花怜 鬼と桃源2 更新日10/18 目の前の惨状に謝憐は言葉を失った。本来であればこの家は、畳と木の匂いに包まれ、心地よい静寂に満ちている。
「こんなの……」
だが部屋を満たすのはむせ返るような鉄のにおいと埃っぽさ。同じ静寂でもこちらは生命を脅かすものだった。
「昨日の朝、見知らぬ客が訪ねて来たのよ。朝になっても先生の姿を見ないから、様子を見に来たら既に……」
でもこれ、本当に先生なの?
恐る恐る訊ねた近所の女性は、奇妙な現場から目を逸らした。今でも信じられないでいるのだ。
そこに遺体はない。あるのは1箇所に大きく壁と床に広がる血溜まりと、灰の塊だ。血があるなら確かに人は居たのだろう。だがこれでは、本当に亡くなったのだと思えない。酷い現場ではあるものの、悲しいことに現実味がなさすぎて、息を呑む程度で終わってしまった。
5370