僕の番だね「寝るな、村雲」
ドライヤーから吹き出す温風の向こうでそう呼びかけられて、半分夢の世界へ逆戻りしかけていた村雲江は、はっと顔を上げた。いつもより厳しい声を出した松井江を鏡越しに上目遣いで見詰める。
「でも、頭があったかくなると、眠たくならない?」
「今、寝落ちたら本当に遅刻だよ」
「はぁい」
取り付く島もない松井に、村雲はしょんぼりと俯いた。
朝食の後、私室でくつろいでいるところに村雲が半べそで飛び込んで来た時は、松井だけでなく同室の桑名江も随分びっくりさせられた。
「寝癖が直らないんだよ。これから遠征なのに」
確かに、村雲の鴇色がかったフワフワの髪は右側の一部だけが妙なはね方をしている。
「頑張ったのですが上手くいかないのです。松井、どうにかなりませんか?」
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