忘羨ワンドロワンライ 静室の床に足を投げ出して座り、魏無羨はフンフンと鼻歌を歌いながら筆を動かしていた。綺麗な丸い円の中は複雑な模様が絡み合う。開発中の新しい陣である。
雲深不知処は山深く涼しいが、晩夏の昼下がりはさすがに熱気がこもる。もちろん冷泉の傍に行って涼む手もあるのだが、夏場に多い童の風邪の時はそうもいかない。ここしばらく何人かの童が床についているため、陣で涼しくしてやれないか魏無羨は知恵を搾り始めた。まずは小さな陣を組んでみて、自分で試そうと考えていた。
「魏嬰」
「帰ったのか藍湛、思ったより早いな」
魏無羨は振り返りもせず呼びかけに応える。一気に複雑な模様を描き上げて、陣を完成させたのち、ようやく振り返った。その視線の先には道侶となった藍忘機が西瓜を提げて立っている。
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