柔らかな願い「夏油さんへのお土産です」
昼下がりの事務所で七海が寄越してきたのは、日本酒と思わしき瓶だった。
「つる……れい?なあ、これなんて読むの」
「かくれい。新潟のお酒です。あなたでも読めない漢字があるんですね」
「酒の銘柄なんて知らねーっての。え、新潟行ったの?」
「ええ、そうですよ」
それがなにか、と言いたげな七海に、僕へのお土産はと聞けば、ありませんという冷たい言葉だけが返ってきた。
「七海、ほんと旅行好きな」
そう呟きながら、彼がそうしている理由みたいなものに実は心当たりがあるので、口から言葉を出した途端、妙な気まずさみたいなものを感じて、今のは言わなくてもよかったな、なんて柄にもなく思ったりした。
「いけませんか」
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