鬼交鬼交
「孕ませたのはおまえか」
実家の門扉をくぐり、玄関先に立った途端にそう叫ばれ、あろうことか拳が振り下ろされた。意味もわからぬままに甘んじてその拳を受けるつもりもなく、驚きとともにその拳をかわしていた。
帰着の挨拶よりもさきに繰り出された拳にはたっぷりの怒りがのせられていて、何のことだと思わずにはいられなかった。
「どうされたのです、父上っ」
怒り心頭に発したまま、更に殴りつけてこようとする父に慌てて声を掛けた。
「どうもこうもないっ、おまえがっ」
怒りは凄まじかった。父の語尾が震えていることにただ事ではない雰囲気を感じ取った。
「どうしたのです」
わからぬまま、父に問い直した。それと同時に弟の姿が見えないことに気が付いた。いつもであれば玄関先で俺自身を迎えてくれるのは父ではなく、弟の筈だ。
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