龍と追憶「辰年だねいちまつにいさん!」
「辰年だねぇじゅうしまつ」
「辰といえばさ!にいさん竜見た事ある?ていうかそもそも実在すんの」
「……うん、実在するし会ったこともあるよ」
「そうなんだぼくも会えるかな〜!」
「ふふ、いずれ会えるよ」
「それは予言?予言っすかいちまつにいさんの」
「さてどうかな〜」
陽の光の差す庭で、弟達がそんなことを話していた。辰年、竜、龍、か……。
俺が知る唯一の龍の妖、応龍。それは天上神に属する気高い種であり、同時に悲運な存在でもある。
隣国から蛟龍が渡来した後にこの地で独自の進化を遂げ、蛟と相成った果てに、蛟から応龍へと成れる存在は唯ひとりに限られるようになったらしい。
しかしその応龍も、毒されてしまえば天上へと行く事は叶わなくなるほど、神よりよっぽど妖怪に近い存在だった。
だから蛟一族は、尊い応龍様が地上の穢れを知る事を断固として阻止する為に応龍様を特別な神社に祭りつつも社から決して出ることの無いよう封じ込めたのだと。
『壱松は将来、絶対に応龍になるわ』
壱松の母親である彼の御仁がそう言っていた。
たったひとりの当主の血を引く存在である壱松はまず間違いなく蛟から応龍へと進化するらしい。
『私は当主様御夫妻……壱松の本当の御両親から、彼を社から連れ出すように命を受けて此処に流れ着いた』
『私は大恩ある彼の御仁らに報いる為にも、何としても壱松を守らなくちゃいけない』
『でも……もしも私が、あの子を守りきれなかったその時は』
『あなたが壱松を守ってあげて』
……あれから、蛟一族が壱松の所在に勘づいた様子は無い。……今の所は、だけど。
俺はちゃんと壱松のことを、弟達の事を守ってやれてるだろうか。
大事に思ってやれてるだろうか。
家出してから捨てたも同然の、本当の弟とは違って……。