「おれの存在がお前の負担になってはいないだろうか?」
ラーハルトがふとした瞬間に見せた表情か。ヒュンケル自身が抱いていた後ろめたさか。それとも、旅の途中に訪ねた街や出会った人々か。今となっては、もはや何がきっかけだったかわからない。ふいに、ヒュンケルの胸中で燻っていた不安が口をついて出てしまった。
「何故そんなことをきく?」
訝しげにラーハルトが聞き返す。ラーハルトの表情は焦燥の気配が漂っていた。ヒュンケルの胸の中で、血溜まりのように後悔が広がっていった。今思い出しても、本当に愚かな質問だったと思う。
「おれは、もう戦えない。そのせいで「そうならば初めからおまえと旅に出たりはしない」」
ヒュンケルの言葉に被せるように発せられたラーハルトの言葉は、これ以上の感傷などお互いに不要であると語っていた。
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