Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    yz9m_

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 12

    yz9m_

    ☆quiet follow

    ニグリ 〝過去〟

    お兄ちゃん



    隣ですやすやと寝息を立てて眠る愛しい子。屋根を伝い落ちる雨水。誰も通りかからない静かで淋しげな場所。 この上なく幸せで堪らない空間。ふと思い立つ、1番愛して欲しい彼に過去を隠し通せる自信が無い。記憶喪失の振りだなんて、いつまでも出来るわけが無い。出来ることなら …。


    ―――――――― 

    🕰



    俺のは双子の兄が居た。名を「」という。誰に対しても平等で、優しくて温厚。そして秀才で誰にも負けない知識人だった。彼の周りには常に誰かが居て、そして笑顔になっていた。 そんな彼には出来損ないの双子の弟、俺がいた。名前は「ルックス」。「光」だなんていう意味の名前は、出来損ないより兄の方が似合っていたのだろう。
    俺は兄とは全く違った。破壊的で直ぐに暴力を振るう。命令口調でわがまま、そしてなにより知識が皆無に等しい。そんな俺を兄の取り巻きは疎く思っていた。

    「どうしてあんな奴が ルックス だなんて洒落たなまえなんだろね〜。」
    「本当だよな、ニグリの方が 光 って意味的にお似合いさ。」
    「あーあ、双子なのにどうしてあんなに違うんだろー。」

    日常的に吐き捨てられた言葉。それでも尚、唯一俺の事を愛してくれている人がいた。

    「ルックス、僕のところにおいで。髪を結い直してあげよう。」

    そう、それが兄の。他の奴らから意地悪を言われても、唯一庇ってくれた、慰めてくれた。知らない事をたくさん教えてくれたし、何よりかっこよかった。
    髪もきちんと結っており、乱れる事はない。俺はそんな兄に毎日兄に髪を結んでもらった。弟なのだから甘えたがるのは必然だろう。

    だがある日俺は気付いたんだ。俺が比較される理由、疎まれ嫌われる理由。そう、それは兄が居るから。だが、兄を消してしまえばおかしいと思われてしまう。だから、弟を消して兄になり変わればいい。今までの恩なんて知ったことでは無い。俺が似合うのは他人を傷付けること。そう思い立てば、俺は体が勝手に動いた。

    「兄さん、話があるんだけど。来てくれない?」
    「ルックス、僕もちょうど話があったんだ。」

    その二言だけ交わして兄と2人で捨てられた地へ向かった。人気のない、1歩踏み外せば命は無いであろう崖へ。

    「ルックス、お前さ…」
    「なぁ、〝ルックス〟死んでくれ。」

    驚いたように目を見開く「ルックス」。口をパクパクさせて何かを訴えかけようとしていたようだが、「僕」の耳には聞こえなかった。ごめんね「弟」、君の分まで「僕」が生きるから。

    最期に何を言いたかったのはか分からないが、僕には関係の無いこと。瓜二つだから、きっとバレないだろう……と思っていた僕が馬鹿だった。
    ニグリとして生活を初めて1週間が経った頃、古くからの友人に声を掛けられた。

    「ねぇ、貴方、ニグリじゃないわよね?」
    「何を言っているのかい?僕はニグリじゃないか。」
    「貴方が本物のニグリなら、弟が消えた事を深く嘆き悲しむ筈よ。貴方、ルックスなんでしょ?」

    息を飲んだ。背筋が凍り、全てバレてしまったのだと悟った。消さなくては、今すぐ彼女の存在を。

    「…、全てを教えよう。僕に着いてきなよ。」

    再び捨てられた地へやって来た、そう、「弟」を殺した地へ。

    「そう、彼もここで死んだんだ。綺麗な最期だったよ。」
    「で、真相を教えてちょうだい。貴方みたいに私は暇ではないのよ。」
    「真相か…、なら、ニグリに聞いてきなよ。」

    とん 、 と彼女を軽く押した。崖へと真っ逆さま。さようなら、またいつか。
    その日を境に、僕はたくさんの人を崖から落としては殺していった。僕が僕で無いことをバレない為に。鈍い者は命拾いし、やけに嗅ぎ回る奴は容赦なく消していった。
    僕の両手は血で濡れている。兄のように博識で知識が豊富では無いため、学び方が分からない。だから異様に執着して隅々まで知りたがるようになってしまった。そして感情が昂る時は、一人称が「俺」となってしまう。そして、気に食わない時は暴力を降るってしまう。なりたくなかった自分へと成り下がってしまっていた。

    本当はイノに「記憶喪失」だなんて言って騙したくない。過去の事に触れられて来る者へ口止め代わりに暴力を振るいたくはない。

    暴力が似合う だなんて言っていた僕が、矛盾しているんだな。だけれども、目の前の彼には力でねじ伏せてしまっている。可笑しい。

    ______

    「んっ…、ニグ、何泣いてるの…?」
    「あ、あぁ。何も無いよ。イノは疲れたでしょ、まだ寝ていな。」
    「今日は優しいね…てっきりやられるのかと思っちゃったよ。」
    「優しい〝ニグリ〟で良かったね。」

    へらへらと笑いながら、彼を抱き寄せて眠りに就く。本当の名を告げるのはいつになるだろう。僕に縋り付きながら泣きそうな声で 「ルックス」と可愛く言ってくれるのはいつになるのだろう。

    兄には悪いと思っていない というのは嘘になる。兄が最期に言った言葉、僕が殺した彼女が言っていたことと、尽くしてくれた事を繋げてみると… いや、考えるのはやめよう。

    ただ、一つだけ心残りなのは、お兄ちゃんに最後も髪を結んでもらいたかったな。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works