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    SATY_THE_FOOL

    @SATY_THE_FOOL

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    タイトル未定のピリカラパロ続き
    締切までに本当に終われるのか謎

    タイトル未定ピリカラパロゆも・その2            2


     どうもモモの様子がおかしい。
     おかしいんだけど、僕にはその原因が分からない。原因どころか、どこがどうおかしいのか言語化することさえ難しい。ただ、何となく、考えていることと、行動がバラバラなんじゃないかなって思う節がある。
     えっちなことに積極的な癖に、なんとなーく、怒ってるような気配を感じるんだよね。モモは言わないけど。僕にだってそれくらいは分かるよ。
     童貞だし後ろも処女だって早々に白状してくれたから、僕は絶対にモモを抱くときには優しくしようと心に決めている。
     身体の準備は思ったよりも大変で、受け入れてもらうためには慣らす作業が必要であるらしい。僕も男の子とそういうことするのは初めてだから、ちゃんと調べたんだよね。まずは指で、それからプラグを徐々に大きくしていく予定。通販で何でも買えちゃうんだから、便利な世の中だよね。でもまだ僕の指以外を入れるのに躊躇しちゃって、開発はあんまり進んでいない。
     もしかして、それが不満、だったりするのかな。やっぱり脱・童貞はしたかったのかなあ。まあそりゃそうだよね。でも、今は僕と付き合ってる訳だから、そういうことの相手は僕以外にありえないでしょ。処女は捧げてもらうつもりだけど、さすがに童貞までもらうのはちょっと……いや、悪いけれど無理。あれだけ気持ち良さそうだとどんなものなのかなって興味は湧くけど。興味本位で試すにはちょっと勇気と覚悟が必要じゃない? それなのに、僕は自分ばっかり負担の大きい役目を回避しようとしてる。
     だからモモは内心で怒りを燻らせているのかもしれない。そうは思うのに、聞いたら自分が受け入れる側に回らなきゃいけないかもしれないから、僕はだんまりを決め込んでいる。いつの間にか僕も悪い大人になってしまったもんだよねえ。
    「ねえねえ、恋人と友達の違いって何だと思う?」
     唐突な僕の質問に対して、古い友人である大神万理はビールジョッキを片手にヘラヘラと答えた。僕と同じくらい長い髪を後ろで束ねている。サテン地のペラペラなスカジャンを着ていて、とてもカタギの人間には見えない。
    「んー? セックスしていいかどうか?」
    「だよねえ」
     まあ、仕事着がスーツなのに長髪にしている僕も、カタギに見えるか怪しいものだけれど。この髪は、オシャレのためではなくて、反抗の意思を表すために伸ばしている。別にやりたくて社長をしてる訳じゃない、という青年の主張だ。インタビューでも正直にそう答えているのだけれど、検閲がかかっているのか一度も使われた試しはない。おかしな話だよね。
     恋に気が狂っている自覚はあるので、僕は今、油断するとモモのことばかり考えてしまう。恋人と宣言はしているけれど、実の所はまだ友達の域から抜け出せてない。早くシたいんだけど、どれくらいのスピードで先に進めていいのかよく分からないんだよね。堪え性のない僕にしては物凄く我慢をしていると思う。
     はあ、と溜息をつくと、凛太郎が軽蔑しきったような目で僕たちを見た。僕たちとは、つまり、万と僕のことだ。おかりんは困ったように眉を下げて、空笑いを隠さない。
     凛太郎も僕と同じくスーツだから、上着は脱いでいる。いつもと同じ、濃い色のシャツにネクタイを締めている格好だ。おかりんは生成のジャケットに墨色のVネックカットソーを着ている。二人とも似たような黒縁メガネを掛けているのに、あんまり似ているように見えないのが不思議だ。
     嘆かわしい、と言わんばかりに、凛太郎は肩を竦めて首を振った。
    「馬ッ鹿だなあ、お前たちは。世の中にはセフレって言葉もあるんだぞ? したらいいだろ、セックスくらい。付き合ってなくても。まあ、同意はなきゃマズイけどな」
    「兄さん、あのね。それ説教する方向、間違ってるからね?」
    「そうか?」
     どっちが年上なのか分からないような兄弟のやり取りに、万が苦笑する。
    「おかりんってズルイよねえ。絶対に本性は俺たち側なのに、すーぐ常識人ぶるんだから」
    「やだなあ。買いかぶり過ぎですよ、万理くん。紙一重の向こう側にいけないのが僕ですからね」
     居酒屋の店内はザワザワと喧しい。グラスのぶつかる音や、酔っ払い同士の賑やかな話し声。元気な看板娘のよく通る声が厨房にオーダーを叫ぶ。個人経営の古いお店だから、テーブルの上にはタブレット端末なんてない。ビニールコーティングされたメニュー表と、壁一面に貼られた短冊のメニュー札があるだけだ。
     フロアを切り盛りしているのは大将である板さんの実の娘さんだ。視野が広くて頭がいいので、料理を提供した帰りには必ず空いた皿を持ち帰って、クルクルとよく働いている。
     バイトの男の子たちもみんな元気で可愛いんだよね。娘さんが司令塔となって統率が取れているから、見ていて気持ちがいい。ちなみに、この娘にちょっかいを出そうものなら、普段はにこにこと細められている大将の目がクワッと見開かれることになる。大将ときたらその顔のまま包丁片手にフロアに出てくるもんだから、バイトくんたちも含めて誰も彼女に手を出そうとする者はいない。まあ、それでなくとも彼女はみんなのアイドルだし、牽制し合ってるのかな。流石は看板娘といったところだよね。
     そろそろ深夜帯に差しかかろうという時間帯まで働いて、僕たちは呑み処「小鳥遊」に集まっていた。メンバーはこう。僕とモモが出会うきっかけになったネットゲームでゲームマスターをしているOGMこと大神万理と、その会社の代表である岡崎凛人――通称・おかりん、僕の会社の副社長でおかりんの兄である岡崎凛太郎、そして僕の四人だ。
     とりあえず生、の中ジョッキには、幾つもの白い輪が刻まれていて、そろそろ次の飲み物を注文しようかなという頃合だ。ツマミは枝豆と、揚げ出し豆腐、焼き鳥数種の盛り合わせに、唐揚げ、厚切りローストビーフ、カイワレのハム巻きが既に運ばれている。注文してから提供されるのも早いので、テーブルの上はお皿でいっぱいになってしまっている。
     小鳥遊なんて店名なのに、この店は焼き鳥が美味しいらしい。常連なのに伝聞形を使うのは、僕が肉や魚を食べないからだ。別に宗教上の理由じゃなくて、単なる好き嫌いのせいなんだけどね。ひよこの姿焼きなんてグロテスクで怖いんですけど、万も凛太郎も頭からバリバリと食べてしまう。
    「――そんで? お前が本当に話したいことって何だよ。そんな思春期みたいな話題で終わりって訳じゃないんだろう?」
    「まあ、そうね」
     万は串から鶏の肉を引き抜いて言った。僕はちまちまと枝豆をつまみながら生返事をする。
     万とは高校生時代からの付き合いだ。お互いにプログラミングが趣味で、共通の知人の紹介で出会った。大学に進学した万はそこでおかりんと出会って、気が合った二人は学生のうちからさっさと起業してゲーム会社を設立した。僕は一年後、追いかけるように二人のいる大学に入学し、しばらくは彼らの事業を手伝っていた。
     大学入学から二年、僕が二十歳、凛太郎が二十四歳の頃のことだ。その頃おかりんの実家にも出入りするようになっていたから、上司と喧嘩して仕事を辞めたばかりの凛太郎もまじえて四人でつるむことが自然と多くなった。そんなある時、遊びでとあるデータ分析のシステムを構築してみせたら、凛太郎が目の色を変えた。そこからあれよあれよと話がころがって、半ば騙されるような形で僕は凛太郎と会社を起こす羽目になってしまったのだった。
     まあ、実際のところ、僕が話をよく聞いていなかったのが原因なんだけど、感情としては騙されたような感覚がある。頭を下げて弟の会社に再就職するくらいなら、自分で会社を起こす方がマシだって見栄を張ったのが僕を巻き込んだ理由だから、やっぱり僕には腹を立てる権利があると思う。
     とはいえ、凛太郎はデリカシーも人望もないけれど、僕というデコイを操るのが上手かった。凛太郎の指示通りに動いていたら、いつの間にか社長らしく振る舞えるようになっていた。僕だってデリカシーも人望もないような人間なのに、不思議だよね。
     結果として僕と凛太郎のコンビの相性はビジネス的には悪くなかった。七年の間に会社はどんどん成長して、おかりんと万の会社よりもはるかに規模が大きくなってしまっていた。
     だから、そろそろ潮時かなって、思ってるんだよね。
    「実はさ。僕、社長やめようかなって思ってて」
     枝豆の皮をゴミ用の器に放り込んで、僕はなんでもないことのようにサラリと言った。ジョッキを傾けていた凛太郎がむせたけれど、知ったこっちゃない。
    「凛太郎が僕のことを陰で操らなくても、みんなちゃんとお前の実力を認めてるんだからさ、そろそろ僕が社長やる必要ってないんじゃないの?」
     おかりんに背中をさすられていた凛太郎は、呼吸を整えると手の甲で口元をぬぐった。睨むようにこっちを見るから真っ直ぐに見返してやったのに、凛太郎はすぐに視線を逸らして茶化すような溜息をついた。
    「――って、こいつ最近すぐこういうことを言うんだよ。二人も千斗のことを説得してくれない? 社長が退任してどうすんだって」
    「社長やめるって……。その後、どうするつもりなんですか? 平社員になるとか? やりにくくないです?」
    「だよねえ。会社もついでに辞めようかと思ってるんだけど」
    「まあ、千斗くんなら手に職もあるし、腕は確かだし、再就職の道もなくはないとは思いますが……少し社長として目立ちすぎちゃいましたもんね。ちょっと厳しいかもしれませんよ?」
    「――じゃあさ、おかりんが僕のこと雇ってよ。肩書きなんか要らないからさ。僕、やっぱり人の上に立つより現場で働く方が向いてると思うんだよね。出来ればあんまり人が関わってこない部所だと嬉しいけれど」
     凛太郎は苦虫を噛み潰したような顔をしている。万はそれには見ない振りをして、おどけたように肩をすくめた。
    「円満退職できるんなら、別にいいんじゃない? ウチへおいでよ。もちろん、ちゃんと辞められたらだけどさ」
    「えー。円満退職じゃなきゃ駄目?」
    「そりゃそうだよ。会社同士の揉め事に発展したらまずいだろう?」
    「あー……。まあ、それもそうか……」
    「でかしたぞ万理、その調子で千斗を諦めさせるんだ!」
     凛太郎の声援をどう受けとめたのか、万は頬杖をついて、にこっと笑った。女の子を口説く時みたいな、自信満々の魅惑的な笑顔だ。ナルシストめ。こういうの、自分の顔がいいことを分かってる奴じゃないと出来ない表情だよねって思う。
    「それはともかくとして――千さ、新しいステージの構築、デザインからやってみたくない? 近々、社内公募する予定なんだよね。千って元々はそういうのがやりたかったんでしょう?」
    「コラコラ。俺の目の前で社長を引き抜こうとするんじゃないよ」
     凛太郎は最後に残っていた唐揚げを箸で突き刺すと、マヨネーズとケチャップをべっとりとすくって口に運んだ。一番年上のくせに、高校生みたいにジャンクな食べ方をする。
    「いいじゃん凛太郎が社長やればさ。結構、向いてると思うよ」
     僕は唇を尖らせて適当なことを言った。凛太郎はもごもごと口を動かして、ごくんと塊を飲み込む。
    「お前を慕ってるヤツもいるんだぞ。大体、俺だってお前がいるから顔を効かせられるんであってだな……」
    「なら、合併したらいいんじゃない?」
    「――ハァ」
     凛太郎だけでなく、おかりんも万も目を剥いた。
    「あれ? もしかしてコレって名案なんじゃないの? 僕の不満は片付くし、おかりんは資金繰りに奔走しなくて済むし、全ての問題が丸く収まるじゃない」
     僕は頬に手をかけて熟考する。口から出任せのようなことを言ってしまったけれど、案外、悪くない提案かもしれない。
     おかりんは鼻の下に拳を当てて考え込んでいる。物凄く葛藤してるみたいだ。
    「……そりゃあ、ウチとしては悪くない話ですけど……。だけど、せっかく築いてきたブランド名がなくなるのはちょっと……。それに、そちらのメリットがあまりなくないですか?」
    「僕が社長をやめられるのは充分なメリットだと思うんだけれどね」
     凛太郎は焦ったように間に入った。
    「こらこらこら。凛人も本気にするなよ。こっちの従業員数何人だと思ってんだ。対等な合併っていうより、そっちが吸収されたみたいになっちゃうぞ?」
    「ですよねえ……」
     眉を下げて、おかりんは困ったように笑った。みんな本気にしていないみたいだ。もう怒ったぞ。
    「――分かったよ」
     僕は七年間かけて学んだ社長の顔をして、圧力を効かせるように微笑んだ。
    「つまり、ちゃんと説得できる資料を用意すればいいってことだよな?」
     凛太郎の顔から血の気が引く。おかりんは目を白黒させている。万だけが面白そうにニヤニヤ笑って、バイトくんに声をかけてみんなの飲み物を追加で注文する。
     宣言したことで、腹は括った。
     これからしばらく忙しくなるだろう。モモに会う時間を捻出するのも難しくなってしまうかもしれない。けれど、賭ける代償が大きければ大きいほど、見返りも大きいことを僕は知っている。
     付き合う前までだって、ゲームの中ですら会えない時があったのだ。平日に会えないことくらい、どうにか耐えられるだろう。
     ――その時の僕はまだ、自分がどれだけモモを必要としているのか、いまいち自覚していなかったのだ。
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