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    L5XU2BQpn8sTSCA

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    キサキテッタの夢。片想い。
    🎍リープ前軸。🐣ちゃん死んじゃう。

    命令をください 稀咲鉄太は、神童だった。幼い頃にお試しで通った塾で、いい成績を取ってしまったのが稀咲鉄太という男の運の尽きであり、神童の始まりだったと思う。習ってもいないことができてしまった。周りの同い年の子よりも更に上をいってしまった。彼の母は、彼にそう在ることを強く求めた。運動は平均より少し上くらいで許されたが、勉強に関してはトップでなければ許されなかった。
     私はそれを、斜め後ろから眺めることしかできなかった。ただのお隣さん。唯一、彼と会話する女。少し特殊なポジションであったことは認識している。
     それでよかった。人間として扱ってもらえなくとも、彼を見守り続けることができるなら。彼に想われなくとも。
     彼に好きな人ができたと知った時は、なぜか涙が出てきて、まだ想われたいという気持ちが残っていたのかと驚いた。その感情を彼に気づかれないようにひた隠しにして、彼がどんどん悪い方向へ進んでいくのを見守り続けた。いや、駒として動いたこともあるから、見守っただけではないな。
     私は彼にとって都合のいい駒だった。不良なんて、金と力と女にしか興味ないんだから。彼は、金が欲しいという奴には金を渡した。力が欲しいという奴には武器を渡した。女が欲しいという奴には私を渡した。だから、私のハジメテは名前も知らない、顔も覚えていないどこかの不良だった。
     お陰で演技は上手になったの。気持ちい、かっこいいってアンアン喘いでいれば、男は勝手に気持ちよくなって勝手に果ててくれる。それだけで私は彼の役に立てる。強くもない、頭も良くない、金もない私に、彼の役に立つ役割があるということが私の心を満たした。それは、12年経った今でも変わらない。

    「おい」
    「はい、稀咲さん」

     稀咲さん、だって。いつからこんな呼び方してるんだっけ。小さい頃は鉄太くんって呼んでたと思うんだけどな。きっと、不良になった彼に、手伝わせて欲しいと告げた時からだ。
     稀咲さんは私に目もくれず、次のターゲットの性癖を告げる。稀咲さんの口から下品な言葉が出てると思うだけで、良い。余計なことを考えているとバレて、ギロリと睨まれる。
     あは、嬉しい。稀咲さんの目に私が写ってる。稀咲さんの脳内に私がいる。なんて幸福なんだろう。
     緩む頬を締めて、もう一度情報を得る。すんごい歪んだ性癖のジジイだった。もしかしたら私は死ぬかもしれない。

    「できるな」
    「はい」

     それでも稀咲さんは私に「できるか?」とは聞かない。「できるな」とイエス以外の答えを私から奪い取る。
     それでいいの。私を人間扱いなんてしないで。どうせ私は稀咲さんに、はい以外の答えを言えないんだから。
     ジジイを誘惑するために必要な衣装は全て稀咲さんが手配してくれた。稀咲さんが選んだ服を身に纏えるなんて!大きめの紙袋を手ずから受け取って、私は稀咲さんの部屋から出た。そこにいたのは稀咲さんの腹心、半間修二。

    「お〜またおじーちゃんと遊びに行くのかよ」
    「稀咲さんの命なので。遊んでません」
    「バハっ、マジな顔すんなよ。冗談だろ、じょーだん」

     この男が本当に苦手、いや、嫌いだ。私より後に彼と出会ったくせに、その圧倒的なまでの暴力から稀咲さんの信頼を買っている。ずるいずるいずるいずるい。
     私も男だったらよかったのに。
     でもまあ、女だからこそコイツにはできない役割が果たせる。その役割が他の女でもできるとわかっているけれど、それが私の誇りだから。
     稀咲さんの部屋に入っていった男の背中を睨みつけて、私は私にあてられた部屋に戻る。東京卍會の中で部屋をもらっている女は私だけ。それが優越感をもたらす。まあ、私がヘマしたらこの部屋はすぐに物置になるけど。
     身を清めた後に、渡された紙袋の中から趣味の悪い下着を取り出して、身につける。ピッタリじゃん、稀咲さん私のサイズ知ってるんだ。ふと笑いが溢れる。稀咲さんの頭の中、ほんの0.1%だけでも私がいるんだ。嬉しい。
     大きくスリットの入ったパーティドレスに身を包み、髪のセットやメイクをすれば、事務所を出る時間。部屋の扉がノックされる。

    「はい」
    「遅え」
    「すぐ行きます」

     迎えにきた半間修二と2人きりでエレベーターに乗り込む。護衛はいないのかよ。

    「……お前さぁ、可哀想だな」

     半間修二の言わんとすることがわからず、つい眉間に皺を寄せた。

    「稀咲さん、お前のこと女だと思ってねえじゃん」
    「そうですね」
    「いいのかよ」
    「いいですよ」
    「稀咲さん、ずっと好きな女いんだろ」
    「橘日向さんのことでしたら、存じております」
    「違う男探せば良くね?」
    「良くないです」

     どこまでも高慢で、どこまでも強欲で、そしてどこまでも一途な貴方が好き。だから私には一生命令し続けて欲しい。貴方からの命令を愛だと思い続けるから、それだけで幸福だから。そんなこと言っても理解されないとわかっているから、口には出さない。黙り込んだ私に、半間修二は舌打ちをする。

    「半間さんだって、稀咲さんじゃなきゃ世界はモノクロに戻ってしまうんでしょう?同じですよ」

     私にとって稀咲鉄太は唯一無二の男。半間修二にとっても稀咲鉄太は唯一無二。
     すっかり履き慣れた高いヒールで玄関ホールの床を鳴らし、用意された車に乗り込む。隣には半間修二。

    「稀咲さんに抱かれたいとか思わねえの?」

     まだ話を続けるつもりかコイツは。

    「えぇ、稀咲さんが必要ないと言うのであれば、する必要はないので」
    「お前、マジでかわいそ」

     そう言った半間修二は、私の顔を上げさせる。半間修二の顔はいわゆる美形に入るのだろうが、興味はない。冷めた視線を返すと、感情を失ったような顔で見ていた半間修二がプッと吹き出す。

    「稀咲さんは道化師だろ、んで俺は死神。お前は?」

     懐かしい呼び方。道化師について回る私が何か?

    「私は稀咲さんの駒です。それ以上でも以下でもありません」

     それ以上になれるわけがない。それ以下になりたくない。必死にもがいて、駒として生きていくだけ。
     下らない話をしていれば、あっという間に目的の会場に着く。半間修二のエスコートを受けつつ、ターゲットに近づく。
     今日も夜が更けていく。月が、汚されていく私を見つけないようにカーテンを閉め切って、柔らかなベッドに沈みこむ。絞められる首、回らない脳、足りない酸素。

    「あなたに殺されるなら、本望です」

     気色悪い笑みを浮かべたジジイに腕を伸ばす。
     あなたに殺されたなら、稀咲さんがあなたを消す言い分にできるから。あなたに殺されたなら、稀咲さんが私の代わりを見つけるまでの間私のことを考えてくれるから。殺すなら、今夜、ここで殺して。
     願いは叶わないまま、私は再び事務所に戻った。

    「報告」
    「言質取りました。協力して頂けるそうです。契約書も書いていただきました」
    「ご苦労。邪魔だ」
    「はい、失礼します」

     今日も稀咲さんは私に目もくれない。だから私の首に残った大きな手の跡にも気づかない。それでいい。稀咲さんは一途に、真っ直ぐに、自分の目標だけ見ていてくれればそれでいいから。
     ご機嫌にスキップなんてふんじゃって、廊下ですれ違う人たちにギョッとされたけど、関係ないからどうでもいい。どうせ私と同じ稀咲さんの捨て駒だし。いつか稀咲さんの恋が実りますように。そのために、今日も私は働きます。命令をください、稀咲さん。




    「ぁぁぁぁぁ!!!!!クッソ!!!!」

     こんなに取り乱した稀咲さん、久しぶりに見た。しかも口調も荒い。可愛い。
     でもどうしたんだろう、日本の裏社会のトップはほぼものにしたも同然なのに、夏祭りの屋台にトラックぶち込むとか、派手なこと考えるなぁ。
     そのために東卍の内部抗争という偽情報を出さなきゃいけない。私はその係。
     トラックぶち込んで何したいんだろう?無差別テロ?なんで?意味なくない?よくわかんないなぁ。駒が何考えたって無駄だし、私は今日も稀咲さんの命令を受け取るだけ。
     いつも素敵な髪型が、あんなに乱れて……。

    「稀咲さんかっこよ♡」
    「何、ご機嫌じゃん」

     頭上から降り注いだ声に、上がったテンションがダダ下がり。

    「半間さん」
    「稀咲さんから命令?」
    「はい、内部抗争をでっち上げろと」
    「ふーん……何でか教えてやろうか」
    「結構です」
    「ありゃ、知りたくねえの?」

     知りたくないと言えば嘘になる。しかし、私は駒、与えられた情報以上に知ろうとするのは御法度。

    「結構です」
    「じゃあ、一個教えてやるよ」
    「結構です」
    「ロボットかよ。稀咲さん、振られたって」

     しまった、つい半間修二の方を勢いよく振り向いてしまった。

    「バハっ、素直〜。まあ一個だけっつったからな、これ以上は教えてやーんね」

     じゃーなーと言って、またふらふらと稀咲さんの部屋に入っていく半間修二が憎くて憎くて仕方ない。
     私はそのまま自室に戻り、内部抗争をでっち上げる算段をつけた。しかし、半間修二のあの言葉が頭から離れなくて、邪魔だ。
     振られた、振られた。稀咲さんが?あの稀咲さん?
     振ったのはきっと、橘日向。
     私は知っている。橘日向がどれだけ人を惹きつけるか。それは人の人生を狂わせるほどの魅力である。神童稀咲鉄太の人生は、橘日向のせいで狂ったのだ。本当ならエリート街道まっしぐらで、大企業に勤務することも、起業し、成功することも夢じゃなかったはずの稀咲鉄太が、不良なんてモンになって日本の裏社会を牛耳ろうなんて考えたのは、橘日向が不良に惚れていたから。きっと橘日向自身は、人の人生を狂わせたなんて自覚ないだろうけど。
     橘日向、未だに花垣武道のこと好きなのかな。稀咲さんは未だに橘日向を好きだし、花垣武道を尊敬してるし、軽蔑してる。それを稀咲さん自身が知ってるかはわからない。
     他人だけではなく、自分自身の感情にすら疎い稀咲さんが、唯一感じたのが橘日向への恋心。それに従って生きてきた。完璧な理性すらも、その感情のために動かしてきた。

    「あーぁ、可愛いなぁ」

     稀咲さん可愛い。あんなにカッコいいのに、こんなに不器用でおバカで、どうするの。
     一生愛してる。私の人生全部貴方にあげる。
     だから今日も、命令ください稀咲さん。
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    DONE⚠︎最初から最後まで全部『ONE PIECE FILM RED』の結末のネタバレです。自己責任で。
    ⚠︎ONE PIECEを少し齧っている人間が書きました。原作と異なる点があるかと思います、ご容赦ください。

    REDからしばらく経ったある夜の話。

    見終わった後、速攻マブに連絡して生まれたオタクの幻覚です。
    マブに支部の垢バレるの恥ずかしいのでポイピクで。
    赤髪海賊団の音楽家 今晩レッドフォース号の不寝番を担当するのは、副船長のベン・ベックマンと何人かの船員。ベックは今日は甲板の担当だ。他は晩飯を食べ終わって、自由に過ごして勝手に自分の部屋で寝て始まる。
     僅かに残っている夜更かし共が集まる食堂にベックは足を運んだ。

    「まだ起きてんのか。誰か俺と当番代わってくれんのかよ」

     そう言うと全員揃って首を横に振る。自由にする夜更かしが好きなだけで、義務の夜更かしである不寝番は嫌なのだ。それを分かった上で揶揄ったベックはくつくつと笑いながら、小さな宝箱を開ける。あ、と小さく溢したのは誰だっただろうか。
     ベックはその中の電伝虫を手に取って、シーっと人差し指を口元に立てた。
     今日の波は穏やかで、雲ひとつない星空は宝箱と見間違うほど輝いている。そんな中、ベックはハンドレールに置いた電伝虫を起こした。
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