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    ちんいら煤竹

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    ちんいら煤竹

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    ・指揮官♂×リー
    ・創作指揮官ではないけど、いくつか身体的特徴の描写あり
    ・バレンタイン2023の通信をかなり引用していますのでネタバレ注意
    ・黄金時代以前の著作物はすべて世界政府芸術協会が管理・公開しているので、著作権とかないって捏造設定

    バレンタイン2023恥ずかしがり屋さんな彼に、今年は何を贈ろうか。

    ストレートに、チョコレート?

    彼の新しい塗装に由縁のある、深紅の薔薇の花束?

    考えるのはとても楽しかった。
    そしてあるオペラのペアチケットを用意した。


    正直、私はリーのことをまだ子供だと思っていた。特に恋愛においては。

    指揮官と隊員という立場的な難しさもあるから私の気持ちは伝えずにいるつもりだったけれど、
    日々育っていく気持ちを抑えることができず、愛していると伝えたとき、
    顔を真っ赤にして俯いて、「僕も指揮官のことが」(この後は実は声が小さすぎて聞こえなかったのだが、きっと同じ気持ちだと伝えてくれたのだと信じている)、そう言ってくれた彼は本当に初心で幼く見えた。

    しかし、つい先日、新しい塗装で現れたリーはとても大人びて見えて、魅力的だった。

    リーのペースで少しずつ、所謂恋人らしい距離に近づいていけたらいいと思っていたのだけれど、
    私から誘ってもいいのかもしれない。


    ドレスコードのある施設で行われる格式高いオペラだから、リーには憂愁のサトルティの塗装で来るように伝えて、
    私はそれに合うスーツを用意して行こう。

    リーと二人でいる時間はどうしても任務のことや機体性能、戦闘技術関連の話ばかりになってしまう。
    芸術とかエンターテイメントについて話す機会はあまりないから、
    オペラを堪能した後、テラス席があるレストランで食事をしながら感想を聞いてみたりしたいな。

    それって、すごくデートっぽい。

    そう思って、なぜか急に心がくすぐったくなった。




    バレンタインデー当日

    任務が入らなかったうえ、リーは非番なのでプレゼントをいつ渡そうかと考えていると、
    通信端末がメッセージの受信を伝えた、

    芸術協会から送付されたアイテムの説明文に目を見張る。
    美しく青いパッケージと薔薇の装飾はリーそのもののように見えた。

    これが各指揮官に配布されたということをリーは知っているのだろうか。
    きっとすぐに知るだろうな。

    先日、ハカマの一件で分かったのだけれど、
    私がリーだけを特別に思っていることは伝わっているだろうと慢心すると、リーは拗ねる。

    他のお茶会のパートナーたちはあくまでイベントだったのだということが分かったら許してくれたけれど、
    リーだけはずっと怒っていた。

    きっとリーはこの光音携帯機を私がどうするか気にする。

    もったいぶってしばらく保留してもいいかなと思ったが、初めて憂愁のサトルティの塗装で姿を見せてくれた時の、
    「あなたと出かけることがより大事では?」と優しい声でほほ笑んでくれた彼の表情が脳裏に浮かび、邪な心は吹き飛んだ。


    すぐに渡すとして、何の映像を保存しよう。
    ビデオレターがベタだろうか?
    でもそういうの苦手だしなぁ…

    そしてふと思いつき、自分の本棚を眺める。
    そして1本の映像媒体のパッケージを取り出した。

    映画という娯楽ができた初期に作られた、モノクロの映画だ。
    黄金時代以前の映画等のうち、芸術協会が回収できたものは全てアーカイブされており、
    ネットワークにアクセスできる端末があれば誰でも鑑賞できる。

    だから個人で媒体を所持しておく必要はないのだが、公開されているものは白黒の映像が着色される等のリマスター処理がされており、アイラに頼んで処理前のものを融通してもらったのだ。


    リーがまだ異火機体の頃、二人で休憩中にこの映画をBGM代わりに流していたことがあった。
    一番気に入っている音楽のパートで、リーに手を差し伸べて「一緒に踊ってくれる?」と誘ったら、答えはNOだった。

    「僕はダンスなんか踊れませんよ」

    そう言ってぷいとそっぽを向いて何か作業を始めてしまった。

    ケチだなあ、つれないなあ、とか軽口を叩いてそのやり取りは終わったが、
    いつかリーと頬を寄せて、体を預けあってその音楽を楽しめたらいいなとずっと思っていた。

    ダンスのお誘いにしては遠回しだろうか。

    気づかないフリをされてしまうかもしれないけれど、何かのきっかけになることを期待して、映画を光音携帯機にダビングした。




    さて、いざ渡した時のリーの反応はどうだったかというと、
    あっさり「後で確認しておきます」と言ってあっさり立ち去ってしまった。

    特別なものだとご存知ない?

    私宛の通信は機密レベルや経路にもよるがほとんど把握していると思っていたのだけれど。

    すこし急いでいたようだったから何か用事があったのだろうか。
    オペラのチケットも渡し損ねてしまった。

    少ししたら修理か何かを理由にまた会いに行こうか。

    頬を赤くして照れながら喜ぶ彼が見られると思っていたので、
    全く異なる展開に思考が支配され、その後の事務仕事は全く捗らなかった。



    もしかしてまだお茶会の時のこと、怒ってるのかなぁ

    思考はどんどん悪い方に向かってしまう。

    さっき渡せなかったオペラのチケットが入った封筒が視界に入る。
    昨日まではその封筒の豪華な装飾に心を躍らせていたのに、今はとても惨めったらしく見える。


    ソファに八つ当たりするように勢いよく倒れこむと、端末が通信要請を知らせた。
    モニターに映る人物に驚き、反射の速度で通信開始ボタンを押した。

    「指揮官、今お時間ありますか?」

    無いわけないだろう、こっちはさっきからリーのことで頭がいっぱいでずっとリーに時間を割いているんだから。
    そんな本音を隠して、極めて何でもない風に「どうしたの」と答えた。

    「いえ、大したことではないのですが…この学習CDを渡そうと思って。」

    なんだ、チョコレートとかじゃないのか…
    きっと学習CDというのは、リーが私のために作ってくれたものなのだろう。
    でも、わざわざ今日渡す必要ないじゃないか。

    少し大人げないと思いつつ、当てつけに
    「今日は何の日か知ってる?」と返した。

    「…今日は何の日か知ってるか、と?…ただのついでです、特別に用意したわけではありません。」

    なるほど、分かっているのか。

    「…で、まだお答えいただけていませんが、今、お時間ありますか?
     先日欲しいと仰っていた武器拡張モジュールについて研究してみました。必要であれば…僕は休憩室にいるので、
    「今行くよ、リー!」

    リーがまだ話そうとしているのを遮って通信を切断すると、部屋を飛び出した。


    リーのペースに合わせて関係を築いていこうと思っていたけれど、
    もう我慢せずに私はうんとたくさん、リーに好きだって伝えて、キスをして、甘えて、甘やかそう。

    だってリーは今日が何の日か知っていてなお、遠回しにしか私を呼べないのだ。

    休憩室まで少し長い距離を、全速力で走った。
    はやく、はやく会いたい。

    このつれないやつめ、ってからかって可愛がりたい。


    気が急いたまま休憩室のドアを開けたので、勢いよく開いたドアが大きな音を立てた。

    部屋にはリーしかいないのに、少し居心地悪そうに窓際に立っていた。

    大股でずんずんとリーに近づき、全力疾走後の荒い息のままリーを思いきり抱きしめた。


    「し、指揮官!?どうしたんですか、そんなに急いで、通信も急に切るなんて、」

    「だって、リーに早く会いたかったの」

    リーが戸惑いながらも腕を私の背に回してくれるのを感じる。

    しばらく無言でそうしていると、息が落ち着く代わりに汗が滴り落ちてきた。
    リーの服が私の汗で濡れてしまうと思って抱きしめる腕を緩めると、心配そうな表情のリーと目が合った。

    「…こんなに汗をかくほど走るなんて」

    リーの手が、私の額の汗を拭う。

    「手、汚れちゃうよ」
    「構いませんよ」
    「なら、遠慮なく」

    リーが一瞬身を引こうとしたのを許さず、両の手で彼の小さな頭を包むと唇を奪った。

    いつも美味しそうな果実のようだと思って眺めていただけだった彼の小さな唇を吸っては食み、
    衝動に任せてその奥に舌を侵入させて貪る。

    可哀想なリーはきっと心の準備などもできていなかったからされるがまま固まっているが、
    たまに漏れる声がとても官能的だった。

    離れがたくて、リーに背中をバシバシ叩かれるまでそうしていた。

    やっと解放されたリーには「長すぎです!!」と怒られてしまったが、まだ足りないような気すらする。

    念押しするように「大好きだからね」というと、リーはさらに顔を真っ赤にして、傍に置いてあった箱を私の胸に押し付けた。

    「これ…学習CD?」

    そのパッケージデザインは見覚えがある。
    特別製ディスクの赤い収集箱だ。

    特別に用意したわけではないなんて言っていたくせに、こんなものを用意していたなんて。
    中身がどんなデータでも構わなかった。
    この箱は、私にしか開けない。
    リーが特別なものを用意していてくれただけで、私はこうも簡単に舞い上がってしまう。

    「ありがとう、大切にするね」

    そして、自分がまだリーに渡していないものがあることを思い出した。

    さっきは急いで部屋を出てきてしまったから、オペラのチケットはここにはない。
    それを取りに戻るのを口実に、リーを部屋に連れて帰ることに成功した。


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