こたえはまだ知らない あ、と思った時には遅かった。
唇に触れるやわらかな熱。鼻先をふわりとくすぐる石鹸の香り。澄んだ薄花色の瞳がぱちりと瞬きをするのにハッとして、慌てて距離をとった。
「す、すみません!」
「いや、僕も……すまなかった」
タイミングが悪かったな、と苦笑している上司は大して気にしたふうもない。途端にひとり慌てている自分が幼稚に思えて、驚いた拍子に握り込んでしまった書類の皺を伸ばすふりをして俯いた。
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今日は、降谷が久々に登庁する日だった。ひと通りの少ない小会議室を借りての打ち合わせ。前回から結構間が空いてしまったためそれなりの量になってしまった書類に目を通してもらっている間、自分は隣でチェック済みの書類を整理していた。
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