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    いぬがみ クロ

    @inugamikuro

    ときメモGS4にハマった字書き犬。二次妄想小説を書き散らします。よかったら仲良くしてください。

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    いぬがみ クロ

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    御影先生の一人称小説練習中。なかなか格好良く書けないねえ…。

    #ときメモGS4
    tokiMemoGs4
    #御影小次郎
    mikageKojiro
    #みかマリ
    unmarried
    #こじマリ
    partialMariology

    煩悩撲滅「そんなことしてるうちに、一紀くんのスマホのブクマが見えちゃったんです。それがいかにも~なタイトルだったから、ついからかってしまって。――まさか、あんなに怒るなんて」
    「んん……」
     教え子の彼女の説明を聞いて、俺は笑いを噛み殺す。非常にバカバカしい、いや、微笑ましい? いやいや、これも不適切か。当人たちにとっては、大変な重大事件だったわけだから。
     吹き出しそうなところを真面目に見えるよう必死に取り繕って、だから俺の顔は相当奇妙に歪んでいたはずだ。

     ある日の放課後。いつもどおり、俺の城である「理科準備室」を訪れた小波 美奈子は、だがいつもニコニコ可愛らしく笑っている彼女とは異なり、なにかとんでもないことに巻き込まれたかのような、深刻な表情を浮かべていた。
     心配になった俺が問い質した結果、美奈子から返ってきた答えはこうだ。

     氷室 一紀のお気に入りエロ動画を、うっかり発見してしまった、と。――まあ動画そのものを再生してしまったわけじゃなくて、目撃したのはブックマーク。つまりせいぜいタイトルくらいらしいが。

    「んー、あの年頃の男子はめちゃくちゃ繊細だからな」
     これが柊 夜ノ介ならクールに受け流すだろうし、颯砂 希あたりなら、開き直って笑っているだろうが。
     しかし――氷室 一紀に、そんな芸当は無理というものだ。
     恋愛や、ひいては性的なことに潔癖なあの少年が、エロ動画なんて――特に、よりによって美奈子にそんなもんを暴かれたら、恥ずかしいうえに、更に混乱しただろう。それを怒りに変えて、美奈子にぶつけてしまったに違いない。
     イノリの心情が手に取るように分かって、俺は彼に心から同情した。
    「高校生男子なんて、そういうことには興味津々だけど、その反面、罪悪感や……特にイノリは、羞恥心もめちゃめちゃ持ってるだろうし。でもな、男っていうのはその……見ずにはいられない、というかなあ。おまえのほうがお姉さんなんだから、その辺は汲んでやってくれよ」
     俺は自分のデスクの前に腰掛け、美奈子は少し離れた場所にパイプ椅子を置いて、座っている。
    「はい……」
     俺がくどくど説教せずとも、美奈子も反省しているようだ。
     仲が良いあまり気安くからかったつもりが、一紀の地雷を思いきり踏み抜いてしまった。
     両者ともの気持ちが分かるから、俺はなにも言うつもりはない。不幸な事故だったのだ。
     ――でも、やっぱり笑ってしまう。
     すまねえ、イノリ。
     俺は咳払いをしながら、誤魔化すようにハーブティーに口をつけた。
    「ま、俺からイノリにとりなしておくよ。――大丈夫、たいしたことじゃねえって。おまえも気にし過ぎるな。次に会ったときはなにごともなく、普通に接してやったほうが、あいつもホッとするよ」
    「はい……」
     安堵したのか少し表情を和らげて、美奈子は微笑んだ。そしてカップを口元へ運ぶ。俺が淹れてやった絶品のお茶を一口飲んでから、なぜか彼女は難しい顔になった。
    「――先生も、そういうの見ます?」
    「え? あー……」
     思ってもみない角度のボールが飛んできて、俺は思わずキャッチしてしまった。そこは避けるべきだったのに。
    「そりゃあ俺、女の子大好きだったから。イノリなんか目じゃないくらい、スケベだったぞ」
     言いながら、背中を冷や汗が伝っていく。これはちょっとマズい流れではないのか……。女生徒と性の話題って。
     男子生徒となら笑い話で済んでも、女子相手じゃそうもいかねえだろ。セクハラ案件になっちまう。
    「そういえば、お菓子をたくさんもらったん――」
     俺はなんとか話題を変えようとするが、美奈子は逃してくれない。
    「どういうのを見るんですか?」
     なんで、ぐいぐいくるんだ!?
     どういうのをって――洋モノとか、企画モノとか。ドアホで、女の子も笑って楽しんでいる――ように見える、明るいものがいい。
     ――そんな性癖を正直に暴露する教師が、どこにいんだよ!?
    「あー、美奈子。それ以上は……」
    「先生は動画とか画像とか、どういう女性のだと、その、興奮するんですか……?」
     えげつないことを尋ねつつ、しかし真逆の、青空のような澄んだ瞳で見つめられて、俺の口は魔法か催眠術にでもかかったように、ひとりでに動いた。
     ――どんな女に興奮するかなんて、決まってる。
    「ええと、柔らかそうな髪をした……。華奢で、目がクリクリしていて大きく、いつも真面目で一生懸命な――」
    「………そうですか」
     美奈子は唇を尖らせ、不機嫌そうにそっぽを向いてしまい、俺は我に返った。
    「いや別に、おまえのことじゃなくて!」
     焦った俺がつい大声を出すと、美奈子は顔を上げ、ぱちぱちと瞬きをした。
    「おまえ……? ――え? 私……の、こと……?」
    「あ」
     見つめ合った俺たちの、互いの顔が赤く染まる。
    「あっ、あー! テスト作らないといけないから! おまえ、もう行きなさい! お菓子やるから、ほら、手を出せ!」
     引き出しに入れておいた箱から焼き菓子を無造作に掴み取り、美奈子に押しつける。そして彼女の背中をぐいぐい押して、廊下へ追い出した。
    「はあ……」
     一人になった部屋でよろめき、なんとか椅子に腰を落ち着ける。だが、ここには今まで美奈子が座っていたのだと意識した途端、俺は跳ねるように立ち上がり、自席に逃げ帰った。
    「あー、もう……。煩悩捨ててえ……。おとなになりてえ……」
     年齢だけは立派な大人だが、中身はまだまだアオハル中。
     そんな自分に気づいたのは、割りと最近。――あの子に出会ってからだ。


     小波 美奈子が廊下で呆然と立ち尽くしているところへ、氷室 一紀が通りかかった。
    「あ」
     一紀の顔が強ばる。対して美奈子は魂が抜けているかのように、ぼうっと虚ろな表情をしていた。
    「一紀くん。お菓子、いっぱいもらったから、半分あげる」
    「え……。ど、どうも」
     甘いものを、一紀はそこまで好きではないのだが、ついこの間、美奈子とは、動画の一件で気まずくケンカ別れしてしまったから……。
     仲直りのきっかけになればと思い、一紀は差し出された焼き菓子を受け取った。
    「あの、ごめんね。この間、からかって……。冗談のつもりだったけど、悪趣味だったね……」
     その場で菓子の包みを破き始めた、一紀の手が、ピタリと止まった。
    「言っとくけど、アレは本当に、友達が勝手に……!」
     真実なのか嘘なのか定かではない一紀の説明を、美奈子は遮る。
    「――私も。本当はエッチなこと、考えてるよ。一日中、四六時中、ずっとずっと……」
    「……………!」
     一紀は顔を赤らめ、絶句した。詳しく聞きたい――が。
     美奈子は振り返り、理科準備室の扉をじっと見つめている。
     全てを察し、一紀はため息をついた。「帰ろう」と促せば、美奈子は頷き、歩き出した。
    「悟りを開きたい。煩悩を捨て去りたい……」
    「僕と写経でもする?」
    「――する」
    「冗談だよ……」
     しょんぼり肩を落とす美奈子の隣を、一紀は歩く。かじりついた焼き菓子は、不快なほど甘ったるかった。


    ― 終 ―
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