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    iori_uziyama

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    iori_uziyama

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    走ることで希死念慮を振り払う🦁と希死念慮を持ったまま"仕方ない"に甘えて生き続ける🦊のルミ。
    ナチュラルに🦊が監禁されてます。

    希死念慮のふたりぴかぴか、きらきら。ミスタは眩く感じて、目を細める。それに拗ねたようにルカはむっとして、やわく名前を呼んだ。

    「ミスタ」

    返事をする間もなく降ってきたキスをただ受け入れる。腕を広げて、口の中口の中を暴れまわる舌に応えながら、ルカの金糸を指で梳く。

    あぁ、死にたいなぁ、と思った。
    手の届かない、手が届いたとて、その純度の高い愛情に焦がされてしまうだろうに、結局ミスタは金ピカの太陽を手に入れてしまった。
    予想通り、ルカの愛情はミスタを酷く焼き付けた。
    体温は熱く、ミスタの冷えた蝋のような体を溶かして、色づける。愛情は甘やかにミスタの心を包んで、為す術もなく、溶かされた。

    あぁ、幸せだなぁ、と心の底から思った。
    この幸せを、今抱え込んだままエンドロールを流してしまいたい。今この瞬間、ルカに幕を引いてもらえたらどんなに幸せだろうか。ミスタは綺麗な愛情を素直に受け取れずにいた。それを眺めるだけで飲み込もうとはしなかった。それだけで幸せだったから。しかしルカは身体の奥の奥までソレを注ぎ込もうとする。ミスタは溺れるような愛情と幸福で、目を潤ませる。

    「るか、るか」

    「なに、ミスタ」

    幼子のような声でねだる。幸福が粒になって溢れた瞳でどうか聞き入れてくれと願うように、一等純粋な願いを。

    「くび、絞めてよ」

    ルカはキョトンとした顔でミスタの首に大きな手のひらを押し付ける。頸動脈を押すものではなく、気道を圧迫して苦痛を与えるもの。彼はピカピカの太陽であるが、闇を仕切るマフィアであったからして。人を苦しめることに長けているのである。

    ミスタはびゅうびゅうと息をしながら、りんご病の子供みたいに真っ赤になった。頭の中はしあわせ一色だった。塗りつぶされたみたいな黄色でいっぱいの視界。うそ、滲んだ視界でもジッとライラックの瞳かこちらを見てるのがわかる。ミスタは喘鳴の中細く声を出した。

    「るか、」

    「ん〜なに?」

    「るか」

    「うん」

    「ころして」

    その瞬間ぱっと手が首から離れて苦しさが消える。喉がざらついて大きく咳き込んだ。

    「やだ」

    ルカは俺を殺してくれない。それだけは叶えてくれない。俺の閉じ込められた真綿の檻で、柔らかい幸福が怖くて苦しみをねだることは許してくれるのに。エンドロールは流してくれない。

    「愛してるよ、ミスタ」

    うりうりと頭を撫でられてルカの体が離れていく。
    時間のようだ。この部屋に時計はないからわからないけれど。ミスタは足首についた鎖をしゃら、と鳴らした。ルカはやけに重厚な扉を開けて、にこにこと笑いながら「またあとでね、」と言った。
    ミスタの鎖はあの扉までは近づけないので手だけ曖昧に振った。

    ミスタが、ルカと付き合うことになってから、いや、その前からだけれども。何度も何度も自殺未遂を繰り返して、最終的に辿り着いたのがこの部屋。
    ミスタを傷つけるものは何もなくて、ただひたすら幸福に包まれた場所。仕方なく、自分の意志には関係なく、ただルカの愛情を受け入れるしかない状況。それは、酷く楽だった。だからこそ、とてもしあわせで、今終わりにしたかった。ルカは決して終わらせてくれないけれど。

    ミスタは今日も死にたいなぁ、と鈍い頭で考える。
    それで、またルカが来るのをただ待つのだ。


    □□□□


    ミスタが希死念慮を抱えているようにルカにもまた、死にたい日があった。
    ルカは太陽のように明るく、呑気で、ポジティブで、少し子供っぽく、いたずらっ子で。
    そして、裏の世界を牛耳るマフィアでもあった。
    ルカは仲間を、ファミリーを愛していたし、自身の縄張り(シマ)を、その土地に住む人々を、景色を、すべて愛していた。家族だってルカの愛する者に含まれる。ルカはたくさんのものを愛していた。
    そしてその愛に応えるように、家族はマフィアボスであるルカをバックアップし、サポートし、支えた。ファミリーは明るく、友人のように、時には親のようにルカを見守り、付き従った。ルカの存在を知る民間人たちも、ルカを慕い、気安く話しかけ、頭を撫ぜた。
    ルカの生活の全てに誰かが関わっていた。

    昨日までファミリーだった裏切り者を洗面台に沈めて、その身体が動かなくなるまでずっと、ずっと明るく話していた。昨日までと同じように、裏切り者がファミリーだったときと同じように。
    ただ、鏡に映っていたのは冷めた男の顔だった。

    ルカは死体をそのままにバスタブへと浸かる。ぬるい湯を両手で掬い上げて顔に勢いよくかけた。
    ずぶ濡れになって落ちてくる前髪をかきあげて、そのまま顔を覆った。

    「Noooooo…………ダメだ、今日はダメな日だ」

    ルカの頭にはクッキリと死にたいと、今すぐに頭を拳銃でぶち抜いてしまいたい衝動が浮かび上がっていた。残念ながらマフィアという家業に裏切りはつきものであるし、一人裏切ったところでファミリーは大勢いる。特段、それがショックなわけでもない。人を殺すのだって慣れたものだ。なにも、なにも問題はない。はずだが。

    ルカは愛している総てを皆殺しにしてしまいたかった。ルカは確かに彼らを愛している、彼らもルカを愛している。しかし、愛というものは絆であり、絆があるということは結ばれていること、とどのつまり、縛られているのと同義なのだ。

    産まれたときから家族との絆があり、ファミリーとの絆があり、民間人との絆もある、ルカはその絆が愛おしくて、時折酷く縛り付けられているように感じる。雁字搦めにされて、何処にもいけないような気持ちになる。だから、弾丸一発ですべてを投げ出せる死に、羨望を抱いてしまう。

    きっとルカが死ねばファミリーは悲しむだろうし、マフィアのトップが居なくなったことで酷く混乱するだろう。姉のルーシーだって心を痛めるだろうし、下町のオバサンだって、きっと惜しんでくれる。だからこそルカは死ねない。だからルカは死を選べない。だからルカはその羨望を抱え続けなければいけない。

    だからルカは愛するすべてを皆殺しにしてしまいたかった。愛する者の血にまみれながら、呻いて、嘆いて、嗚咽を上げて泣きながら、きっとルカは酷く笑っている。震えた高笑いを上げて、そのまますべて引き止めるものがなくなった世界で、やっと、ようやくルカは、自分の額に銃口を当てられる。そのまま撃ち抜けば、きっとこの世で一番幸せそうな異常者の死体の出来上がりだ。ただの妄想に過ぎないけれど。

    ルカはいつだって抗争の中で誰かの弾丸が自分を撃ち抜いてくれることを願っている。

    誰かが、自由にしてくれることを願っている。
    顔を手で覆ったままルカは長く深い溜め息をついて、勢いよく頬を叩いた。

    「よし、走ろう!」

    死体の片付けは部下に任せて、バタバタとランニングウェアを身に着けたルカは颯爽と走り出した。
    すべてを振り切るように走る、走る、走る。

    ランニングコースで、ちびっこが、老夫婦が、少年が、女の子が、オバサンやオジサンが、すれ違いざまにルカを呼ぶ。ルカは太陽みたいにピカピカの笑顔で片手を上げて応えた。足は止めない。
    脳が酸欠のときには何も考えずに済むから。

    あぁ、だからミスタも首を絞めてくれってよく言ってくるのかな。他人に命を預けるなんて、なんて命知らずなんだろう、あ、死にたいから関係ないのか、はは、

    ■■■
    ルカはセキュリティがいくつもかかった重厚な扉を開ける。きっとルカが死んだらここは誰にも開けられない。

    「ミスタ、ミスタ」

    真綿の檻で微睡んでいるミスタを揺すり起こして、強く抱きしめた。むずがるようにしてやがて目を薄っすらと開いたミスタは、けだるげに口を開く。

    「あせのにおいがする、はしったの?」

    ちゅ、と額に柔らかい感覚。

    「そうだよ、いつものランニングコースを走ってきたんだ、ミスタが嫌ならシャワー浴びてくるよ」

    半分閉じかけの瞳で腕が背中に回される。

    「んや、いいよ。つかれてんたろ、このままねようぜ」

    真綿の檻に入れられたミスタは一度も抵抗しなかった。いつだって俺を招き入れてくれて、すべてを赦してくれる。ルカはミスタをぎゅうぎゅう抱きしめて、目を瞑った。

    二人はこうして、今日も生きている。


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