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    みずひ梠

    @mizu240

    主に妖怪松版ワンウィークチャレンジ参加作品となるSSを投げています
    よろしくお願いします

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    みずひ梠

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    【へそウォ妖怪松】
    ひとりきりだった青行燈の話

    青行燈の欲百物語を完遂させる者はそうそういやしない。
    人間共の間では退屈しのぎの娯楽と見なされているこの儀は途中で飽きられるのが常であり、九十九話を迎える事すら稀有、酷い時は十数話もとい一巡した程度で断念される。軽々しく怪異に手を出す愚か者共に幾多の物語を語り続ける事のできる堪え性を有した者などそうそう居るはずもなく、居たところで真の恐怖と名高い百話目を語り終える事には恐れをなす甲斐性無が大半である。即ち俺が姿を現す必要性のある場合なぞ殆どないという事でこそあるが、格別成すべき事等持ち合わせていない妖怪である俺はそれが長続きする事なぞ無いと分かった上で逐一現地に赴き人間共の面白可笑しく怪談を語るのを聞いている。そうして何時しか全国各地を巡れる程、転移(ワープ)の術の使用可能範囲が拡大していた。最も、俺にその術があった所で宝の持ち腐れ、何の意味も無いと決め込んでいたのだが。どうも、そうではなかったらしい。ふいに転換点が訪れた。
    その日の百物語はたった一話で打ち切られた。俺はそれによって形容しがたい感情に呑まれ、どうにかして消化する為にあてもなく周囲を散策していた。苛立ちのような、落胆のような、己の愚かさを自嘲しているようなそれは、ただ何もせず過ごしているだけでは何時までも付き纏ってくるような気がしてならなかった。気づけば何かしらに追い立てられているのではないかと見紛うほど足早になっていた。気に止める事なくひたすらに歩みを進め続け、ふと気づいた時には視界が真緑に濡れていた。それが苔むし、蔦の這った巨大な樹幹だったと理解するまでに多少の時間を要した。気付かぬうちに森の奥深くまで入り込んでいたらしい。ここに至るまで一度たりとも木々やら何らかの植物やらに突き当たる事も、疲れを感じる事すらも無かった事に若干の戸惑いを得た直後、はらりと眼前に木の葉が一枚、舞い降りた。それは未だかつて見た事が無いほど巨大な木の葉だった。無意識のうちに生唾を飲み込み、おもむろに頭上を見やり、……茫然とした。天が覆い隠される程青々と茂った葉が、通常の木の幹に立ち並ぶ程太い枝が、逞しく佇む幹から悠然と張り巡らされていたのである。まるで、もうひとつの森がその木上で息づいているかのようだった。もはや神秘的な気を感じることすら禁じ得ないそれに呼び寄せられるように、俺はこの樹を登っていた。登るといえども浮遊の術を用いて枝々の間を潜り抜けていただけだった。無論、この樹にひとつたりとも傷をつけるような真似をしたくなかった為である。
    とうとう葉と枝の織り成す樹海を通り抜けた先には、常日頃の頃より妙に手近に思える空があった。それにより達成感のようなものに胸中を満たされ、噛み締める為視線を落とした所に在った…………

    眼下に広がる情景を持ってして、
    俺はそこで初めて“美しい”という感情を抱いた。

    それからは転移の術を用いて各所の美しい場を巡った。何時の頃からか自然だけでは飽き足らず、人間共の創り出した情景も楽しむようになっていた。果てには植物も動物も建造物も装飾品すらも“美しい”と見惚れるようになっていった俺は気づけばその生を存分に謳歌しているようだった。──然し、欲の尽きぬが妖怪の性分、時が経つにつれこの思いを誰かと分かち合いたいと願うようになっていた。
    だが自然に於いては殊更に顕著な、俺のこの高尚な趣を理解できるような者なぞいやしないだろう。生半可に理解を求め、悪戯に汚されるような事はあってはならない。だから俺は今日もたった独りで“美しい”を追い求める。
    俺はそれだけで十分に満たされていると、言い聞かせながら。
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    xxshinopipipi00

    SPUR ME7/30新刊サンプル第4話です。
    当主×呪専の五夏、唯一の1年生すぐるくんが五条家の当主様に気に入られる話。
    すぐるくんが五条のおうちに行く回です。モブが若干でしゃばる。

    前→https://poipiku.com/532896/9061911.html
    イカロスの翼 第4話 目の前に聳え立つ大きな門に、夏油はあんぐりと口を開けた。
     重厚な木の門である。その左右には白い漆喰の壁がはるか先まで繋がって、どこまで続くのか見当もつかない。
     唖然としている少年の後ろから、五条はすたすたと歩いてその門へと向かっていく。
     ぎぎ、と軋んだ音を立てて開く、身の丈の倍はあるだろう木製の扉。黒い蝶番は一体いつからこの扉を支えているのか、しかし手入れはしっかりされているらしく、汚れた様子もなく誇らしげにその動きを支えていた。
    「ようこそ、五条の本家へ」
     先に一歩敷地に入り、振り向きながら微笑んで見せる男。この男こそが、この途方もない空間の主であった。
     東京から、新幹線で三時間足らず。京都で下車した夏油を迎えにきたのは、磨き上げられた黒のリムジンだった。その後部座席でにこにこと手を振る見知った顔に、僅かばかり緊張していた夏油は少しだけその緊張が解けるように感じていたのだけれど。
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