Redmusc こてん。
人差し指ほどのガラスびんを倒して、少し転がしてみる。
香りを纏うなんて、考えたこともなかった。と、ヒュンケルは嘆息する。
死臭が染み込んだ体ごと、香木で燻されたことはあったけれど。ミストバーンの投げやりな育児のなかでも、あれは結構気持ちよかった。
ラーハルトの身体から漂うのは、血と肉と草原が混じり合ったような、不思議な香りだ。
彼が愛用しているこの香水瓶に気づいた時は、柄にもなくワクワクした。
初めての知識は、いつでも刺激的だ。
――どうせ気づかないだろう。自分の匂いなのだから。
頬杖をついたまま、ヒュンケルは口角を上げる。
「少しくらい」
素早く蓋を開け、銀色の一滴を耳の後ろに染み込ませて、ぱふっとベッドに腰かけた。
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