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    @t_utumiiiii

    @t_utumiiiii

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    ※謎時空探偵パロ(1990年代を想定)
    Mr.ミステリーが男やもめのレオ・ベイカーの依頼を受けて失踪した娘の行方を探す二次妄想(還…パロ)
    リサの行方を調査するMr.ミステリーが精神病院に入院しているマーシャ・ライリーの証言を聞く回です。
    ※精神病に対する偏見描写があります

    9 マーシャ・ライリーの証言によると、6歳になるまでのリサ・ベイカーには持病もなく、木登りをするほど元気な子供だったらしい。それがある日、急に頭が痛い、胸が苦しいと言うようになったのだそうだ。当時のマーシャは、レオの新しい工場――彼女の元夫は同じ頃、それまでの繊維工場を売却し、軍需工場の設備を購入して事業転換を行った――が、娘の体調不良の原因ではないか――例えば一昔前によくあった公害のように、そこで扱っているなにがしかの火薬なんかが、まだ害というものに無垢で無防備な子供の体には、有害極まるものなのではないか――と考えていたのだが、当時のリサを診た医師たちは誰ひとりとして、リサの病名が何であるかを突き止めることはできなかった。一人またひとりと医師から匙を投げられるたび、マーシャは(それが何であれ、はやく原因がはっきりしてほしい)と強く願い、診察の序盤で夫の仕事のこと――軍需工場のことを言い出すほどで、それが元で病院からの帰り道はいつも酷い言い合いになったそうだが、それでも原因ははっきりとしなかった。
     最後に匙を投げた医者はやんわりと「心理的な不調」について言及し、心療内科への紹介状を書くと申し出た。マーシャはその提案を平然と受け入れた、といえば嘘になってしまうものの、(医者の言うことだから)とその申し出を受け入れようかとも思った一方で、それはレオにとってはとても受け入れがたい提案だったようで、それきり彼はリサを病院に連れていくために車を出そうとしなくなった。そして、マーシャは車の免許を持っていなかった。
     彼らが歩いたり公共交通機関を使って向かえる範囲にある、病気の原因を探るための精密検査を行えるだけの設備を備えた病院というのは限られており、頬を火照らせ「あたまがいたいの」「いきがくるしいの」と涙ぐむ幼子を宥めながら連れて行ける範囲には限りがあった。

     彼らの娘に明快な治療、もといわかりやすい救いを与えることができなかった病院の代わりに、レオが頼ったのが例の“祈祷師”だった。ホワイトサンドの羊飼い。当時のマーシャはその通り名に対して正しくいかがわしさを感じていたものの、工員からその評判を聞いた――彼の母は祈祷によって病の淵から持ち直したらしい――というその“祈祷師”の元へリサを連れて行こうという夫の決定に、異を唱えることはしなかった。
    「あのときは、確かに……少なからず自棄になっていました。レオも、私も……」
     何せ、片道3時間掛かる病院にまで連れていき、名だたる医師という医師から匙を投げられて、挙げ句、確かに元気だった愛娘を、「気でも違っているのではないか」などと言われる始末でしたから、というような当時の話を、マーシャはいたって静かな口振りで思い返しては、テーブルの対面に座るMr.ミステリーに伝えた。


     彼女の目から見て、“ホワイトサンドの羊飼い”は、言葉を選ばずに言えば、詐欺師らしい詐欺師に見えた。神職を騙り黒尽くめのカソックを着て、さも聖書にありそうな文句を唱えはしたが、地下にある礼拝堂に薄く漂う下水の臭い――これを掻き消すためにか、礼拝堂の中ではやたらに香が焚かれていて、少し息を吸うだけで目が回るようだった――そして、ごてごてしい後光を背負った羊頭を掲げる悪趣味な十字架を見るにつけ、「信用に値しない類の人間だ」とすぐにわかった。
     医者という医者に匙を投げられ通していたリサがそこで健康を回復しても、マーシャはそれを“羊飼い”の功績だとは思わなかった。それは例えば、時間が解決したのか、娘に備わったそもそもの回復力か……兎に角なにか、“祈祷”以外の要因で自然と治癒したものだろうと考えたのだが、レオはそうではなかった。何かと信じやすく一途な性格であった彼は、以降もその「礼拝堂」へ足繁く通い、献金なんかもするようになったのだそうだ。

    「その当時から、レオは……いいえ、私たちは、他にも問題を抱えていました。」

     マーシャは、決して少なからぬ年数を閉鎖病棟の中で暮らしたために抜けるように白い肌の下に、青白い血管の浮いた顔を申し訳なさげに俯かせながら言う。
     レオがかつて保有していたミネルヴァ軍需工場の買収とその悲惨な末路は、Mr.ミステリーにも調べがついていることだったが、彼はそれを敢えて遮らず、懺悔めいて続くマーシャの言葉を聞き取った。

     彼女が言うことには、献金のためか他にも諸々借金を抱え始めて焦りが出ていたのか、傍目から見ても何かと無理のあるような諸々の金策を推し進めようとするレオを、彼女は度々説得しようとしたが、その度に、「女が口を出すことじゃない」という一言で全てを断ち切られた。
     リサの頭痛も一旦治りはしたものの、暫くするとまたしきりにぶりかえすようになり、その度にその場にうずくまって動けなくなってしまうので、通い始めていた学校も休みがちになっていたリサを抱き上げ、猛然と礼拝堂――件の、下水の臭いが吹き溜まっているようなそこ――へ向かうレオの巨大な背中に、『今度こそ病院に連れて行くべきよ』と訴えかけたところで、レオの太い腕の前ではまるで成す術なく振り捨てられるばかり。行方を遮って話し合いをしようにも、彼はおよそ言ってはいけない言葉を口にした相手を見るように、蔑んだ目で彼女を見るばかりで、最早返事すらしなかったのだという。

     その頃になると、彼女は愛した――かつて愛していた夫に対して、最早自分ができることがあるとも思っていなかった。先の見えない業種転換も、無謀な経営拡大も、実の伴っているようには見えない信仰心も、いずれにせよ、それは『男の領分』であって、家長である彼が決めることであり、自分にできることは精々が助言だけ。彼がそれに聞く耳を持たないのであれば、それはもう、致し方がないという考え方をする程度にマーシャは疲弊していた。
     しかし、娘のことは別だった。リサはレオの子供であり、当然、彼女にとっての子供でもあり、たとえ『男の仕事に口を出せるのは男だけ』というレオの理屈に則るのだとしても、子供のことは家庭の領域である筈だと、マーシャは確信していた。
     祈祷で本当に病が治るのなら、それでもいい。医者に匙を投げられ、まるで親が悪いから子供が苦しむのだというような言葉を投げかけられたことだって事実ではあった。けれど、リサの頭痛がぶり返すたび、レオが金一封を握りしめて地下の礼拝堂に行く様は、文字通り、鴨にされているようにしか見えなかった。
     今なら何か新しい治療法が見つかるかもしれないし、娘をもう一度病院に連れて行きたいが、夫がそれを許さないという相談に乗ったのは、当時彼女が処方を受けるために定期的に通っていた婦人科の女医だった。

     ある日、マーシャは買い物のついでにとリサを連れ出し、その医師と引き合わせた。そこで出た診断もやはり、『心因性と推定される……』という、最早彼ら一家にはお定まりとなった文句ではあったが、心からの同情をそのブラウンの瞳に湛える女医は、心療内科への紹介状とは別に、静養地での療養という選択肢を提示した。
     『ベイカーさん、都市での生活は、何かとストレスが多いものなんです』と言ったその医師は端正な顔立ちをした女性で、診察室にうっすらと漂う消毒薬のにおいのなか、自分の行く末の話をされていることを察して肩を強張らせていたリサの髪を軽く撫で、緊張を解すように微笑みかけながら、マーシャに視線を戻すと、『勿論、引っ越しというのは容易な選択ではありませんが……』と真摯な表情で切り出した。
    『私から児童精神科を併設する施設に紹介状を書くこともできます。ですが、それではリサちゃんが一人で病棟に入院ということになるかもしれません。それよりはむしろ、ご家族の皆様と豊かな自然の中過ごされるということの方が、彼女の心にとって何よりの癒しではないかと、私は考えます』

    「その時のことをレオに相談したのが、私にとっての大きな間違いでした。彼は、既に正常な判断力を失っていて……今思えば、それがわかるんです。私が彼を守るべきだった。何としてでも……」
     膝頭に添えた手を今更悔し気に握りしめるでもなく、マーシャは相変わらず静かな、諦めたような声で、淡々と、文字を綴るように言葉を続けていった。
    「ジョーンズ先生のご提案の話をした時、レオは、いつになく静かな顔をしてそれに聞き入っていました。そして、私が帰る足で調べてきた、移住先に相応しいような場所の資料を鞄から出してこようとするのを手で押し留めながら、言ったんです。『お前もそうなのか、』と。『お前は、自分の娘をキチガイ呼ばわりするのか。』と。それだけ。」
    「それからの彼にはもう、私の言葉なんて聞こうともしませんでした。あの大きな腕で――以前は、私たちの結婚記念日を祝って、両手いっぱいのバラの花束を、不慣れな手つきで、少し居心地の悪そうに運んできてくれた、あの大きな手で――私の手首を掴んで、壁に叩きつけて。もうその頃には、彼が私の頬を打つことなんて、珍しいことでもありませんでしたけれど……それでも彼は、せめめ、私を死ぬほどひどく打ち据える代わりにでしょうか。私を、玄関から外へ叩きだして、私を「魔女」と罵りました。『俺の娘に近寄るな、お前の好きなようには絶対にさせない』と叫んだのです」

    「行き場をなくした私を助けてくれたのは、フレディでした。あの時の彼は、本当に優しい人のように見えました。彼だけでした。レオとのことを相談しようとしても、私の話を聞いてくれる人なんて、彼の他に、誰もいませんでした。私の親ですら……いいえ、あの人たちは、私の親だからこそ……離婚は外聞が悪いだとか、今こそが辛抱の時だ、とか。男の人は血迷うことがあるけれど、大抵は“若気の至り”というもので、そのうち正気に戻るものだから、その時に夫を支えることが妻の役割だとか、何とか……」
    「あの時、フレディだけが、私を人として扱ってくれました。妻でなく、母でなく、一人の人間として、彼は私の話を黙ってじっと聞いてくれた後に、言ったんです。彼が落ち着くまで離れるのもありだろうと。それで君の重要性を理解しないのであれば、そのままそんな男捨ててしまえばいいと……彼を支える必要なんてないと言ったのはあの人だけでした」
    「だから私は、郵便受けの中に入れていた合鍵を使って、あの人がいない間に家に戻って、最低限の荷物だけをまとめて、彼宛てに手紙を置いて。まだ眠っているあの子に、お別れを言いました。私は……リサを、連れて行けばよかったのでしょうか」
    「あの時は、そんなこと、とてもできないと思っていました。離婚届も出していない。そんな中でリサを連れて行ったら、私は誘拐犯になるでしょう。私を助けてくれたフレディに、そんなリスクを負わせるわけにはいかなかった。それに、リサはパパっ子でしたから。あの子からパパを……レオを取り上げるなんて……可哀想だと……私は…………私は、今思えばわかるんです。私がレオを守るべきだった。何としてでも……それでもあの時は…………私は…………」

    「…………しかし、妻であり、母であることは、私が人生で選び取った責務でした。私たちは、責任を果たすべきでした。それなのに、あの時、私は降りてしまったんです。自分の責任から。自分に沢山言い訳をしました。愛する娘さえ手元に残れば、レオはやがて正気に戻るんじゃないか、立ち直ることができるんじゃないかと。やっと8歳になったばかりの娘を置き去りにする理由を、自分の中に並べたてました。リサを連れて逃げることなんて、私にはできない。離婚届も出せていない状態でそんなことをすれば、レオの出方によっては、私は誘拐犯になります。彼はそれでも構わないと言ってくれましたが、警察沙汰になればフレディの仕事にも支障が出ます。それに、リサはパパっ子でしたから……あの子なら、私に出来なかったことをできるのではないかと……あの子さえ手元に居れば、あの人も、目を覚ましてくれるんじゃないかと、私を魔女と蔑んだように、あの子を扱うことはないんじゃないかと…………。あの時の私は、責任を果たすべきでした。責任から逃れられる人間はいません。私は…………電話を掛けたんです、あの日、12月21日。リサの誕生日でした。ニュースで宗教団体絡みの大規模な事件の話をやっていて、胸騒ぎがして…………でも、繋がりませんでした。あれから彼とは連絡が取れません。勿論、リサとも…………」

    「…………私はここで、あの時自分が責任から逃れた結果について、ずっと考えているんです、おわかりですよね、先生…………」

    「……レオと連絡が取れなくなってから、私はあの人とリサの行方を追って、あの人が熱心に通っていた団体について調べたんです。“ホワイトサンドの羊飼い”がどうなったか、先生もご存じでしょう。たった一晩で、あのごてごてしい礼拝所はもぬけの殻、通り沿いの事務所も、すぐ空き部屋になって……そこから、留守番電話を記録したテープを取ったりもしました。その帰りに歩道橋から足を滑らせて、お腹の子……リサの妹も…………私は…………でも、あの時責任から逃れた私にできることは、それだけで…………」
    「フレディは私を見かねて、私をここに入院させました。きっと彼はまだ、私たちが責任から逃れられると思っていて、私をここで隔離して、守ろうとしているんだと思います。毎月お見舞いに来てくれるんです、花を持って…………彼はレオにも、私にも、嘘ばかり言ったけれど、私を愛していると言ったことだけは本当のことのようでした。お医者様も看護師の皆さんも、あんなに良い旦那さんがいらっしゃるんだから、自分を粗末にするなんて馬鹿な考えは早く捨てましょうって、私のことをよく面倒見て下さって……編み物なんてもってのほか、カーテンのある部屋には間違っても近寄らせない…………だから…………」
     狭い窓の向こうの空から金色に暗く輝く西日を受けて一際そこだけが明るく、パイプ椅子に座りながら腕こそ上げないものの、まるで頭を抱えたがるように肩を丸め、声を震わせているようにも見える彼女の足元に、格子型の影を落としている。
    「ここで、私にできることといったら、もう、後悔だけ…………」
     そう言って今やぶるぶると震えるマーシャは、それまで見開き自らの膝の一点を見据えていた目を撓ませながら、笑うというには、神経質に息を揺らしていた。

     Mr.ミステリーは、彼女からの告解がそれ以上続かないことを確認してから、顔を隠すように――彼女の神経にそれ以上、何か障りかねないような刺激を与えるべきではないと考えて――鹿撃ち帽を傾けつつ「ご協力に感謝する」という、実に通り一遍の謝意を述べながら、パイプ椅子を軋ませる音も最小限に立ち上がった。
     すると、それまで茫洋と焦点の合わない目で、格子型の西日が窓から射し込む部屋の角、一際暗いところを見遣っていたマーシャは、存外震えのない芯のある声で「先生」と彼を呼び止めた。そして、それに応えたMr.ミステリーが足を止めたのを見計らってから、慎重に息を吸い込んで、吐き出し、浅いブラウンの眼差しを悲痛に歪めながら、しかし、涙を流すことはできないままに続けた。
    「レオは……彼はあの子を、リサを……私達の愛しい娘を……どこにやってしまったんでしょうか……」
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    @t_utumiiiii

    DOODLE公共マップ泥庭

    ※日記のないキャラクターの言動を背景推理等から捏造
    ※捏造荘園設定
    一曲分(泥庭) 大勢の招待客(サバイバー)を招待し、顔も見せずに長らく荘園に閉じ込めている張本人であるのだが、その荘園主の計らいとして時折門戸を開く公共マップと言う場所は、所謂試合のためのマップを流用した娯楽用のマップであり、そのマップの中にもハンターは現れるが、それらと遭遇したところで、普段の試合のように、氷でできた手で心臓をきつく握られるような不愉快な緊張が走ることもないし、向こうは向こうで、例のような攻撃を加えてくることはない。
     日々試合の再現と荘園との往復ばかりで、およそ気晴らしらしいものに飢えているサバイバーは、思い思いにそのマップを利用していた――期間中頻繁に繰り出して、支度されている様々な娯楽を熱狂的に楽しむものもいれば、電飾で彩られたそれを一頻り見回してから、もう十分とそれきり全く足を運ばないものもいる。荘園に囚われたサバイバーの一人であるピアソンは、公共マップの利用に伴うタスク報酬と、そこで提供される無料の飲食を目当てに時折足を運ぶ程度だった。無論気が向けば、そのマップで提供される他の娯楽に興じることもあったが、公共マップ内に設けられた大きな目玉の一つであるダンスホールに、彼が敢えて足を踏み入れることは殆どなかった。当然二人一組になって踊る社交ダンスのエリアは、二人一組でなければ立ち入ることもできないからである。
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    @t_utumiiiii

    DOODLE※日記のないキャラクターの言動を背景推理等から捏造
    ※捏造荘園設定

    マーサが香水使ってたらエブリンさん超怒りそう みたいな
    嫌いなもの:全ての香水の匂い(広義のウィラマサでエブマサ) チェス盤から逃れることを望んだ駒であった彼女は、空を飛び立つことを夢見た鷹の姿に身を包んでこの荘園を訪れ、その結果、煉獄のようなこの荘園に囚われることとなった。そこにあったのは、天国というにはあまりに苦痛が多く、しかし地獄というにはどうにも生ぬるい生活の繰り返しである。命を懸けた試合の末に絶命しようとも、次の瞬間には、荘園に用意された、自分の部屋の中に戻される――繰り返される試合の再現、訪れ続ける招待客(サバイバー)、未だに姿を見せない荘園主、荘園主からの通知を時折伝えに来る仮面の〝女〟(ナイチンゲールと名乗る〝それ〟は、一見して、特に上半身は女性の形を取ってはいるものの、鳥籠を模したスカートの骨組みの下には猛禽類の脚があり、常に嘴の付いた仮面で顔を隠している。招待客の殆どは、彼女のそれを「悪趣味な仮装」だと思って真剣に見ていなかったが、彼女には、それがメイクの類等ではないことがわかっていた。)――彼女はその内に、現状について生真面目に考えることを止め、考え方を変えることにした。考えてみれば、この荘園に囚われていることで、少なくとも、あのチェス盤の上から逃げおおせることには成功している。
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    @t_utumiiiii

    DOODLEクリスマスシーズンだけど寮に残ってる傭兵とオフェンスの象牙衣装学パロ二次妄想ですが、デモリー学院イベントの設定に準じたものではないです。
    the Holdover's Party(傭兵とオフェンス ※学パロ) 冬休み期間を迎えた学園構内は火が消えたように静かで、小鳥が枝から飛び立つ時のささやかな羽ばたきが、窓の外からその木が見える寮の自室で、所持品の整理をしている――大事に持っている小刀で、丁寧に鉛筆を削って揃えていた。彼はあまり真面目に授業に出る性質ではなく、これらの尖った鉛筆はもっぱら、不良生徒に絡まれた時の飛び道具として活用される――ナワーブの耳にも、はっきりと聞こえてくる程だった。この時期になると、クリスマスや年越しの期間を家族と過ごすために、ほとんどの生徒が各々荷物をまとめて、学園から引き払う。普段は外泊のために届け出が必要な寮も、逆に「寮に残るための申請」を提出する必要がある。
     それほどまでに人数が減り、時に耳鳴りがするほど静まり返っている構内に対して、ナワーブはこれといった感慨を持たなかった――「帝国版図を広く視野に入れた学生を育成するため」というお題目から、毎年ごく少数入学を許可される「保護国からの留学生」である彼には、故郷に戻るための軍資金がなかった。それはナワーブにとっての悲劇でも何でもない。ありふれた事実としての貧乏である。それに、この時期にありがちな孤独というのも、彼にとっては大した問題でもなかった。毎年彼の先輩や、或いは優秀であった同輩、後輩といった留学生が、ここの“風潮”に押し潰され、ある時は素行の悪い生徒に搾取されるなどして、ひとり一人、廃人のようにされて戻されてくる様を目の当たりにしていた彼は、自分が「留学生」の枠としてこの学園に送り込まれることを知ったとき、ここでの「学友」と一定の距離を置くことを、戒律として己に課していたからだ。あらゆる人付き合いをフードを被ってやり過ごしていた彼にとって、学園での孤独はすっかり慣れっこだった。
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    @t_utumiiiii

    DOODLE象牙衣装泥庭二人とも怪我してるみたいで可愛いね🎶という趣旨の象牙衣装学パロ二次妄想(デモリー学院イベントの設定ではない)です
    可哀想な人(泥庭医 ※学パロ) 施設育ちのピアソンが、少なくとも両親の揃った中流階級以上の生徒が多いその学園に入学することになった経緯は、ある種“お恵み”のようなものであった。
     そこには施設へ多額の寄付したとある富豪の意向があり、また、学園側にもその富豪の意向と、「生徒たちの社会学習と寛容さを養う機会として」(露悪的な言い方になるが、要はひとつの「社会的な教材」として)という題目があり、かくして国内でも有数の貧困問題地区に位置するバイシャストリートの孤児院から、何人かの孤児の身柄を「特別給費生」として学園に預けることになったのだ。
     当然、そこには選抜が必須であり、学園側からの要求は「幼児教育の場ではない」のでつまりはハイティーン、少なくとも10代の、ある程度は文章を読み書きできるもの(学園には「アルファベットから教える余裕はない」のだ)であり、その時点で相当対象者が絞れてしまった――自活できる年齢になると、設備の悪い孤児院に子供がわざわざ留まる理由もない。彼らは勝手に出ていくか、そうでなければ大人に目をつけられ、誘惑ないしだまし討ちのようにして屋根の下から連れ出されるものだ。あとに残るのは自分の下の世話もおぼつかないウスノロか、自分の名前のスペルだけようやっと覚えた子供ばかり――兎も角、そういうわけでそもそも数少ない対象者の中で、学園側が課した小論文試験を通ったものの内の一人がピアソンだった。
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    recommended works

    @t_utumiiiii

    DOODLE #不穏なお題30日チャレンジ 1(2).「お肉」(傭オフェ)
    ※あんまり気持ちよくない描写
    (傭オフェ) ウィリアム・ウェッブ・エリスは、同じく試合の招待客であるナワーブと共に、荘園の屋敷で試合開始の案内を待っていた。
     ここ数日の間、窓の外はいかにも12月らしい有様で吹雪いており、「試合が終わるまでの間、ここからは誰も出られない」という制約がなかろうが、とても外に出られる天候ではない。空は雪雲によって分厚く遮られ、薄暗い屋敷の中は昼間から薄暗く、日記を書くには蝋燭を灯かなければいけないほどだった。しかも、室内の空気は、窓を締め切っていても吐く息が白く染まる程に冷やされているため、招待客(サバイバー)自ら薪木を入れることのできるストーブのある台所に集まって寝泊まりをするようになっていた。
     果たして荘園主は、やがて行われるべき「試合」のことを――彼がウィリアムを招待し、ウィリアムが起死回生を掛けて挑む筈の試合のことを、覚えているのだろうか? という不安を、ウィリアムは、敢えてはっきりと口にしたことはない。(言ったところで仕方がない)と彼は鷹揚に振る舞うフリをするが、実のところ、その不安を口に出して、現実を改めて認識することが恐ろしいのだ。野人の“失踪”による欠員は速やかに補填されたにも関わらず、新しく誰かがここを訪れる気配もないどころか、屋敷に招かれたときには(姿は見えないのだが)使用人がやっていたのだろう館内のあらゆること――食事の提供や清掃、各部屋に暖気を行き渡らせる仕事等――の一切が滞り、屋敷からは、人の滞在しているらしい気配がまるで失せていた。
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