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    botomafly

    よくしゃべるバブ

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    botomafly

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    遠路春々 5_3

    とある喫茶店の一角でモーニングを摂り終えたアルジュナがテーブルに課題を広げ、シャープペンシルを走らせる。一緒にいてもやることをやらなければならないから仕方がないのだが、盛大な溜息を吐くとカルナが静かに笑った。
     それにアルジュナがジト目でなれば彼は目を細めて窓の外に目を遣る。平日よりは交通量の少ない土曜日の道路では、車が二台ほど信号待ちをしているのが見える。モーニングが頼めるような時間ではなくもう少し遅い時間でも良かったのだが、アルジュナが朝食も一緒にと言うので朝からこうして喫茶店に籠っている。人が混むようなら場所を移動しなければならない。今のところその気配はなさそうだ。
    「変わらないな、と思ってな」
    「……成長がないと?」
    「お前はオレに会う度勉強をしている」
    「ああ、そういう」
     別に好きでやっているわけではないのに。アルジュナがぼやいた。
     カルナは目の前にある変わらない景色で記憶をなぞった。以前勉強が趣味みたいだと言ったらアルジュナは怒ったが、実際のところ趣味に費やす時間はなく本人も趣味が何かは分かっていないらしい。
     高校に上がってバイトをするとき履歴書の特技や趣味に何を書こうなんてメッセージで送られてきたこともあった。受験する高校に出す書類や面接でも必要になるから相談してきたのだと思う。色んなものが溢れる都会に住んでいるのに彼が見ている世界はとても狭くて不自由だ。
    「カルナ」
     呼びかけに目で応じる。黒曜石のような瞳はどこか不安げで、アイスティーの氷を鳴らしながら喉を潤した彼はシャープペンシルを握り締め、手放した。
    「人って、そんなに変わるものですか?」
     いつか自分たちも変わってしまうのだろうか。このまま大人になって一緒になるのは実は凄く大変で、滅多に会えないからお互いの変化に気付かず終わってしまうことだってあるかもしれない。
     アルジュナ自身そんな不安を恋人にぶつけるのは嫌だったが、恋人にしかぶつけられなかった。
    「最近、同級生のカップルがあちこちで別れているんです。話を聞くと、受験だから別れようって」
     長兄も母に言われていた。邪魔になるなら分かれて、終わった後にまた付き合えばいい。邪魔にならないならそのまま恋人でいてもいいという意味だが、どうしてかそういう話が浮上すると皆別れてしまうのだ。兄はその辺りの線引きは知っているようで上手く交際を続けている。
     正直、それで別れてしまう人のことは理解に苦しむ。
    「別れてまた付き合う人ってどれくらいの割合なんですか」
     カルナは嘆息すると座り直してテーブルに肘をついた。まるで自分たちもそうなるかのような話しぶりだ。アルジュナは押しに弱く、親に強く言われたらそうなる可能性は皆無ではない。今のうちにきちんと決めておきたいのだろう。
     シャープペンシルを放棄したアルジュナの手に自分のものを重ねて握りこむ。すると同じくらいの強さで握り返されて、互いが互いを手放すつもりはないことを確認した。
    「去年友人から同じことを相談された。オレが知るものか。よくある話はよくある話、オレとお前の話はオレとお前だけの話だろう」
    「……よかった、カルナは結構肯定的だから私の為に別れた方がいいと言い始めたらどうしようかと」
    「状況が悪化する。必要ない」
     胸の奥に巣食っていた靄が晴れたのをアルジュナは感じた。自分でも思う。きっと別れたらどうしようもなくなって辛い日々を送ると思うのだ。カルナはアルジュナのそういうところをよく理解している。たとえ数年に一度、数日しか会えなくても毎日顔を合わせる親より詳しいし寄り添ってくれる。
     きゅうと心の臓が甘く締め付けられて、この人を好きになって良かったという安心と一生彼のことが好きだろうという確信を得る。
     夏が過ぎても、彼はずっと夏の日差しみたいにそこにいる。離れがたい。夕方には離れなければならないから、もっとゆっくり時間が進めばいいのに気付いたらもう昼だ。モーニングを食べたばかりとはいえ提供時間のぎりぎりだったのだ。彼と離れるまでもう六時間もないだろう。
     次に会えるのは来年と思えば気が楽だが、本当はもっと逢いたい。世の恋人のようにハロウィンやクリスマスを楽しんで年越しをしたい。冬の彼の手は温かいのだという。温かいのを理由にいつまでもくっ付いて彼で温まる冬を過ごしてみたい。
     それができるのは四年後だ。遠すぎる。
     握っている手に力を込めて祈るように己の額まで持ってくる。彼と過ごす時間はゆっくり過ぎて、そうでない時間は光の速さで過ぎ去ってくれればいいのに。
     カルナには絶対言わないが、最近アルジュナは自身がとても嫌な人間になったように思える。周囲にいるカップルが羨ましくて、だから彼らが受験を機に離れていくのを見て変わらない自分とカルナの関係に安堵するのだ。
    「そういえば、聞いてやらないとな」
     何の話か分からず顔を上げたアルジュナは眉を寄せながら首を傾げた。
    「受かったら欲しいだろう? 褒美が」
    「ほうび……」
     脳内に色々な情景が渦巻いた。それを慌てて振り払って、でも、と思考を回す。自分たちはもう恋人だし、セックスだってするし、わざわざ受験の褒美で強請るような特別なことなんてもうない気がする。あとは大人になるまで我慢、時間が解決する話だ。
     逆にカルナはどうなのだ。ずっと何かを自分にしてくれるが、何かをしてあげた記憶が殆どない。
    「カルナにご褒美をあげるのをご褒美にしたいです」
    「……なに?」
     思わぬ返しだったのかカルナは胡乱げな声を上げた。何を言っているのだと言わんばかりの顔がおかしくてくすくすと笑い声をあげてから久々に笑ったことを思い出す。
     アルジュナは思わず笑ってしまったのが照れ臭くて咳払いをした。一つ深呼吸をして口を開く。
    「本気ですよ」
     真面目に真っ直ぐカルナの目を見ると、困ったようにカルナの柳眉が下がった。彼は握っていた手を離してアルジュナの頬をゆっくり撫でてから黒髪をぐしゃぐしゃと撫で回す。
     一体何を頼まれるのだろうと期待しつつも彼の表情を窺うと、とても寂しそうな顔をされた。
    「連れて帰れれば文句はないんだが」
     これでは誘拐か。
     アルジュナはすぐに言い返せなかった。あまりにも馬鹿げていて冗談だと分かるそれは、しかし三割くらいは本気なのだろうと分かってしまった。
     はは、と乾いた笑いを零してから、何を言っているんですかと言うつもりだったのに視界が滲んだ。一パーセントでも本気なら叶えてあげたいのに叶えられないのだ。どう頑張ったってアルジュナはこの地域に住むただの子供で、カルナは遠くに住む他人でしかない。
    「すまない。泣かせたいわけでは……」
    「泣いてませんし勝手に泣いたことにしないでください」
     きっと睨みつけてからすんと鼻を吸ったアルジュナは深呼吸をして気を落ち着かせた。もういい。彼には訊かない。だってこれは元々自分の褒美なのだ。
    「お前がしてくれるなら何だって嬉しい」
    「…………そーですか」
     次に会うのが楽しみだなと目元を和ませるカルナはどこか挑戦的だ。負けじと睨みを利かせて彼が喜んだり幸せそうにしたりする姿を想像してみる。だがアルジュナの知る彼は大抵いつも穏やかでどこか嬉しそうなのだ。困ってしまう。でも、そういえばセックスの後によしよしと頭を撫でたりすると少しふにゃふにゃになったりする。
     そうだ、彼は手先以外は案外不器用で、全然甘えてこないのだ。
     じゃあとアルジュナは口を開く。
    「私にカルナを沢山甘やかさせてください。何なら今からでも構いません」
    「……受験が終わったらな」
     カルナから期待の眼差しを受けてアルジュナは頬を緩ませた。放棄していたシャープペンシルと右手に取ってから、ふと視界に入ったカルナの右手へ己の左手を伸ばす。重ねて、すりすりと撫で合い握る。手遊びのように指を絡めたかと思えば離れてまた撫で合い、何とも言えないじゃれ合いにやがてカルナが小声でセックスしてるみたいだと言ってきたので慌てて手を引っ込めた。
     真面目に課題をやり始めるとカルナがメニューから昼食になるものを探す。
    「それが片付いたらゲーセンに行きたい。地元にないから行ってみたいんだ」
    「煩いですよ、あそこ」
    「クレーンゲームがいいな」
     人の話を聞く気ゼロのカルナにどうしてか愛しさが湧いてアルジュナの唇が弧を描く。アルジュナに変わらないと言う彼も全然変わらない。彼のマイペースにはよく振り回されるがずっとこのままでいてほしいと思う。
    「取ったやつはお前にやろう」
    「えー……私塾直行する予定なんですから、あまり大きなもの取らないでくださいね」
    「何を言っている。取るなら最大サイズがいいに決まっているだろう。心配するなオレに任せておけ」
     カルナの手はメニューをぱらぱらと捲って止まらない。アルジュナは肩を竦めるとまあいいかと了承した。それなら自分も取ってカルナに送ろう。クレーンゲームなら得意だ。せいぜい車の中でぬいぐるみにでも何でも囲まれて帰ればいい。カルナは存外寂しがり屋だ。沢山プレゼントしておけば、きっと少しは寂しさも薄れるだろう。

     数時間後、塾ではアルジュナの席の隣にどでかい白猫のぬいぐるみが座らされ、カルナの乗る車では助手席に大きな黒猫のぬいぐるみが、後部座席には複数のぬいぐるみが座っていた。
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    botomafly

    DONE【ジュナカル】片割れ二つ ひらブーのあれだんだん慣れ親しんできたインターホンを褐色肌の指が押す。部屋主がいることは予め確認済みだが、応答の気配はない。
     寒い冬、日曜日の朝。とあるマンションを訪れていたアルジュナは嘆息してインターホンを睨むともう一度ボタンを押した。インターホンの音が廊下に静かに響く。が、応答はない。毎週この時間にアルジュナが訪ねているのだから家主は気付いているはず。電車に乗ってここまで来るのは距離があるわけではないが夏と冬とくれば楽ではない。相手は客人を待たせるタイプの人間ではないのでトイレで用でも済ませているのだろうか。
     腕を組んで呼吸を十数えたところで上着のポケットに入れていたスマートフォンが音を鳴らした。見れば家主からのメッセージで、鍵は開いてるから入ってくれという内容だった。インターホンの近くにはいないがスマートフォンを触れる環境にはいるようだ。
     しかし。
    「……お邪魔します」
     ドアの先へ踏み込めばキッチンのついた廊下があり、廊下を仕切るドアを潜ればそこにあるのはワンルームだ。あの部屋の広さでインターホンに手が届かないとはどんな状況だ。
     何となく予想がつきつつも鍵を締めて廊下を進む。途中のキ 2216

    recommended works

    rabimomo

    DOODLEタイトルまんまです
    めちゃくちゃ出来る男な月を書いてみたくてこうなりました
    在宅ワークした日に休憩時間と夜に一気書きしたのでちょっと文章とっ散らかってますので大目に見て下さる方のみ!
    直接の描写はないですが、肉体関係になることには触れてますので、そこもご了承の上でお願いします

    2/12
    ②をアップしてます
    ①エリートリーマン月×大学生鯉「正直に言うと、私はあなたのことが好きです」

     ホテルの最上階にあるバーの、窓の外には色とりどりの光が広がっていた。都会の空には星は見えないが、眠らぬ街に灯された明かりは美しく、輝いている。その美しい夜景を眼下に、オーダーもののスーツを纏いハイブランドのビジネス鞄を携えた男は、目元を染めながらうっそりと囁いた。
     ずっと憧れていた。厳つい見た目とは裏腹に、彼の振る舞いは常にスマートだった。成熟した、上質な男の匂いを常に纏っていた。さぞかし女性にもモテるだろうとは想像に容易く、子供で、しかも男である己など彼の隣に入り込む余地はないだろうと、半ば諦めていた。それでも無邪気な子供を装って、連絡を絶やせずにいた。万に一つも望みはないだろうと知りながら、高校を卒業しやがて飲酒出来る年齢になろうとも、仕事帰りの平日だろうと付き合ってくれる男の優しさに甘えていた。
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