リビング日曜の昼、
珍しく予定のないオレは家で1人、雑誌を読んでいた。
ついさっきまでは。
リビングのドアが開いて、
スタスタと足音が聞こえたかと思ったら
どかっとソファが揺れる勢いで隣になにかが座った。
「おい…」
顔を見なくても分かる。
母さんなら声を掛ける。
親父はこんなことしない。
つまり、残るは
「なによ」
まるで心当たりがないとでも言うようにしれっと言ってのける姉。こちらを振り向きもせず、リモコンを操作している。
「突然なんだ。いまオレがここ使ってんだろ」
「ドラマ見たいの、今日配信されたやつ。私はここでしか見れないの。嫌ならあんたが退けば?」
こいつ………
まじで1ミリもオレを見ずにリモコンを操作して動画配信アプリを立ち上げる絵名。その横顔は何だか楽しそうだった。
絵名の言い分はまぁ、分からなくはない。別にオレはテレビは見てないし、正直場所はどこでもいい。
………が、ここで絵名の言いなりになるのはなんかムカつく。
そう心に決めたオレは、隣でテレビを見だす姉の横から動かないことにした。別に退けなんて言われてねえし。
そうして各々好き勝手して過ごす。
ペラペラと雑誌を捲ってその場から動かないオレにも絵名は別に何も言わない。ソファで体育座りをして大人しくテレビを見ている。よっぽど楽しみにしていたのかチラリと覗いた絵名の顔は笑顔だった。
そうして、30分は経っただろうか
一通り読み終わったオレはひとつ伸びをして、なにか飲もうと席を立とうとした、その時、
肩にぽすっとなにかが乗った
確かな重みを感じながらそおっと首だけ回せば
綺麗な髪と旋毛が目に入る。耳を澄ませば、すぅすぅと寝息の様なものも聞こえる。
「絵名?」
「……」
返事はない。
昨日も遅くまで作業していたのか、テレビを見ながら眠ってしまったらしい。
「はぁ、」
深いため息をついて、先程読み終えた雑誌を再び開く。
飲み物は諦めた。
別に起こしたって問題は無いだろうし、そっと反対側へ倒したって良いだろうことは分かっていたが、何故だか「寝かせてやりたい」と思ってしまった。そおっと動かして目が覚めてしまったら可哀想だなと。
そうしてオレは絵名の枕になったのだ。
***
あ、彰人だ
作業が進まず、とりあえずひと息つこうとリビングに降りてくると、ソファに腰を掛けているオレンジ色が目に入る。どうやら雑誌を読んでいるらしい。
それを認識すると、私はまっすぐ弟の方へ向かう。
そうしてわざとらしく隣に座った。
「おい…」
「なによ」
予想通り不服そうな声の彰人、でも別にそんなに怒っていないことは声色から分かる。
「突然なんだ。いまオレがここ使ってんだろ」
「ドラマ見たいの、今日配信されたやつ。私はここでしか見れないの。嫌ならあんたが退けば?」
ついさっき作った理由をペラペラと並べる。
はあ…と深いため息が聞こえたが、彰人は動かなかった。
ふふっ
退けと言われたら素直に動かないだろうと予想して
ぶっきらぼうに言った甲斐があった。今日は誰かに甘えたい気分だったのだ。自分の予想通りに動く弟が可愛くてつい笑みが零れる。
そうして、タイミングを見て彰人に寄りかかる。
寝てますよ〜とアピールをして、彰人に掛ける頭の力を抜いていく。
また深いため息が聞こえて先程読み終えただろう雑誌を再び開いてペラペラと捲る音がした。
どうやら諦めてくれたらしい。
そうして計略の末手に入れた身近な温もりを存分に堪能して、だんだんと意識が沈んでいく。
あぁ、この後はいいもの、描けるかも……
そう思いながら私は本当に意識を手放した。