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    botomafly

    よくしゃべるバブ

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    botomafly

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    遠路春々 5_1

    学生鞄を肩に引っ掛けたアルジュナは己の――兄弟たちの部屋を振り返った。一般的な広さの子供部屋だ。長兄と次兄と自分、弟の一人が使っている部屋。中高生三人が使うにはあまりにも狭いのに四男も使っていて、末弟はどうするのかというのがここ最近の家族の話題。
     今もリビングから長兄と母が口論になっているのが聞こえる。彼が進路調査の紙を貰ってからずっとこうだ。
     二段ベッドが二つ並び箪笥と勉強机は二人で一つ。同時に何人もこの部屋で勉強ができないからアルジュナから下の兄弟はリビングやダイニングで勉強をすることになる。
     来年から長兄は大学生になるにも関わらず個室を持っておらず、次兄と揃って自分の部屋を欲しがっている。当然だ。ベッドは狭いし、自由に部屋を使えないし、恋人も呼べない。
     それに。
    (窮屈)
     カルナの部屋を思い出したアルジュナは嘆息すると、傍でランドセルを背負って顔を強張らせている弟二人を見た。いってきますを言いたいのに言えないので困っているのだ。弟二人も兄二人が家を出たがっていて両親と衝突しているのを知っている。幸いにして両親は別の兄弟に八つ当たりのようなことはしないので弟たちが親の顔色を窺うことはあまりないにしても、長く続くのはあまり良くないだろう。
    「遅刻してしまいます。行きなさい、私が言っておくから」
    「……うん」
     渋々頷いた二人の弟は互いの顔を見合わせてから玄関へ向かった。靴を履き終えるとドアの前でぴたりと止まって、廊下の先、リビングを振り返った。そして聞こえてくる口論に負けじとせーので息を合わせ大きな声で「いってきます!」と言ってばたばたと家を出ていく。
     最初からそうすればいいのでは、と目を白黒させながらアルジュナはリビングへと足先を向けた。
     家を出たくなるのは当然だ。アルジュナも大学に進む際に家を出るつもりでいる。今の生活は賑やかで楽しいが、どうにも自由さが足りないのだ。一人暮らしが大変であることは無論分かっている。学校では成績優秀でも、一人で生活するスキルはあまり身に付いていない。兄たちも同じだ。
     だから兄たちの家を出たがる気持ちも、親が心配して拒む気持ちも分かる。
    「母さん。行っ、……」
     リビングへ入ろうとすると、もういいと言いながら色違いの学生鞄を手に兄が廊下に飛び出してきた。多分、彼も遅刻寸前。同じ高校に通っている次兄は不穏な気配を察知して早々に家を出ている。来年はあんたなんだからね、と言われないためだ。
     仁王立ちしている母と目が合い弟が学校へ出たのを告げて自分も家を出ようと玄関へ向かう。
     逢いたいな、と思う。
     穏やかで静かな世界で恋人に逢いたい。特別な会話なんてしなくていいから、ゆっくり共に食事をして今日は疲れたと言いながら二人で身体を休めたい。受験の話ばかりする親も、家を出たいと反発する兄たちも、親の手が空いていないのをいいことに色んなことをやらかす弟たちもいないところで。兄と親、弟と親に挟まれることもなく、二人だけの時間を過ごすのだ。
     電話をすると弟たちのはしゃぐ声や兄たちの口論が聞こえてしまうから最近はカルナの声も聞いていない。
     廊下の半ばでアルジュナは足を止めた。ふと思いついたことを肩越しに母へと投げかける。
    「母さん。もしカルナが突然こちらへ来ることになって泊まる場所がなかったら、泊めることってできますか?」
    「この家のどこにそんな余裕があるのよ。貴方も早く学校へ行きなさい」
    「……ですよね」
     何でもないですと苦笑いして靴を履いて家を出る。
     逢いたいと思う。物理的に可能だ。ただ、問題がありすぎる。
     中三の春、カルナから誕生日プレゼントが届いた。周りが受験や年齢に合わせた実用的なものをプレゼントしてくる中彼が贈ってきたのは手作りのジャムで、彼の自由さに焦がれた。
     人から見たらきっとしょうもないプレゼントだと思うのだが、頭の中に過ぎるのは温かい日差しを受けて育った果実と眩しく笑みを向けてくるカルナだ。まだ一年、されど一年。どうしようもなく逢いたくて、勿体なく思いながらも彼を否応なく思い出させるあれはもう使い切ってしまった。
     ゆらゆらと視界が揺れるような気がするのは、気温が高くて空気が茹っているように見えるからだろう。冷たい手が懐かしい。
     これから学校へ行って勉強、帰って親と勉強の話をして弟の面倒を見て、家族の口論を聞きながら塾へ行き、また勉強。帰ったら塾と学校の課題をやって寝る。起きたら同じことを繰り返す。
    夢の中でループしている錯覚すら覚えよう。勉強が趣味みたいだと頭の中でカルナが言った。
     カルナは自由で羨ましい。自由な彼といると、自分も自由になった気になる。だから今、物凄く逢いたいのだ。
     たとえ彼に負担を強いると分かっていても。
    (恋人に逢えないって何なんだ)
     たとえそれが、一般常識を考えたら悪いことに類するとしても。
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    botomafly

    DONE【ジュナカル】片割れ二つ ひらブーのあれだんだん慣れ親しんできたインターホンを褐色肌の指が押す。部屋主がいることは予め確認済みだが、応答の気配はない。
     寒い冬、日曜日の朝。とあるマンションを訪れていたアルジュナは嘆息してインターホンを睨むともう一度ボタンを押した。インターホンの音が廊下に静かに響く。が、応答はない。毎週この時間にアルジュナが訪ねているのだから家主は気付いているはず。電車に乗ってここまで来るのは距離があるわけではないが夏と冬とくれば楽ではない。相手は客人を待たせるタイプの人間ではないのでトイレで用でも済ませているのだろうか。
     腕を組んで呼吸を十数えたところで上着のポケットに入れていたスマートフォンが音を鳴らした。見れば家主からのメッセージで、鍵は開いてるから入ってくれという内容だった。インターホンの近くにはいないがスマートフォンを触れる環境にはいるようだ。
     しかし。
    「……お邪魔します」
     ドアの先へ踏み込めばキッチンのついた廊下があり、廊下を仕切るドアを潜ればそこにあるのはワンルームだ。あの部屋の広さでインターホンに手が届かないとはどんな状況だ。
     何となく予想がつきつつも鍵を締めて廊下を進む。途中のキ 2216

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