プロローグぽこっぽこっぽこ。どんよりとした色をまとってもちもちしたモノが地面を歩く。
体と同じくピンク色をした頭部の中心から生える触覚は下を向き1つしかない大きな瞳からは常に涙がぼろぼろと零れる。
「フガぁどこいるんだポコ。ごめんなさいするから出てきてポコぉ〜。」
今はここにいないオレンジ色の大好きな友達の名前を呼ぶ。
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「あなた達のお仕事はチキュウに行って一緒に戦ってくれるお友達を探すこと!それでチキュウの平和を守るのよ!」
「ポコ!」「フガ!」
元気よく2つの声が返事をする。
「ほんとは私も行きたかったのに……。」
最初の声がもごもごと言葉を1度呟き、切り替えるように2人に向き合う。
「ポコとフガがちゃんとチキュウに行けるように宇宙船の設定はしてもらったからね!赤いボタンは緊急停止!青は〜。」
「青は?」
「いけいけっごーごー!☆」
「広いポコーー!お外も綺麗ポコ!!」
「ポコちゃんとシートベルトをして座らないとだめフガよ!チキュウにはすぐ着くんだから。」
「わかってるポコ!」
きらきら流れる惑星の海を眺め大きく返事をしてもまだ嬉しさに体のそわそわとした動きが止められないポコが触覚を揺らす。
ぽちんッ。
「ポコ?」
揺れた触覚がナニカに触れ、青いボタンが音を立てて沈む。
「「わーーーー!!!」」
宇宙船が先程比べ物にならない速度で地球に走る。
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「わぁ!見て流れ星!」
「え、あれ流れ星?」
「すごく速かったしきっと流れ星だよ!お願い事した?」
「……今日のご飯に野菜がありませんように、かな。」
「今日はお野菜たっぷり具だくさんの豚汁なんだけどな〜。」
「うぅ……人参はあげる。」
「もう!でも1つは食べようね。」
夜空を眺め買い物袋を抱えた2人の影が歩幅を合わせ会話をする。
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目覚めるとポコはポコリーヌ星によく似た緑の地面に放り出されていた。宇宙船は見えず、フガの姿もない。
「ポコ?」
『ちきゅうのほん!』
衝撃でくしゃりと折れ曲がった手書きで書かれた1つの紙をポコが取り出す。
①ちきゅうはポコリーヌ星にそっくりです!
②でもフガとポコみたいな子はいなくてしゃべるとみんなびっくりしちゃうみたい!←だいじ!
③がんばってね!おみやげまってます!
「な、なんて、ほんなんだポコ!」
紙を掴んだ小さな手がぷるぷると震える。
「でもポコは頑張れる子なんだポコ!まずはフガを探すポコ!!!」
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そうしてポコの戦いは冒頭に戻る。
フガだ!と飛び込んだおもちゃ屋では小さな子供に「ママ!うちゅーじん!」と指をさされ
「違うポコ!ポコだポコ!」と叫び逃げ走っていく。
くぅ…きゅるるるる。
小さな体から可愛らしい音が鳴る。
「おなかすいたポコ…ぐすんっ。」
香ばしいような、なんと形容すればいいのか、とにかく食欲誘われる匂いがポコの体を通り抜け、誘われるままに疲れきった体が走り出す。
チキュウの人が白色の紙に包まれた茶色い物を手に持ち美味しそうに口に運ぶ。
「ぽ、ぽこ〜!」
ポコの口からじゅるりとだ液が垂れそうになる。
「はっ!もしかしてこれなら!」
くしゃくしゃになった『ちきゅうのほん』そこに一緒に挟まれていたキラキラ金色に輝き、真ん中に穴の空いたモノ。チキュウのおかね!らしいポコ。
布を頭から全身に被りコソコソとそのお店に近づく。
「こんにちはポコ!!」
「あらぁこんにちは。元気の良いお嬢さんね。どうしたのお使いかしら。」
店番をする年配の女性の角度からは小さなポコの姿しっかりとは見えず、軽やかに会話が続く。
「あの、さっき、茶色のまんまるの。」
「うんうん。コロッケかしら?」
「これで買えるだけ欲しいんだポコ!!」
そう意気揚々とポコが布の隙間からお金を差し出す。そう地球の五円玉を。
もっしゃもしゃ。
「ごめんねぇ~それだと買えないのよ。えっとそれがあと10個位必要なの。」
申し訳なさそうに話す女性の言葉はポコをショックのあまり石像にするには十分すぎるものだった。
「あ、でもせっかく来てくれたんだし良かったらこれ持って行きなさいな。」
ポコの両手にはうまん棒と書かれたお菓子が2つ。
ポコの石像化はすぐに解け、ご機嫌に貰ったお菓子の1つを口いっぱいに頬張る。
「おいしいポコ!こっちはフガの分。」
カサカサっ、ポコの目の前の草が音を立てて揺れる。
「フガ?!」
期待の眼差しをむけるポコだが草から顔をにゅっと出したのは別の生き物。
「ネコチャンぽこ!絵本で見たポコ!こんにちはなんだポコ!!」
ポコが元気いっぱい挨拶をする。
「ャッ。」
「だ、だめポコ!それはフガのやつなんだポコ!返してポコーー!!」
ネコは食べ物としてではなく遊び道具としてその光に反射するパッケージをポコの手からパンチではじく。
ポコが甲高い声をあげ、転がるお菓子を追いかける。
高い草を飛び超え、その先は急な下り坂。
「ポ、ポギャーーー!!!」
転がり続けた最後、視界は暗転しポコは力尽き地面に倒れる。
「なにこれ。」
たまたま通りかかった1人の女性が意識の途絶えたピンク色を拾っていく。
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凄まじい衝撃の後フガが目を開けると宇宙船の窓がポコを縁取るように割れており、そこでやっとポコがいないことに気づく。
「だからシートベルトはちゃんとしてって言ったのにフガ!!」
着陸した宇宙船の周りをポコの名前を呼び探し続けるが返事はない。
「ポコ…ポコ。」
ぽすんっ、下を向き歩くフガが体温ある何かにぶつかる。
「わっ、ごめんなさいフガ。」
ポコを冷たく見下ろすのはオレンジ色の髪を2つおさげにした1人の女性。
「オマエ何者アルか。……悪いヤツなら容赦はしないネ。」
ピンッと2つの耳を立たせるフガを強く鷲掴みにする。
「ぅ違うフガ!フガはこの星にプリキュアになってくれる子を探しに来たんだフガ!」
「プリキュア…?」
握っていた手を離す。
「そうフガ!」
フガが女性の顔を見る。
「あれ、あなた、え?」
「信念も何も無いプリキュアが何人いても意味ないネ。無駄なことする前にさっさと帰れアル。」
女性が来た道を振り返り小さく呟く。
「全部我1人で十分アル。」
消えていった後の暗闇をフガがただ呆然と見る。
はっと我に返り。探索を再開させようともう一度ポコの名前を呼んだ。
「ポコ〜。」