燃ゆる火の如き たこぱ物語時は現代、とある家電店にて。店員から何やら話を聞いたらしい青行燈は、その口車に乗せられるまま新品の家電を手に取り、彼が兄弟と呼ぶ者達に意気揚々と駆け寄った。
「へいぶらざあ!」
「今夜は家でたこやきぱあてぃをしよう」
「はあ〜?」
「突然どうしたの?まさかまた変な茸とか拾い食いしてたんじゃあ…」
「違ぁう!これを見てくれ!」
じゃん!
「…何それ?」
「え〜知らないのチョロ松?どう見てもあれで殴って顔面にめり込ませて顔ぼっこぼこにする拷問器具だろ!」
「違っ…!何それ怖いな」
「…げふん!とにかくこれは『たこやき器』だ」
「「たこやき器?」」
「これを使えば!なんと家で!あの〝たこやき〟が食べられるんだぞ凄くないか」
「へぇー!すっげぇ!」
「だろ!」
「いや、そういうのは変に素人が作るより職人に任せた方が絶対美味しいでしょ」
「否!家でわいわい作ればそれはそれで美味しいものが作れるに違いない!」
「何より折角出会ったのだから存分に使ってやりたい」
「あれ、電子れんじとかいうやつ買うんだって言ってなかったっけ?お金足り…むぐっ」
(ちょっと、何すんのおそ松)
(しー、チョロ松!変に突っ込むより本妖の意思尊重してやった方が良いって!その方が美味いもん食えそうじゃん!)
(え、でももう何回も家電屋来てるのに一回も買う予定だったやつ買えてないでしょ?そろそろ店員に勧められるまま買っちゃう癖、止めさせた方が良いって)
(んな事言ったって無理やり止めても拗ねて料理しなくなるだけだろ絶対!)
(まあそれはそうだけどさあ…)
(カラ松はうまいもん買いたいからってくっそくだらな…面白い理由で仕事までしてるんだから、金ならそのうち溜まる…むしろ、家電屋に来る度に新しい機械買って料理の幅が広がるなら、家電屋に来る理由をなるべく長く残しておいた方が良い…!)
(た、確かに!おそ松の割に冴えてる!)
(だろ?良し、俺達はたこやき器を買う件について全く異論無しって事で…!)
「ぶらざぁ?なあ、どうしたんだ?」
「何でもないよカラ松兄さん!たこやきたのしみにしてるネ」
「俺もカラ松特製のたこやき、楽しみにしてるぅ〜」
「!!そうかそうか!そうだよな!急いで会計済ませて来るぜぇ」
「「いってらっしゃ〜い」」
「「…」」
「計画通り…!」
「ここまで単純だと同じ妖怪として心配になってくるけどね」
「まあそれはそうだよな」
「俺が拾ってやった事、感謝するんだぞ〜カラ松」
「恩着せがましいなお前…というか、ふたりとも僕の社の居候で…そういえばお前何もしてねぇな」
「え〜俺にはチョロ松専属の武神っていう仕事があるでしょ!」
「神力無いくせに神を名乗るなよ…」
「も〜チョロちゃんってばぁカタい事言わないの♡」
「うわ、きもっちわる…」
「えぇ冷たいなーもう」
「ふふん帰ったぜぇぶらざぁ」
「あ、お帰りカラ松」
「早かったね」
「ふたりの為に急いだからな!そこで悪いんだが材料を買っていきたいから、これを先に持って帰っていて貰えるかチョロ松?」
「え?僕は別に飛べば直ぐだし良いけど、カラ松は大丈夫なの?」
「ああ平気さ!むしろ…この時間帯、きゃべつはたいむせーる中だから…居ると怪我をしてしまうかもしれない」
「ええっそんなやばいの」
「戦争戦争って事ぉ」
「近いな」
「「うわぁ…」」
ぽん
「任せろ、カラ松!俺とチョロ松が誠心誠意たこやき器を守りきってみせる!物資調達は頼んだ!」
「ん?おそ松にはオレの方を手伝ってもらうつもりだったんだが」
「いやチョロ松は鬼じゃないから!か弱いから!こんなに重い家電持ってられないから!」
「は?神力で増強すれば重量なんて関係無…」
ぱしっ!
「あっ」
「行こうぜチョロ松」
ダダッ
「たこやき器、結構重いのに…なんて速さだ…!」
「ていうか逃げたなあいつ」
「はあ…僕はあの馬鹿追いかけるから、後はその…よろしくね」
「ああ、そっちは頼んだぜ…」
「あ!材料以外にも色々買うし、買ったものは転移させるから、物置部屋には近づかないでくれ!」
「はいはい、おそ松にも伝えとくよ」
「うむ、それじゃあまた後でな!」
「はーい」
*
…たこやき粉、卵に水…これが生地の材料で、具はもちろん蛸と店員さんお勧めの天かす、そしてきゃべつ…後はとっぴんぐ用のそーす、あおねぎ、かつおぶし、まよねーず…うむ、揃ってるな!ふっ、横文字が多くてちょっと大変だけどかっこ良いぜぇ…!
「さて、と」
いざ…尋常に…!
調理開始
まずはたこやきを一口大に切り、きゃべつとねぎは刻む、と…こんなもんで良いかな。
次は…ぼうるにたこやき粉、卵を入れ…水は三回くらいに分けて注ぐ。その都度混ぜる…混ぜるといえば泡立て器を使った方が良いのか?まあ特に書いていないし箸で十分か。
これで下準備は完了。ここまで順調だ!
次はいよいよたこやき器の出番だが…そろそろぶらざぁ達を呼ぶべきか?いや…そういえば帰った時に何を思ったか知らんが物置部屋に居たらしいおそ松の脳天にきゃべつが直撃して蘇生中だ、とかチョロ松が言っていたな…まだ静かだし復活してないらしい、止めておこう。
さて、たこやき器の電源を入れよう!説明書はやや難解だが、数々の家電を習得してきたこのオレの敵ではないぜ!…ん?起動しないな…?あ。ふっ、雷撃の術を使うのを忘れてたぜ!…普通のこんせんとなら差しただけで使えるのか…良いなあ……否!折角チョロ松が雷撃の術で起動できる特製こんせんとをくれたんだ!ありがたく使わせて貰うぜ!
お、そろそろ温まってきたな…!よし、この茶筅?とは少し違うらしいが、とにかくこれで油を…あ、手がちょっと熱いな…まあ鬼だし問題無し!ふっ全て塗り終わったぜ!後は生地を八分目まで入れて…具を入れる…!できたッ…
表面が固まるまで暫し待つとしよう!
*
「何か良い匂いすんな〜」
「復活して早々ご飯の事?ほんっと欲に忠実というかなんというか」
「はあっあそこまで重症化したのはチョロ松が神力ぶち当てて来たからでしょ!」
「あれはお前が守るとか言ったくせにすっ転んでたこやき器落としかけたから、たこやき器を神力結界で保護してやっただけ」
「でもお前なら俺の頭上に来ないように操作できた筈じゃん!」
「それはちょっとは痛い目見ろよって思ったから…治してやったんだから文句言うなよ」
「嫌です〜チョロ松が悪いんです〜」
「お前な…」
「おい…今、なんて言ったんだ?」
「あ、カラ松〜!ちょっと聞いてよ、チョロ松が神力結界で俺の事殴ってきたんだよ?ひどくない?陽属性の攻撃は陰属性の妖怪には致命的なのに〜」
「おそ松…お前、たこやき器を落とした、って言ったか?」
「そうそう!それでチョロ松がさ〜」
「またかくそ呑んだくれ鬼」
ゴスッ
「痛っぅ」
「だからお前には家電を持たせたくなかったんだ!今回はチョロ松が保護してくれたから壊れずに済んだらしいが、俺は前回の恨みを忘れていないからな」
「げっやべ!」
「いいぞもっといってやれカラ松!」
「チョロ松もチョロ松だ!」
「え?」
「おそ松は物置部屋に忍び込んできゃべつに頭をぶつけたんじゃなかったのか」
「あっ…」
「やはり嘘か」
「い、いや…これにはその、深い理由があって…お前もおそ松も鬼だから、神力結界に触れた程度で気絶する程の損傷を受けるって知られたくなくて」
「それも嘘だろ!実際は神力結界で保護したたこやき器を瞬時に操作できるような真似はまだできなかったから、お前の矜恃がそれを表面化させる事を許さなかった!違うか」
「ッ…!」
「へ〜そうだったのチョロ松?だっさ〜」
「全く、嘘は良くないって言ってるだろ!神としての自覚が足りないぞ!」
「っごめん…僕が悪かった」
「そんなんだから参拝者が減り続けるんだ!」
「…あ?」
「あっ…」
「ったく…言わせておけばよぉ」
「鬼のくせに美食家だの何だのほざく馬鹿を社においてやってるのは誰だと思ってんだ?なあ」
「オレがこの社に留まっているのはお前がおそ松とふたりきりにされるのを嫌ったからだろう」
「そもそもお前がこの能無しを連れ込んだんだろが!」
「違う!お前が…」
「ああっ」
「なあお前らちょっと待てッ」
「なんだよろくでなし」
「何か用か人でなし」
「そりゃあ妖怪だから当然だけど!」
「…たこやき、やばい事になってるよ」
「え?」
「あ、ああっ」
「うわこれ大丈夫火ぃ出てるじゃん」
「おそ松の蘇生に神力沢山使っちゃったから僕今神術使えないよ」
「だ、大丈夫だ水をかければ」
「オイカラ松水なんかかけたら二度とたこやき器使えなくなっちまうぞ!それでも良いのかよ」
「ああ構わない!チョロ松の社を焦がす方がまずい!」
「か、カラ松…!」
「まあ待てっておふたりさん!俺の属性忘れたの?」
「え?…屑だっけ」
「…塵、だったかな」
「ひっでぇな火属性なんですけど」
「ともかく火属性の俺にとっちゃあ火を消すことなんて朝餉前!せいっ!」
シュッ…
「どーよ!任務完了〜」
「おお…!助かったぜ…ありがとう、おそ松」
「僕からもありがとう…社、木製だから火が小さいうちに鎮火出来て本当に良かった…」
「…カラ松もその、ありがとね…せっかく買ったたこやき器犠牲にしてまで僕の社を守ろうとしてくれて」
「それは…たこやき器はまた買えば良いけど、チョロ松の社はこれまで培ってきた思い出があるから…燃えたらもう、駄目だと思って…」
「あ…参拝者が減ってるとか言ってごめんな、チョロ松」
「いやいいよ、事実だし。僕の方こそごめん…つい、カッとなっちゃって…」
「いやオレはお前にたこやき器を救って貰った恩があるというのに」
「いやいや僕は…」
「な〜んか円満解決しそうな感じ?良かったなふたりとも」
「…おそ松お前な…そもそもお前がたこやき器奪って落としてなければ」
「あーあーきーこえーませーん」
「そんな事よりカラ松たこやきぱぁてぃとやら、するんだろちゃっちゃっと丸焦げ焼き片付けて、俺達でたこやき作ろうぜ」
「…それもそうだな!」
「カラ松が許すなら、僕もこれ以上追求しないよ」
「よーし早く作ろー!俺もうお腹すいて死にそうだから」
「あ、実は僕も…」
「オレもだ!そうと決まれば仕切り直しだな!
早急に美味しいたこやきを作ろうじゃないか!」
「「賛成ー!」」
「まずは炭を綺麗にしないとな!チョロ松、手伝って貰えるか」
「良いよー…おそ松も当然手伝ってくれるよね?」
「えーどうしよっかな」
「やれ」
「いやんっ了解〜」
ふつふつ…。
「なあ…もう良くない?何か生地から泡が出てるよ」
「あれは気泡だ…かなり熱されているのは確かだが、もう少し待った方が…」
「いや…火事になるの怖がって、かなりの弱火にしてるんでしょう?もう少し待った所で変わらないんじゃあ」
「それはそうだが…も、もう少し表面を炙った方が綺麗に回せそうな気がするんだ…!」
「ああっ!俺もう待てないお腹空いたやる!」
ぐさっ
「あっ!」
「馬鹿!」
「で?こっからどうすれば良いの?こう?」
ぐちゃあ…
「あああ…初自家製たこやきが無惨な姿に…!」
「ちょっと待ってカラ松、あれはたこやきじゃない…もんじゃ焼きだよ」
「な、なるほど!なら良いか!」
ぐっ!
「ちょっとぉ!俺抜きで話進めないでよ」
「まあ待て、おそ松。オレが今ここで初自家製たこやきを作ってやるから、お前は見て学ぶと良い!」
シャキンッ
「えー?んな事言って失敗しそ〜」
「ふっ、そうなった所で料理に失敗は付き物ゆえ問題ないさあ!…いくぞ!」
ちょんちょん。ついっ。くるん!
「できた…!」
「「おおっ…!」」
「それじゃあ僕も…」
ついっ。くるん!
「あ、少し崩れちゃった」
「大丈夫だ、ちゃんとたこやきだぜ!」
「…うん!そうだね!」
「じゃあ俺も俺も〜」
ぐさっ!ぐちゃぐちゃ…
「…あれっ?」
「またもんじゃ焼き錬成してる…」
「力加減へったくそだから…」
「っふん!良いもん!俺食べる係だしぃ!」
「カラ松とチョロ松のふたりで仲良くつくればぁ?」
「拗ねた…」
「いいよ、ほっとこう。結局妖怪には向き不向きってのがあるから…」
「ふっなるほど!オレとチョロ松はたこやきを作る才能があるって事、だな…!」
「なんていうか、しょぼいねその才能」
「ん〜」
「ともかく残りもひっくり返しちゃおう」
「そうだな」
ひょいっ、ひょいっ、ひょいっ、ひょいっ…
「…ほら、おそ松」
「あん?」
「できたから食べなよ」
「…わーい!いっただっきまーす」
「うんまっ!!!!!!」
「おかわり」
「早っ!」
「任せろ、油敷くぜ…!」
「そう急がなくていいと思うよカラ松、最初はゆっくり味わって食べた方が美味しいよ」
「たしかに!よし、いただきます!」
「…っっ〜おい、っっしい…!」
「まさに外はかりっと中はとろ〜りで絶妙な火加減だぜ…!それに揚げ玉が良いあくせんとになってすごく美味しいきゃべつも入っているから栄養面でも嬉しいな」
「相変わらず美味しいもの食べると饒舌になるんだね」
「ふふ、食れぽと言うんだぜ…!チョロ松も食べてみろ!うまいぞ!」
「そう?じゃあお言葉に甘えて…いただきます」
「あ、本当だ…!美味しい!本場のたこやきには流石に劣るでしょって思ってたけど、これまでの苦労がある分それよりずっと美味しく感じられる…!」
「そうだろうそうだろう、時には疲労も良い刺激になるのが料理ってものだぜ…!」
「じゃあたこやきがうまいの俺のおかけじゃん!」
「いやそうは言ってない」
「調子乗るな」
「ええっもうほんっとひどいな〜」
「少しは反省しろよ元凶…」
「な〜にいってんの反省したら俺じゃないっしょ!」
「よし、おそ松は次のたこやきは抜きな」
「せいぜいそこに座って僕らが美味しそうに食べるの見てろ」
「はっ嘘だろ拷問にも程があんだろ」
にっ
「「きーこえーませーん」」
「ちょっとぉお!!!!!!」
がぁ〜…ぐごぉ〜…
「食べたな…」
「食べたね…」
「…おそ松の奴、まんぷくになるなり直ぐに寝落ちして…いびきうるさいな…」
「そうだけど…お腹いっぱいすぎて、どうでも良くなってきたぁ…片付けなんてさぼって寝ちゃわない…?」
「んーまあそうだな…明日チョロ松がこびり付いた生地とか取るの手伝ってくれるなら…良いぞ…」
「ふっふっふ僕を誰だと思ってるの?浄化の専門家大天狗様チョロ松だぞ…」
「おおそうだったな実に頼もしい…まかせた」
「ふふん、そうでしょ…ぴかぴかにしてしんぜよう……」
「…ふふっ」
「あ…何?僕何かへんなこといった?」
「いや…なんか少し、このまま寝たらお泊まり会みたいだなって…思ってしまって…」
「泊まるってのは自分の家以外に宿取る事、だろぉ…?長い事居候してるお前らの家が此処じゃないってなら他に何処にあるんだよ…?」
「そうだな…そうだよな…!すまない、へんなこといっちゃったな…」
「うん…あ、やばいぃ…すごいねむけが…」
「ふっ、じつはオレもだ…おやすみだぜぇ…」
「おやすみぃ…」
その声を最後に、三者三様の寝息の音が独特の音色を奏でながら宵闇に溶けていった。
妖怪達はそれぞれ満足気に眠りについたのだった。