空明の聲何時だったかアイツが零した言葉を反芻する。
月の雑踏を経て、天空を見上げたあの時以来訪れた平和こそが、どうしてか未だに実感が持てず私自身が生み出した夢幻のようだとも。常に頭上に降る満点の星々さえも砕け散った記憶共ではないのかと。
そういったことを、どうしてかカイトへと吐露した際には、笑われた。
『案外、お前もロマンチストだな』
「……通信切るぞ」
『馬鹿か? ミザエルがかけてきた癖に本題も言わず、深夜にはた迷惑な奴だな』
「ええい、やかましい!!!」
ヌメロンコードの力のおかげで我々は、またこの世界の地を踏みしめ奇しくも同じ生命を得た。ドン・サウザンドの戦いの時に私はそこまででも、悔いはなかった。何より心より…。心など、あの時は馬鹿らしくも思えていた。
荷物に過ぎないと。
それでも冷め逝く天城カイトの色と、それでいて月を纏う瞳の光が抱かれた一枚のカードに託されたモノは、私には重すぎたのだ。
――重すぎたのだ。
純粋すぎる信頼と、幾度となく己を懸けた銀河眼と共に交えた心と、宇宙を割く光と。私はバリアンだったというのに、それさえも覆う彼の強い意志が、私を戦士へと駆り立てた。
こころを、思い出させたのだ。
通信機越しに聴こえるカイトの声は笑っていた。
あの頃には到底想像もつかないような会話を今している。
命までをも燃やした戦いなどなかったかのような、穏やかすぎるこの夜の帳の中に消える音。
『だったら本題を早く言え。 こちらとて暇ではない』
「クソッ…貴様、よくそれでここまで生きてこられたな…」
『生憎と他人に対する関心は薄いものでな。 いや…余裕が、なかったんだろう』
声色が変わった。
肌を撫でる夜風のような、静謐に塗れた波紋を生み出す影のようなソレ。心臓の輪郭を撫でられたかの如く、ミザエルは心音を強張らせた。
目の前の地面が、もう二度と踏むことのない月を彷彿とさせる渇きを鳴らした。
「…カイト、」
『? どうした』
返ってきたのは己の音と、確かに在る心音。
薄まらなくてよかった、などとまた言えば笑われるに違いないが、それでも我らが再び生きるこの世界も限りはあるのだ。
「貴様の名を、道標にさせて貰おうと思ってな」
少し空いた間の後、ならばまた闘おうと。
遠くで銀河眼の鳴き声が響いた気がした。