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    Jeff

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    お題:「火傷」
    #LH1dr1wr
    ワンドロワンライ参加作品
    2023/12/16

    #ラーヒュン
    rahun
    #LH1dr1wr

    Stigma「本当にいいのか」
     ラーハルトが三たび、相棒に尋ねる。
    「いいから。やってくれ」
     汚れた枕に顔を埋めて、ヒュンケルがけだるく答える。
     汗の伝う白いうなじには、真新しい痣と噛み痕が残る。
     狂おしい情事の後、本来なら幸福な眠りに落ちているはずだったのに。
     明らかに、こんな重大な決断を下すタイミングではないのに。
     ……いや、違うか。むしろ今を逃せば、一生こんな機会はないだろう。
    「早く」
     ヒュンケルが自分で確認できない位置だ。
     首の後ろ。
     
     銀髪の生え際に残って消えない不思議な火傷の痕のことを、うっかり口に出したのは軽率だった。
     即座に、ヒュンケルの瞳が燃えた。
     跳ね起きるなり素早く荷物を漁って、ロン・ベルクが餞別にくれた短剣を引っ張り出した。
    「ちょうどいい」
     刀身に掘られた竜の飾りを撫でると、燃え盛る暖炉へ投げ込む。
     意味を察して、ラーハルトは眉間を押さえる。
    「何がだ」と一応聞く。
    「焼くのに」と、平坦な返事。
     
     数分後、真っ赤に火を帯びた刃を火ばさみで把持したラーハルトは、恋人の後ろ髪をかきあげて、そこにある着色を見つめる。
     彼が気づかぬうちに刻まれた――もしくは、記憶の奥底へと閉じ込めていた、誰かの所有印を。
    「早くしてくれ、ラーハルト」
     命令口調に混じる、震え。涙声。
     耐えきれず、ラーハルトは刃を一息に押し付けた。
     肉の焼ける匂い。か細い悲鳴。
     暴れるヒュンケルを押さえ付け、十秒数える。
    「……っ、はあ」
     息を止めていたのはラーハルトの方だ。
     非情な金属を引きはがせば、そこには爛れた竜が吠えていた。
     もとの印は目立たなくなった。
     俺の。俺の痕だけだ。
     刻んでやった。
     奇妙な興奮に、思考が急速に舞い上がる。
     必死に情欲を抑え付けて、優しく、慎重にヒュンケルを裏返した。
    「大丈夫か」
     きつく閉じられていた瞼がゆるやかに持ち上がる。
     濡れた紫の瞳が、恋人を認識して軽く微笑んだ。浅い息を繰り返している。
     彼が何か言う前に身体を離し、冷えた水をグラスに注ぐ。
     一口含んで、苦しそうな唇に注ぎ込んだ。
     緊急用のパウチを開いて、上等な薬草と傷薬を準備する。
     痛々しい傷を清い水で注ぎ、テランで手に入れた軟膏を塗りこめて、冷やした葉を張り付ける。
     首に包帯を巻いてやる頃には、ヒュンケルの呼吸も落ち着いてきた。
     ラーハルトはため息をついて、どさっとベッドに仰向けになる。
    「お前はまだ寝るな。よく水を飲め」
    「どうして」とかろうじて返事をして、ヒュンケルは少しむせた。
    「焼き印をくらった者は水を失う」
     よく知っているんだ。
     ラーハルトの呟きをとらえて、ヒュンケルはじっと彼を見上げる。
     そして、文句も言わずグラスを飲み干した。
    「お前がつけてくれた印。見られるかな」
     そう囁くと横になって、半魔の湿った胸に鼻先を埋める。
    「見たいんだ」
    「どうにかなるだろ。うまく鏡を使って」
     あくび混じりにラーハルトが言う。
    「明日には絵柄が見えるかな」
    「馬鹿か、まだまだかかる。落ち着くまで弄るなよ、しばらく我慢しろ」
     異常な行為プレイの直後なのに、どうも悲壮な感じがしない。
     腹が減ったから残りのパンを焼いて食べました、といった程度の満足感。
    「とっくに異常を通り越しているんだな、俺たちは」
     誰にともなく呟く。
    「……? 何か言ったかラーハルト」
    「何でもない。痛むか」
    「全然」
    「……」
    「……少し」
     ラーハルトは寝返りを打って、強がりな恋人をぐいっと抱え込む。
    「痛い」
    「我慢しろ。お前が望んだくせに」

     いつ教えてやろうか。
     と、ラーハルトはうとうとしながら思う。
     ヒュンケル自身に見えない場所に、まだいくつか、謎の印が残っていることを。
     
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