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    poskonpnr

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    通過儀礼を越して大事なものを大事にすることに抵抗がなくなった大人のかいと

    ドロカイ/カイドロの結婚
    ゆまこと/ことゆまの交際
    カイ遊/遊カイは成立しない が距離が近い
    最終回後数年経過

    イロージョン 凌牙自身もそれを知ったのは紛れもない偶然であったようで、「お前聞いたか!?」と勢いのままに発した後、「これ言っていいやつか分かんねえな」とひとり言ち、しばらく悩んだ挙句「めでてえことだし、どうせオレらだし、どうにかなるだろ」と言い訳にもならないようなことを一応は前置いて、やたら神妙な顔で仕切り直した。
    「あー、カイトが……」
    「……カイトが、何だよ……?」
    「カイトが、結婚したってよ」


     イロージョン


    「つーわけよ。結婚したっつっても本当に籍入れただけで、ドロワはゴーシュについて世界中飛び回るし、カイトは研究で日本離れられないから、一緒に暮らす目処とかも特に立ってないらしい」
     凌牙も遊馬も口が軽かった。カイトへの甘えといえば甘えなのだろうが。
    「どんな夫婦だよ、ホント常識通用しねえな」
    「とどのつまり、僕たちとは結婚に求めるものが違うんでしょうねえ」
     じゃあ委員長は何を求めるんだよ、との鉄男の返しにより、等々力の口からは絵に描いたような理想の結婚生活が語られたわけだが、遊馬はそれを話半分に聞きながら自らの将来を想像していた。
     小鳥のことが好きだ。告白もした。付き合っている。あんな異世界までついて来させて、今さら離してやる気になど到底なれなかった。
     まだ付き合い始めて半年と少し。ようやくむずがゆさを抜け出したというところで結婚の話題を耳にすると、嫌でも自分たちのことを考えてしまう。カイト達は一緒に暮らすことも、頻繁に会うことすら叶わずとも籍を入れたとのことだが、一体なにがそうまでさせるのだろうというのが遊馬の正直な感想であった。好きなら近くにいたい、いつでも会える距離にいたい。そのために結婚という約束をするのではないのか。
     しかし遊馬はそうした疑問は抱きつつ、カイトとドロワが結婚したことについては概ね、どころか完全に前向きに捉えていた。ドロワがカイトに対して並々ならぬ深い愛情を抱いていたことはWDCでよく知っていたし、カイトはカイトで放っておくと一人で突っ走って何でも解決しようとする典型的な長男気質なので、この二人は結局かなり相性が良いのだと遊馬は思う。ドロワは好意を表に出さずに他人を慮ることが非常に上手かった。そうした彼女の振る舞いはカイトに不快な思いをさせず、かつ万全の体制で彼を支えるので、互いに精神を擦り減らさず思い合えるのだと感じる。
     だからこそ尚更というべきか、ドロワがカイトとともに住むことを選ばなかったのは驚くべきことでもあった。結婚というカードを引いておきながら、場に出しもせず伏せもせずデュエルを終えるようなものである。確かにドロワはあのゴーシュのマネージャーということで非常に忙しくしているのだろうが、仕事と夫を天秤に掛けたとき、その夫がカイトであったとしても仕事の方へ傾いているのは一体どういう事情であろうか。
     遊馬はその日鉄男と等々力には黙っていたのだが、二人と別れたあとに天城一家が暮らすラボへと足を運ぶことにしていた。凌牙はやめておけとさんざ言い聞かせてきたが、遊馬は忠告を素直に聞く質ではない。そもそも、凌牙が口を滑らせたことが原因なので、凌牙当人が忠告すること自体ちゃんちゃらおかしな話であった。
    「新婚生活どう?」
    「気色悪いことを言うな。何も変わらん」
    「気色悪くはねえよ」
     ラボがあまりにも無骨な造りなので意外といえば意外なのだが、カイト達が住居にしている部屋はシンプルながら美しいシャンデリア、そして凝った作りのフレームに家族写真を入れて飾ってあったりと、当初の遊馬の予想に反して生活感があり、そして無駄を嫌いそうなドクター・フェイカーとカイトの印象に反して思い出の香りがちりちりと漂うのであった。
     カイトはこれで律儀というか、自分がどう見られるか、どのように振る舞うのが適切かというところによく気の利く方なので、自宅ではハルトがいる手前、仮に遊馬相手であってもきちんと「コーヒーは飲めるな」と確認した上で、念には念をと隣にミルクを添える。
     その指の付け根。
    「結婚指輪!!」
    「見るな、訴えるぞ」
    「どこに!?」
     言葉の割に、カイトはその指輪を隠すこともしなかった。ソファの右隣に座ったカイトの手を取って遊馬がまじまじ見つめようとも特に何も言わない。結婚は人を穏やかにするのかもしれない。
     カイトの青白くカサついた指にあって、尚のこと指輪は煌々と輝いている。ダイヤなどはついていないが、よく磨かれているのであろうそれは細い細い身に遊馬の髪色を鮮やかに映した。
    「……キレーだなあ」
    「……そうか」
     その輝きを思えば、カイトはもしかすれば日頃からこの指輪を外して丁寧に拭き上げ、また指にはめているのかもしれないと思った。遊馬の頭に疑問が浮かぶ。
    「……ドロワとは滅多に会えないんだから、ずっと外しとくって選択肢もあっただろ?」
    「だったら何だ」
    「や、別に。意外だっただけ。あの箱にしまいこんじまうかと思ってた。あるだろ、パカッてやつ」
    「……じきに分かる」
    「へ?」
    「お前、小鳥とはどうなったんだ」
    「うお……」
     凄まじい変化球につい遊馬はカイトの手を取ったままその目をジッと見つめてしまったが、今度こそカイトは手を払って居心地悪そうに脚を組み直した。
    「……別にな、絶えず気持ちを交わす必要なんかない。元々オレたちはそれほど一緒に行動していたわけでもないし、結婚しようがしまいが、大して変わらない。でもな」
     やや早口で、語気が強い。ムキになっているようにも聞こえた。カイトの左の指先が自身の耳横の髪をくりくりと弄ぶ。
    「アイツが健康に過ごしていればいいと思う。ゴーシュと一緒に子どもたちへ夢を与えて、飽きるほど働いて、その金で楽しく生きていればいいと思う。そういう漠然とした希望のようなものが芽生えてくる。だからつける」
     ぶっきらぼうに発した割に、その言葉から滲んだのが紛れもない愛だったので遊馬は面食らった。元々、カイトは自分の大切にしたいもののためなら手段を問わないというだけで、本来は冷血漢でもなんでもなく、ただ少し気持ちを発露させることが苦手で、大切なものを抱え込みがちの不器用な男であることを、遊馬は今さらながら──忘れていたつもりもなかったのだが──思い出した。あまりにあからさまな愛の言葉に遊馬はたじろいで、照れ隠しに茶化すことしかできない。
    「カッケェ〜〜」
    「うるさい、つまみ出すぞ」
     カイトはほとんど真っ白になってしまったコーヒーを口にして、また脚を組み直す。ああこれは本気で照れているな、と遊馬は察した。
    「結婚式……は、挙げてないよな?」
    「ああ。代わりに写真は撮った」
    「へえ……、あっコレ? 見ていい?」
    「好きにしろ」
     遊馬はローテーブル下から背表紙のはみ出ていたアルバムを取り出す。これを手に取りやすい位置に置いている辺り、一人の女性を愛することも、それを周囲に認知されることも、最早カイトの中では些末な問題なのであろうと遊馬は考えた。
     アルバムは見開きで4枚の写真が収まる寸法である。偶然指のかかった1ページを開くと、どれもどこかの海浜公園で撮ったのであろうか、奥に海を臨む草原が背景になったものが4枚あった。
     左上はオービタル、オボミと共に向こうへ駆けるハルトの後ろ姿。その服装は紺のブレザーにローファーというもので、遊びに行くにはかしこまった印象を受ける。午前中に撮ったのだと思われるが、海はより濃紺で、よりきらきらしく陽光を跳ね返していた。
     左下はドクター・フェイカーとハルト。二人ともベンチに座って花冠を編んでいる。ハルトでこそシロツメクサは違和感なく可愛らしく映るのだが、ドクター・フェイカーが難しい顔で長い指を必死に折り曲げ編む様はアンバランスで少し可笑しい。そして写真のアングルが妙に高いことに遊馬は気付き、ああ、もしかしたら先ほどの写真とこれの2枚はカイトが撮ったのかもしれないとここで思い至った。
     右上にはドロワとゴーシュ、カイトの3人。何か見つけたのであろうか、3人揃って足元を指したり視線を落としながら何か話し合っているようであった。ゴーシュはダークスーツを着ており、常よりかなり控えめな色選びではあるのだが、元の体格がいいので色に依らず着ているだけで華やかである。ドロワはサテンのマーメイドドレス──遊馬は自分の知る人間がウェディングドレスを着るさまを見るのはこれが初めてであった──で、その生地の都会的でやや冷えた印象とは裏腹に、表情はくだけて柔らかなものであった。そしてカイトは明るめで艶のあるグレーのタキシード。その理知的なイメージはカイトそのものであったし、装飾の少ないデザインはカイトの細身の身体にあってよく映えた。
     右下ではそのカイトが誰かに背を押されたらしく、振り返りざまのドロワの方へつんのめっている様子がブレながらも収められている。奥ではゴーシュとドクター・フェイカーが笑っており──となれば、カイトの背を押したのはハルトか。寧ろ、ハルトでないとそんなじゃれ合いもできないだろうと遊馬は深く納得した。
     誰が誰なのかも分からないまま、ただその時その時の遊馬が目の前の正義を貫くために走り続ける中で、徐々に絆を育んだものたち。遊馬対個人、という枠を越え、様々なところで様々な繋がりが生まれ、めいめいに何かを大切にする。それは同じ写真に映って笑い合えるようになるほどで、そして戦いを重ねる中で「離れていても大丈夫」という根底の信頼が生まれたので、国を跨ぐほどの距離があったとしても、カイトは穏やかにドロワを思う。
    「……泣くなそんなので」
    「『そんなの』じゃねえよ、オレは、オレは……」
     指輪の理由はここにある。カイトが青春をかなぐり捨ててぶんどった理想がここにある。アルバムにぱたぱたと雫が落ち、遊馬は慌てて親指の腹でそれを拭った。
     遊馬には漠然とした不安がある。皆ここにいるのに、「皆」に入らなかった彼の存在が遊馬の底にいつまでも沈殿する。どんなに周囲の状況が良くなっても、やはり消えない傷がある。その傷を思えばこそ、カイトの周りの人間が皆そろって笑顔でいることの有り難みはよく感じられたし、同じだけ痛みも持続するのであった。
     人の幸せの象徴を覗き見ておきながらこんな動機で泣いていることが申し訳なく、遊馬は俯いたままアルバムを元あった位置へ戻した。ただ感動して泣いたには泣き止むまでに随分かかるので、カイトは何を察したか遊馬の肩へ手を置く。
     遊馬は他者にこの傷への理解は求めない。こんなものは経験する必要がなかった。笑って別れると誓ったのに、こんなに経っても未だに寂しさで首を絞められるような、こんな重暗い悲しみは要らない。
     大切な人なんて、そう多くはいらないはずだった。皆もうなんの脅威に恐れることもなく、各々幸せを掴みとって生きている。皆が皆の大切なので、遊馬はもう自分の大切を削ぎ落とせたらと思う。それができればもうあんな目に遭うこともないだろう。
     失って失って失って、もう二度と失いたくなかったというのが実際のところで、しかしそれでもどうしても、小鳥の手だけは離せなかった。
     小さい薄い手。何も握れなさそうな、頼りのない手。それでも遊馬の手だけは離さなかった手。
    「また、い……いなくなっちまうんじゃないかと思って、怖い。小鳥が何も言わずに消えるような不義理はしねえって分かってるけど、でももし、オレが何もできないぐらい、どうしようもない理由で小鳥が離れていっちまったら、オレ、なんかさ、今度こそ変になる気がする」
     聞かれてもいないのに遊馬はつらつらと涙の理由を白状した。つい先ほどまでこんなことで泣くのはよくないと理性的に考えられていたはずなのに、小鳥を思うと涙が出た。
     遊馬が死ぬまで小鳥が死ななければいいと思う。小鳥が無条件に自分を好いていてくれたらと思う。小鳥の周りに遊馬より優れた男などが現れなければいいと思う。もう世界に何も起こらなければいいと思う。あんな別れを小鳥でまで経験してしまったら、いよいよ遊馬はだめになる。
     いつまでも顔を上げられない遊馬に、カイトがオイと声をかける。声が震えているのを悟られたくないので遊馬は声には出さず、喉だけでン、と返事をしてみせた。その精一杯の返事を遊馬のやっとの許容と受け取り、カイトは遊馬の肩に置いた手をそうっと動かし、うなじを引き寄せ、自らの額と遊馬の額を合わせる。遊馬は遊馬でされるがままで、ごく至近距離にあるカイトの睫毛が頬に影を落とすのを上目に見ていた。
    「……いいか、聞けよ」
     ほとんど聞いたことのない、強いて言うならハルトに対するのみでしか聞いたことのない、静かで強く、柔らかい声だった。
    「お前が寄越した未来だ」
    「……え?」
    「お前があのとき、ハルトのために走った。無駄に疲れて、損ばかりして、オレなんかを気にかけて仲間がどうのこうの喚いた。お前はお前の関わった全員に何もかもを頼まれて、結局本当になんとかしてしまって、その先の今だ」
     カイトとて例外ではなかった。ホログラム越し、遠い月でのカイトの死を夢か現か眺めた遊馬は、それでもあれが現であったとの確信の上に吼えた。何度でも、という約束を絶対に反故にしない、カイトらしい最期ではあったのだが、あんな終わらせ方で遊馬に納得がいくわけもない。
     実際はそう変わらないのだろうが、カイトの熱がじゅわじゅわと自身へ伝わってくるのを遊馬は感じていた。また涙が溢れて、拭う余裕もなく、遊馬とカイトの間でソファに染みを作っていく。
    「お前は今に幸せになる。何も心配はいらない。小鳥はいなくならないし、オレもいる」
     カイトは細い。心配になるほど細い。どこもかしこも骨ばって、抱きしめられて安心できるような身体ではないはずなのに、その身体が幸せを掴み取るために死すら乗り越え、どんな苦難も踏破したゆえのものと思うと、これほど頼もしいこともないと感じる。
     遊馬は、カイトが「遊馬の大切な人」としてカイト自身を勘定したのをこの上なく嬉しく思った。追いかけ続けた背中が振り返って今自分を抱きしめ、すべてを守り抜いた強さでまた遊馬を守ろうとする。
     いつか思い出にできればいいと思う。笑顔が大好きだったと言い残して笑い泣きに去っていったアストラルが気を揉まないよう、守られる勇気を持って、守ることを恐れず、どんなに淋しい別れからも喜びと楽しみをつまみ上げていつまでも大切にしていたい。
     遊馬がカイトの背へ腕を回すと、カイトはいっそう強く遊馬を抱きしめた。
    「オレはもう幸せだよ」
     カイトにしてみれば、遊馬に対してやってやれそうなことはごまんとあって、これからその全てを実現してやる心意気ではあるのだが、果たして自分が、自分たちが、遊馬のあの前代未聞の喪失を上書けるだけの存在になり得るのかというと、残念ながらそれは叶わぬ望みであろう。だいいち、遊馬がそんなことを望んでいるのかという話である。
     でもどうにかして遊馬の中に横たわる底しれぬ寂しさを癒せればとカイトは思う。カイトや、ハルト、ドロワ、ゴーシュ、凌牙、トロン一家、バリアン七皇、なんでも、遊馬と、そしてアストラルが守り抜いたものすべてで遊馬の寂しさに薬をつけたい。
    「もっとだ。まだ足りない。お前自身が何もかも掴みとるまであの騒動は終わっちゃいない」
     遊馬の指先がカイトの背中で丸められたのが分かる。カイトはドロワになら「縋るな」と言えたのに、遊馬に言えないのはどういう違いだろうと考える。そしてなんとなく、遊馬を「遊馬とアストラル」の片割れとしてではなく、「九十九遊馬」として見たのだと今初めて気がついた。
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