第3話「雨後の星」「クレソンからクレソンと違う魔法を感じるフガ!」
「わねかだ!オマエいつもご飯あんだけ食べといてユーロのこと忘れるなんてありえないネ!我が目を覚まさせてやるネ!」
『Let’s共産主義』
共ポジが変身と共にその素早く鋭い打撃を繰り出す。
「バァ〜カ、お姉ちゃんの魔法は宇宙一なんだから!この子はもうアタシたちのものなの、アタシ達を守るために命だって捧げてくれる素敵な素敵なお人形になったんだから!」
しかしその攻撃が目標としていた少女達に当たることはなく少女の前に進み出たクレソンが発動させた盾の魔法によってその攻撃は防がれる。
「クソっ、わかめだ!」
衝撃により弾かれた共ポジが受身を取りなしな達のもとに戻る。
「ワタシたちも…!」
『あなたの心アンロック!』
『あなたの心もセレナーデ!』
錠前とセレナーデもカラフルアミュレットに手をかざしプリキュアへ変身する。
「ねえ、わかめださん、私達の邪魔をするあの子たちと戦ってくださる?私達のために。」
「うん…いいよ。私は貴方達を守るから。」
変身したプリキュアに1度視線を向けウヅゥが後ろからクレソンを抱きしめそれに答えるようにクレソンが錠前達プリキュアに暗い緑の瞳を向ける。
それと同時にパリンが林檎を型どった爆弾をこちらへ散らす。
「赤と青のチビはあたしとこの子達で相手してあげる、わかめだぁ、あんたはその黄色い女とソイツ、殺しなさい。」
パリンが錠前とユーロを指さす。
その言葉と共にクレソンが力を込め錠前へと攻撃魔法を発動させる。
「わかめだ私達のことが本当にがわからないの!?」
防御技を主としているはずのクレソンの攻撃がいつも以上に重く感じる。
クレソンの魔法の力は闇の力が加えられたことにより重く暗いものへと変化していた、しかし急激な力の変化に肉体が耐えられるはずもなくクレソン本人も魔法を使う度に傷ついていく。
「わかめだ!!!」
「うるさい。」
弾き飛ばされる錠前。
「なしなちゃん!」
セレナーデが錠前の名前を呼ぶ。
「よそ見してんじゃないつぅーの!」
パリンがセレナーデへ向けて林檎を投げつける。
が、爆発が起こる前に共ポジが林檎を遥か空高く蹴り飛ばし頭上で爆風が舞う。
「岩波前を見ろ!1秒でもアイツをはやく倒すネ。」
「くるっぽーちゃん!」
「おねーちゃんから話は聞いてたけど相変わらず可愛くないヤツ!」
ムッとした表情でパリンが共ポジへ目線を向ける。
「あは、そーだ!いーこと教えてあげよっか?わかめだがね、心壊れちゃったのってそもそもあの錠前ってやつのせいなんだよ?」
仲間のせいなんてカワイソー!ばっかみたい!
そう言葉を続ける。
「何言ってるアル。」
共ポジがパリンを睨むがより楽しそうに言葉を続ける。
「だーかーら。心の中?に入るのは元々錠前の魔法の力なのー!」
「…あれ?これって言っちゃだめなんだっけ〜。まあいっか!どうせアンタ達はここで消えるんだし!」
ニヤリと口角を上げパリンが再度林檎を放る。
普段は盾として、仲間を守るためのその力を剣に変えてクレソンが錠前へ攻撃を続ける。
「っ!!」
痛い。重い。冷たい。ああでもそっか。いつもこういう攻撃をわかめだが守ってくれてたんだ。
錠前の小さな言葉を拾うものは誰もいない。
「ねえ、わかめだどうして何も言わないの。」
攻撃を受けふらつき膝をついた錠前がもう一度クレソンの名前を呼ぶ。
クレソンが焦点のあっていなかった瞳を倒れた錠前に向ける。
「なしな……私…地球の平和とか本当は全部どうでもいいの。私の大切な人が笑って、普通に生きて、それだけで良かった。なのに!それさえ叶わない世界ならいらない、欲しくない。邪魔をするならお願い、死んで。」
自分が何に対して何の話をしているのかそれもずっとわからない、でももうどうでもいい。
だって私の大切な人はもうどこにもいないから。
あ、違う私にはウヅゥとパリンちゃんがいるんだっけ?
「なしな!!」
ポコが錠前の名前を呼ぶ、でも間に合わない。
クレソンが立ち上がれない錠前に対し剣を振りかざす。
『愛と勇気を大きなお鍋でコトコトコト、あなたに愛のメグミルク!!』
クレソンの前には目の前の友達を守るため、クレソンにこれ以上友達を傷つけさせないため、フガから受け取ったカラフルアミュレットを握りしめ給仕服にも似た白と薄い紫の服を纏ったプリキュアとして変身を果たしたユーロが立つ。
「わかちゃんやめて!」
その声を聞き、激しい頭痛に襲われ攻撃が止まる。なにこれ、知らない私はこいつなんて知らない。
一瞬力の発動を止めたものの、ウヅゥとパリンの事を思い出しすぐに攻撃へ切り替える。
変身したといえどプリキュアになったばかりのユーロではクレソンの攻撃を防ぐことはできずそのままの力を体に受ける。
「うっ!!」
「ユーロさん!」
錠前がユーロを呼んだ、ふらついた足元を踏みしめまたクレソンの瞳を真っ直ぐに見る。これ以上あの声を聞いてはいけないと頭の中で黒い警鐘が鳴る。
「わかちゃん。」
今使える全ての力を使って自分の目の前から消さないといけない。
大きく魔法の力を向ける。
それなのに、なんで。
今日初めて戦いに参加したのであろう弱い人間が、傷つくのも構わず自分に近づいてくる。
「来ないで!!」
「わかちゃん!」
気づけばその距離はクレソンまであと数歩の近さになっていた。
鋭い葉がユーロの顔を横切りその綺麗な頬に傷がついていく。そして手の届く距離、受けたのは攻撃ではなく優しい抱擁。
「大丈夫。だから、戻っておいでわかちゃん。」
「やだ、来ないでよ、私、私もう誰もなくしたくないの。」
その体を押し返そうとクレソンが抵抗するがユーロは抱きしめる腕に力を込めそれを許さない。
「わかちゃん、前に教えたよね美味しいご飯は心の健康だって。わかちゃんは今きっととってもお腹が空いちゃってるの!でもだいじょうぶすぐ私が美味しいご飯作ってあげるんだから!だからね、一緒に帰ろう?」
〖「その夢は弟さんの夢だったんですか?」
「じゃーん!今日の夜ご飯はカツ丼です!」
「わかちゃんの好きなクッキー作ったの。」
「もう!またこんなにお酒飲んで!」
「次はどこ行こっか。」
「わかちゃん!」 〗
ユーロの言葉に混ざってしまったはずの色が再び輝きを取り戻す。
私が痛くてもう歩けなくなった時、しゃがみ込んだ私に手を差し伸べてくれたのはユーロ、ゆーちゃんだった。
そんな大切な事を忘れてしまっていたみたい。
雨なのか涙なのかわからない水滴がクレソンの頬を伝っていく。
枯れかけていた頭上の双葉が鮮やかな緑を取り戻しふわりと揺れる。
「ゆーちゃん。」
「ごめん、ゆーちゃんごめん、私ゆーちゃんのこともなしな達大切な仲間の事もいっぱい、たくさん傷つけた。」
「うん、終わったらちゃんとみんなにも謝ろう。プリキュアのこと相談してくれなかったことも私怒ってるんだから!それとね、こういう時はもう一言だよ?」
「ゆーちゃん、ありがとう。」
「どういたしまして!!」
謝罪と感謝2つの言葉を口にしたクレソンがもう二度と離れないようユーロと2人固く手を握り前を向く。
「なにそれ!つっまんなーーい!!言うこときかない人形も、アタシの人形を誑かしたあんたも絶対許さない!!!全員しんじゃえ!!!」
パリンが怒りをあらわにし攻撃の矛先をクレソンとユーロへ向ける。
「ゆーちゃん。」
「うん。」
「私と一緒に戦ってくれる?」
「うん!もちろん。」
互いにボロボロの姿で問いかけるクレソンにそれでも優しく微笑んで返してくれるユーロ。
守りたくて、守れなかったものが私にはあって、自分の弱さに涙し絶望した。
でも大切な仲間が、私を大切に思ってくれるその人がいつだって私の横にいて私と支え合ってくれている事に気づけた、だからもう間違えない。
「ありがとう。」
もう一度小さく呟いた。
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「……あんただけズルい。」
「皆さん御機嫌よう。」
立ち上がったプリキュア達にパリンは悔しそうにウヅゥは少し驚いたような顔を向け戦いの後去っていった。
座り込むわかめだになしなが言葉をかける。
「それでわかめださん、反省の言葉をどーぞ?」
「うっ、なしなごめんなさい。」
「何に対して怒ってるんだと思う?」
「えっ、なしなのことも他のみんなのこともたくさん傷つけた…こと?」
「ばか、あんなに追い込まれるまでなーんにも頼ってくれなかったこと!私だってずっとあんたの隣で戦ってきたのにさ〜〜。」
「それはごめん、これからはもっと相談、するようにする。」
「うん!心配したんだから!!」
「アイヤーー!」
なしなの言葉が終わると同時に共ポジの強烈な手刀が頭に落ちてくる
「イタ゛!!!」
「ふんっ、わねかだの癖に我の攻撃受け止めるなんて数百年はやいネこれで許してやるアル。」
「あんなこと言ってるけどくるっぽーちゃんずっと心配してたんだよ?「岩波!!」それで次は私のデコピンね〜〜!!」
笑顔で走りよってくるセレナーデ。
「ク゛ソ〜〜!ポコーー!!!」
「フガだって!!!」
戦いが終わるまで必死に涙を堪えていたのであろうポコが凄まじい速さでタックルしフガまでも加わる。
「ま、まって!私今ボロボロなの!!」
たくさんの笑い声が聞こえてくる。
わかめだを囲んだその音をユーロが笑顔で聞く。
「わかちゃんは雨が苦手だって言ってたよね。
でも私あんまり嫌いじゃないの。ね、ほら!
雨の後はいつも綺麗な虹が見れるから!」
それにね、雨が好きなのは貴女が本当は泣き虫だから。
これは今はナイショ。
先程まで暗く地面を濡らし降り続いていた雨はいつのまにか止み、澄み渡った空には大きく輝くカラフルな虹がかかっていた。