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    @t_utumiiiii

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    @t_utumiiiii

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    謎時空の泥庭(青髭と怪鳥) ※日記のないキャラ(機械技師)の言動を背景推理等から無理やり捏造してる。

    (5) ピアソンは慣れない手つきで電話帳を手繰り、それらしい工房に電話を掛けて「一番腕の良い技師を」と注文を付けたのだが、翌日やってきたのは、シルクハットを被り全身をそれらしい黒スーツで固めてはいるが、白い色をした顔立ちは幼い程の若い女だった。ハイヒールを履いてこそいるものの、身長はピアソンよりやや低い。
     それが、取次の厳つい男相手に、(若干気おくれするように表情を強張らせつつも)肩肘を張って見せながら堂々と歩き、連れて来られた彼女の立ち姿を見るなり、あからさまに訝って顔を顰めた――しかも椅子の上に偉そうに踏ん反り返っているどころか、椅子に深く腰掛けながら机の上に組んだ足を載せているピアソン相手に、「一番腕の良い機械人形師だよ」と不遜に言い放つ態度は癪に触らないでもなかったが、これで逆に、非の打ちどころのないような偉丈夫が来て、それを例の鳥籠まで案内しないとならないのかと思うと、かえって女の技師というのは、ありがたい存在かもしれない。
     そう考え直したピアソンは初手で睨みつけたところから一転し、天板に載せていた足を下ろすと機敏に尻を上げ、その場で腰を軽く曲げながら、彼が日頃目深に被っている帽子を取って胸に宛がい、それらしい挨拶をして見せた。
    「い、いろいろあってだな、その、片目が利かないんだ。だから、しょ、初対面は、ど、どうしても、顔が険しくなっちまう……」
     生地だけは上質なサテン生地のダークブラウンのシャツに、金の刺繍が入った派手な赤の上着を着て、さらに上着と揃いの色の赤いネクタイを締めている、服の趣味から見ると、落ち着いた、穏やかな性格であるとはとても考えづらい――派手好きの金持ち、といったところの雇用主であるピアソンのその言い分を、表面上は聞き入れてやることにしたらしい技師は、トレイシー・レズニックと名乗った。

     作業場となる件の部屋への道すがら、やたらと天井が高く幅のある廊下を、罠でも仕掛けられているのかと警戒するように、しかし目線だけを動かし、決して建造物の物珍しさにきょろきょろと辺りを見回す幼い挙動を見咎められぬよう努力しながら歩くトレイシーを相手に、電話を取ったあの老人が来るものと思い込んでいた、というようなことをピアソンが漏らすと、「爺さんは腰やっちゃってるからね、持ち込み専門だよ。」と、トレイシーは格式ばった調子や、雇用主へのへりくだりも何もない、こざっぱりとした調子で返す。
     ピアソンはそのざっくばらんな物言いを、しかも腕の良い技能職と言って寄越して来られた、自分と年齢が一回り程違うようにも見える年若い女からされる状況も気に入らず、ついカッとなって怒鳴りつけそうになるのを堪えながら、眉間に深い皺を寄せていたが、辛抱に成功し、その場で立ち止まって睨むような真似まではしなかったため、トレイシーが彼の憤懣に気付くことはなかった。

     ピアソンが技師を連れて部屋に入ると、普段ならただの人形のフリをしてピアソンをやり過ごすに違いない怪鳥は珍しく起きており、片方だけ桃色の花弁に縁どられた具合のくすんだ金色の目が、ピアソンが連れて入ってきた、タイトな黒スーツの人影をじっと見つめる。
     そして、鍵のかかる薄暗い部屋の中で、さらに巨大な鳥籠の中に閉じ込められている、奇妙に着飾らされた彼女のその姿に慄くように目を見開いたトレイシーと目が合うと、彼女は社交辞令程度に微笑み、続いて半ば目を伏せて、ピアソンをじとりと見遣りながら、「その子はどこから盗んできたの?」と、呆れるようにそう言った。
    「う、うるせえな……」
     普段は喋りかけたって寝たふりしやがる癖に、などとピアソンはぶつぶつ続けながら、金色のラインが入ったズボンのポケットから小さな鍵束を取り出す。
    「ひ、人?」
     トレイシーが思わず口に出してそう呟いたのは、彼女がどちらかと言うと臆病で、場の雰囲気に呑まれやすかったから、と言うだけのことではなかった。

     彼女の最終的な目標は、自律型の人形――機械仕掛けの「人間」の制作にある。それ一個体のみで生命を完結する、自律的な意思を持った高度な機械。その目標の達成によって、「不慮の事故」によって不幸にも奪われた、父一人子一人ながらも暖かな家庭を取り戻す、と言う程、ナイーブなことを考える彼女でもない。
     それはそこまで感傷に浸る程でもない単純な話で、ただ、悪意のある能無しどもの卑劣な手で、無残にも中途で断ち切られた、才能ある偉大な父さんの人生を「再開」したい。やりなおしたいという、素朴な願いがそこにあった。
     素朴ではあるが、摂理に反したその境地を目指す過程における副次的な産物として得た機械の知識を、彼女は小遣い稼ぎとして――もとい、機械と人間の合成に成功したと噂される工房の老人に接近する理由として利用していた。

     鳥籠の中に入れられている目の前のそれが、人間であれば、トレイシーが呼ばれたこの状況は(下手をすれば拉致)監禁の現場であって、トレイシーは、できれば穏やかにこの話をなかったことにしたいと思っていたし、目の前のこれが、もしも、人形ならば――機械ならば、それは彼女の目標が目の前に存在していることになる。
    「それとも、まさか、人形……?」
     トレイシーが静かな興奮からにわかに高くなった声でさらに質問を重ねると、それまで彼女の呟きめいた言葉を無視していたピアソンは、何個かあった鳥籠の鍵を全て開け、鎖を手繰りながら(ちったあ手伝うとか考えねえのかこの女)と、これ見よがしに大袈裟なため息を、肩を上下して吐き出しながら「さあな」と言う。
    「あんたが持ち主なんじゃないの?」
     やや非難めいたトレイシーの声色にピアソンは舌打ちをしたものの、返事はしなかった。

     鳥籠の中に設えられた、真紅のクッションにゆったりとした一人掛けのソファの上に座る球体関節人形には、膝から下の足がなかった。膝関節にあたる機構は無惨に打ち壊されていて、トレイシーの雇い主がそれを「じ、事故に遭ったんだ」と言うのを、椅子に腰かけている「彼女」の方が「違うわ!」と高い声で遮った。
     彼女は胸元が大きく開き滑らかに白い肌を見せつけるような、ともすれば妖艶という程のドレスを身につけながら、まるで少女のように、ふふふ、と楽し気に笑い、「ピアソンさんが怒って、私の足を切ったのよ」と、続く言葉のわりに、見掛けばかりはどうにも無害な調子で、小さく首を傾ぐ。細い窓が高いところにあるきりで部屋に光が行きわたらないせいで、昼下がりにも関わらずどこか薄暗い部屋の中で、夜の森を飛ぶ猛禽めいてうっすらと光って見えるくすんだ金色の眼差しが、トレイシーを見つめている。
    「あなたも、注意しないといけないわ。ここに来てはダメ。」
     小鳥の囀るような声で可愛らしく続けられる言葉は恐ろしいものだったし、可愛らしい声で囀る彼女に「よっ、余計なこと、ばかり、い、言いやがって!」と怒鳴りつけ、「じ、事故の、しし、ショック、でさ、気が違ってるんだこいつ。だから、そう、こ、こいつの言うことを、し、信じるなよ。いいか、お前に金を出しているのはこの俺様だ。」と、続けざまに手荒くトレイシーの肩を掴み、「いいな?」と、彼女の顔を覗き込んで返事を強要まではしなかったものの、トレイシーからの真偽を問う質問を許さないような力加減で彼女の肩を握りながら、不機嫌に低い声で念押しをした男も恐ろしかった。トレイシーは近隣の町の人間ではないが、「青髭」の話は、事前に店主から聞かされていたのだ。依頼主は、あのあたりで有名な物狂いだと。
     プロとしての仕事を心掛けるトレイシーの心とは別に、日頃の不摂生からどうにも息の上がりやすい身体の方が勝手に震えあがっていた。彼女はつい一歩後退らないよう、きゅっと下唇を噛んで自分を鼓舞しつつも、シルクハットの鍔で顔を隠せる筈もないところ、それとなく顎を引いて、俯きがちになっていた。時間を忘れて研究に没頭する性質の彼女の、元からあまり血色の良くない顔色からはさらに血の気が引いている。それでも、その場に滞在していることに感じる恐怖を少しでも和らげ、安心を得るために、彼女が自分の臍の上で緩く組んだ手は、折り目正しい黒スーツの袖から覗いているというには、あどけない程震えている。
     奇妙な形の冠――翼を広げる荒々しい鳥のような(あるいは木々を覆う濃い靄のような)輪郭の回りを、咲き乱れた花々が取り囲む、という構図の冠を被る「彼女」は、そのように無言で恐怖と戦っているトレイシーを見ると、心底嬉しそうに金色の目を蕩かせながら、とびきりの笑顔を浮かべて見せた。

     狂っている。
     その時、トレイシーはこれは人間だと直感した。機械が、こうもおかしな挙動をすることはない。初めからそう意図して造られたものだとするなら、その挙動はあまりにも荒唐無稽だった。機械は正しく、一途で、美しく、幸福なものだ。ネジが嵌められると歯車が規則正しく動き、それは完璧に機能する。これが人ではそううまくいかないことを、トレイシーは既に知っていた。凡人の悪意によって中途で奪われた彼女の父親に悪意はなく、ただ彼は、正しくあっただけだ。ねじ曲がっていたのは、彼の回りを取り巻く人間とその悪意。
     トレイシーは目の前の「彼女」の中に、部品めいて規律正しく、美しいところを、一つも見いだせなかった。手足の関節という関節には確かに部品が使われており、彼女を球体関節人形めいたものに見せていた一方で、首より上、顔、首筋、胸元、そういった部分(パーツ)に、機械らしいところは一つも見つからない。高性能な義手義足を付けている? それはそれで、出所に興味があるけれど。

    「あの……」
     トレイシーが震えを何とか堪えつつ、しかし尻すぼみがちに声を上げると、目の前の「彼女」は興味深そうに、少しソファから身を乗り出しさえしながらトレイシーを覗き込み、その「彼女」の指図で口を閉じるように言いつけられたピアソンは、何度目かになる舌打ちを重ねている。
    「この……この方を、何とお呼びすれば?」
     俯きがちに「彼女」の打ち壊された球体関節を見つめていたトレイシーは意を決すると、後ろを振り返って、不機嫌に足元を睨みつけているピアソンの顔色を窺った。仕事を請け負う者として、先程から彼女から袖にされ通して、どうにも剣呑な雰囲気を隠しもしない雇い主の機嫌を取って置いた方が良いだろうという配慮であるとともに、トレイシーの感じた恐怖を見てこの上なく喜んだ得体の知れない「彼女」を、できる限り相手にしたくないという怯えもあった。
     急に自分の意見を求められたピアソンは少し驚くように目を瞠り、続いて弱ったな、と言いたげな調子で眉尻を下げ、顔を顰めながら米神を掻き、「あー、」と、何かをしきりに言い澱んだかと思うと、脈絡なく唾を呑み込んでいる。
    「……そ、それは、その、つ、つつ、妻だ、わ、わた、私の、ク、クリーチャーの……」
    「っだ、だだ、だから、そ、そのように呼べ」と、年甲斐もなく隠しようもない程に赤面した顔を、帽子を外して顔を覆うまでして隠したがりながら、ピアソンはいっそ不審な程おろおろと続けたが、「つま」と言う声が極端に裏返る辺り、たぶんこれはでたらめだろうとトレイシーは思っていたし、「彼女」の方は一体何がそんなにおかしいのか、けたけたと腹を抱えて笑い出した。それにすぐさま、「お、お前は何がそんなにおかしいんだ!? 笑うのを止めろ!!」と、ピアソンの怒声が続く。
     見ているだけで少しぞっとする程、ちょっと挙動のおかしい彼女と怒り狂う男との間に挟まれ、トレイシーはすっかり蒼褪めながら、頭の中で、自分のやることをひたすら反芻して気を紛らわせた。球体関節の再建、膝下部品との接続、内側に神経部品は入っているのかな? 必要なものは……、…………。


     「青髭夫人」の両脚は、幸いにも保管されていた。ピアソンが別の部屋から引っ張り出してきたのを受け取ったトレイシーが、一度足の損傷具合を見て、破損した部品を取り寄せてからまた取り付けに来ると言うと、彼女の雇い主は一瞬(そんなに時間がかかるものかよ)という億劫そうな顰め面をしたものの、トレイシーが危惧したより彼は物分かりが良い様子で、「仕方がない」とでも言いたげに軽く肩を竦めながら「なるべく、は、早くしてくれ。」と言うに留めた。
    「あ、脚が、使えないと、か、可哀そうだからな。」
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    @t_utumiiiii

    DOODLE公共マップ泥庭

    ※日記のないキャラクターの言動を背景推理等から捏造
    ※捏造荘園設定
    一曲分(泥庭) 大勢の招待客(サバイバー)を招待し、顔も見せずに長らく荘園に閉じ込めている張本人であるのだが、その荘園主の計らいとして時折門戸を開く公共マップと言う場所は、所謂試合のためのマップを流用した娯楽用のマップであり、そのマップの中にもハンターは現れるが、それらと遭遇したところで、普段の試合のように、氷でできた手で心臓をきつく握られるような不愉快な緊張が走ることもないし、向こうは向こうで、例のような攻撃を加えてくることはない。
     日々試合の再現と荘園との往復ばかりで、およそ気晴らしらしいものに飢えているサバイバーは、思い思いにそのマップを利用していた――期間中頻繁に繰り出して、支度されている様々な娯楽を熱狂的に楽しむものもいれば、電飾で彩られたそれを一頻り見回してから、もう十分とそれきり全く足を運ばないものもいる。荘園に囚われたサバイバーの一人であるピアソンは、公共マップの利用に伴うタスク報酬と、そこで提供される無料の飲食を目当てに時折足を運ぶ程度だった。無論気が向けば、そのマップで提供される他の娯楽に興じることもあったが、公共マップ内に設けられた大きな目玉の一つであるダンスホールに、彼が敢えて足を踏み入れることは殆どなかった。当然二人一組になって踊る社交ダンスのエリアは、二人一組でなければ立ち入ることもできないからである。
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    @t_utumiiiii

    DOODLE※日記のないキャラクターの言動を背景推理等から捏造
    ※捏造荘園設定

    マーサが香水使ってたらエブリンさん超怒りそう みたいな
    嫌いなもの:全ての香水の匂い(広義のウィラマサでエブマサ) チェス盤から逃れることを望んだ駒であった彼女は、空を飛び立つことを夢見た鷹の姿に身を包んでこの荘園を訪れ、その結果、煉獄のようなこの荘園に囚われることとなった。そこにあったのは、天国というにはあまりに苦痛が多く、しかし地獄というにはどうにも生ぬるい生活の繰り返しである。命を懸けた試合の末に絶命しようとも、次の瞬間には、荘園に用意された、自分の部屋の中に戻される――繰り返される試合の再現、訪れ続ける招待客(サバイバー)、未だに姿を見せない荘園主、荘園主からの通知を時折伝えに来る仮面の〝女〟(ナイチンゲールと名乗る〝それ〟は、一見して、特に上半身は女性の形を取ってはいるものの、鳥籠を模したスカートの骨組みの下には猛禽類の脚があり、常に嘴の付いた仮面で顔を隠している。招待客の殆どは、彼女のそれを「悪趣味な仮装」だと思って真剣に見ていなかったが、彼女には、それがメイクの類等ではないことがわかっていた。)――彼女はその内に、現状について生真面目に考えることを止め、考え方を変えることにした。考えてみれば、この荘園に囚われていることで、少なくとも、あのチェス盤の上から逃げおおせることには成功している。
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    @t_utumiiiii

    DOODLEクリスマスシーズンだけど寮に残ってる傭兵とオフェンスの象牙衣装学パロ二次妄想ですが、デモリー学院イベントの設定に準じたものではないです。
    the Holdover's Party(傭兵とオフェンス ※学パロ) 冬休み期間を迎えた学園構内は火が消えたように静かで、小鳥が枝から飛び立つ時のささやかな羽ばたきが、窓の外からその木が見える寮の自室で、所持品の整理をしている――大事に持っている小刀で、丁寧に鉛筆を削って揃えていた。彼はあまり真面目に授業に出る性質ではなく、これらの尖った鉛筆はもっぱら、不良生徒に絡まれた時の飛び道具として活用される――ナワーブの耳にも、はっきりと聞こえてくる程だった。この時期になると、クリスマスや年越しの期間を家族と過ごすために、ほとんどの生徒が各々荷物をまとめて、学園から引き払う。普段は外泊のために届け出が必要な寮も、逆に「寮に残るための申請」を提出する必要がある。
     それほどまでに人数が減り、時に耳鳴りがするほど静まり返っている構内に対して、ナワーブはこれといった感慨を持たなかった――「帝国版図を広く視野に入れた学生を育成するため」というお題目から、毎年ごく少数入学を許可される「保護国からの留学生」である彼には、故郷に戻るための軍資金がなかった。それはナワーブにとっての悲劇でも何でもない。ありふれた事実としての貧乏である。それに、この時期にありがちな孤独というのも、彼にとっては大した問題でもなかった。毎年彼の先輩や、或いは優秀であった同輩、後輩といった留学生が、ここの“風潮”に押し潰され、ある時は素行の悪い生徒に搾取されるなどして、ひとり一人、廃人のようにされて戻されてくる様を目の当たりにしていた彼は、自分が「留学生」の枠としてこの学園に送り込まれることを知ったとき、ここでの「学友」と一定の距離を置くことを、戒律として己に課していたからだ。あらゆる人付き合いをフードを被ってやり過ごしていた彼にとって、学園での孤独はすっかり慣れっこだった。
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    @t_utumiiiii

    DOODLE象牙衣装泥庭二人とも怪我してるみたいで可愛いね🎶という趣旨の象牙衣装学パロ二次妄想(デモリー学院イベントの設定ではない)です
    可哀想な人(泥庭医 ※学パロ) 施設育ちのピアソンが、少なくとも両親の揃った中流階級以上の生徒が多いその学園に入学することになった経緯は、ある種“お恵み”のようなものであった。
     そこには施設へ多額の寄付したとある富豪の意向があり、また、学園側にもその富豪の意向と、「生徒たちの社会学習と寛容さを養う機会として」(露悪的な言い方になるが、要はひとつの「社会的な教材」として)という題目があり、かくして国内でも有数の貧困問題地区に位置するバイシャストリートの孤児院から、何人かの孤児の身柄を「特別給費生」として学園に預けることになったのだ。
     当然、そこには選抜が必須であり、学園側からの要求は「幼児教育の場ではない」のでつまりはハイティーン、少なくとも10代の、ある程度は文章を読み書きできるもの(学園には「アルファベットから教える余裕はない」のだ)であり、その時点で相当対象者が絞れてしまった――自活できる年齢になると、設備の悪い孤児院に子供がわざわざ留まる理由もない。彼らは勝手に出ていくか、そうでなければ大人に目をつけられ、誘惑ないしだまし討ちのようにして屋根の下から連れ出されるものだ。あとに残るのは自分の下の世話もおぼつかないウスノロか、自分の名前のスペルだけようやっと覚えた子供ばかり――兎も角、そういうわけでそもそも数少ない対象者の中で、学園側が課した小論文試験を通ったものの内の一人がピアソンだった。
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    recommended works

    @t_utumiiiii

    DOODLE #不穏なお題30日チャレンジ 1(2).「お肉」(傭オフェ)
    ※あんまり気持ちよくない描写
    (傭オフェ) ウィリアム・ウェッブ・エリスは、同じく試合の招待客であるナワーブと共に、荘園の屋敷で試合開始の案内を待っていた。
     ここ数日の間、窓の外はいかにも12月らしい有様で吹雪いており、「試合が終わるまでの間、ここからは誰も出られない」という制約がなかろうが、とても外に出られる天候ではない。空は雪雲によって分厚く遮られ、薄暗い屋敷の中は昼間から薄暗く、日記を書くには蝋燭を灯かなければいけないほどだった。しかも、室内の空気は、窓を締め切っていても吐く息が白く染まる程に冷やされているため、招待客(サバイバー)自ら薪木を入れることのできるストーブのある台所に集まって寝泊まりをするようになっていた。
     果たして荘園主は、やがて行われるべき「試合」のことを――彼がウィリアムを招待し、ウィリアムが起死回生を掛けて挑む筈の試合のことを、覚えているのだろうか? という不安を、ウィリアムは、敢えてはっきりと口にしたことはない。(言ったところで仕方がない)と彼は鷹揚に振る舞うフリをするが、実のところ、その不安を口に出して、現実を改めて認識することが恐ろしいのだ。野人の“失踪”による欠員は速やかに補填されたにも関わらず、新しく誰かがここを訪れる気配もないどころか、屋敷に招かれたときには(姿は見えないのだが)使用人がやっていたのだろう館内のあらゆること――食事の提供や清掃、各部屋に暖気を行き渡らせる仕事等――の一切が滞り、屋敷からは、人の滞在しているらしい気配がまるで失せていた。
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