第1話「宇宙からの届け物」「も〜〜!あの鬼上司、上がる直前にあんなに仕事持ってきて絶対許さないんだから!」
花の金曜日だというのに上司に仕事を押し付けられ暗くなってしまった帰り道に愚痴をこぼし、綺麗に揃えられた茶色のボブヘアーを揺らして歩く私の名前は鍵閉梨名(かぎしめ なしな)。
「なにこれ。」
いつもの通りを歩いていると道の真ん中に薄汚れたピンク色のぬいぐるみを見つける。
「触覚……?みたいのあるし宇宙人のぬいぐるみ?こんなところに落ちてたら車に踏まれちゃうかも。」
夜も遅く今から交番に届けるのも悩ましく、なしなは1度家に持ち帰り明日の朝交番に届けることにした。
「持って帰ってきたはいいけどこんな汚れた状態じゃ落とした子も落ち込んじゃうわよね。よーっし!私があんたを綺麗にしてあげる!」
濡れたタオルを絞りぽんぽんと軽く汚れた部分を拭き取っていく。ぬいぐるみにしてはもにもにと柔らかい不思議な感触が癖になる。
「ちゃんとご主人様のところに帰れるといいね、おやすみ〜。」
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朝の明るい日差しを感じ目を覚ます。
昨夜拾ったぬいぐるみが動いてるような気がして数度目をこする。
何度見直しても変わらないその姿になしなの意識が覚醒する。
(ぬいぐるみが浮いてる、ってか動いてる?!)
「あっ!起きたポコ!おはようポコ!キミがポコを綺麗にしてくれたポコねありがとうポコ!!!」
1つしかない大きなまん丸の瞳とピンク色の触覚を揺らしポコポコと子供のような高い声でなしなにぬいぐるみが話しかける。
「ぬいぐるみが喋ってるーーー!!!」
「ポコ?!ぬいぐるみじゃなくてポコだポコ!ポコは世界の平和を守るため宇宙の果てからやってきたポコリーヌ星人なんだポコ!キミもプリキュアになって一緒に世界を救って欲しいポコ!」
「キミじゃなくてなしな……じゃなくて!ごめんね私この後やらないといけないことがあるの。だから一緒に世界は救えない?から、そこの棚にオモチャとかがあるから好きに遊んでて。」
自身の疲れからくる幻覚ならすぐ消えるはず、そう思いなしなはひとまずそのぬいぐるみの目線を別へと誘導する。
「なしな!なにしてるポコか?プリキュアになるポコ!?」
どうやら幻覚ではないらしいソレ、がなしなにまた話しかけてくる。
「…あのね、今は仕事で必要な発表の練習をしてるの、本番で緊張しないようにね。」
「キンチョー?」
「恥ずかしいってこと。」
「はずかしい!なにがポコ?!」
「たくさんの人の前でやることが、よ。」
「見られるのはキンチョーするポコ!まっててポコ!」
そう言って先程自由にさせていた折り紙とクレヨンを使ってなにかを作り出す始める。
「これがあればなしなはキンチョーしないポコ!!プリキュアにもなれるポコ!!」
クレヨンで書いたであろう可愛らしい笑った顔がついた黄色い折り紙をなしなに差し出す。
「……ふふっ!プリキュアにはならないけど、なにしてるのよポコ。」
小さな生き物の純粋な優しさに笑顔がこぼれ無意識にポコをそっと撫でる。
なしなが笑ったことが嬉しかったのかもっと喜んでもらおうとポコが何かをまた探し出す。
「なしな!なしな!これも持つポコ?かわいい黄色いぬいぐる「これはダメ!!!」」
ポコが持ってきた人形を取り上げとっさに隠す。なしながなぜ声を大きくしたのかわからずポコが少しだけ悲しそうな顔をする。
「あ……ポコに怒ったわけじゃないの、急に大きな声を出してごめんね、お腹空いてない?私なにか買ってくるから。」
罪悪感を隠すように早口でポコに話しかけ黄色いドレスを着た人形を棚に置き急ぎ外に出る。
下を向きながら道を歩き、あの人形の事を思い出す。
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「ママ!なしなもあの子みたいにわるいやつとたたかってみんなをまもるまほーしょうじょになりたい!!」
可愛い衣装を着て正義の味方として戦う少女達がテレビに映り、それを見た幼いなしなが母に夢を語る。
「なしなちゃん!ママが何度も教えてるでしょ?女の子はお淑やかじゃないとだめなのよ。スカートを着てあんなに動き回るなんてはしたないわ!」
威圧的な口調で拒絶の言葉が放たれる。
「……ごめんなさい。なしなこの人形とお家であそぶ。」
「ううん、わかってくれればいいのママはなしなちゃんのために言ってるんだからね。ほらこの黄色いお人形さんとっても可愛いでしょう?」
なしなが謝り、黄色い人形を抱き締めれば母はそれでいいと満足気に笑っていた。
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一人娘として母の理想を押し付けられた日々、良く言えば大事に、言い換えれば過剰なほどに母のその理想に締め付けられ育てられた。ずっと家で人形遊びをしていたあの黄色いドレスの人形。
私にとってはあまり良いものではなく、ポコに触れられつい大きな声を出してしまった。
母から逃げる思いで上京までしたというのに未だになしなはそれを手放せずにいる。
「久しぶりに昔のこと思い出しちゃったな。プリキュア……世界の平和を守るってことは、昔テレビで見たあのヒーローみたいなものってことよね。」
幼少期を思い出し泣きたくなる悲しいような気持ちにもなりながら落ち着いてきた心を胸に玄関の扉をくぐる。
「ただいまー……!ポコ遅くなってごめんね飲めるかわからないけどジュース買ってきたよ?」
家を出る際とはうってかわり静まるかえる部屋をドアを開ける。
「ポコ?」
部屋の中にポコはおらず窓は空いており、ポコが持ってきた黄色い紙と見覚えのない虹色のパスケースだけが風に吹かれ床に落ちている。
(私が怒ったから?探さなきゃ!)
ジュースを投げ置き黄色い紙とパスケースを手に取り鍵もかけずに家を飛び出る。
「ポコっ、ポコー!!」
なぜだかわからないがいつもは行くこともない人目のつかない公園その場所が思い浮かびそこへ走り出す。
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「お前ポコリーヌ星人だろ、プリキュアでもないくせにこんなことろまでのこのこ着いてきやがって。」
なしなの帰りを待つポコが悪い気配を感じ窓から外へ飛び出すとそこにいたのは大きな敵の姿。
「ポコがついてこなければ他の地球人をおそうつもりだったポコ!許さないポコ!」
「こんな状況でよく大口が叩けるな!」
怪物の姿とその片手でギュッと握り潰されかけているポコの姿を見つける。
「ポコを離して!!」
「なしな!逃げるポコ、こいつらはプリキュアの光の力じゃないとやっつけられないポコ!ポコは大丈夫ポコ!」
2mをゆうに超えるであろう異形の姿に足が震える。
(なにあれ、怖い、でも泣いてるあの子を助けなきゃ。)
「ポコ!私どうすればいいの、どうすればプリキュアになれるの!」
「なしなっ……!ポコと触れ合ったあの時からもうキミはいつだってプリキュアになれるんだポコ!そのカラフルアミュレットを持って!!自分の心が教えてくれるポコ!」
ポコが言うカラフルアミュレットとはきっとこの虹色のパスケースの事。それをぎゅっと握りしめる。
(自分の心?私の心は…『女の子なんだから…』ううん、そんなの関係ない、ワタシはお母さんの子どもの前に︎︎ ︎︎ ︎︎" なしな "なんだから!)
「ワタシはポコを助けたい。だから、お願い!」
『あなたの(ワタシの)心アンロック!!』
頭には錠前の髪飾り。あの人形を思い浮かばせるような黄色いふんわりとしたスカート。どこまでも高く飛んでいけそうな大きく華やかなリボン、そして顔にはどんな悪意からもワタシを守ってくれる、あの子が、ポコがくれた黄色い顔隠し。
「これが、ワタシ…?」
可愛らしい衣装と共に信じられないような大きくあたたかな力が湧いてくる。
お母さんごめんね、ワタシはワタシのために戦うから。
「ポコを離しなさい!!もう絶対許さないんだから!!!」
【錠前オープン渚!キュア錠前誕生!!】
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「錠前〜〜パ〜ンチ!!」
「ポコ!ちょっとー!こーゆーのって普通必殺技とか出るんじゃないの?!」
「キャー!」
「思ったよりワタシ、強くない、かも?!」
「な、なしな?」
「ポコ大丈夫ポコきっとこれからいっぱい強くなれる…はず!ポコ」
「なしなが強くなれる鍵を見つけるんだポコ!探しとキーなんちゃってスペースジョークポコ!」
戦いの最中だというのに素晴らしいヒラメキをしてしまった!と目を輝かせ言葉を続けるポコ。
「なしな!世界を救えるのはキミしかいないポコ!……たぶん?」