「もうお前のことなどしらーんっ!!!!!!!!!!!!!!!」
その誰かの声は神山高校の全てに響き渡る。
否、それは見知らぬ誰かではない。
それは紛うことなき、校内でも有名な変人二人の片割れである自称スター、天馬司の声だと全校生徒が認識した。
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「お、おい、さっきの声天馬のだろ?
何があったんだよ。」
「俺がしるかっ…!まぁ、どうせまた、神代となんかあったんだろ。」
「お前、聞いてこいよ。」
「なんで俺が!?」
「だってめっちゃ気になるけど、面倒事に巻き込まれたくねぇんだもん。」
「そんなの俺だってそうだよ!」
「まぁ、だよな…よし。
わかった、俺行くわ。その代わりお前も道連れな。」
「はぁ!?…ったく仕方ねぇな…。」
ひそひそと会話を続けた男子生徒二人は、先程の声の主である天馬司へ声をかける。
「あのさ……天馬さ…その…なんかあった…?」
「別に何も無いぞ。類のことなんか知らんからな。」
司は高校二年生とは思えぬ、ぷりぷりとした怒り方で頬を膨らませながらふんっと顔を背けた。
「まあまあ、何があったかは知らねぇけど、許してやれよ?なっ?」
「もう知らんと言ったらしらん!!!類が悪いんだ!!!」
「…神代、なにしたの?」
その言葉に司はバッと顔をその男子生徒へと向ける。
その時男子生徒は感じた。
やはり、聞くべきではなかったと。
「類のやつ、オレのことを無視してずっと機械を弄ってるんだ!!!
類がそういうやつだというのは分かっているが、ここ最近はショーの練習が毎日あって、久々の休暇だったから、オレは恋人らしいことができると浮かれていた!!!なのに!!!!あいつはオレが声をかけても空返事で「ちょっと待ってね…あと少しだから」と言って全く相手にしてくれん!!!!」
「あぁ…いや…まぁ、神代もやりたいことがあったんだよ…ちょっと待ってあげればよかったんじゃね?」
「オレは!!!これを何十回とやったんだぞ!!!!!!!何回聞いてもあと少しあと少しと言うばかりでこっちを見ようともしないんだ!!!!!もうしらん!!!!!!
そんなに機械と一緒がいいならオレは要らんだろう!!!!!もう別れてやる!!!!」
「えっ!?!?そんなレベル!?
いや、考え直せって!ほら、機械のことも、終われば構ってもらえるじゃん?」
「オレは……類だから…こんな……」
「司くん。」
司を呼ぶその声の主に振り向くも、司は冷たい視線を向ける。
「なんだ。」
「どうしてそんなに怒っているんだい。」
「どうしてだと…?そんなことも分からんのか!!!!!!」
その言葉に類は顔を顰める。
「あぁ、分からないよ、「そんなこと」で怒る君のことなんて分からないさ。」
「なっ……!」
「大体君だって、数ヶ月前に僕が声をかけたら「今、台本を考えているから後にしてくれないか」って僕のことを後回しにしたよね。君だって同じことをしているのに僕だけ怒られるのはおかしいと思うのだけれど?」
「あっ…あれは…!ショーのことがあったから…それにあまり遅くなるのもと思って……し、仕方ないだろう!!!!」
「僕だってそうさ。次のショーの為の試作を作ってたんだ。理由なら、君と同じだよ。ほら、僕だけ怒られる理由はないだろう?」
まさに、売り言葉に買い言葉。
しかし、口喧嘩において神代類という男は強い。
司が類に勝っているところは見たことがない。
その事実をクラスメイト全員が理解している為、皆が冷や汗を流す。
「…も……もうしらん!!!!!!!お前とは別れる!!!!!!!!!」
「あぁそうかい、君がそう言うのならばそれで構わないよ、じゃあね。」
その言葉を残し、類は教室を出る。
まずい。
とてもまずい。
皆が司の顔に注目する。
その目には涙が溜まっていた。
あぁ、神代、なんてことをしてくれたんだ。
天馬司のクラスメイトは皆そう思った。
――――――――――――――
「なぁ、神代さっきから顔死んでるけど、天馬となんかあったの?」
「いや、分かんねぇけど、さっきの天馬の声で何となく分かるだろ、察してやれ。」
「まぁ…でもよ、ほんとに二人って別れたのか?
神代がそれをいいよって言うと思う?」
「思わねぇ。思わねぇけど、あの顔見るとさ……」
「ねぇ、神代くん、天馬くんと何かあった?」
類にそう問いかけた、隣の席の女子生徒。
彼らは彼女を心の中で勇者だと称えた。
だってそうだろう。
同じクラスだと痛いほどに理解してしまうのだ。
ああなってしまった神代類は非常に面倒くさいのだと。
「あぁ…うん……そうだね……司くんに別れようと言われてしまったよ。」
「…いいよって言ったの?」
「言い合いになってしまってね…僕も頭に血が上ってしまっていたから…そうしたら、後に引けなくなって、つい言ってしまったよ。」
「神代くんは、それでいいの?」
「…全く良くない……。司くんと別れるなんて絶対に嫌だ。」
「じゃあ、謝りに行ったら?」
「…それも嫌なんだ。」
「えっ、どうして?」
「だって、あんな酷いことを言ったのに、今更なんて言えばいいか……。きっと司くんをとても傷つけてしまった。」
「謝ればいいんじゃない?」
「合わせる顔がないよ…」
類は大きなため息をつき、項垂れた。
その大きなため息にクラスメイトは苦笑いをするしか無い。
「すまない、気分が優れないから授業を休むと先生に伝えておいてくれないかい…?」
「わ、分かった。」
そう言って教室を出た類の後ろ姿は、あまりにも小さく見えた。
可哀想だと少しだけ思わないこともないが、やはり面倒くさいことになったなとクラスメイト全員がそう思った。