおり、カッコつけは健在みたい。
     私達のやりとりを見て、冬弥くんは少し困ったような顔をしていたけど、すぐに表情がやわらかくなって口元に手を当ててこっそり笑ってた。
     テーブルについた左手薬指の真新しい指輪に目に止まる。私は探すようにして、自然とその向かいの彰人を見た。

    「なんだよ、じろじろ見て」

     床のラグにつくお揃いの薬指。弟が親と同じように指輪をつけてるのって未だに不思議な感じがする。

    「絵名さん。実は俺達、明日は絵名さんの個展に行く予定なんです」
    「え? ほ、本当」
    「はい。開催期間中にもっと行きたかったんですが、都合がつかなくて…。ですが、絵名さんの絵が見れること、とても楽しみにしています」
    「ううん…。ありがとう、冬弥くん!嬉しいなぁ」
    「冬弥、お前が連絡寄越してきた時から、ずっとこんな感じなんだよ。いつ行けるかーって、時間探したりな」
    「そうだったんだ…」

     彰人の補足で胸があったかくなるのはシャクだけど、冬弥くんも否定しないから本当のことみたい。芸術の中でも、絵なんて特に好みが分かれるし、冬弥くんって特別絵に興味があるわけでもないだろうに、そんなふうに思ってくれてたなんて…。
     二人とも日本と海外を行き来してて忙しいだろうし、彰人も別に興味無いだろうからチケットを送るのはやめたんだけど、こんなことなら用意しておけばよかった。

    「来てくれるだけで嬉しいよ。次は長期期間開けるように私も頑張るからさ。それに、冬弥くんはいつも私の絵に感想をくれるからすごく励みになってるよ」
    「俺は絵には詳しくないので、感じたことを伝えることしかできませんが、絵名さんの描く絵はとても良いものだと思いますよ」
    「えへへっ、ありがとう!」

     冬弥くんって本当に素直でいい子。「大袈裟すぎんだろ」ってボソッと呟く彰人とは正反対。

    「——あ、そうそう! 二人を呼びに来たんだった。もうご飯できるってお母さんが言ってたよ。聞いて驚きなさい、今夜はなんとね…」
    「カレーだろ」
    「ちょっと、遮らないでよ!」
    「匂いでわかるっての」
    「彰人のリクエストだからな」
    「あ! ちょ、おい冬弥、」
    「え? そうなの?」
    「…えっと、今のは秘密だったか?」
    「いや…秘密ってわけじゃねえけど」
    「へぇ〜。何、彰人、いつもは肉ばっかりリクエストするくせに、お袋の味ってやつ〜?」
    「ほんとうるせえな…。お前の分のケーキ無しにするぞ」
    「はあ なんでよ! だいたい、あれは冬弥くんが持ってきてくれたんでしょ!」
    「あ…はい。冷蔵庫で冷やしてもらっています」
    「うん! あれ私の好きなお店のだからすごく嬉しい! ご飯の後にみんなで食べるよ」
    「はい! 是非そうしてください」
    「冬弥くんが好きって言ってたコーヒーの豆も買ってあるんだ。食後に出せるようにするね」
    「本当ですか? ふふ、嬉しいです」
    「いつも気を遣わせちゃってるんだし、これくらいはさせてよ」
    「お前が豆挽くわけじゃねえのに、何自慢げに話してんだよ」
    「彰人、うるさい」

     先に階段を下りると、廊下に出た二人の声が反響して聞こえた。冬弥くんの笑い声がしたから、会話の内容が気になって階段下で隠れる。

    「いつも豪勢に振る舞っていただいて申し訳ないな。だが、彰人のお母さんのお料理はどれも絶品で、俺も好きな味だ」
    「そうかよ。…けどさ、お前は自分はまだまだ、みてえな言い方するけど、俺は冬弥の作る飯もいいなって思ってるぞ」
    「ふふ、ありがとう。彰人のアドバイスがいいんだ。向こうのホテルでは彰人が朝食を振る舞ってくれたから、帰ったら俺がやりたい」
    「おう。キッチン付きの部屋でよかったよな。気分転換にもなったしよう」
    「そうだな。家のキッチンだと狭くて彰人と並ぶことはないから、新鮮で楽しかった」

    (へぇ…)

     二人だけの思い出話を本当に楽しそうに話すから、二人の笑い声に私までつられた。
     冬弥くんって彰人が相手だとよく喋るんだな、とか、特別な人に向ける彰人の声色とか。そんな些細なやりとりから、すっごく幸せでたまらないんだろうなって伝わってくるから。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💒👏💖😭😭💒💒💘💖😭💒💯💘☺👏🍛💖💒💒💒😭💒💘😭👏💖💞😭💖💒😭💒💖💒😭💖💒😭💖💍💍😭😭💖😭💖💖💖💖💖😭💒😭💒💖💒💖💖👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works