これまでむかしむかし。
双子は、それはそれは縁起の悪いモノ──所謂、忌み子として扱われておりました。
酷い所では双子が生まれるや否や、片方を殺して「最初から無かった事」にする所もあったのだとか。
ならば、六ツ子は?
*
とある十一月の二十二日、草木も眠る丑三つ時の頃。秋も終盤、冬を迎えようとしている冷たい風を全身に受けながら、六つの提灯で足元を照らしつつ闇に染まった江戸の街並みを歩む六つ子達がいた。
「「「「「「さ〜い…」」」」」」
六人の声は示し合わせるまでもなく重なり合いさほど美しくもない六重奏をかなで、凍った夜空に溶けていった。
❤️「う〜わっさんむぃ!霜月の夜舐めてたわ、まじで寒すぎっ」
💙「フッ……さむい」(ガタガタ)
💚「だから半纏持ってきた方が良いよって言ったのに」
💜「いや、母さんのあの剣幕の中家に戻るのなんて無理だったでしょ。それにしても寒い、しぬ……」
💛「さむいさむいさむいさむい!!!!!」
🩷「ボクもう嫌になってきちゃった。帰ろうよ兄さんたち〜」
❤️「俺だってそうしたいのは山々だけど!母さんすげー怖かったじゃん多分まだ怒ってるからヤダッ」
💙「しかし、何故あんなにも唐突に怒鳴ってきたんだろうな?松野家に生まれしオレ達六つ子全員が無職童貞なのなんて今更じゃないか」
💚「確かに、何でだろう?」
💜「あれじゃない?今までずっと我慢してきたのに、ある日突然堪忍袋の緒がぶちって切れちゃって……」
💛「殺意どかーん全員死ね〜とか」
🩷「ええっじゃあもうずっと帰れないってことぉやだよーそんなの!先陣切って謝ってよおそ松兄さん、長男でしょ?」
❤️「なんで俺ぇ六つ子に長男もクソもないだろってか、『双子が忌み嫌われてるから六つ子なんて存在が露見した日には何が起こるか分からない』って思ってひたすら世間様から隠し通して育ててきた母さん達が悪いじゃん!」
💙「フッ、つまりは真に憎むべきは†世界†だと云う事か?」
💚「いや、『松が忌み語の村に苗字と名前に松を持つ男が現れた後あらゆる怪奇現象がぴたりと止んだ』って逸話があるくらいだし、僕達ももしかしたら〝忌み〟になんて負けなかったかもしれないのに、〝隠す〟って選択した母さん達がいけないと思うけどね!僕は!」
💜「……それ、〝忌み〟に勝てなかったら全員殺されてたかもしれないってことじゃ?……ああでも、無職童貞の穀潰しなんて死んだ方がましか」
💛「たしかにじゃあみんなで死ぬ死んだら多分寒くないよね」
🩷「ちょっとぉ寒いの嫌だからって物騒な事言わないでよ十四松兄さん!ボク死にたくないよ!それに、結局ボク達が今生きてられるのって父さんと母さんがボク達を育てるっていう決断をしてくれたからでしょ……!意地張るのやめて謝って、ちゃんと感謝を伝えよう!ボク達を代表しておそ松兄さんが!」
❤️「だからなんっで俺ぇせっかく良い事言ったんだからお前がやれよトド松!
……って、言おうかと思ってたけどさ。正直な所、トド松の言葉には心が動かされたよ。だから……俺達全員でせえのって息合わせて言うなら、良いよ?当然やってくれるよな、お前ら!」
💙「え?オレは嫌だ」
💚「僕も嫌かな。せーのっせいで!なんていい歳して恥ずかしい」
💜「おれもやめとく……」
💛「ぼくも」
🩷「じゃあボクもー」
❤️「ちょっお前らぁそこはノっておけよ!何俺だけ置いてけぼりにしようとしてんのお兄ちゃんさみしがってるよ!心が!泣いてるよ
ッああもう知らねーよクズ共全員死ね──ッ」
ドッカーン
おそ松の叫び声とほぼ同時に、辺りに轟音が響き渡った。
ドンッ
ガンッ
バキッ
モォオオォオオ
ボオォ
パチパチ……
六つ子達の視界は閉ざされ、幾つかの音だけが唯彼らの耳に届いていた。
❤️「っはここどこあれっ提灯どこいった何も見えねー!てかさっきの何おいっ起きろお前ら!どうせいるんだろ!」
💙「ハッ……こ、ここは……あっ、提灯がなーい!暗い!怖い何か出そう!」
❤️「そのくだりもう俺がやったよ!」
💚「はっ!」
💜「はっ……」
💛「はっ」
🩷「はっ」
💚💜💛🩷「「「「ここどこ何も見えない」」」」
❤️「おいっわざとやってんだろっとにかく!
お前ら、気絶する前何があったか分かる?俺、何かすごい轟音が鳴ってたことしか分かんねーんだけど」
💙「オレは頭を強くぶつけた時の音が聞こえた気がしたな」
💚「僕は木製の何かが折れる音を聞いたよ」
💜「おれは……牛の鳴き声?」
💛「ぼくは炎が燃え広がる時の音!」
🩷「ボクはたき火みたいなパチパチって音かな」
❤️「あー、言われてみれば確かに全部聞こえてたような……よしっ、分かった!その全部の音から導き出される結論は〜〜〜〜〜〜ーーーーーー………………」
💙(タメ長いな)
💚(早く言えよッ!)
💜(え……まだやるの)
💛(遅い)
🩷(もういいよさすがに!)
❤️「分かりませんッ!」
💙「あれだけ溜めたのにか」
💚「いくらなんでもつまんなすぎるよおそ松兄さん。正直、ドン引きだね」
💜「おそ松兄さんのクソつまんないノリはおいといてさ。……あっち、何か光ってない?ちょっと行ってみようよ」
💛「たしかにあれたぶん火だよわーいあったまれるぅでもなんだろあれでっかいし祭り火かなお祀り」
🩷「確かに秋祭りの頃なはずだけどこんな時間に?まああったまれればなんでもいっか♪行ってみよ兄さんたち!」
❤️「だな!いやーそれにしても運良いわ俺達、こんな時に都合良くあかるくてあったかそうなでっかい火にあたれるなん……て……」
💙「ん?どうしたんだ、おそ松?急に、立ち止まって……あ」
💚「……え?母さん、父さん!迎えに来てくれてたんだ、もう怒ってなかったんだね!それにしても何でこんなところに立ちすくん……で……」
💜「……ひっ……あれ、燃えてるのって牛車の残骸?まさか……」
💛「ぼくたち、牛車に轢き殺された後に提灯の火が燃え移って焼け死んだ」
🩷「じゃあ、ボクたち、もう……」
❤️「ま、待てよ!いくらなんでも結論出すの早すぎだって!なあ、父さん、母さん!……あれ」
両親の肩を目掛けて伸ばされたおそ松の手は、彼らの肩にかけられることなくするりと通り抜け力なくぶら下げられた。呆然と立ちすくむ六つ子達の存在を知ってか知らずか、両親らは燃え盛るそれを見つめながら呟いていた。
「なんて親不孝な息子達なの……」
「あの馬鹿息子共……」
彼らの目元に光る火は、彼らの背後に立つ者達には見える筈がなかった。
六つ子達はその場に留まって居られず、あてもなく彷徨い歩く他なかった。
❤️「なあ、お前ら。……どうしよっか、これから。まず俺ら、帰る家も……無くなっちゃった、し……」
💙💚💜💛🩷「「「「「……」」」」」
❤️「……なあ、お前らってば」
?『はいはーい!辛気臭いのは終わり終わり!何じめじめしちゃってんの?公開時期六月だからってお前らまでじめじめする必要なくなーい?ってか一回死んだくらいで大袈裟すぎだわ!』
❤️💙💚💜💛🩷「「「「「「「!?!?!?」」」」」」」
❤️「な、何ぃ誰だお前ぇ!どっから喋ってんの」
?『俺?俺はアレだよ!閻魔様』
❤️「はあっ閻魔ぁ俺達いつの間に死……んだのは分かってるけどいつ地獄に堕ちてたの」
閻魔『ああいやちがうちがう!お前達が居るのは現世で地獄じゃないよ〜俺自身は地獄でふんぞり返ってるから頭ん中に直接話しかけてるけどぉ……あれ?お前以外全員まーた気絶しちゃったの?弱っちいね〜大丈夫?そんなんで』
❤️「うわあお前らぁ!さっきから声しないと思ったら!お前らぁ」
閻魔『まーいいや!ちょうど、六人全員相手取るのはめんどくせえって思ってたとこなんだよね〜!代表者として聞いてよぉおそ松君、超絶楽楽チンチンで合法な居候生活に興味無い?』
❤️「は?」
閻魔『実は〜この国めっちゃ昔に魑魅魍魎が跋扈してた時代があってぇそれの平定に尽力した六柱の大妖怪が居たんだけどぉもうこんなことないよーにしましょの証として妖怪達の寄り集まってお悩み相談したり出来るところ「妖怪集会所」を作ったんだけどぉそいつらこの地にずっと留まってられる訳じゃなかったから代わりに後任を六柱つくって妖怪集会所の番を命じてバイならして後任たちはちゃんとお仕事全うしてうん百年経ったんだけど今度その後任たちも別のお仕事できちゃって跡継ぎ六人探してたんだけどちょうどいいところにお前らいるじゃんってなってさ〜』
❤️「待っていっぺんに言われても分かんねーよ!」
閻魔『あっ、ごっめぇん!とにかくどう?妖怪集会所の番をするオ・シ・ゴ・ト♡』
❤️「まずヨーカイってなに俺らユーレイじゃないの」
閻魔『幽霊?あんなのと一緒にすんなよ〜アイツらは妖怪に成れる素質が無いのに強い想いっていうか怨念だけで現世にこびりついてるコワーイやつらなんだからさ!妖怪は幽霊と違って確かな意志を持ってる上に妖術っていうすごい技を扱える化け物だよ!』
❤️「結局化け物なのかよ!俺らさっきまで人だったのに、急に死んで化け物になりましたおめでとー!なんて言われても受け入れられねーわ!ただでさえ何も分かんねーのに急に仕事紹介されても無理だし」
閻魔『……あっそう?じゃあ、要らないんだ。お前らの帰る家』
❤️「えっ」
閻魔『残念だなぁ……こんな機会滅多にないのに。昔ほどじゃないとはいえ今はまだ結構危なくて、妖雪山周辺にはかつて大妖怪だった雪妖怪共がうろついてるし、この辺は荒くれの闇妖怪共とか放浪してて、何の後ろ盾も無い妖怪に成り立てのひよっこがふらふらしてるのなんて鴨が葱背負って歩いてるようなもんなのに……因みに集会所のお仕事なんてほぼほぼあってないようなもんだから、本っ当に〜大きくて居心地良いおうちで悠々自適の生活送れるのに……嫌なら仕方ないよね、そうだなあダメ元で桜妖怪にでも打診してみようかなぁ』
❤️「ま、待ってぇ!嫌とは言ってねーじゃん」
閻魔『じゃあやるの?集会所の番人』
❤️「や……やっぱりおとう『因みに弟達にとやかく言われるから一旦後でって言うのは無しね!』
❤️「……ッッ」
閻魔『で?どうするの?やるの?やらないの?』
❤️「や……やります!やらせてください」
閻魔『おっけー!そう言ってくれると思ってたよぉ!じゃあお前ら全員集会所に送り付けてあげる!はい』
❤️「え?ちょ、待っうわあぁあああああぁあッ!!!!!!」
六つ子達は閻魔の掛け声の直後に放たれた閃光に包まれ、光が収まる頃にはその姿は消え失せていた。
木枯らしに吹かれた落ち葉が、はらりと六つ子達の居た場所に舞い降りていた。