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    ミカド

    @N__Eo5

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    ミカド

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    リクエスト:夏の🌟🍬
    スカートのままゴロゴロするえむちゃんにお説教をしたりドキドキ振り回される司くんの話。勘のいいカミシロがだるい絡み方をする

    #司えむ
    administer
    ##司えむ

    司えむ 今日の放課後は、セカイに集合し類から渡された台本を読みながら配役を決めた。自主練をした上で試しに一度合わせてみようという話になり、各々で別々の場所にいる。
     稽古練習ではないため、練習着ではなく学校の制服のままだ。カーディガンの袖を捲ってパイプ椅子に腰を掛けたオレが台本にメモを書き込んでいると、向かい側からコツコツと足音が聞こえてきた。
    「——お疲れさま。いま平気かい?」
     両手で持った台本から顔を上げると、そこにはカイトがいた。どうやら、またどこかでぬいぐるみ達の喧嘩の仲介役になっていたようで姿を見ていなかったが、その戻りだろう。
    「ああ、どうかしたか? …んっ、なにやら飲み物を運んでいるようだな?」
     トレードマークのシルクハットを脱いでいた彼は、白い手袋の中で数本のペットボトルを抱えていた。凍らせたものを半解凍したのか、少し溶けており、足元に水滴が垂れている。
    「がんばっている司くん達に、って寧々ちゃんからの差し入れを持ってきたんだ。みんな学校終わりで疲れているだろうし、気温も高くて暑かったって聞いたよ」
    「おお! ありがとう、カイト! …しかし、寧々はわざわざこれを持ってきたのか?」
    「いや、気分転換に外を歩いていたら見つけたみたいなんだ。司くん達や僕達のぶんも持ってこようとしてくれたみたいだけど、寧々ちゃんが一人で運ぶのは大変そうだったから手伝っていてね」
    「そうだったのか。それにしても、セカイにペットボトルとはな…」
    「あはは…僕も自動販売機ははじめて見たよ。——ところで、えむちゃんはどこにいるか知っているかい? みんなのところをまわっているあいだに、かなり溶けてしまってね。きっとまだ冷たいだろうけど、早く届けてあげたいんだ」
    「えむはステージにいるはずだ。よければ、オレが持っていくぞ」
    「そういうことなら任せていいかな。ありがとう、司くん」
    「気にするな。あとで寧々にも礼を言わないとな」
    「そうしてもらえると助かるよ」
     カイトから受け取った飲み物を、まだ使っていないタオルに包んで運ぶ。練習の邪魔をしてしまうことにはなるが、寧々達の厚意を無駄にするわけにはいかない。あいつはここに着いたとき、かなり汗をかいていたし、これでクールダウンをしてもらおう。
     
     ◇
     
    「——えっとね。ここの台詞なんだけど、あたしと類くんがびゅびゅん!って登場して、司くんと寧々ちゃんがはらはら〜って入るシーンで……」
     ステージ袖から入ると、えむとぬいぐるみ達の声が聞こえてきた。さすがに今はステージ上の照明を落としているようだが、観客席からの明かりがわずかに届いている。
    「えむ。邪魔してすまないが、寧々とカイトが冷えた飲み物を……」
     声を掛けながら歩き進むと、ステージ上でぬいぐるみ達に囲まれているえむは、制服姿のまま俯きで寝そべっていた。そのことに気がついたオレは、足を止める。
     オレの進行方向にえむが脚を向けていて、スニーカーの靴底が見えて——。
    「お……、お、おお……——オイーーーーッ」
     オレは目を閉じてえむのいる方へ走り、着ていたカーディガンを腰の辺りへ投げた。タオルに包んだペットボトルを顔の前に掲げ、早歩きで後退る。
     足元にいたあいつらを踏んでしまっていないかと不安になり、右へずれて目を開くと、先ほどオレがいた場所が綺麗に丸くなっており、避けてくれていたことにほっとする。
    「ん? あれ、司くんだ! …このカーディガン、司くんのだよね? 急に脱いでどうしたの?」
    「どうしたもこうしたもあるか! お、おおお前 なぜここで寝そべっているんだ!」
    「えへへっ。ステージの床って結構ひえひえなんだよ! ぬいぐるみさん達が教えてくれたんだぁ。司くんもあちあちなら一緒にやろうよ☆」
    「やるか …そもそも、定期的に掃除をしているとは言え、皆が踏み歩いているんだぞ。ばっちいだろ」
    「うん」
     オレの熱弁にえむはいまいちぴんと来ていないようで、首を傾げながら近くのぬいぐるみと顔を合わせるが、ひとまず起き上がってくれた。まわりのぬいぐるみ達は、新しいおもちゃを手に入れたかのようにオレのカーディガンの袖で遊び始める。
    「いいか、えむ」
     床に座るのを待ってから、オレは咳払いをして近づく。ぬいぐるみ達を避けながら、しゃがんだままの状態でえむの元へ寄った。あまり大きな声で言うような内容ではないからだ。スカートの裾が外側へ折れているのが気になったが、指摘するのはまずいだろうなと思い諦める。
    「…スカートのまま寝転ぶのは絶対にダメだ。わかったか?」
    「は〜い…。あたし台本読む時はいっつもこうしてるのになあ」
    「いっつも」
     ぬいぐるみ達にならって、オレもえむの制服を叩くのを手伝おうと手を伸ばすが、女子の身体に触れるわけにはいかずすぐに引っ込める。
    「わぁっ! ぬいぐるみさん達、手伝ってくれてありがとう!」
     オレのカーディガンはこいつらが畳んでくれたようで、いつの間にかえむの膝の上に置かれていた。遊んでいると思ったが、あれは作業をする動きだったらしい。横座りになったえむは、きっと知らぬ間にぽつんと置かれていたであろうそれを不思議そうに見下ろす。
    「ねえ、司くん。もしかしてこのカーディガンって、あたしがスカートのままごろごろしちゃってたから掛けてくれたの?」
    「ああ、そうだ。さっきも言ったが、今後は気をつけるんだぞ」
    「うう〜…ごめんねっ。お洗濯して明日返す、でもいいかな…? あ、でも明日も学校で着るよね? お家に予備ってある?」
    「うん? わざわざ洗わんでもいいぞ? 少し貸した…というか、オレが掛けただけだからな」
    「でも、床はばっちいんでしょ?」
    「ぐっ…」
     たしかに家に何着か同じものがあるから、無くても困りはしない。しかし、このままえむに渡せば、きっと鳳家に仕える者に新品のようなピカピカにされることだろう。ああ、いや、それ以前に——。
    「お前が男物の服を持ち帰って、もしそれがオレの物だとバレたら、オレはもう二度とお前の家の敷地を踏み歩けなくなるだろうからな…。だから、このまま受け取るぞ」
    「そうかな? 司くんなら大丈夫だよ!」
    「そんなわけあるか! ……ん、……うん?」
     今のこいつの発言にどこか違和感を覚える。だが、何が引っかかったのかわからず、モヤモヤとした気持ちが残るだけだった。
     左手に冷気を感じて、そういえば飲み物を渡さなければいけないことを思い出す。水滴を吸ったびしょ濡れのタオルは水場で絞りに行くとしよう。
    「ところで、司くんはあたしに何か用事?」
    「…ああ、お前にこれを渡そうと思ってな。寧々とカイトからの差し入れだ! どうだ! ひえひえだぞ!」
     タオルから抜き取ったそれをえむの頬へあてた。冷気を求めて床に寝そべっていたくらいだ。見たところ汗は引いているようだが、これで涼むことができるだろう。
    「——ひゃあっ…」
    「…っ」
     突然上がったえむの声に、オレは咄嗟に手を引いた。えむは頬に手をあててオレを見上げる。両目を大きく見開いていて、開いた口がぱくぱく動いているのがわかった。
    「…………す、まない…」
     思わず謝ってしまったが、驚かせたのはオレだ。よくよく考えなくとも、いきなり冷たいものを顔にあてられれば誰だって声を上げるだろう。
    「う、ううん…。あたしこそ、なんかごめんね…! え、えぇっと……上着返すね! …ありがとう、司くん…」
    「…あ、ああ……」
     えむに謝らせてしまったことに重ねて言ってやりたかったが、言葉が上手く出せず、ぶっきらぼうな返答をしてしまった。加速していく心拍にどうやら緊張を覚えているのだと悟るが、何に対するそれなのかが検討もつかない。
     オレ達の会話の邪魔をしないようにと気遣い静かにしてくれているぬいぐるみ達へ視線を送るえむにならい、オレも受け取ったカーディガンを着直して平然を装うことにする。
    「——…ねえ、新妙な空気のなかイチャついてるところ悪いけど、話しかけてもいい?」
    「どわああああっ」
    「わ、わわっ」
     背後からの声に驚いて振り返る。台本とペンケースを持った手を腰にあてる寧々の後ろで、類が意味ありげにくすくすと笑っているのが見えた。
    「ふたりしてうるさっ…。何なの?」
    「い、いや……お前がいきなり声をかけるから、驚いただけだ…」
    「…う、うん! 寧々ちゃん、どこか確認したいところでもあった?」
     オレの横を抜けて寧々の元へ駆け寄ったえむは、台本を覗きながら両手を使って顔に風を送っていた。えむ越しにひょこっと顔を覗かせる寧々は、オレに鋭い眼差しを向けてくる。
     立ち上がって『なんだ! オレを睨むんじゃない!』と身体を使ったジェスチャーをするが、三回目にしてやっと意味が伝わったらしい。あからさまなため息をつかれた。 
    「そうだ、寧々ちゃん! 飲み物ありがとう! 司くんから受け取ったよ」
    「どういたしまして。…て、あれ? カイトさんにお願いしたんだけど、司からってどういうこと?」
    「…ああ、オレがカイトからまとめて受け取ったんだ。ありがとう、寧々」
    「そういうことね。みんなのところに行き渡ってよかった。あとでカイトさんに改めてお礼を言わないと」
     遠くにいた類も集まり、歪な円型ができた。手で口元を覆う類は、オレとえむを交互に見て、もう一度えむに視線を置く。わかりやすくニヤニヤしている顔がなんとも腹立たしい。
    「それにしても、なんだかえむくん暑そうじゃないかい? 具合が悪いようなら、少し休んだ方が…」
    「う、ううん…! あたしは全然元気だよっ。ただ…」
    「…っ」
     向かいから桃色の双眸に見上げられ、それに続いて皆の視線がオレに集まる。注目をされるのは嬉しいが、いまこの瞬間だけは例外だ。えむの白い頬が赤らんでいく過程が、スローモーションのように見えた。数秒視線を絡ませた後、先に痺れを切らしたのはオレだ。
    「司くんとおしゃべりしてたら、なんでかあちあちになっちゃって…」
    「おやおや?」
    「へえー。おしゃべりしてて、ねえ。どんなおしゃべりをしたか聞かせてよ、司」
    「……」
     収束したと思われた話題を再び広げられ、身体が熱を持ちはじめるのがわかった。果たしてオレが悪いんだろうか、と少し考えてしまいそうになったくらいだ。
    「フフ。寧々、やはり声を掛けるのはもう少し後にした方がよかったかもしれないね」
    「…わたしのせいにしないでよ。タイミングを指示したのは類でしょ」
    「そうだったかな?」
    「もう…」
     妙にいたたまれなくなったオレは、ぎゅっと握り拳をつくり早く誰か来てくれ、と現実逃避する。結局、まだ一口も飲めていない差し入れは置いてきた部屋で溶けきってしまっていることだろう。
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