目が覚めるとシュウは知らない部屋にいた。
手足を鎖で繋がれて。その異様な状況に混乱する。
鎖にはゆとりがあるものの、ベッドからたった数歩の範囲で鎖が軋む。ドアには届きそうにもない。
何度かガシャガシャと暴れて、どうにか外せないか、手を捻って脱出を試みるも結果は芳しくない。
少し経って、シュウは落ち着きを取り戻していた。
なんてったって恋人がマフィアというおっかない職業なのでこういったことも経験済みであった。
きっとルカが助けに来てくれるだろう。こういう時の為にシュウの意思なく連れ去られたときはルカの元へ式神が飛ぶようになっている。その位置を探ろうとして、ぴたりと止まった。
嫌な予感がする。浅く、何度も深呼吸を繰り返して、落ち着け、と内心繰り返す。
そして、予感は確信に変わった。
呪術が使えないようになっている。
背中に嫌な汗が浮かんだ。誰だ。呪術に精通した人間でないと他人の呪力を封じるなんて出来ない。
ルカ側からのトラブルでないなら、門外漢もいいところだ。僕の式神が届いていて、こちらに向かっていたとしたら____巻き込んでしまう!
焦りのままにガシャガシャと鎖を引っ張る。
外れろ、はやく、ルカに知らせないと。
巻き込んじゃいけない、一般人からしたら式神とあやかし、呪力も呪物もなにもかも区別がつかない。
呪術師は腐っても呪術師だ。シュウはこの仕事を好んでいないからこそ依頼は受けていない。逆恨みで来た呪いを熨斗をつけて返すくらいだ。
だが、だからこそ。同業者に恨まれる覚えはいくらだってあるのだ。ギリッと奥歯を噛み締めたとき、微かに足音が聞こえた。
暴れるのを止めてジッと耳を澄ます。
空気が張り詰めて。息が浅くなる。
カツン、カツン、カツン
革靴の軽快な足音、あれ、聞き覚えがある。
これは____ルカの足音…?
バンッと扉が開かれる。
「ハァイ!シュウ!!」
そこには、いつも通りのはしゃいだルカがいた。
ルカの周りにはふよふよと式神が2体浮いている。
シュウは一気に力が抜けてベットから崩れるように床に転がった。
「るかぁ、無事で良かったけど心配したよ…」
「ん?なにが??」
「あぁ、そっか。知らないからいつも通り迎えに来てくれたんだ。今回は僕側のトラブルなんだ」
「シュウの?」
「そう、だから早く対処しないとルカも狙われるかも。ああそうだ、これ、この手錠があると呪術が使えないんだよ。ルカ、外してくれない?」
ルカはきょとんとした顔で差し出されたシュウの手を取る。みるみる顔が沈んでいき、シュウがハテナを浮かべていると、
「No~~!!シュウ!赤くなってる!」
としょんぼりしている。あんまりにもいつも通りなルカに、んはは、と笑いが溢れて、ただ、擦れただけだよ。とフォローしようとして、固まる。
「そんなに嫌だった?この部屋」
ルカはしょぼくれた顔で問いかける。
「えっ、と?」
「もしかしてシュウ覚えてない?一応ってくれたじゃん!呪術師対策グッズ!」
言われて気づく。確かに刻んである術はシュウのモノだ。じゃあ、ルカが、どうして、なんで?
血の気が引いていく。
「俺は家業だからやめらんないけどさ、シュウは元々やりたがってなかったでしょ?だからちょうどいいなぁと思って!それ使ったら普通の人なんでしょ?」
「俺、ずっとシュウに側にいてほしいんだ。死ぬまでずうっと」
大丈夫、不自由はさせないし、もっと居心地のいい部屋だって用意できる。荷物の移動は間に合わなかったけど、いま運ばせてるから
そう言って、ルカはいつもどおり、明るく笑った。