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    ワンライ(類司)
    演目「浮気」

    演目『浮気』「そうだ、ちょっと聞きたいことがあるんだが」

    昼休みの屋上。昼食を食べ終え、二人で他愛のない話をしていた時のことだ。
    司は最近頭を悩ませていたことをふと思い出し、隣りに座る類に尋ねてみることにした。
    「どうしたんだい?」と返す類の顔を横目に、あー…と少し言い淀んでから続ける。

    「そのだな……類は浮気したいと思うか?」
    「僕、何か疑われるようなことをしたのかな?」

    突然、浮気願望を問われて表情が抜け落ちている恋人に司は慌てて説明する。

    「いや、今度エキストラのアルバイトで浮気者の役をもらったんだが役作りに悩んでいてな!」
    「ああ、そういうことか。でも司くんの身体のためにも今後そういった不用意な発言は控えることをオススメするね」
    「す、すまない……しかし参っているんだ。オレは浮気なんて考えたこともないからなぁ」
    「君がドン・ファンになったら危うく『こうしてこの街から一人の少年が消えたのでした』と結ぶところだったよ」

    口調こそ芝居がかってはいるが、この男が本気で言っていることを司は知っている。
    正直「浮気する気?もちろんあるとも!」などと言われたら困るどころの騒ぎではなかったが、現状まるでイメージが湧かないのだ。
    うんうん唸っていると、顎に手をかけ考え込んでいた類が何か思いついたらしくポンと手を叩く。

    「じゃあ僕と浮気してみればいい!ちょうど次の土曜は点検日で練習も休みだしね」
    「どういうことだ?」
    「僕が浮気相手を演じるから、司くんは思う存分浮気して役を掴んでみてよ」

    良い考えだろ?とこちらをワクワク見つめる男に眉を顰める。

    「いや無理だな。オレはお前じゃないと認識した時点でそういう感情にはならん」
    「フフ、嬉しいけれどどうだろうねぇ?こう言ったら何だけど、君って結構チョロ……チョロいところがあるから」
    「諦めずに言い換えろ天才演出家」
    「まあまあせっかくだし試してみようじゃないか!——君が浮気しないことを信じているよ」

    ***

    そして迎えた当日。
    前もって類から指定された待ち合わせ場所は、最近できたばかりのテーマパークの前だった。

    (類、遅いな……)

    待ち合わせの時刻から15分を過ぎるが類の姿は見当たらない。
    何かあったのかとスマホをこまめに確認するが、新着通知は光らない。
    次々と待ち合わせの相手を見つけていく周囲を見て、落ち着かない気持ちになっていたその時だった。

    「きみ、もしかして一人かな?」

    後ろから掛けられた聞き覚え……どころかよく知り尽くしている声に振り向くと、そこにはやはり待ち合わせていた相手がいた。
    しかしいつもと違いややカッチリとした服装、そして前髪を流し、軽く外ハネしていた髪は下ろされセットされている。
    大人びたその姿はとても高校生には見えない。

    「実は遊ぶ予定だった彼女に振られてしまってね。チケット買った後で余らすのも勿体ないし、良ければ一緒に遊んでくれないかい?」

    司が言葉を発する前にそう続け、自分のスマホを指さし肩をすくめてみせる。
    その様子に、なるほどと類の意図を察した。

    「オレも、どうやら待ち合わせの相手にすっぽかされたみたいで――お言葉に甘えてもいいでしょうか?」

    目の前の男が嬉しそうに目を細めると、ふわりと爽やかな柑橘系の香りが鼻をかすめる。
    ビジネスシーンにも大活躍!と謳われていそうな年上の香りに頬が少しだけ熱くなる。

    「ありがとう!こんな可愛い子と遊べるなんて嬉しいよ!振られた時はツいてないと思ったけどむしろラッキーだったな。じゃあ、早速行こうか!」

    このチャラさ、そしてすっと司の腰に手を回し、入口へと連れていく強引さ——なるほど、確かにこの男は“神代類”ではないらしい。

    (面白い!やってやろうじゃないか!)

    こうして『浮気者の気持ちを知る』その目的をすっかり忘れ、浮気させたい男VS浮気しない男の戦いが始まった。

    ※※※

    「初めて会ったのに、君にはつい甘えてしまうな」
    「今まで会った他の子とは全然違う……なるほど、君はスターを目指してるのか!通りでキラキラしてると思ったよ」
    「こういうのって“運命”とでもいうのかな?フフ、天馬くんの好きなショーみたいだね」

    (チャラ代ルイ……恐るべし!)

    混雑を避け、なるべく多くのアトラクションに乗れるようスマートにエスコートし、それでも待ち時間ができる時は司が興味を持ちそうな話で盛り上げ退屈させない。
    次第に“類”ではない相手にときめこうとしている心に気づき、罪悪感が芽生えていく。

    「あ、ご覧よ天馬くん。ショーがやってるみたいだよ」

    指で示された方を見ると、人混みの中でストリートショーが始まっていた。
    「観てみる?」の声に一も二もなく頷き、歓声の方へと足を運ぶ。
    ショーは見事なものだった。着ぐるみを着たマスコット達のダンス、妖精に扮したキャスト達パフォーマンス。途中からではあったが、どれをとっても観客を笑顔にするための工夫が感じられ、胸が跳ねた。

    自分達ならどうするだろうか?どんな仕掛けを盛り込むだろうか?考えだすと今すぐにでもアイデアを固めたくて仕方がない。
    しかし思い余って隣りにバッと顔を向けると、男は金の瞳を細め、ただ司だけを見ていた。

    ショーが終わり、歩きながら感想を言い合う。
    司の興奮に、男は楽しそうに相槌を打つ。
    「天馬くんの喜ぶ可愛い顔が見られる素晴らしいショーだったね」などと挟みながら。
    ほら、危ないよと男が司の手を取り次のアトラクションへと向かっていく。

    (そうだ……こいつは“類”じゃない)

    繋がれた手から感じる熱とは裏腹に、モヤモヤとした何かが腹を燻っていた。


    「最後はアレに乗ろうか」
    辺りが暗くなり始めた頃、男が指さしたのはイルミネーションの点灯した観覧車だった。
    フェニックスワンダーランド程ではないが、そこそこの高さがある観覧車に乗り込み、互い合わせに座るとブザーが鳴り動き出す。
    明るめのBGM、そして時折スピーカーからアナウンスが流れる以外静かな観覧車の中、ゆっくりと高度が上がっていく窓の外を眺める。

    「誰のこと考えてるの?」
    もうじき頂上にさしかかろうかという時、男が立ち上がって司の横へと移動し、僅かに車内がギシリと傾いた。
    そっと膝に手を置かれ、耳元で囁かれる。

    「あ、あのオレ、恋人がいるから――」
    「じゃあ今日は“俺”と悪いことしちゃおうか?」

    耳の奥を甘い低音が優しく擽る。
    月を映しこんだ瞳が司を捉え、逸らすことを許さない。
    カタン、と車内が軽く揺れる。頂上へと到達したようだ。
    唇がゆっくりと近づき、司のそれに触れ――――

    ピピピピピピ!!

    ――――ようとした時、突然電子音が鳴り響いた。

    「はい、お終い。時間切れだね」

    男がパンっと手を叩き、空気が変わる。
    司は熱くなった頬をごまかすように慌てて腕で口元を隠す。

    「ちょっと最後危なそうだったけど浮気しないでいてくれたね」
    「あ、当たり前だろ!!あと別に危なくない!!」

    どうだかね……と言いたげな視線をうけ、司は言うかどうか迷っていたことを口にすることにした。

    「というかだな。ショーよりオレに興味がある男を演じた時点でお前、浮気させる気なかっただろ」

    その瞬間、類の頬が一気に赤らんだ。

    「まさか……無意識だったのか?」

    はぁ~と長めに息を吐きながら髪をくしゃくしゃと乱し、“神代類”が帰ってくる。

    (まぁ、でも……)

    ショーに関して以外は割りと悪くなかったがなーーその言葉は重ねた唇に飲み込み、そっと胸へと沈めた。

    ※後日※

    「役作りはうまくいったのかい?」
    「あぁ!遊園地でのお前を参考にしたらとてもうまくいったぞ!!」
    「……役に立てて良かったよ」
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