短冊最早定例となりつつあるコユキの試食会に本日もお呼ばれし、なんとか完食して(バレないように胃薬も飲み)カウンターに突っ伏していたが、サラサラシャラシャラと軽い音が聞こえ気になって目を向けた。
折り紙の飾りと短冊が生った笹。
およそ【吸血鬼を退治するハンターの溜り場】に似つかわしくないそれ。和洋折衷にもほどがある。
いやまぁ、存在のポンチさに置いては自分も似たようなモノかもしれないが。
「あれ、どしたん?」
お父さんが、集客の一環で置いたんです。
皆さんも書いてましたよ。おじさんもどうですか?短冊もまだありますので!
勢い良く差し出された短冊とペンを思わず受け取ってしまった。
何故かわくわくしながらコチラを伺うお嬢ちゃんには悪いが、そんなに急に言われても願いなど出ない。
「んー…そうさねぇ…」
無難にお嬢ちゃんと野球拳出来ますようにとか書いちまおうかな。
……いや駄目だ見つかったら間違いなく短冊は燃やされるしオレは潰される。
お嬢ちゃんの料理が上手く…なりますように?なるか?こんなんで?…いや無いわ。
ミカが寒い時にはちゃんと服を着ますように?…着ねぇな、無理無理。
透のトコのお化け屋敷はオレが願うまでもなく繁盛してるっぽいしな…。
うお、意外とムズいぞコレ…。
「因みにお嬢ちゃんは何書いたのよ?」
えっと…ヒミツです
「え〜、イイじゃん。ちょこっとだけ教えて?」ナイショにしとくからさぁ。
だ、だめですおじさんには教えません
ちぇー、仕方ねぇ。無理強いも良くないしネー。
とは言え叶えたい願いも浮かばずペンを置いた。
「んー、現状結構満足してっから、わざわざ願いは浮かばねぇな〜」
そうなんですか?
「まぁネェ…、偶にとっ捕まるけど野球拳の布教も好きに出来るし、弟達もそれぞれちゃんとしてるし、たまにこうやって嬢ちゃんとも過ごせるし?」
なんなら野球拳するぅ?とニヤリと笑って見せた。
…一回だけですからね。
「……ぅえ?マジで??」
自分で言い出しておいて何だが、驚いた。こんなにあっさり承諾されるとは。
慌てて周囲の気配を探る。
…マスターは未だ不在。近くにハンターも居ない。
「よっしゃ、一丁…」
その前に、一つだけお願いが。
「ん?オレが聞けるヤツなら、まぁ…」