月夜に舞う インカムから聞こえる合成音声がもうすぐ目的地だと告げる。道なりに100m、その後右折して70m。今回のターゲットはもうすぐそこだ。もう夜遅く、月明かりが道を照らしていた。
路地裏の影に潜み、息を殺す。向かいの妓楼からでっぷりとした腹の魚顔のあやかしが出てきて、せかせかと歩いていくのを確認して駆け出した。月が雲に隠れる。足音は立てず、でも速く、そして高く舞って一閃。双剣であやかしの首を刈り取った。
「よっし。仕事完了!」
剣を振って血を飛ばし鞘に納め、スマホで依頼者に討伐完了報告を送る。これで明日には報酬が振り込まれるだろう。
「あっそうだ。葬儀屋ってのにも連絡しなきゃ」
また月が出てきて周りを照らした。夕方に雨が降ったからか、まだそこらじゅうに水溜りが残っている。
「うわ〜やべ、血ィ跳ねてら」
水鏡に映る自分の顔を見てみると顔に赤い汚れが付いていた。ガサゴソとポケットを弄ってもハンカチは入っていない。仕方ないのであやかしの服を切り取って顔を拭った。今お世話になってる人は所謂井戸の底というやつで、あやかしも人も分け隔てなく接する変わり者だ。いま、俺があやかしを殺したって知ったら彼女は悲しむだろう。震える声で「おかえりなさい」と言って、俺から顔を逸らすだろう。それがたまらなく嫌だ。死んだ妹に似ているからかもしれない。かもしれないというか、絶対そうなのだろう。
スマホが震える。画面を見たら夜鈴からだった。店は完全に閉めたという連絡だ。了解、と返信して帰路に着いた。