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    ritsukkan

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    南雲誕生日用に書いてたけど、終わらなかったので

    無題夢ノ咲学院に入学してから、2回目の梅雨を迎えた。灰色の雲。途切れることなく、降り注ぐ雨を眺めながら、俺はぼんやりと物思いに耽る。
    思い出すのは、初めて梅雨を迎えた時のことだ。身体中を打つ雫。悔しくて張り上げた声。瞳に映った赤の姿。梅雨を迎えるまでに過ごした3ヶ月よりも強烈な印象を残した出来事は、今へと繋がっている。
    あの出来事以来、流星隊は定期的にヒーローショーを行っている。守沢先輩が卒業する前は常に彼と一緒に。卒業してからは1人で行うこともあったし、仲間たちと一緒に行うこともあった。
    当時の葛藤はなんだったのかと思うくらい、今ではヒーローが大好きだ。1人でもみんなでも、ヒーローショーを行うことは、とても楽しいことだと思う。あの人の気持ちが、よくわかるようになった。
    「……あの人は、今何してるんスかね……」
    呟いた言葉に応えてくれる人はいない。雨に吸い込まれるように消えた言葉の後は追わずに、俺は小さく溜め息を吐いた。
    最近、よく守沢先輩のことを思い出す。今まで一緒に居たからだろうか。卒業して中々会えなくなってしまった先輩に対し、まさか寂しさを抱くことになろうとは。とはいえ、それだけじゃない。また無理をしていないか、気掛かりでもあるのだ。
    先日、忍くんの誕生日で会った時には、元気そうにしていた。元気そうにしていたが、ふと目を向けた瞬間、彼が疲れを取り除くように息を吐いたのを見つけてしまったのだ。それは一瞬のことではあったが、それでも俺は胸が騒つくのを感じた。
    ーーまた無理をしているのではないかーーほんの一瞬のことだーー先輩だってあの頃とは違うーー……。
    様々な思考が浮かんでは、行き場を無くして消えていく。その目まぐるしさに辟易していた時、不意に声が聞こえてきた。
    「あっ、いたいた…隊長……」
    「お〜〜い、隊長殿〜〜!」
    馴染みのある声が聞こえる方を向けば、そこには大きく手を振る忍くんと彼に寄り添うように歩く翠くんがいた。
    「あれっ、どうしたんスか?2人とも」
    「どうしたもこうしたもないよ……探したんだよ……」
    「あんずさんが探していたでござるよ!」
    「姉御が?」
    眉を下げて訴える2人を見て、俺は首を傾げた。姉御ーープロデューサーが俺を探していたということは流星隊Nの仕事絡みであろうか。けれど、流星隊Nは流星隊Mと異なり、自分たちで仕事を取りに行かない限り、ライブをすることはない。
    「一体何の用事なんスかね……」
    「……えっ、鉄虎くん……」
    俺の呟きを聞いて信じられないと言いたげな表情をする翠くん。それから何か逡巡して、口を開こうとするが、慌てた様子の忍くんに口を塞がれる。
    「…む、むぐ…」
    「ほ、ほらっ!あんず殿が呼んでいるので!とにかく行くでござるよ〜〜!」
    忍くんが普段より大きな声を張り上げると俺に駆け寄り、その手を引く。
    「いざ、スタプロへ!」
    「ちょっ、ちょっと…忍くん!?」

    (中略)

    スタプロに着いた俺を出迎えたのは、見覚えがあるようで、けれど真新しい景色だった。テーブルの上にはたくさんのご馳走と大きなケーキ。自分の名前とおめでとうと書かれた横断幕。5色で彩られた飾り付け。忍くんの誕生日の時と似ているようで、けれど俺のためだけに装飾されたパーティ会場を見て、今日は、自分の誕生日だったことを思い出した。
    声を上げる前に、俺の側にいた2人が優しく声をかける。
    「鉄虎くん、お誕生日おめでとう」
    「お誕生日おめでとうでござる!鉄虎くん!」
    右手を翠くんに、左手を忍くんに引かれて、俺は会場の中心へと向かう。道行く先には、スタプロの同僚と先輩方がいた。姫宮くんは挑戦的なでも照れ臭そうな笑みを、明星先輩はとびっきりの輝きを、天祥院先輩は賞賛を。つい先日、俺も忍くんに似たようなことをした気がするのに、真新しい気持ちで俺は翠くんと忍くんに導かれていく。
    そして向かう先の中心には、大好きな先輩たちがいた。
    「てとら、おたんじょうび、おめでとうございます〜〜」
    「誕生日おめでとう、南雲!大きくなったなぁ!」
    まるで何年も会わなかったかのような先輩たちの態度に俺は苦笑する。数日前に会ったばかりだと言うのに。
    「…嬉しいッス。ありがとうございますッス!」
    祝福に、笑顔で答えれば、感極まったのか守沢先輩が俺に抱きついてくる。ほんの一瞬逡巡して、でも諦めたように息を吐くと俺は守沢先輩を抱きとめた。先輩の暖かさが、匂いが全身に伝わってくる。
    「ふふっ、本当に大きくなったなぁ、南雲…」
    しみじみ呟かれる言葉に、この前会ったばかりじゃないッスか、と返す。数日で大きくなるものか。そう思っているのに、俺から身体を離した守沢先輩の瞳には、懐かしさや慈愛が浮かんでいた。
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