黒狐嬰の限界子育て(姑蘇藍氏大混乱)最近産気づいたある狐…姑蘇藍氏、かの含光君の同侶は考えた。己の住んでいるこの場所は今、婚姻を結ぶことすら難儀する少しばかり息苦しい状態にある。
万が一にもこれから産もうって時に難癖をつけられでもしたら…その時の己の精神的余裕次第で憤怒しかねない。
「それはマズイ」
善は急げと支度を整え、簡素な書き置きを残した狐はひとつ大切なことを忘れていた。
「うぇ…うぇい、いん………」
藍湛っては魏無羨を前にするとポンコツになりがちである。(本人談)
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姑蘇藍氏の子弟達に大人気の黒狐…魏無羨の行方不明に心を痛めていたところ、夜狩へ出ることになった子龍達は帰路にあった。
「魏先輩…お帰りになってたりしないかな?」
ぽつりと一人の子龍が呟く。
「…もしそうだったなら含光君が伝令をくださっていたと思う…」
「思追…」
件の夫夫に育てられた義息、藍思追を藍景儀が慰める。
景儀と共に小双璧と呼ばれる思追。
いつものやわらかな、しかし凛とした佇まいは今や見る影もない程に悲しみが滲み出ている。
(魏先輩…あんた今なにしてるんだよ…)
いつも誰かの為に無茶をする狐が何の理由もなく、心底可愛がっている息子を悲しませる筈はないと皆理解していた。
だからこそ長い間姿を見せないことが不安を煽る。
小双璧が金凌に文でも出してみようかと算段をつけていたその時。
「せ、先輩、あれ…」
顔を真っ青にした子龍の一人がすれ違った徒人の男を指差した。
「こら、人に指を…」
瞬間、青ざめる。
視線の先、向こう側へと歩いていくのはどう見ても無辜の民である。
何一つおかしなことは無い。
にも関わらずその男が身に付けた襟巻に全員の目が釘付けになる。
大きくてふんわりとした輪郭に、たっぷりとした手触りの良さそうな艶のある漆黒の毛皮。
「羨、哥哥の、尾…っ!」
力尽き…
いずれ入れたい文章⤵︎ ︎
「あやつの尾が減っているところなど…屠戮玄武との闘い以来ではないか…?」
全く余計な一言である。
しかしあの藍啓仁の口から重々しく放たれた一言で皆に激震が走った。