第11話「」「きっとET星人はまた私達の前に現れると思うの。」
そうセレナーデが震えていた瞳を開ける。
光の消えない街。眠らない街。
その東京には珍しい手入れのあまりされてない寂れた街灯が夜道を点滅させる。
「共ポ。」
「わかってるネ。」
「e~~~~t~~」
わかめだと共ポジの前に現れたのは小さなその背に不釣り合いな長い腕をこちらに突き出し笑顔向ける不気味なその茶色い姿。
『Let’s共産主義』
『鮮やか緑を届けちゃう』
1つの呼吸の間を置いて2人がプリキュアに変身する。
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「それなら我とわねかだが囮になるアル。」
セレナーデの呟きに共ポジが言葉を返す。
「そんなのだめだよ!みんなで戦わないと!」
はっと顔を上げ共ポジを見るセレナーデに手を突き出し共ポジが続ける。
「話は最後まで聞くアル。攻撃をする術がなくてもわねかだの魔法を使えば攻撃を直接受けることはない、それが間に合わない時は我がサポートできる。」
「岩波オマエがアイツを倒すアル。」
伸ばした腕からの攻撃を魔法を使い必死に防ぐ。
「うっ!」
植物でなびき逸れた攻撃が横の塀に当たり、大きく窪みができる。
「こんなの直接当たったらたまったもんじゃないっての。」
「わねかだ!次が来るネ!」
共ポジの攻撃に頼れない今、相手の攻撃を受け流すのが精一杯。やっぱり強い。
でも私達の役目は違う。
「共ポ!頼んだ。」
風のような速さで共ポがクレソンの首元を掴む。
「うぇっ…!」
「も、もっと優しく持って欲しいんだけど!」
「こんな時にわがまま言うなアル。」
そのままクレソンを米俵のように雑に肩の上に担ぎ共ポジが走る。
走る共ポジ達を追いかけET星人も河川付近へと近づく。
海のように澄んだ水が3人の横を流れていく。
「こんなとこまでご丁寧に着いてきてくれてどうもありがと。」
「錠前!!」
共ポジが聞こえてきた声の名前を呼ぶ。
『あなたの心ア~ンロック!』
『あなたに愛のメグミルク!』
「ここであったが100年目!あの時の借り!返しに来たわ!!」
「なしなさんそれ絶対悪役のセリフですよ?」
錠前が片手を腰に片手をET星人へと指先を向ける。
隣に立つユーロにつっこまれながら。
ET星人がずっと続けていた不気味な笑みを不機嫌そうに止める。
「e~t~?」
「私だって…!」
みんなと戦う覚悟を決めた。開いた瞳に直接あの姿が映る。やっぱり…やっぱりあの時の怖さが少し蘇ってしまう。
そう震えそうになる指先に小さな温かさが触れる。
「ポコも……フガも!ちゃんと隣にいるんだポコ!」
あの日の喧嘩をした日からポコとフガは言葉を交わしていない。それでも今はただ、2人が私のそばに居てくれる。
「そうだったね!もう私ったら忘れっぽいんだから~!」
小さな2つの手を優しく握り返す。
さあ、戦おう!プリキュアとしてみんなの友達として!
『今宵も聞こえる波の音。あなたの心もセレナ~デ!』
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「錠前~~パ~「錠前!だめアル!」
「!そうだったちょっとズルくないーー?」
ET星人の攻撃を防ぐ、カウンターで直接的な攻撃を仕掛ける。ただそれができない。今までの敵とは違うその戦い方にプリキュア達が苦戦を強いられる。
急な視点の転換。
サポートに回るユーロに狙いを定めET星人が腕を振り回す。
「わっっ!」
衝撃によりユーロが後ろへ大きく吹き飛ばされる。
「ユーロ!」
「ユーロさん!」
「私は大丈夫です!でも…わかちゃんが。」
砂煙が消えたその先ではユーロが壁に打ち付けられないよう自分の身をもってユーロを衝撃から守るクレソンが小さく呻きを洩らす。
「うぅっ……。」
ET星人が笑う。
疲れる様子を見せることの無いET星人に消耗戦を続けていればプリキュア達が不利になるのは目に見えている。
「わかめちゃん!」
「みんなお願い!あと少し私に時間をちょうだい!」
いつもの力じゃ全然駄目だ。あの敵を倒すためには私のこれまでを超える魔法を込めないと。
気持ちを。力を。想いを。全てを1つに。
セレナーデがステッキを祈るように握る手に力を込めそこに2人の妖精が同じように手をかざしていく。
「岩波達もたまには真剣にやるネ。」
「ワタシ達も頑張らないとね!」
「わかちゃんをよくも!私仇をうちます!」
「ねえまだ元気なんだけど!」
プリキュア達と戦い続ける。
ET星人はその能力も長い腕から繰り出される身体的な攻撃を含め全てが強かった。だからこんなに長い時間戦い続けることは幽閉される前の期間にも存在はしなかった。
どうせ今回も勝つのは自分だ。ただそこに少しの驚きと焦りがないとは言いきれなかった。
だから気づけなかった。自分を取り囲むその球体の正体に。
「et?」
『シャボン・ナ・バブル!』
セレナーデが大きく声を上げステッキを振り上げる。
じゃぶじゃぶとお城の大きなお風呂に入りポコとフガと遊んだあの思い出の泡達が溢れて広がって、光に反射し虹色に輝いた大小のシャボン玉達が大きく弾ける。
「フガをいじめたこと、ポコを泣かせたこと、みんなを傷つけたこと私あなたにたっくさん怒ってるんだから!!!」
「e~~~~tっ~~~!!!!」
ET星人が大きな悲鳴とともに衝撃にその身をのまれていく。
「はぁ、はぁ、ポコ!フガ!みんな!私達やったよ!ET星人を、倒せたんだ!」
セレナーデの笑顔と共に瞳から涙が零れる。
「セレナーデだめだポコ!」
ポコが私の名前を呼ぶ。
力を出し切り脱力したセレナーデに向け、ET星人が最期の力振り絞り長い腕を伸ばしていく。けれどセレナーデに届き切るその直前、フガが大きく自身の体を走らせET星人へ強くタックルをする。
「et。」
「みんなありがとうなんだフガ。」
バシャン
大きな飛沫を上げてET星人とフガが水の中へ沈む。
「フガ!!!!!」
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「ねえポコ、もし本当に記憶が戻ったら今のフガはやっぱり消えちゃうのかな。」
チキュウへ来る前、フガが目を覚ましてすぐの頃隠れてすすり泣くポコの姿がそこにはあった。
いつのまにかその事でポコが涙を見せることは無くなっていたけれど。
「それでもフガはポコと居られて本当に嬉しかったんだフガ。」
「今までありがとう。」
色の消えた黒い影のような姿が暗い水の底へと沈んでいく。
だいじょうぶ、きっと次に目を覚ました時ポコの、みんなの隣には記憶を取り戻した本物のフガがいるはずだから。
後は泡になって消えるだけ。あの絵本の、人魚姫のように。
「そんなスペースジョーク全く面白くないんだポコ!!」
沈みかけた体を許さないというように誰かの声に導かれ強く手を引かれる。
「フガは頭がいいのにとっっても!バカなんだポコ!!!」
(ポコ……?)
「ポコはフガのことが大好きなんだポコ!」
「一緒に初めてアイスを食べて、地球の絵本を読んで、夏祭りして!遊んで!プリキュアのみんなと戦ったのは今!ここにいるフガなんだポコ!
だからお願いもう二度とポコからフガをとらないで。」
拭うこともせず涙で溢れた1つの瞳を眠るフガの身体に向け強く声を上げる。
ポコそんなに泣いたら触覚まで枯れちゃうフガよ。
今すぐ声をかけてその涙を拭いたいのに今の自分にはかける声も姿もなにもない。
そんな影の前に、光に反射して栗毛色にも茶色にも見える柔らかそうなふわふわの長い髪を誰かが揺らす。
「なんだか大きくなったと思ったのにポコはやっぱり泣き虫なんだフガね。」
そしてそのままフガの額に優しくキスをする。
「本当は王子様の役目なんだけど、こんなのもたまには悪くないと思うの。」
「おはよう、フガ。」
「はやく泣き虫さんの傍に行ってあげて。」
「大丈夫フガ(あなた)はフガ(私)だから。」
ぱちぱちと心地の良い泡に包まれてフガの黒く影に濡れた姿が鮮やかに綺麗な元のオレンジ色に染まっていく。
ぱちりと目を開けて1番にオレンジ色の小さな手でポコの目元を優しく拭う。
「ポコ。」
「フガ?本当にフガなんだポコ?」
「うん…うん。フガだフガ!実はUFOキャッチャーの妖精のフガなんだフガ!」
「フガ〜〜!!!」
抱き合うポコとフガ。
「ねえポコお願いがあるんだフガ。」
「ポコ!」
「ぽんぽこぽーん!ポコだポコ!」
「ふわふわふわりんフガだフガ!」
セレナーデとポコと一緒に歩いたあの愛おしく美しい故郷の夕焼けの砂浜も、ポコと一緒に考えたアイサツも全部全部思い出した。
やっと一緒にアイサツができたね。
2人が笑い合う。
大きな声とともにセレナーデが両手を広げる。
「フガ!おかえりなさい!!」
「ただいま!おはようなんだフガ!」
「一件落着ってこと?」
「そうみたい。」
「やっぱりアイツらは2人揃ってないと気が狂うネ!」
「お祝いのご飯作りましょう!」
抱きつくポコリーヌ星の3人を眺め地球の4人がまた笑い合っていた。
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暗い暗いお城の中
キラキラ小さな光の粒がウヅゥを優しく照らす。
いつもとなにも変わらないはずの気怠い不愉快な目覚め。
あれ 違う わたしは
「パリン?」