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    うぼぴー

    @KANJOUGASINDERU

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    うぼぴー

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    庭師げんみ✖️版権CP二次創作風味が強い

    🍓🍐いちなし 季節は真夏のお盆前。時刻は二十時を差し掛かろうとしていた。陽も十分に陰り灼熱の日中とはうって変わって人々が待ち侘びた涼やかな夜が訪れるという最中、都心の一角のコンビニエンスストアで何やら"冷めやらぬ"事態が発生していた。

    店内は帰宅中の社会人数人が惣菜コーナーを物色している程度でそこまでの混み合いはなくまばらであった。昨今の猛暑日が続く日には冷たいものがよく売れる。飲み物コーナーも例外なくその一角にある酒類コーナーでは商品を物色しているワイシャツとスラックス姿の社会人と思わしき男性が二人横並びに立っていた。



    一人は成人男性の平均身長からやや低め、細身の男性。髪色は色素の薄いクセっ毛、背中から見える姿勢は猫背気味でそのせいもあり少し小柄に感じられる。
    その男は無心で次から次へと酒缶をカゴに入れている。一見異様なその光景を隣で落ち着きがなく見守るもう一人の男は身長2m弱は近くあるでだろう大男で、服の上からでもわかる筋肉の引き締まった身体と髪は硬めのクセっ毛で肌は小麦色にこんがり焼かれていた。時折その後ろ姿から覗く横顔には頬から斜めに入った傷痕が見える。只者ではない雰囲気を感じさせる。
    しかしその男は自分よりひと回りも小さいもう一人の男に「もうやめないか…?」「そんなに飲めないだろう…?」などと妙に低姿勢で話しかけている。

    …普通逆では?


    妙に険悪な空気を纏わせているこの二人はどのような関係なんだと観察していたコンビニ店員の元に猫背の男がこちらに向かってカゴを勢いよくレジ台の上に置いた。
    その数ざっと数十缶。酒の種類は度数の強いものから弱いものまで多種多様に及んでいた。
    確かに、二人で飲むには多い量だ。

    「レジ袋一枚」

    男性は一言そう呟いた。

    後ろ姿で見えていなかったその男の表情は確かに鬼気迫るものがあった。






    大通りを出て国道の並木道を赤いGR86が走り抜ける。時刻は二十時半を過ぎたあたりであろうか。大きなヤマが片付いたとはいえこの時間に帰れるのは稀だなと中井木苺は車を走らせながら思った。

    しかし今はその状況を上回る稀な状況であった。助手席に座っている同僚で、恋人でもある鷹梨愛彦の存在である。

    「暑くないか?冷房もっと下げようか?」その声に一瞬目が合ったがすぐ戻されてしまった。

    無言。

    いつもの彼であれば一言二言くれる言葉も今日に限ってはこの有り様。

    木苺は進行方向に視線を戻すと心の中で(どうしてこんなことになってしまったんだ…と)呟いた。




    そう、私と梨は数ヶ月前から付き合っている。…恋仲という意味で。

    庭師事件の一件で私という人間が梨に影響を与えた贖罪は到底償い切れるものではない。赦してもらうつもりもなく、私はこれ以上梨に関わるべきではないと考えていた。

    けれど…私は。

    これ以上近づいてはいけないと自覚があったにも関わらず欲してしまった。浅ましくも触れたいと。隣にいて欲しいと。

    私は意を決して想いを伝えることにした。
    勿論ゼロ課も辞める覚悟で。

    当時とは違い悲観して辞める訳ではない。班を抜けはするが刑事は続けるつもりではあるし、直ぐとはいかなくてもきっと新しい人材が見つかって新生ゼロ課が誕生することだろう。



    ……いけない、考えたら寂しくなってきた。
    だが同じ部署にそんな目で見ている人間がいるのは梨にとって迷惑な話ではあるだろう。
    本当は皆んなと別れたくないし可能な限り一緒に働きたい。

    しかしこの不安定な精神状態でまた何か大きな過ちを犯してしまう方が怖かった。
    大事な選択を迫られた時、自分に後悔がないように生きたい。あの事件からの自分自身への教訓でもある。
    大袈裟な物言いかもしれないがこの告白は自分の人生の節目にあたるものだと木苺は考えていた。

    そうして私は梨に想いを伝えた。
    梨は困惑していた。
    なんの前触れもなく同僚からいきなり告白されたら当然の反応ではあるが。
    そして引き続き今後の私自身の身の振り方についても伝えた。
    こうすれば梨は安心して振ってくれるだろうと思い込んでいたのだがその話をした途端に梨の眉間のシワは深くなっていき少し間が空いたのちに…

    なんと私の告白に承諾したのであった。

    その言葉に私は梨の何倍も困惑した。
    今思い返せばだいぶ恥ずかしいのだがあの時の自分は本当に混乱していて
    「ど、どうしたんだ?」「熱でもあるのか?!」「いや本当に、き、気を使わなくていいぞ?」などの顔面青くなったり赤くなったり慌てっぷりを梨の前で晒す無様さであった。
    そんな私の姿を見ても梨は落ち着いていた。


    そして「条件がある」と私に言った。

    その一、職場には関係性を知らせないこと
    その二、職場では今まで通りの距離感を貫くこと

    この二つは梨から提案される前からそうするつもりではあったのだが

    その三、プラトニックな関係を保つこと

    梨いわく身体的な接触は苦手としていてそういう行為全般は避けたいという申し出であった。


    なるほど。
    確かに梨の言い分には納得するものがあった。

    そもそも同性であるだけでも抵抗感は強いであろうにも関わらず自分のような大男にせまられるのは恐怖の方が勝るのは目に見えている。
    一抹の寂しさは感じたがそれでも…。



    拒否されなかったことが何百倍も嬉しかった。


    分かっている。これは彼の、梨の優しさであって私がゼロ課を離れる選択を提示したことに助け舟を出してくれたのだ。
    私がゼロ課を離れたくないこと梨は見越して承諾してくれたに過ぎない。


    梨は頭の回転が早くて正論も多い実直な性格だから他者から誤解されることが多いが
    とっても優しい人だ。
    あんな事件があった私にでさえここまで優しくしてくれる…。

    その優しさを利用する私は本当にどうしようもないと思うがどうか今だけは梨の優しさに甘えることを許して欲しい。
    叶うことがないと胸の内に秘めていた隣に立てるという権利を。

    私は必ず死守してみせるーーーーーー













    無理だった。


    もう一度言おう。無理だった。

    何が無理だったのか。
    梨が私に課した条件の…その一、ニはまだなんとかなった。
    こんな職場だ。私情を持ち込むのは前々から違うと自覚していた(最初は梨が目に入る度に口角が上がってしまっていたのは内緒だ)のでまだなんとかなっていたのだが…


    触れ合えないというのが想像していた以上に堪えた。

    人というものは悲しいもので一度欲を叶えればもう一つ、もう二つと叶えたくなるのが性らしい。

    現に私は、梨と、恋人の様なスキンシップを望んでしまっている。
    隣に立てるだけで満足という願いはとうに潰え今自身の脳内を占拠している願いは 

    抱きしめたい…
    キスしたい…

    ………できればその先も…





    なんて不純なんだ!!!


    元からその類の欲は強い方だと自覚していたがこれほどとは思ってもいなかった。

    互いに四十路、そして同姓でもあるし落ち着いた距離感が望ましいだろう。
    性的行為だけが愛情表現ではない。

    うん。きっと大丈夫だ。
    大丈夫な筈だった。





    ………精神的な繋がりで十分という考えは彼方に消え失せ支配するのはピンク色のアレやそれやばかり…!

    うう…恥ずかしい…。

    どれくらい切羽詰まっているのかというと肩が触れ合うくらいまでの距離に来られると脳内に警告アラートが鳴り響く。
    今までどうということがなかった距離感も意識し出したらこのザマだ。

    まるで学生恋愛のような浮かれ具合…、いい歳して情けないな…いや本当に…、真面目に…


    兎にも角にも。

    問題はこの気持ちを梨に気づかれてはいけない。
    この恋人という奇跡的な状況は梨の温情で与えられた立場なのだ。
    彼自身に許されているうちは自分だけの居場所でありたい。

    それからというもの私は理性をフル回転させて梨の前では彼の理想とする恋人を演じ続けていた。


    そうして今日に至る。
    仕事も終えそのまま帰宅しようと署の駐車場に向かうと愛車の前にはなんと梨の姿があった。
    電車通勤の梨がこの場所を利用することはない筈なのでこの場所にいるだけでも不思議な感覚があるなと木苺は思った。
    声を掛けると梨は「遅い」と一言ぶっきらぼうに呟いた。
    反射的にごめんと呟いてしまったが、特に約束事もしていない筈だが…戸惑いながらも何かあったのか?と聞くと梨は驚愕の内容を私に告げた。

    「今日お前の家行きたいんだけど」







    目黒区の祐天寺から少し離れたマンションは都市開発が進みその影響下で建てらた比較的新しいマンションである。
    駐車場からエントランスにあるエレベーターで上がりその脚で301号室、木苺の自宅の前に二人は立っていた。

    恋人が自分の家を訪ねて来る。普段であれば飛び上がるほど嬉しいイベントではあるが木苺の表情は冴えなかった。

    「なあ、梨…やっぱり宅飲みじゃなくて居酒屋に行かないか?近所にさ、オススメの店が「宅飲みがいい」

    一刀両断に断られてしまった。

    木苺は困っていた。居酒屋ならまだ人目もあるし自制心も効く。しかし家…自宅ともなるともう理性とどう決着をつけられるか木苺自身もわからないからである。

    「いやでも「いいから扉開けろ」梨は不愉快そうな顔を浮かべ解錠を目で急かす。
    その表情に折れてズボンのポケットから鍵を取り出す。オートロックの解除音が響き渡った。
    木苺が扉を開けて梨を玄関に促す。

    梨は先に靴を脱ぎ木苺はその間に玄関のクローゼットから来客用のスリッパを探す。最後に使ったのは姉が立ち寄った以来か…姪っ子二人とは残念ながら仕事があったので会えなかったが、次会えた時は御希望のテーマパークに連れて行ってあげたいな…などと考えながらも無事スリッパを見つけ梨の方に振り返ると肩が触れるほどの距離に梨が立っていた。

    「うわぁ!」木苺は思わずその場から遠のいた。

    不服そうな顔をした梨は
    「驚きすぎだろ…洗面所どこ」
    「ご、ごめんごめん。この廊下の右側2番目の扉にある」
    「ん…」


    梨は木苺が置いたスリッパを履くと洗面所に消えていった。木苺は靴も脱がずそのまま玄関に座り込み両手を頬にあて顔を真っ赤にしながら大きなため息を吐いた。






    部屋には数分前に稼働したエアコンが冷風を送っている。時刻は二十一時を回りながらも風のないコンクリートの都会ではそれなりの暑さである。リビングにある長椅子に腰をかけ付属した卓上テーブルには先程コンビニで購入した山程の酒缶と少量のツマミが陳列していた。

    木苺は自宅だというのに着替えもせず梨と同じスーツ姿で缶の山を見つめていた。普段なら率先してプルタブを開け談笑にふける流れなのだが今日に限ってはお互い出方を伺う様な緊張した空気感が伝わってくる。

    梨は無言で目の前の缶を手に取った。ほろよいだ。木苺は少し安堵した。


    梨は下戸だ。酒を飲むと豹変する。
    悪い方向に。



    これまで酔っ払った梨を介抱してきたけれどまだ意識してなかった当時と比べ今、介抱するのも今の自分にとっては気が気ではない。いや寧ろ意識を手放してくれる方が手を出さずに済むのでは?などと思考を巡らせていれば梨は驚きの挙動に出た。


    カシュッとプルタブが開く心地よい音が鳴り響いた刹那、そのまま一気に口内に流し込んだのだ。


    「!!」

    普段の本人とはかけ離れたあまりに豪快な飲みっぷりに目を丸くした。いくら度数が低いとはいえ大量摂取は危険極まりない。

    「梨!そんな一気に飲んじゃだめだ!」

    そんな声かけも虚しく梨は缶の三分の二ほどであろうか量を一気に飲み干し、顔を伏せたまま呟いた。




    「…今日は話があって来た」

    ビクッ
    木苺は肩を揺らした。



    話の内容は薄々と察するものがあった。

    別れ話だろうな。

    木苺は横並びだった身体を梨の方向を向き聞き入る姿勢にはいる。
    梨はゆっくりと顔を上げた。もうアルコールの反応が出ているのか頬が赤い。木苺はジクジクと競り上がる気持ちを押さえつけてなるべく顔に出さないように平然を装う。別れる手前でさえこれだ。別れたくない。でも、梨に無理を強いるのはもっと嫌だ。…みっともなくないよう涙は絶対堪えるぞと内心意気込み梨の次の言葉を待つ。






    沈黙。
    数十秒はたったであろうか。

    部屋には静寂の中に時間を刻む壁時計の音と遠くからのバイクの排気音だけが響いた。

    その間梨は目を泳がせバツが悪そうに口を開いたり閉じたりを繰り返している。

    言いづらいのだろうか?何故?

    「…梨?どうした…?」

    そう聞くと梨は手に持っていた飲みかけのほろよいを机の上に置いた。
    そして山の中にあったそこそこ度数の強い発泡酒を手に取り素早く開けまた流し込むように飲みだした。



    「?????!!!!!!」



    その奇想天外な行動に木苺は流石にこれはマズいと踏んで缶を持つ手を掴み静止させた。

    「ストップストップストップ!!!梨!!一体どうしたんだ?!」

    ほろよいで酔いが回っているとはいえ梨は二缶目に手を出すような人間ではない。この様な身体に負荷をかける飲み方をしているのは今まで見た事がなかった。


    本当にどうしたんだろう。


    木苺は掴んだ梨の手をゆっくりと下げ缶ビールを机の上に置かせ離すように促す。


    梨の手…小さいし細いな
    ……
    こんな状況下にいながらも触れた手について悶々と考えてしまう。いけない。これ以上触れていると良くない考えも浮かんでくる。

    そう思い手を離そうとすると今度は梨が強く握り返してきた。

    「!」

    握られた右手に電気信号が走った。
    今まで手を伸ばし掴もうとしてきたあの手が自分の手を握り返している。
    その事実に頭がパンクしそうになった。

    嬉しい。
    手を繋ぐことがこんなにも嬉しいのは生まれて初めてかもしれない。
    恋愛においては酸いも甘いも噛み分けてきた自覚はあるけれど…

    別れることになったがこの思い出を胸に…などと考えていた木苺に梨は火にガソリンを注ぐが如く言葉を投げつけた。




    「……なんで手出さねぇんだよ…」









    「…………………………………えっ?」


    既に茹で上がっていた使い物にならない脳味噌を必死で回す。
    テヲダサナイ?
    テ、て、手は指が5本揃っているあの手だよな?
    出す?
    犬のお手みたいに?
    いやそんな物理的な話ではないな。
    うん。
    てをだす…手をだす………!!!!

    理解したのは梨が第二投球目が放たれたのと同時だった。



    「梨、何を「こっちは初めてでなんもわかんねぇんだよ!」



    梨は怒りに身を任せ握った木苺の手を思いっきり引いた。

    二人の体格差はあれど咄嗟の出来事ゆえに木苺はバランスを崩した。

    しかし梨の方が先によろけたのでそれを木苺が庇う様に抱き込み両者互いを抱き合う形となる。

    今互いを阻む空間は何もない。







    また同様に少しばかりの沈黙。しかし先ほどの静寂には程遠く双方の心音ともとれるけたたましい旋律が両者の耳に鳴り響いていた。
    梨はアルコールで酔ったのであろう真っ赤な顔を木苺の胸部に埋まったまま動かない。


    「梨……、顔、見たい」
    上擦った、熱を持った期待に満ちた声で問いかけた。


    梨の返事はない。

    しかしその抱き抱える腕は緩むことはなく離れないことが木苺が次の段階に進むキッカケとなった。

    木苺は自身の胸の中にいる梨の頭を両手で支えつむじがあるあたりに唇を落とした。
    軽いリップ音が響く。




    そして数秒後に梨がゆっくりと真っ赤に染まった顔で木苺を見上げた。

    「ごめん、その…梨は触れられるのは嫌いかなと思って…」
    「…なんでそうなんだよ」
    「それは…男に迫られるのは気分が良くないだろう…?」
    「…………なに、この状況お前も気持ち悪いと思ってんの?」
    「そんなことない…!!すごく、すごく…!嬉しいよ!でも…」
    「…でもなんだよ」
    「その、本当に止まらなくなりそうで…」
    「…」
    「ごめん、気持ち悪いよな」


    言ってしまった。でもこればかりはしょうがない。

    私は梨が思っている以上に性的な欲求に忠実で、故に分かり合えない部分だと思うから。

    名残惜しい気持ちを抑え木苺は梨から距離を取ろうと離れようとするもその行動は梨によって遮られてしまった。


    「え?」


    「…あのな、オレがなんで告白を受けたのかわかってんのか?」
    「それは…私がゼロ課から離れないように気を遣ってくれたんだろう?」

    梨は顔を伏せる。そして深いため息をつくと再度木苺に向き直った。

    それは諦めと羞恥心に苛まれたなんともいえぬ顔つきであった。そして一段と赤らめた顔で消えいるような声量で呟いた。

    「あー…その、あの時の…プラト…云々言ったのは…その……あー…これ言わねえとわかんねぇのかよ…」




















    「経験がないから…」






    「え?」



    梨は睨む様に木苺を見上げた。
    「お、お前と違ってオレは全部初めてなんだよ!人と付き合うのも、さ、…接触するのも!!だからキイチお前が」
     
    その言葉は言い終わるより先に木苺の口の中に消えていき二人はソファに深く沈んでいった。


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